サイエンス

ヴォイニッチ手稿には「セックスの秘密」が記されていると研究者が主張

by Yale University Library

1912年にイタリアで見つかったヴォイニッチ手稿は、未解読の文字で記されたテキストやミステリアスな絵が特徴的な古文書であり、これまでに多くの人々が解読や著者の特定に挑戦してきました。そんなヴォイニッチ手稿について調べたオーストラリアのマッコーリー大学の研究者らが、ヴォイニッチ手稿には「セックスの秘密」が記されていると主張しました。

Voynich Manuscript, Dr Johannes Hartlieb and the Encipherment of Women’s Secrets | Social History of Medicine | Oxford Academic
https://academic.oup.com/shm/advance-article-abstract/doi/10.1093/shm/hkad099/7633883


For 600 years the Voynich manuscript has remained a mystery. Now we think it’s partly about sex
https://theconversation.com/for-600-years-the-voynich-manuscript-has-remained-a-mystery-now-we-think-its-partly-about-sex-227157

ヴォイニッチ手稿は星や惑星、植物、黄道十二宮、裸の女性、青や緑の液体など不可思議な絵で彩られており、暗号化されたテキストはまだ解読されていません。それでも過去の研究により、手稿に用いられた皮が1404~1438年に死亡した動物に由来する可能性が高いことや、記されている黄道十二宮のシンボルや王冠のデザイン、城壁の特徴的な形状などから南ドイツから北イタリアの文化圏で作成されたものであることが示されています。

マッコーリー大学の言語学者であるキーガン・ブリューワー氏らはヴォイニッチ手稿を研究するにあたり、「裸の女性」が多数描かれていることに着目しました。あるセクションでは以下のように、裸の女性が奇妙な物体を性器に近づけている様子が描かれていますが、これは薬草学や天文学といった分野の書物には見られないものです。そこでブリューワー氏らは中世後期の婦人科や性科学の文化を調査し、ヴォイニッチ手稿の手がかりを探したとのこと。


医学史の学術誌・Social History of Medicineに掲載された論文でブリューワー氏らは、ヴォイニッチ手稿の著者候補として中世後期バイエルン公国の医師であるヨハネス・ハートリープを挙げています。ハートリープが生きていたのは1410~1468年頃であり、年代はヴォイニッチ手稿が作られたと考えられる時期と合致しているほか、植物・女性・魔法・天文学・浴場などについての書物も著しています。

また、ハートリープは避妊や中絶などにつながる可能性のある医療知識を曖昧にするため、暗号や秘密のアルファベットなどを使用していたとのこと。実際にハートリープが記した「秘密のアルファベット」は現存していないものの、その他の著作からはハートリープが自らの著作によって婚外性交渉が助長され、神の怒りに触れることを恐れていることがうかがえるそうです。


暗号化されていないハートリープの著作では、産後の膣(ちつ)に塗る軟膏(なんこう)や女性の性的快楽、動物を出産したという女性の証言、受胎のための正しいセックスの姿勢、性欲を変える食事のアドバイス、避妊や中絶に用いる植物に関する情報を記すことへのためらいがうかがえるとブリューワー氏は指摘しています。ハートリープは男性貴族に向けて、アカデミックなラテン語ではなく親しみやすいバイエルン語で書物を著しましたが、セックスワーカーや庶民、子ども、女性にはそれらの知識を制限するべきだと考えていました。

実際に中世後期の南ドイツや北イタリアでは、「女性の秘密」に関する検閲が第三者の検閲官や著者自身によって行われていたとブリューワー氏は述べています。当時の著作を調べたところ、婦人科や性科学に関するテキストを暗号化したり、消去したり、破棄したりした事例が多数見つかったとのこと。

この中世後期の風潮やハートリープの著作の傾向を念頭に置くと、ヴォイニッチ手稿には「セックスの秘密」が記されていると解釈できるそうです。ブリューワー氏が例に挙げたのは、9つの円が相互にチューブでつながった以下のイラスト。中世後期のヨーロッパでは、「子宮には7つの部屋があり、膣には外側と内側2つの開口部がある」と考えられていたそうで、このイラストに描かれた9つの円は子宮と膣を表している模様。左上の円が膣の内側の開口部を、外縁部がギザギザしている中央の円が膣の外側の開口部を表しており、残る7つの円が子宮だとブリューワー氏らは主張しています。


中世後期ヨーロッパの医学に影響を与えたペルシャの医師のアル・ラーズィーは、処女の膣には5本の小さな静脈があると記していました。左上の円(膣の内側の開口部)から中央の円(膣の外側の開口部)に走る5本の管は、この静脈を表しているとのこと。


また、当時の医師は受胎には男性と女性両方の「sperm(精子)」が必要であり、それらが子宮内で動くことで女性が快感を得ると考えていました。円の中に描かれている黄色と青色の液体は、男性と女性の「精子」を表しているとブリューワー氏は指摘しています。


円には城や城壁が描かれていますが、これはドイツ語の「schloss(城、邸宅)」に「女性器」や「女性の骨盤」といった意味があるからだとのこと。


そして左上と右上に描かれている太陽は、アリストテレスの「太陽が発育初期の胎児に自然な熱を与える」という信念を反映している可能性があるそうです。


ブリューワー氏は、「イラストの多くの機能はまだ理解されていませんが、私たちの提案は綿密に精査する価値があります。今後の研究でも、同様のレンズを通してこの手稿にアプローチすることを期待しています」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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