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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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二人の名前

二月になりましたね。


二月は 「2/5発売予定! 孤島の学園迷宮」 が発売となります。


こちらは小説家になろうに投稿している作品ではありませんが、購入してもらえると嬉しいです。

 ――カルヴァン派の貴族たちの顔色は悪かった。


 怒りに顔を真っ赤にしている貴族が、机の上に拳を振り下ろして周囲の視線を集める。


「わしの息子や一族の関係者だけで数十人。数十人も消えた!」

「被害を受けたのは我々だけだと!? くそっ! リアムの奴に、それほどの腹心がいると知っていれば」

「クラウスだったか? 無名だが、随分と有能だな。同士討ちで敵対派閥をここまで徹底的に叩けるとは、いったいどんな冷血漢だ」


 連合王国軍との戦争は、呆気ない幕切れに終わった。


 何十年とかかると予想していた戦争が、一年もしない内に勝利で終わった。


 短期間で勝利を手に入れたクレオの名声は上がっている。


 それが、かなりの被害を出した辛勝でも、だ。


 その被害のほとんどは、クレオ派閥ではなく足を引っ張るために派遣したカルヴァン派の被害である。


 派閥の中の主戦力ではない。


 減ったところで痛くも痒くもない連中ではあるが、実質的に大敗となると話は違ってくる。


 カルヴァンの近くに座っている貴族が、苦々しい顔をしていた。


「皇太子殿下、クレオ殿下派閥ですが、戦争を理由に兵器の世代交代をほぼ終わらせております。いくつもの兵器工場が我々の命令を無視しました」


「そのようだね。私の名前も、この程度でしかなかったということだね」


 帝国から最優先で装備の更新を行えるように、遠征軍には許可を出していた。


 出してはいたが――カルヴァンたちは、兵器工場に助力は最低限に留めるように通達していた。


 それを、リアムと付き合いのある兵器工場が無視したのだ。


 他の兵器工場がカルヴァンの指示に従う中、第三、六、九――そして、リアムと懇意にしている第七兵器工場が、全力支援をしていた。


 貴族たちが腹立たしい顔をしている。


 そして、兵器工場が裏切った理由を述べていく。


「奴ら、バークリー家を優遇していた帝国に反感を抱いていたのだ」

「第一、第二の兵器工場を優遇しすぎたツケだよ」

「我々が優遇したわけではないというのに」


 随分と前に、バークリー家絡みで兵器工場も不満をため込んでいた。


 バークリー家に協力する第一、第二の兵器工場は、他の兵器工場から無償で技術を提供されることになっていたのだ。


 カルヴァンが溜息を吐く。


「私たちに関係ない――と言っても、兵器工場からすればリアム君がトップに立った方が見返りは大きいと考えたのかな?」


 言ってしまえば、カルヴァンたちは締め付けるばかりで餌を出し渋っていた。


 それも仕方がない。


 他の兵器工場を優遇したせいだ。


 リアムと付き合いを続ければ、今後も締め付けると鞭を用意してしまい――逆に敵対されてしまった。


「クレオの派閥は最新鋭の兵器を揃えてしまったね。こちらも揃えておきたいが――」


 カルヴァンが貴族たちを見れば、表情が優れない。


 どうやら、難しいようだ。


「一部なら可能ですが、今回の戦争で消耗しました。連合王国からいくらか賠償で取り戻せたとしても、宰相が予算を回さないでしょう」


 宰相は今回の戦費を理由に、軍事費を削るはずだ。


 帝国の予算を使っての自派閥の強化は期待できない。


 他の貴族たちがリアムについて話をする。


「あの小僧、帝国の予算で自派閥を強化したな」

「いや、小僧も随分と派手に動いていた。自腹でかなりの出費だったはずだ」

「奴も疲弊したか?」


 ただし、リアムは大きなリターンを得ている。


 カルヴァンは思う。


(――失敗したな。リアム君は踏ん張りどころを間違えなかったか)


 リアムが残った理由も、後方支援に徹するためだ。


 おかげで、遠征軍は兵站に問題を抱えなかった。


 万全の体制で戦えている。


 戦場に出ないという多少の汚名をかぶっても、リアムの首都星待機はそれだけの価値があったということだ。


(うちの派閥は軍事力という面で不安が出来たか)


 遠征軍に参加したカルヴァン派の関係者が、かなりの被害を受けている。


 また、しばらくは兵器の世代交代が思うように進まないだろう。


 戦争が終わったことを理由に、帝国の宰相が無駄な予算だと突っぱねるはずだ。


(流れはあちらにあるようだ。だが、このままではいられないか)


