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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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査問会

ついに「俺は星間国家の悪徳領主!」も100話になりました。


宣伝するために書き始めた作品ですが、今後とも応援よろしくお願いいたします。


あと「宣伝するな!」という感想が届きますが、宣伝を止めればこの作品も更新が止まります。


――そして1月と2月の発売はこちら!


「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5巻」

「セブンス 9巻」

「孤島の学園迷宮」

※発売日順


購入していただけると作者のモチベーションも上がります。

投稿ペースが速くなるかも? ――冗談です。


それでは、今後とも応援よろしくお願いいたします。

「旦那様、申し訳ありません」


 天城は自分が破壊されることを覚悟していた。


 すると、天城の着ていたドレスの装飾品が輝いてシールドを展開する。


 だが、案内人は慌てない。


「ふははは! それらが使い捨てであるのは知っている! このまま攻撃し続ければ――続ければ?」


 いくら撃ち込んでも天城のシールドを抜けなかった。


 そして、案内人が持っていた拳銃のエネルギーが先に尽きてしまう。


 カチ、カチ、と虚しく引き金の音が聞こえるだけになった。


 天城が案内人を見る。


「――私を破壊するのではなかったのですか?」


 どこか呆れたような顔をしていた。


 それも仕方がない。


 自分を破壊すると息巻いていたのに、持ってきたのはシールドを貫けない銃が一つだけ。


 もっと入念な準備をしているかと予想していたが、そんなことはなかった。


 お粗末すぎる。


「そ、そんな目で私を見るな!」


 案内人は、拳銃を放り投げると逃げるように去って行く。


「くそっ! やっぱり負の感情が足りない! もっと集めて、リアムにぶつけてやる! もう、手の込んだことはしない! 全力でリアムを殺してやるんだ!」


 天城は去っていく案内人を見送り、そして身動きが取れるようになると首をかしげた。


「今の存在は一体?」


 自分はとんでもない存在と出くわしてしまったのではないか?


