大規模デモ
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「私のモットーはドレスにも実用性を! ただ、着飾る機能だけでは駄目なのです」
面白いデザイナーがやって来た。
今日もパーティーで使用する新しいドレスを作らせているのだが、流石にデザイナーが一人二人では足りないので大勢に声をかけさせた。
その中にいた男は、使い捨てのドレスにこれでもかと機能をつける男だった。
――こいつ馬鹿だわ。
「見てください、この装飾品の数々を! 普通のドレスでは、使い捨てのシールドエネルギー発生装置ですが、こちらのドレスはしっかりとした物になっております。その分、重量も増えていますが、貴族様なら問題ありません!」
貴人のドレスには、暗殺などを恐れてこうした道具を取り付ける。
しかし、使い捨てが多い。
しっかりとした作りの物は、高価すぎてコストの問題が出てくるのだ。
違うドレスにつければいいとか安易に考えては駄目だ。
ドレスも装飾もセットなのだ。
使い回しは悪ではない。
節約は善――悪徳のもっとも嫌う行為だ。
男から話を聞いているロゼッタとシエルが、何とも言えない顔をしている。
使い勝手よりも機能だよ! という、馬鹿なデザイナーの意見に同意できないのだろう。
使い捨てだと言っているのに、戦闘服の機能を持たせている。
だが、こういう馬鹿は好きだ。
金持ちは無駄に金を使うものだ。
いや、違うな。
悪徳領主は、領民から搾り取った税金で贅沢をするものだ。
使い捨てのドレスだろうと、それは変わらない。
俺は男を拍手してやる。
「素晴らしい! 気に入った」
「あ、ありがとうございます!」
「そんなお前に追加の依頼だ。天城」
「――はい、旦那様」
部屋で様子を見ていた天城が俺に近付いてきたので、デザイナーに紹介してやる。
「俺の天城だ。普段からメイド服ばかりで困っていたんだよ。やっぱり、ドレスも必要だろ?」
デザイナーが困っていた。
周囲にいる俺の騎士たちが、デザイナーの返答次第では剣を抜く姿勢を見せている。
天城を馬鹿にするような発言をすれば、この場で殺す。
ただ、こいつは弁えているらしい。
「――そ、その、アンドロイドの服を作った経験がありません。仕様を教えていただき、時間さえいただければ何とか」
中には鼻で笑って「うちではそのような人形の服は作っておりません」とか言うデザイナーもいた。
そいつは通信でのやり取りだったが、今後は二度と発注しない。
殺してやろうと思ったが、どこかの貴族のお気に入りらしく面倒になるから止めろと天城に言われたので諦めた。
――だが、復讐しては駄目だとは言われていないので、色々と片付いたら俺は復讐する。
天城にバレないように動けば問題ない。
それよりも、今は目の前の男だ。
「予算は好きな額を請求しろ」
すると、天城が俺を見てくるが、その顔は責めるような顔付きだ。
「旦那様、私にドレスは不要です」
「命令だ」
「――ですが」
難色を示す天城に、ロゼッタも説得に加わる。
お前――意外といい奴だな。
「天城もたまにはドレスを着ても良いんじゃないかしら?」
「――はい。分かりました。ですが、使い捨てでは申し訳ありませんので、私の方で保管させていただけるのでしたら」
やったぜ! 天城が折れた。
「もちろんだ! ――おい、一品物だ。しっかり作れよ。幾ら金をかけてもいい。最高傑作を用意しろ。でも、ケバいのは許さないからな」
「は、はい!」
デザイナーが慌ただしく作業に取りかかるのを見ていると、通信が入ってきた。
――ブライアンだ。
『リアムざまぁぁぁ!』
ザマァ! と言われた気分になり、俺は一気に不快になる。
ブライアン、お前じゃなかったら拷問にかけていたところだぞ。
「どうした?」
『デモが――デモがまたしても大きくなりました』
「はあぁ!? そっちにも人を割いているはずだろうが! そうだ、ユリーシアはどうした!? あいつ、アレでも優秀なんだよな!?」
あいつ、デモ一つ鎮められないのか!?