「――リアム君の一人勝ちを許してしまったね。だが、これでは困るよね」


 貴族たちが頷く。


「リアム個人を徹底的に叩き、評判を落としましょう」

「後方支援としても有能なのは認めますが、戦場から逃げたのは事実ですからな」

「後は――少々、釘を刺しておくべきかと」


 リアムの関係者たちに何かしようにも、剣聖を倒したリアムが護衛をしている。


 リアムの抱えている暗部も優秀だ。


 首都星に残り、足を引っ張る自分たちのような敵対派閥を頼らず自ら遠征軍の後方支援を行って見せた。


 カルヴァンの中で、リアムはこの瞬間に強敵になってしまった。


 いや、貴族たちにも放置できない敵になった。


 ちょっと運が良い、自惚れている――そんな目障りな存在ではなく、本当の敵になったのだ。


(気付くのが遅すぎたね。――ライナス、君もこんな感じだったのかな?)


 カルヴァンは言う。


「すぐに剣聖二人を呼び出そう。これから首都星は荒れることになる」


 戦場で倒せないのなら――この首都星で倒すしかない。


 カルヴァンたちはあらゆる手を使うことを決断する。


(この状況をひっくり返すとは、本当に天運が味方しているようだね。だが、このままでは終われない)



 その惑星はアーレン剣術の総本山とされていた。


 惑星一つを与えられるほどに、アーレン剣術の名は大きい。


 門下生には皇族だけではなく、実力のある貴族たちも名を連ねている。


 アーレンか、それともクルダンか――そう言われるくらいに、メジャーな剣術だった。


 そんなアーレン剣術の総本山で、当主である男が首都星に向けて旅立とうとしていた。


「先生」


 門下生たちが車を手配しているので、乗り込むところだった。


「うむ」


 話しかけてくるのは、剣聖である当主の息子だった。


「皇太子殿下にも困ったものですね。リアムが怖いからと、護衛のために父上を呼び出すなんて」


 下手な貴族よりも権力があるため、まるで貴族のような物言いをしている。


 実際、彼らは貴族だ。


 帝国の剣術指南役であり、相応の地位を得ている。


「一閃流など聞いたことがない。そのような者たちを恐れるとは、まったく嘆かわしいことだな。皇太子殿下を鍛え直す、機会と考えておこう」


 貴族たちには相応の扱いを受けるため、少々――傲慢になっていた。


 実際にそれだけの強さを持っている。


「剣聖を倒したと自惚れていますが、奴は我流剣術使いを一人倒しただけですからね。我らアーレン剣術の敵ではありません」


 息子がそう言うと、当主も頷いた。


「そうだな。一閃流など泡沫(うたかた)のごとく消える流派の一つに――」


 すると、当主が乗ろうとしていた車から飛び退いた。


 周囲の門下生たちも同様だが、実力のない者たちは斬られたのか血が噴き出ている。


 息子が剣を抜いた。


「何者だ!」


 気が付けば、車も縦に両断されていた。


 当主たちの前に現れたのは、左右それぞれに刀を提げている若い――女だった。


 三度笠をかぶっていた女は、着物に似た衣装を身につけている。


 一目で女と分かる体つきをしていた。


 随分と軽装だ。


「――どうやってここまで来た?」


 息子が焦っている。


 無理もない。


 世の中には無鉄砲な若者たちも多く、アーレン剣術の総本山に乗り込もうとする者が毎年現れる。


 そのため、チェックは厳重になっていた。


 女が三度笠に手をかけると、その瞬間を狙って師範代クラスの剣豪たちが一斉に飛びかかる。


 当主は、これから死ぬと思われる女に注意した。


「敵地に来て油断をするからだ。殴り込むなら、相応の――なっ!?」


 当主が見たのは、斬りかかった師範代たちが吹き飛ばされ――全員が四肢のどこかを斬り飛ばされているところだった。


 一人も殺していない。


 そして、目の前の女は動いたように見えなかった。


 息子が当主の前に出る。


「刺客か!? いや、ならば何故――」


 どうして自分たちを殺さないのか?


 それよりも、当主は焦っていた。


(い、今――いったい何をした!?)


 女の剣が見えなかったのだ。


 魔法の類いだろうか? それとも新兵器か!?


