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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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勝利の方程式

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 ――あれ? ちょっとおかしくないだろうか?


 リアムが追い詰められた状況にある中、色々と確認をしている案内人は首をかしげる。


 リアムが苦しんでいる――焦りを感じているのは間違いない。


 激しい怒りを感じているのも伝わってくる。


 最近は忙しそうにしながらも周囲には遊び呆けて見せている。


 遠征軍は勝利したが、かなり消耗している。


 クレオ派閥は弱体化しているはずなのだが――以前よりも結束が強まっている気がしてならない。


「気のせいだろうか? いや、待て!」


 ここで案内人は気が付いた。


「そうか――まだリアムへの支援が足りないのか!」


 苦しんでいる状況には追い込んだが、リアムにはこれまで何度も煮え湯を飲まされてきた。


 そんなリアムが、この程度で倒せるなら苦労はない。


 自分の努力が足りないので不安に感じているだけだ、と結論に至った。


「もっと――もっとリアムを幸運にするために動けばいいのか! だ、だが、本当にそうなのだろうか? 私は何か大きな間違いをしているのではないだろうか?」


 悩む案内人。


 ふと、リアムを殺すために育てた二人のことが気に掛かる。


 以前、ユリーシアを支援した時には裏切られたのだ。


 今回も失敗していないかと焦り始める。


 すぐに調べてみようとするが、以前よりも力が衰えていた。


 力を取り戻せば、すぐにリアムを支援していたからだ。


 そうすると、どういうわけかリアムが苦しむ。


 リアムを不幸にするため、今日も泥水をすすって生き延び――リアムを幸運にする。


 余力のあまりない案内人が、調べ物をするときは――落ちている新聞紙を拾う。


 そうすると、自分が求めた情報が掲載されているのだ。


 欲しい情報を引き寄せている。


「くっ! リアムを支援するために力を使いすぎた。以前はもっと簡単に情報が集まったというのに」


 悔しがりながらも、記事を読む。


 すると、電子ペーパーには凜鳳の動画が再生されていた。


『兄弟子見てる~。今から、僕が殺しに行くよ』


 背景はクルダン流の当主や高弟たちが倒れ、血の海になっていた。


 笑顔でリアムを殺しに行くと宣言する辺りに、案内人は狂気を感じ取り胸が温かくなる。


「あ~、何と純粋な狂気。こいつならきっとリアムを――あれ? 一人いないな?」


 ページをめくって探せば、どうやらもう一人はアーレン剣術の総本山を荒らし回っていた。


「しっかり切り札を育てたか。安士、私はお前を信じていたぞ」


 すでに帝国にはいない安士に、案内人は感謝の気持ちでいっぱいだ。


「全てが終われば、特別にお前も不幸にしてやろう。お前がリアムを強く育てなければ、何の問題もなかったのだからな」


 軽やかな足取りでこの場を去る案内人は、電子ペーパーを放り投げた。


 地面に落ちたそれを見るのは、半透明な犬だ。


 記事を見つめ、それを拾うとすぐに顔を上げどこかへと向かう。



 遠征軍の勝利を祝うパーティー会場。


 その控え室でくつろぐ俺は、クラーベ商会のエリオットと話をしていた。


「今日のパーティーは遠征軍の祝勝会に変更、ですか?」


 エリオットは、遠征軍の完全勝利――違った。


 俺の完全勝利を祝うために、黄金やら高い酒をこれでもかと持ち込んできた。


 こういう、目に見えたごますりは大好きだ。


「俺たちで勝手に祝うだけさ。ティアが言うには帝国の被害も大きい。連合王国は強敵だったそうだ」


 ニヤニヤしながら言ってやれば、エリオットにも伝わったようだ。