◇
バンフィールド家の領地。
各惑星では今日もデモが行われている。
「たこ焼きはいかが~」
「焼きそばだよ~」
「プラカードありますよ~」
屋台が並び、大勢が集まるとあって色んなサービスが行われている。
兵士たちが交通整理をし、医者も控えていた。
「そっちはコースと違うからね。ルートに戻ってね」
「すみません、トイレはどこですか?」
「あちらにありますよ」
一種のお祭り騒ぎになっている。
その様子を見て唖然としているのは、統合政府から移住して来た民主化運動のリーダーである。
彼は大学を出たばかりで、社会人としての経験はない。
良い大学を出て、これからというところで反乱に巻き込まれてしまったのだ。
その際に、反乱軍に協力して社会的地位を得ようとしたら――反乱軍が敗北してしまった。
流れ流れて、帝国まで来てしまった彼は、この地で成り上がる方法を考えて民主化運動のリーダーになったのだ。
バンフィールド家は善政を敷いており、何よりも民に優しい。
そこを突いて、民主化運動を行った。
弾圧を行えばバンフィールド家も他の貴族と変わらないと、徹底的に戦うつもりだった。
反政府軍のリーダーとなるつもりもあった。
幸い、自分たちに協力してくれる勢力もいる。
実際にバンフィールド家の領主は貴族でありながら、民に優しかった。
そこを突いての成り上がりは、成功すると思えていたのに――。
「何で少しも俺たちの活動が広がらないんだよ!」
――デモは大きくなったが、内容が酷い。
プラカードを持って練り歩いている領民たちの主張は、民主化ではなかった。
「跡取りを忘れるな~!」
「領主の務めを果たせ~!」
「ロゼッタ様を幸せにしろ~!」
領主であるリアムには子供がいない。
そのことに危機感を覚えたのは、バンフィールド家が国家間の戦争に関わっているからだ。
そのような規模の戦争であれば、領主がいつ死んでもおかしくないと領民たちが気付いたのだ。
リーダーは自分たちの活動は広がらないのに、爆発的な広がりを見せる子作りデモを前に怒り狂っていた。
「ふざけるな! チャンスだろうが! 帝国という独裁国家で、自分たちが権利を得られるチャンスだぞ!」
仲間たちがリーダーをなだめていると、話を聞いていた大学生が赤ん坊の絵が描かれたプラカードを持って通りかかる。
リーダーたちの持つ民主化を主張するプラカードを見て、明らかに嫌そうな顔をするではないか。
「あんたら、移住してきた人たち? デモするならちゃんと申請しているの? こっちは子作りデモで忙しいから、余所で活動してよ」
「わ、我々は、人が生まれ持った権利を――」
「いや、そういうのいいから。本音を言えば、この領地でそんなこと止めてくれない。正直迷惑なんだよね」
「はあぁ!? お前、もしかして工作員だな! 民が自分たちの権利を欲しがらないなんておかしい! お前、領主側のスパイだろ!」
激怒するリーダーに、大学生は落ち着きながら反論するのだった。
「いや、普通に一般人だよ。最近、留学から帰ってきたけどね。それより、帝国の事情を知らないの?」
「じ、事情だって?」
「民主化運動が起きた領地は、面倒だから焼けば良いみたいな人たちが貴族だよ。あんたらの活動のせいで、俺たちまで巻き込まれるとか勘弁してよ」
留学としてバンフィールド家の治めている領地以外も見てきた大学生は、民主化運動が盛んになった惑星を知っている。
過去のデータで見たのだが、その際に帝国の下した決断は――惑星一つを火の海とし、見せしめにするというものだった。
中には、教育を最低限とし、民主化など考えられないようにした惑星も多い。
「あのね、うちは勉強も出来るし、公共機関も十分に機能しているの。留学だって出来るんだよ。あんたらのせいで、それらも奪われたら笑い話にもならないんだけど?」
「――家畜の考えだな。そんなに貴族に尻尾を振って生きていたいのか! 人間なら自分で考えて生きるべきだ! それに、貴族が代替わりをして酷い状況になる例があるだろ!? お前ら、不安じゃないのか! 誰かに人生を握られて生きていけるのか!?」
大学生は呆れていた。
「今の世の中、宇宙海賊に惑星を燃やされて死ぬ人も多いけど? それに、領主様の統治って俺には悪くないからね。あとさ、独立してうまくやれる保証はあるの?」
「腐っている。貴族だけじゃない。お前たちも腐って思考停止している」
「あんたら、なんでうちに来たの? 民主主義が好きなら、余所に移住しなよ。うちの領地は余所への移住も制限されてないんだし」
嫌ならお前が出ていけと言われ、リーダーは愕然とする。
いったい何がどうなっているのか?