 そして、その存在はリアムの名前を口にしていた。


 天城は不安で俯いてしまうのだった。


「――旦那様にはやはり秘密があるのでしょうか?」


 時々不思議なことが起きている気がした。


 その裏にあのような存在がいたと思えば――辻褄が合わないことが多すぎる気がするが、天城はリアムを心配するのだった。


「旦那様は本当に幸運なのでしょうか?」


 あんな存在に付け狙われているリアムを、天城は心配する。


「予定よりも早めに動いた方がいいのでしょうね」


 そして、案内人の存在がある決意をさせた。



 リアムが戦艦を斬った。


 そんな荒唐無稽の話など普通は信じられない。


 だが――首都星の上空で起きた事実だ。


 目撃者も多く、事実として広まっていた。


 首都星だけではない。


 帝国中に広がりを見せていた。


 一閃流の実力は本物だったと、誰もが認めるしかなかった。


 カルヴァンは自室の机に肘を置き、口元の前で指を組む。


「首都星に戦艦を入れて騒ぎを起こすなど、本当に愚かなことをしてくれた」


 一部の貴族たちが暴走した結果だ。


 このような愚行を犯すとは考えてもいなかったカルヴァンにとって、これは大きな失敗だった。


 ここまで愚かだとは考えなかったのだ。


 派閥を抜けたとは言え、元はカルヴァン派の貴族たちだ。


 今のカルヴァンの評価は、対星間国家戦から逃げるために弟に責任を押しつけた卑怯者。


 そして今は、リアム暗殺に失敗した愚か者、も追加だ。


 カルヴァンは机の上に置かれた箱を見る。


 そこには、忍者たちのコア――その体を炎とし、変幻自在の忍者となった者たちの死骸を示す壊れたコアが山積みになっている。


 朝起きたら、机の上に置かれていたのだ。


「私をいつでも殺せるというメッセージか」


 リアムの暗部を侮っていた。


 カルヴァンは、派閥の愚かな貴族たちに足を引っ張られてピンチに追い込まれていた。


「追い込んだと思ったが、追い込まれたのはこちらだったということか」


 このままでは終われない。


 カルヴァンは貴族たちを集めることにした。


「リアム君の領地で民主化運動が起きている。それを理由に、彼には責任を取らせよう」


 戦場で無理なら、自分の得意な場で勝負する。


 カルヴァンは、リアムの弱点を突くことにした。


 それは、領内で起きている民主化運動だ。


「帝国は民主化運動を嫌う。これで、軍が派遣されればリアム君の領地も更地になるね」


 そうすれば、リアムは大きく力を失うだろう。



 帝国で緊急の査問会が開かれた。


 それは首都星に戦艦で乗り込んだ馬鹿な貴族たちが現れたせいだ。


 そして、俺は――その場に重要参考人として呼び出されている。


 それなのに、まるで犯人のようにつるし上げを食らっていた。


「――この屈辱は絶対に忘れない」


 奥歯を噛みしめる。


 俺の中にあるのは激しい怒りだ。


 査問会にはカルヴァンも出席していた。


 涼しげな顔をしており、どこか遠くを見ているのが気に入らない。


 無関係そうな顔をしているが、お前が俺をここまで追い詰めたのだ。


 この俺を辱め、笑いものにしやがった。


 お前は必ず俺がこの手で殺してやる。


 俺をこの場に連れてきて、辱めた男には復讐する。


 貴様だけは絶対に許せない。


 悔しそうに俯いている俺を高い位置に座る宰相が見下ろしていた。


 その目が気に入らない。


「そろそろ結論を出そうではないか」


 周囲の貴族たちも同じ事を口にしている。


「まったく、リアム殿にも困ったものですな」

「少しは貴族としての責務を自覚していただかないと」

「未来の公爵ですからね。お立場を考えないと」


 見た目三十代くらいの男女が、俺を見下ろして嘲笑っている。


 こんな査問会が開かれたのは、全てカルヴァンのせいだ。


 俺の統治能力に問題ありと言い出した。


 首都星に軍艦で乗り込んだのはお前の派閥の人間だろうに、その場で俺を責めだした。


 カルヴァンの味方の貴族たちも騒ぎ、査問会で俺を糾弾したのだ。


 そして今は、全員が涼しい顔をして俺から目を背けている。


 お前らの顔も覚えたからな。


 絶対に許さないぞ!


 査問会に出席した俺の味方の貴族たちが、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。


 エクスナー男爵が俺を慰めてくる。


「伯爵――すまない」


 謝るなら助けろ! 俺を助けろ!


 糞が! 俺をここまで追い込んだのはお前が初めてだよ、カルヴァン!


 宰相が裁判などで出てくるハンマーを叩きざわつく会場を静かにさせて、俺に語りかけてくる。


「では、伯爵には――」


「くっ」


 俯き、俺は手を握りしめた。


 こんなことがあってはならない。


 こんなはずではなかった。


 俺は――カルヴァンを侮りすぎていた。


 今だけは、俺の敗北だと認めてやる。


 そう、今だけは!