「そのような強敵を打ち破ったクレオ殿下は、きっと継承権も繰り上がるでしょうね。ついでに言えば、この危機に責任を押しつけて逃げ出した皇太子殿下のお立場が悪くなる」


「終わってみれば俺の勝ちだったな。――それで、カルヴァンの動きは?」


「周囲は焦っている様子ですが、本人は落ち着いていますね。落ち着いているように見せているのかもしれませんが」


 さっさと焦って動きを見せて欲しいものだ。


 カルヴァンが動かないのが、俺にとっては一番困る。


 だが、カルヴァン派の戦力を今回は大きく削れたな。


 自派閥を強化出来たのもいい。


 領主たちに金を貸して、影響力を持てたのも良かった。


 悪徳領主らしく高利貸しのような真似をしたくもあるが、クレオ派閥は悪人共の集まりだ。


 悪い奴らは、悪い奴らで協力するべきである。


 争うのは余裕が出来てから。


 カルヴァンを引きずり下ろすまでは、大人しくしておこう。


 控え室でエリオットと話をしていると、疲れた顔のウォーレスが部屋に入ってきた。


「リアム、大変だ!」


「どうした? パーティーの準備は終わったのか?」


 何やら青い顔をして焦っていたので、一応は話を聞いてやる。


「そのパーティーが問題なんだ! 急に遠征軍の勝利を祝うための祝勝会に変更しただろ? 足りない物が多い。いや、ほとんど準備のやり直しだよ!」


「何だと!?」


 俺としたことが、気分でパーティーの内容を変更してその後のことを考えていなかった。


 ウォーレスが頭を抱えている。


「駄目だ。せっかくの勝利を祝うのにアレがないなんて!」


 今のウォーレスは俺が楽しむためのパーティーを取り仕切っている。


 以前よりも頼もしくなった友人を前に、俺はエリオットを見た。


「エリオット、足りない物をすぐに用意しろ」


「お任せください。しかし、急な話ですと、やはり問題はご予算に――」


「馬鹿野郎! 俺のパーティーだぞ! そんなの、幾らかかっても問題ない!」


 くそっ! 俺としたことが油断していた。


 とにかく、今はこの危機を乗り切るために、ウォーレスとエリオットと協力しなければならない。

 ウォーレスは疲れた顔をしている。


「パーティー会場の備品もほとんど入れ替えないと。このままだと、戦勝会に相応しくないよ」


 ウォーレスを見ていると思う。


 パーティーのためにここまで真剣に悩んでいる。


 世間から見れば、無駄な才能に思えるだろう。


 だが、俺はこいつを評価していた。


 ――こいつ、立派になったな。


 拾ったのは悪徳領主的に正解だった。


 パーティーを楽しむという悪徳領主らしさを実現するためには、ウォーレスの才能が必要だったのだ。


 ウォーレスを拾ったあの時の俺に「よくやった!」と伝えたい。



 その頃、後宮ではカルヴァンのもとに主立った貴族たちが集まっていた。


 随分と焦っている。


「殿下! 一部の者たちが、バンフィールド伯爵への襲撃を計画しております」


「――それは困ってしまったね」


 カルヴァンも今回ばかりは本当に困っていた。


「動いたのは誰かな?」


「遠征軍で戦死した貴族たちの親族です。中には跡取りを失った者たちもいます。このまま放置は出来ぬといい、派閥から脱退してでも復讐すると息巻いております」


 カルヴァンの派閥は大きい。


 その中には、短慮な貴族たちも大勢いた。


 それらを取り仕切るのも大変だ。


 特に、今回は親族を失った貴族たちも多い。


 彼らの中に本当に親族の死を悲しんでいる者は少ないだろう。


 本音は家名を傷つけられた、と思っている者が大半だ。


 それに、かなりの数の艦艇が失われている。


 大損害を許せない者もいる。


(本音では止めたいが、この流れを止めれば――彼らが次に不満の矛先を向けるのは私だろうね)


 今はリアムに怒りの矛先を向けているが、無理に押しとどめれば今度はカルヴァンを恨み出すだろう。


 勝てると言ったのに!


 絶対に大丈夫だと思ったのに!


 この損害をどうしてくれるんだ!