リーダーには理解できなかった。
すると、領内で偉い人物が出て来たようだ。
護衛が大量に用意され、空には機動騎士たちが浮かんで周囲を警戒していた。
仲間たちがリーダーに話しかける。
「リーダー、何か始まるみたいだよ」
「要人かな? 様子を見よう」
リーダーはかぶりを振り、思考を切り替えるのだった。
(そうだ。こんな馬鹿共が住む惑星だ。俺ならきっと掌握出来る。むしろ、扱いやすい馬鹿共と分かっただけ良いじゃないか。偉い奴が何か演説でも始めれば、論破して俺に共感する連中を集めよう)
これを機会にもっと目立ち、仲間を増やそうと考えた。
浮かんでいる装甲車の天井に立ち、マイクを持ったのは女性軍人だった。
『デモに参加した皆さん――領主様の下半身事情を騒いではいけません。すぐに解散しなさい!』
金髪の女性は美しかった。
リーダーはその女性のことを知っている。
「おい、あいつは領主の側室か愛人だよな?」
「あ、あぁ、そうだと思う。資料にはそんなことが書かれていた」
いったいどんな話をするのかと思えば、デモを止めるように言うだけだった。
周囲からはブーイングが聞こえてくる。
「こっちは本気なんだよ!」
「貴族の務めを果たせ~!」
「というか、あんた側室じゃなかったのかよ? 仕事しろよ~」
ユリーシアはリアムが軍から引き抜いた人材であり、そのことに関しても地元のニュースで報道されていた。
通例ならそのまま愛人や側室となれるため、領民たちもそう思っていた。
だが、それを聞いたユリーシアはプルプルと震え出す。
『わ、私だって!』
そこから、デモの参加者たちを説得するはずのユリーシアによる、魂の叫びが始まった。
『私だって頑張ったのよ! 手を出してもらえるように頑張ったのに――リアム様はまったく興味を示さないのよ!』
参加者たちが静まりかえる。
一人が――。
「――え、もしかして女性嫌いとか?」
――すると、ユリーシアは泣き出す。
『それなら諦めもついたのよ! でも、でも――普通に女性が好きだって言うし。リアム様の秘書になるために、私は青春時代を捧げたのよ! 今回だって、軍の再教育施設に放り込まれていたのに、それを本人が知らないって何よ! あげく、領地に戻ってデモを静かにさせろって――数年間、会わない間に忘れ去られてるんですけど!?』
日々の激務もあり、ユリーシアは限界に近かったのだろう。
マイク片手に愚痴をこぼしまくる。
『私だって――私だって――デートくらいしたいのよ! ロゼッタ様なんて、今は毎日パーティーに連れて行ってもらっているのに、私だけお仕事って何よ! 一日くらい遊んでくれてもいいじゃない。このまま歳だけ重ねていくとか思うと、夜中に泣きたくなるのよ! 不安なの。毎日が不安なの!』
顔を見合わせるデモ参加者たち。
マイクを持ったユリーシアがすすり泣いてしまう。
泣き出してしまったユリーシアを前に、デモの参加者たちからは慰める声がかけられる。
「が、頑張れ~」
「ユリーシアお姉ちゃん、きっといいことあるよ」
「だ、大丈夫。綺麗だから。凄く綺麗だから」
ユリーシアはそのまま、マイク片手に日頃の不満をぶちまけるのだった。
『私だって手を出されたいわよ! でも、出してこないんだもん! どうしようもないじゃない! 手を出してくれれば何だってしてやるわよ! でも、出さなかったら何も出来ないのよ! 私のせいじゃないのよ!』
◇
『――以上の結果から、デモの参加者たちの主張は“ロゼッタ様を大事に”に追加して“ユリーシアさんも忘れないでください”というものが加わりました。しかし、ロゼッタ様を推す勢力が一強です。ロゼッタ様の人気は素晴らしいですな。このブライアン、感服しましたぞ』
嬉々としてデモの割合を報告してくるブライアンを前に、俺は拳が震えていた。
――ユリーシア、あいつは何をしてくれたんだ?