 焦る当主に、三度笠を投げ捨てた女が顔を見せる。


 少し癖のあるオレンジ色の髪は長く、後ろで縛っていた。


 風に揺られ広がると、一度だけ獅子のたてがみのように広がる。


 一目で女性と分かったのは、服を着ていても隠しきれないその大きな胸だ。


 荒々しさの中に妙な色気を感じるが、どう見ても若い――成人したばかりだろうか?


(何だ。何者だ、この女――いや、どこの流派だ!?)


 当主は冷や汗が止まらなかった。


 すぐに剣を抜くと、それを見て目の前の女が名乗る。


「名乗っておくぜ。そうしないと、誰に倒されたか分からないとか言い出しそうだからな。俺の名前は【獅子神 風華(ししがみ ふうか)】――流派は一閃流」


 それを聞いて当主は勘で後ろに飛んだ。


 だが、息子が前に飛び出してしまう。


「馬鹿者、下がれ!」


「この程度の剣士一人、父上が出るまでも――」


 当主は目の前の光景に目を見開く。


(こ、こやつ――何をした?)


 自分の息子の中でも、一番才能のある子が両手を斬り飛ばされていた。


 少し遅れて、血が噴き出すと、泣きわめく。


「腕が。私の腕がぁぁぁ!」


「邪魔だ、退け」


 そんな息子を蹴飛ばした風華は、柄にも手をかけずに当主に歩み寄ってきた。


 両手を広げて、だ。


「会いたかったぜ、剣聖。本当はお前の首を手土産に、兄弟子に喧嘩を売るつもりだったんだ」


 アーレン剣術の総本山に侵入し、猛者たちを次々に斬り飛ばす女剣士に当主は直感で理解する。


(わしでは――無理か)


 政治的な理由で剣聖に選ばれたが、それでもメジャー流派のトップだ。


 相手の力量を感じ取り、勝てないことを理解する。


 だが、笑みを浮かべる。


「わしは実に運がいい。ここなら、お主をどのような手段で倒してもいいのだからな」


「あ?」


 (いぶか)しむ表情を見せた風華を前に、当主は叫ぶのだった。


「やれ!」


 飛び出してきたのは武装した兵士たち。


 他には空を飛ぶ戦車。


 銃器を持った兵士たちに囲まれ、風華は肩をすくめた。


 当主は自分の持つ剣を風華へと向けて勝ち誇る。


「貴様程度に真剣勝負をしてやると思っていたのか? 一閃流が幾ら強かろうが、負けてしまえばこの宇宙にすぐに話題が広がる。お前らは流派として終わるのだ」


 風華の目は、酷く冷たいものになっていた。


 きっと呆れたのだろう、これが剣聖かとガッカリしたような顔をしている。


 だが、当主は笑っていた。


「勝てばいいのだ! 剣術などしょせんは勝つことを目指したもの。勝つために策を練ることは、悪いことではない!」


 ただ、風華は髪をかく。


 興味がなさそうにしていた。


「もういいよ。あんたを倒した実績が欲しいだけだ。あと――俺の師匠を馬鹿にした罪を償ってもらう。お前らは負けた上に生き恥をさらし、俺たち一閃流の強さを宣伝する道具にしてやる」


 そう言うと、当主は周囲に「早く撃ち殺せ!」と叫んだ。


 叫んだ瞬間に――周囲にいた兵器も人も、斬られて吹き飛ばされる。


 当主は動けずにいた。


 何しろ、先程まで距離にして三十メートルくらいにいた風華が、目の前で刀を抜いて自分の腹に刃を突き刺している。


「これからゆっくりと、一閃流の怖さをお前に教えてやる。ついでに、お前の持っている剣聖の称号をくれよ。何か格好いいからな」


 自分が剣聖を名乗るまでに、いったいどれだけ苦労をしてきたと思っているのか?


 それを、何か格好いいという理由で寄越せと言われ、自分の全てが汚された気がした。


 風華に激怒する当主が、何かを言おうと口を開くと苦痛で悲鳴が先に出た。


「あがっ!」


「本当ならプチッと潰して終わるつもりだったが、師匠を馬鹿にしたお前らは絶対に許さないからな」


 風華の目を見て、当主は震える。


(こ、こんな小娘がわしよりも強いというのか。一閃流――何なのだ。何故、今になって世に出て来た! どうして!)