 ――参加したのは自分たちなのだが、その理不尽な怒りの矛先を向ける相手を彼らは求めているのだ。


 理屈ではない。


 感情の話だ。


 貴族たちの中には、自制心の弱い者たちが多い。


 それは屋敷でわがまま放題に育てられるからだ。


 幼年学校や軍隊である程度は矯正されるが、それも完全ではない。


 まともな貴族たちも苦々しい顔をしている。


「この大事な時に」

「奴らにはそれが分からないのさ」

「だが、ここで奴らが何か問題を起こせば、皇太子殿下のお立場が――」


 カルヴァンは小さく溜息を吐いた。


「――彼らの脱退を認めよう」


「皇太子殿下、よろしいのですか? 派閥を抜けたとは言え、彼らが面倒を起こせば殿下のお立場が危うくなります」


「むしろ、厄介な連中を追い出せると考えるべきだね。我々の派閥は大きくなりすぎた。リアム君と戦うためにも、派閥を整理しようじゃないか」


 貴族たちはうなずき合い、そして部屋を出ていく。


 カルヴァンは誰もいなくなったことを確認すると、指を鳴らすのだった。


 すると、空中に鬼火が出現する。


 火の玉が膨らみ、そして人の形になると大柄な人物がカルヴァンの前に膝をついた。


 その姿は忍者であり、以前にククリたちと戦った者たちよりも位が上なのか装飾品を身につけている。


「――お呼びで?」


「馬鹿共が騒ぎを起こすようだ。チャンスがあれば、リアム君の暗部を削りなさい。それから、リアム君の暗部の情報は得られたかな?」


 忍者が一枚の手裏剣を壁に投げると、炎が巻物の形に変わって広がった。


 そこにはククリたちの情報が記されている。


「我らが一族の記録によれば、二千年前に滅ぼされた影の一族ではないかと思われます」


「影の一族?」


「二千年前に、当時の皇帝陛下に仕えていた暗部の一組織です。影の一族とは、そう呼ばれているだけです。本当の名前は不明です」


「二千年前と言えば、君たちのような暗部が活躍した時代だね。彼らをバンフィールド家が匿っていたのかな?」


「いいえ」


「違うのかい?」


 忍者の頭領が次の手裏剣を投げると、一人の影の一族の者が映し出される。


 それはククリだった。


「当時、もっとも恐れられた男です。皇帝陛下のために働き、最後は石にされ砕かれたとも朽ちたとも噂されておりました」


「――その人物が生きていた、と? それよりも、誰かが技を受け継いできたという方が真実味はあるね」


「それはありません」


「何故だい?」


「奴らの一族は、他の組織が根絶やしにしました。我々の先祖も参加しております。一人も残すな――それが、当時の皇帝陛下のお言葉でした」


 当時の皇帝は現役のククリたちを集め石に変え、生き残っていた一族は皆殺しにしていた。


 その状態で生き延びたとは考えにくく、仮に生き延びていたとしても技を受け継いでこられたとは思えない。


 ククリや頭領たちのような暗部を育成するためには、並大抵の財力ではどうにもならないのだ。


「殿下――奴らはこの後宮のことも知り尽くしております」


「厄介だね。二千年前とは変わっているだろうが、彼らしか知らない通路でも残っていたら大変だ」


 宮殿は何度も工事をされているが、時に古い遺跡のような場所が発見されることがある。


 時代と共に忘れ去られた場所も多い。


「調べによれば、復活した奴らは当時の力をそのままに残してはいます。しかし、その数は少ない」


 優秀ではあるが、数が少ないというデメリットがあった。


(無理に戦わなくとも、こちらの方が有利ではある。――だが)


 当時の伝説の暗部が蘇ったというのは、カルヴァンとしても穏やかではいられなかった。


「――彼らを消せるかな?」


 カルヴァンの言葉に、頭領は炎となり霧散する。


「御意」



 リアム主催のパーティー会場。


 そこに設置された調度品の中には、リアムたちを襲撃するために貴族の雇った荒くれ者たちが隠れていた。


「貴族様って言うのは毎日パーティーかよ」

「一晩で庶民が一生豪遊できる金額が吹き飛ぶらしいぜ」

「精々楽しめばいいさ。そのまま、俺たちが葬ってやる」


 大金を得るために志願した男たちは、息を潜めていた。


 パーティー会場に運ばれる調度品に潜り込んだのだ。


 本来なら見つかるだろう。


 しかし、ここに来るまでに大勢の貴族たちに支援を受けている。


 準備は完璧だった。


 ただ、外の様子は見えない。


 調度品にカメラも設置したのだが、パーティー開始までは布をかぶせられているため外を確認できなかった。


 男たちが押し込められた狭い場所は、時折ガタガタと動いている。


「さっきからよく動かすな」

「気付かれたのか?」

「気付かれたらその瞬間に撃ち殺されて終わりだ。何か変更があったんだろ」


 自分たちだけではない。


 大勢がパーティーに忍び込んでいる。


 リアムは殺せなくても、きっと大きな被害が出せるはず。


 そう信じていた。


 事実、失敗して捕らえられれば、死んだ方がマシと思える罰が待っているだろう。


 彼らは捕まるくらいなら自爆するつもりだった。


 そうなれば、嫌でも被害が出る。


 揺れが収まり、パーティー開始までの時間を待つ。


 しかし、一向に布を外さない。


「――もしかして、調度品を外に出したのか?」

「くそっ! おい、外に出るぞ。会場は近いはずだ!」

「他の連中にも連絡しろ!」


 男たちが外へと飛び出すと――そこはどこかの倉庫だった。


 忍び込んだ他の男たちも外へと飛び出し、唖然としている。


「な、何だ?」

「いったいどうなっているんだ?」

「そ、それより、早く会場に乗り込め!」


 男たちが外へと出るが、そこは会場から随分と離れた倉庫だった。


 大急ぎで会場に向かおうとするが、そこを警備していたリアムの騎士団に見つかって全員が射殺された。


若木ちゃん( ゜∀゜)「私が登場しないだけで心配する読者さんがいる事実をもっと重要視して! そう、私がこの後書きのアイドル! 血生臭いアイドルなんかに負けないんだから! 私の活躍する『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5巻』は好評発売中よ。私も活躍するから読んでね!」


若木ちゃん( ゜言゜)「5巻の私に台詞なんてないけど」


ブライアン(´;ω;`)「血生臭いアイドルと、泥臭いアイドル……どちらかを選ばなければならない立場こそが、辛いですぞ」

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