俺の悪徳領主としてのイメージはガタガタではないか。
俺が積み上げてきた悪という印象が、ただの悪い男、みたいになっている。
釣った女には餌をやらないケチな男――それが、今の俺のイメージになっているのではないか?
『ちなみに、新しい側室を――という声も上がっております』
「何で領民に指図されないといけないんだよ! 俺のハーレムは、俺だけのハーレムだ! 誰の指図も受けないからな!」
ブライアンが、冷めた目を俺に向けていた。
お、お前――お前じゃなかったら、その首を斬り落としていたからな!
『リアム様――ゼロ人でございます』
「あ? 何が?」
『ハーレムを作ると言って、今日まで――リアム様が囲った女性の数は、ゼロ人でございます』
「はぁ!? い、いるだろ! 天城がいるだろ! そこはカウントしろよ!」
『それでも一人でございます。ロゼッタ様には手も出さず、おまけに軍から引っ張ってきたユリーシア様は放置――このブライアン、デモに参加しようかと本気で悩みましたぞ』
「糞が! 俺は誰の指図も受けない! 俺には俺の美学があるんだよ!」
周りに言われたから渋々ハーレムを築く?
仕方なく女に手を出す?
そんなのは嫌だ。
俺は、俺が欲しいと思う女を手に入れるのだ。
そこだけは絶対に譲らない。
『美学も大事ですが、跡取りの問題はもっと大事ですぞ』
「――俺が領地に戻ったら覚えておけよ。領民たちを重税で苦しめてやる。二度とデモが起きないようにしてやるよ」
『はぁ、それはまた楽しみなことです。それにしても――民主化運動は思ったよりも広がりませんでしたな。ほぼ鎮火しております』
「民主化、ね。騒いだ馬鹿共はしっかり調べておけよ。そいつらは俺の敵だ。何が権利だ。欲しいのは権力者の立場だろうに」
『リアム様?』
「――貴族がいなくなろうと、権力者たちは存在し続ける。権力者はいなくならない」
たとえ、どのような政治体制だろうと支配する側とされる側が出来る。
身分制度のない世界?
そんなものは存在しない。
貴族がいなければ、今度は政治家や金持ちが権力を握るだけだ。
今度は金持ちと貧乏人で差が生まれる。
常に誰かが権力を握り、その他大勢が支配される。
まぁ、世襲制の貴族よりはマシになるだろうけどね。
だが、俺はこの権力を誰にも渡さないし、その他大勢がどうなろうと知ったことではない。
民主化を騒いでいる連中も同じだ。
本当に民主主義を真剣に考えているのは一部であり、大半は俺に代わって権力を握ることを考えている。
いや、最初は理想を胸に抱こうと、権力を握れば腐る。
手にしたからこそよく分かる。
権力とはそれだけ魅力的だ。
人を惑わす力を持っている。
それが悪いとは思わない。
ただ――俺は権力に惑わされ、そしてその力に溺れたい。
だって俺は、悪徳領主なのだから。
「俺を押しのけ支配者になりたいなら、俺以上の力を示す必要がある。それが出来るならやればいい。出来ないなら――敗者としての待遇を受け入れろ」
これは下克上だ。
好きにすればいい。
だが、負けたらその後は覚悟してもらおう。
だが、俺は敵に優しくなどしてやらない。
徹底的に潰してやる。
ブライアン(`;ω;´)「ハーレム人数が脅威のゼロでございます!」
ブライアン(´;ω;`)「――辛いです」