 査問会が終わると、カルヴァン派は頭を抱えていた。


 リアムを追い詰めるために、統治能力に問題ありと査問会で騒いだのだ。


 進行を邪魔し、この議題を取り上げなければ絶対に査問会を終わらせないとあらゆる手を使った。


 リアムの領地で民主化運動が起きている。


 帝国の政治批判をしている。


 帝国が過敏に反応する話題を持ち込み、査問会でリアムをつるし上げようとした。


「――誰か説明してくれるかな」


 査問会が開かれた会場の近く。


 休憩室で、カルヴァンは居並ぶ派閥の仲間たちに視線を巡らせた。


 誰もが顔を背けている。


 カルヴァンは愉快そうに笑っていた。


「宰相が去り際に声をかけてきてくれてね。見苦しい真似をこれ以上続けるのは、私のためにならないそうだよ」


 笑ってはいるが、本気で笑ってなどいられない。


 一人が苦しい言い訳をする。


「殿下、リアムの領地に派遣した工作員たちは、離反者たちを率いた子爵が派遣していました。データを受け取った際には、確かに民主化デモだと」


「君はこれが民主化デモに見えたのかな?」


 リアムの領地で民主化デモが起きている資料として、一つの動画が査問会で流された。


 そこに映るのは、プラカードを持ったリアムの領民たちである。


『貴族の義務を果たせ!』

『ロゼッタ様を大切に! ユリーシアさんも時々思い出して!』

『そうだ、私を思い出せぇぇぇ!!』


 最後の方ではユリーシアもデモに加わっている姿が映し出されていた。


 民主化デモだと思ったら、子作り催促デモだった。


 カルヴァンは手で顔を隠して笑っている。


「真面目な顔で、リアム君の統治能力に問題があると言った私の立場はどうなる?」


 どこか遠い目をしていたカルヴァンたちは、現実逃避をしていたのだ。


 まさか、動画がこんな内容だとは思いもしなかった。


「どうして誰も内容を確認しなかったのか」


 証拠があると誰もが思い込んでいた。


 ヒューマンエラーだ。


 査問会のピリピリした雰囲気が、緩んでしまったのを覚えている。


 首都星に軍艦が乗り込んできたことにピリピリしていた貴族たちは、リアムの挑発行動にも問題ありと言って厳重注意やペナルティーを考えていた。


 だが、デモを見て恥ずかしがっているリアムを見て「貴族の義務も頑張るように」とか「伯爵はウブですね」とか「――今後は気を付けてください」とか。


 可愛らしい孫を見るように。


 面白おかしくからかうように。


 そして、同情するように。


 リアムの罪が減刑されてしまった。


 実質、しばらくは大人しくするだけでお咎めはナシ、までで許されてしまった。


 対して、査問会のメンバーたちのカルヴァンへの心証は最悪だ。


 査問会を途中で中断したのが、話題そらしと見られた。


 自分が有利な場所で、カルヴァンはリアムに負けたようなものだ。


 気が付けば、クレオを旗印にした弱小派閥が――自分たちのすぐ後ろに迫ってきていた。


「我々は、もうなりふり構っている余裕はなくなった」


 カルヴァンがそう告げると、派閥の貴族たちも腹をくくる。



 首都星に戦艦を持ち込んだ馬鹿がいた。


 世の中は馬鹿ばかりだ。


 パーティー会場を襲撃された俺は、しばらく大人しくしていろと宮廷から言われたのでホテルで優雅な毎日を過ごしている。


 流石に、アレだけの騒ぎがあったので俺もパーティーは自重している。


 数週間の取り調べ――査問会もあったからな。


 謹慎期間は数ヶ月になっている。


「これで問題は、一閃流を名乗った連中だけだな」


 噂では二人もいるらしい。


 これも有名税だろうか?


 偽物の一閃流だったら、俺が確実に殺してやる。


 ただ、この国は星間国家だ。


 一人を捜すというのは、簡単なようで意外と難しい。


 一閃流を名乗った連中の足取りが掴めていない。


 俺の部屋で尻尾を振るように紅茶の用意をしているティアが、話しかけてくる。


 遠征軍から戻ってきていた。


 褒めてくださいと言ってきたので、俺のために働けて幸せだろう? と言い返したら身震いしながら激しく首を縦に振っていたよ。


 お前は仕事の出来るククリを少しは見習え。


「リアム様、領地の大規模デモの問題も残っていますが?」


「――そっちは全てが終わったらデモ隊など弾圧してやる。俺の下半身事情で騒ぎやがって、いったい何様のつもりだ」


 許せないのは、ロゼッタにさっさと手を出せと領民たちに抗議されたことだ。


 お前らに言われる筋合いはない!


 くそっ! 戻ったら本格的に弾圧してやる。


 俺の軍隊は遠征軍から戻り、今は疲れを癒しているところだ。


 俺は俺を偉大に、そして実力よりも大きく見せるために、軍隊というものに気を使っている。


 無理をする時はするが、普段からそれでは裏切られる可能性が出てくる。


 休む時はしっかり休ませる。


 だから、すぐには動かせない。


 軍が動けるようになったら、すぐにでも弾圧だ!


 ティアはそんな俺の言葉を笑って聞き流していた。


 ――俺は自分を悪だと思っているが、こいつも結構ヤバい奴だよな。


「まぁ、リアム様のご領地で民主化運動が広がらなかったのは幸いでしたね。冗談ではなく、本気で弾圧して黙らせなければ、帝国の正規軍が鎮圧に出撃していたところです」


「俺は鎮圧された方がマシだった」


 カルヴァン派が失点を回復しようと俺を査問会の場で叩いてきた。


 あいつらを取り調べる場で、俺が責められたのだ。


 カルヴァンの奴は、宮廷での争いは俺よりも上だというのを嫌と言うほど理解した。


 俺の領地で民主化運動が起きている! と騒いだのだ。


 帝国は民主化運動を毛嫌いしており、査問会の場でその話が取り上げられることになった。


 しかし――帝国の調査員が調べると、民主化運動ではなく俺の世継ぎ問題で騒いでいた。


 査問会で、俺の世継ぎ問題で騒いでいる領民を見られた俺の気持ちが分かるか?


 動画にはユリーシアまでデモに参加している姿が映し出され、俺は言葉を失った。


 あいつは放置するとろくなことをしない。


 そんな映像を見せつけられた俺だが――滅茶苦茶恥ずかしかった。


 周りが俺に向けた何とも言えない視線は、今でも覚えている。


 笑い、呆れ、そして同情する視線の数々。


 宰相の生暖かい目は今でも覚えている!


 ティアが微笑むのだが、それは意味ありげなものだった。


「ですが、これでカルヴァン派は追い込まれましたね。クレオ殿下の派閥が大きく力をつけ、逆に彼らは追い詰められました。全ては、リアム様の計画通りです」


「最初から勝っていた。自分の幸運が恐ろしいな」


 などと言っているが、俺の幸運は案内人がいるおかげだ。


 一見ピンチに見えたとしても、全ては勝利に繋がっている。


 人生イージーモード。


 それが悪徳領主である。


「さて、そろそろ大人しくするのも飽きてきたな。久しぶりに遊びに出かけるか。車を出せ」


「はい」


 ティアが車を手配するために部下たちに命令を出す。


ブライアン(´;ω;`)「リアム様の人生はハードモードでございます」

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