 世に出てこなかった流派が動き出した。


 当主はそう思ってしまった。


「や、やれぇぇぇ!」


 そして当主が叫ぶと、先程よりも多くの兵器が姿を見せる。


「こいつを殺せ! 私を巻き込んでも構わん! でなければ、アーレン剣術はぁぁぁ!!」


 ――流派として終わってしまう。


 数百の兵器に囲まれた風華は、笑みを浮かべて二刀を構える。


「――食い破ってやるよ」


 その日、アーレン剣術の総本山は嵐に襲われたかのような被害を受けた。


 幸運なことに死者は一人も出なかった。


 誰もが幸運だと思い、そして当事者たちは誰もがこれ以上はない不幸だと嘆いた。



 違う惑星。


 そこでは、機動騎士を両断した女剣士がいた。


 機動騎士の頭部に座り、自分を見上げるクルダン流剣術の当主や高弟たちを見下ろしている。


 当主は裸にされ、その背中に「一閃流参上」と書かれていた。


 レーザー銃を持つ女剣士が、遊びで当主の背中を焼いて出来た文字だ。


「うん、うまくいったね。たまには銃を扱うのも悪くないね。いい気分転換になったよ」


 怯えている高弟たち。


 それもそのはず。


 クルダン流の本拠地である惑星に乗り込んだ長刀を持つ女剣士【皐月 凜鳳(さつき りほ)】は、当主である男をいたぶって倒した。


 本拠地であれば隠し通せると、機動騎士を出して殺そうとしたら――機動騎士まで斬ったのだ。


 紺色のサラサラした髪。


 桜色の瞳。


 無邪気に笑って、一人称は「僕」の女性だった。


 細く華奢に見えるが、女性らしい体つきをしている。


 年頃も若く、成人しているがまだ子供のようなものだ。


 そんな相手に、自分たちは手も足も出なかった。


 足をブラブラさせる凜鳳は、気を失った当主に興味がなくなったようだ。


「――さて、一閃流がなんだったかな?」


 高弟たちが動けずにいると、凜鳳は一人の腕を斬り飛ばした。


「ぎゃぁぁぁ!」


 傍目には座っているだけにしか見えない凜鳳に、高弟たちが怯えている。


「君たちは殺さない。けど、死んだ方がマシ――いや、剣士として死んでもらうよ。弱小剣術が粋がっちゃったのがいけないよね。僕たち――いや、僕と師匠の一閃流を馬鹿にしたのは絶対に許さない」


 高弟たちが恥も外聞もなく泣きながら逃げ出すと、それを凜鳳が追いかける。


「あははは! 追いかけっこ? ねぇ、それで本気なのかな? 本気だったら笑えるんですけど!」


 追いかけて足首を斬り、次々に転ばせていく。


 そして、それを見ていたクルダン流の弟子たちに向かって言うのだ。


「覚えておくんだね。この世でもっとも強い剣術は一閃流だ。そして、最強は僕の師匠である剣神安士だよ。お遊戯剣術が、調子に乗って馬鹿にしたら――」


「や、やめ! あぁぁああぁぁぁああぁぁ!!」


 凜鳳に踏みつけられた高弟の叫び声が響き渡り、他の弟子たちが震えていた。


 微笑んでいた凜鳳から表情が消える。


「兄弟子と殺し合う前に、いい手土産が出来たよ。――さて、この様子を帝国中に――いや、師匠に届くように全宇宙に配信しようか。ちょっと待っていてね」


 懐から端末を取り出し、周囲の様子を撮影する凜鳳がカメラを前に一人で喋り始めた。


 端末がひとりでに浮かび、凜鳳を撮影している。


 凜鳳は動画投稿主になっていた。


「お久しぶり~みんなのアイドル剣士、凜鳳ちゃんだよ。きょ~う~は~クルダン流の本拠地に殴り込んじゃった! てへっ」


 可愛らしいポーズをとるが、周囲の光景は血の海だ。


 かろうじて全員生きているだけ。


 自称、帝国一の血生臭いアイドル剣士。


「僕の流派を馬鹿にした酷い人たちだから、ボコボコにしちゃった。――ちょっと、物足りないけど、次は兄弟子を斬るからウォーミングアップと考えておくね。兄弟子は強いらしいから、今から楽しみだよ。応援してくれるみんな、次回の報告を待っていてね。――次はリアムの首をみんなに見せるから」


 安士が育て上げた一閃流の強者二人――それが今、リアムの命を狙う。


 そしてこの日、安士は二大流派の怨敵となった。


クラウス(|| ゜Д゜)「え?」

安士  (|| ゜Д゜)「え?」


ブライアン(´;ω;`)「胃痛の種になるキャラばかりで辛いです」


ブライアン(´・ω・`)「時に皆様、お弟子さんたちは女性でした。――何でもいいからリアム様が手を出してくれないかと、このブライアンは期待しております」

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