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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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ウォーレス覚醒

本日は「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 5巻」の発売日!


買ってね!

 ウォーレスという男がいる。


 皇位継承権百番台以降という、皇族としても価値が微妙な男だ。


 能力は平均的に低く、全てにおいて四十点台という赤点ではないが優秀でもない――そんな男だった。


「ふっ――リアム、私に毎日のようにパーティーを開けというのかい? ハッキリ言おう、無理だ」


 断言するウォーレスを、リアムが叩いた。


「何をするんだ! 痛いじゃないか!」


「いいか、ウォーレス、今の俺は大変忙しい。毎日遊び歩いていたユリーシアまで駆り出して、このチャンスを掴もうとしている」


「チャンス? ピンチの間違いだろ?」


「いいや、チャンスだ。俺は幸運をつかみかけている」


 何を言っているんだ? そんな顔をするウォーレスだが、パトロンであるリアムの命令には逆らえない。


「リアムが取り仕切ればいいだろ」


「色々と理由があるんだよ。いいから、パーティーの準備をしろ。毎回同じでは飽きるから、趣向を凝らせよ」


 リアムの無茶振りに頭が痛くなってくる。


「毎日のようにパーティーを開くのに、趣向を凝らせとか無理だよ。無難に終わらせようよ」


「――ウォーレス、俺はパーティーにはこだわりを持っているんだ。手を抜くことは許せない。人も金も用意してやるから頑張れ」


 こいつ最低だな、と思うが口に出せない。


 リアムが忙しいのは事実である。


 むしろ、忙しいのにパーティーまでやりたいというのは、精力的だと思うウォーレスだった。


「まぁ、私も君のために頑張るとしよう。だが、あまり期待しないで欲しいね。というか、どうして自分でしないのさ?」


「全てを俺が取り仕切っていたら、参加しても面白くないだろ」


 自分が色々と工夫したところで、最初から知っていれば驚きなどない。


 むしろ、周りが楽しんでいるか気になるから嫌だ――というリアムに、ウォーレスはわがままだと思うのだった。


(もっとノンビリしたかったが、仕方ない――パトロンを怒らせると怖いから、言い訳が出来るくらいには頑張るとするか)



 カルヴァン派の会議場。


 そこでは、リアムの行動が話題になっていた。


「遠征軍には参加しないだと!?」

「逃げたのか?」

「いや、腹心とも言える有能な騎士たちを派遣している。クレオ殿下の周囲は、自身の精鋭で固めているようだ。確か――首都星でもよく連れ回しているクラウスという騎士を派遣している」

「リアムの腹心ではないか」

「腹心を送り出したのだから、クレオ派閥から逃げ出すとは思えないな。しかし――」


 総大将はクレオだが、実質的にはリアムが総司令官だと誰もが信じていた。


 しかし、リアムは首都星に残ると発表されている。


 カルヴァンが笑みを浮かべた。


「――勝った、な」


「皇太子殿下?」


「この事実でリアム君は敵を恐れて引き下がったと噂が立つ。いや、そう触れ回る。遠征軍が勝ったとしても、彼の評判は地に落ちる」


 貴族たちもそれは同じ意見だが、気になることがあった。


「皇太子殿下、リアムは何も考えずに残ったのでしょうか? 陣容が発表されてからというもの、毎日のようにパーティーに参加して余裕を見せているようですが?」


 カルヴァンも気にはなっているが、この状況からどうやっても逆転の目はない。


 リアムは自ら道を踏み外した。


「気にはなるが、彼は選択を間違えた。ここからどうやっても、彼の信用は地に落ちるだろうね。何しろ、自分は戦わずに逃げたんだから。今更動き回っても機を逃している」


 部下たちを戦場に送り、自分は首都星だ。


 これを他の人間がどう見るのか?


 ――リアムが戦場から逃げたと思うだろう。


 リアムがどれだけ頑張っても、戦場に出る必要がなくとも――逃げたと思われる。


 カルヴァンも同じように逃げたが、それは総大将発表の前のことだ。


 いくらでも言い訳が出来るし、自派閥がリアムだけを叩くように動いてくれる。


「――少々、手を加えすぎましたな。呆気ない終わり方です」


「まだ終わりではないから、気を抜くことは出来ないよ。しかし、リアム君は終わりでも、生きていると厄介だね」


 評判が落ちたところで、リアムがいるだけで厄介だった。


 最近も、研修で飛ばされた汚職が蔓延する地方で活躍している。


 研修中でありながら、改革を断行して汚職役人たちを一掃していた。


 高い能力と、高潔すぎる精神――きっと、今後も自分たちを悩ませるだろう。


「――用意した手駒をぶつけるとしよう」


 カルヴァンは、ほとんど勝利を確信していた。


 しかし、ライナスを倒したリアムだ。


 潰せる時に潰しておきたかった。


 勝利を前に、油断していたのだろう。



 パーティー会場。


 参加した貴族たちが感動していた。


 芸術品――主に石像などを展示しているのだが、その中での立食パーティーだ。


 新進気鋭の芸術家たちを集め、制作された新作発表会でもある。


「ほぉ、見事ですな」

「これは欲しいですな」

「私はあちらをすでに予約しましたよ。しかし、こういうパーティーも久しぶりですが、楽しいものですね。以前参加したパーティーは、奇抜すぎて楽しめませんでしたからね」


 パーティーは盛り上がっている様子だ。


 招待したのは貴族――そして、その家族たちだ。


 表向きの主催者は俺ではないが、誰もが俺が関わっていると知っている。


 財力を見せつける好機だから、見込みのある貴族たちには声をかけていた。


 ただ、多くは自派閥の貴族とその家族たちである。


 俺がロゼッタを伴い周囲の貴族たちと談笑していると、エクスナー男爵の名代としてクルトが軍服で参加していた。


 周囲が気を利かせて離れてくれると、クルトが手を振ってくる。


「リアム!」


 その隣には、婚約したクレオの同腹の姉であるセシリア殿下の姿もある。


 近付いて話を始めれば、ロゼッタはセシリア殿下と会話を始める。


 俺はクルトと世間話だ。


「ようやく会えたな。軍隊の方はどうだ?」


 クルトは少し背が伸びていた。


 それに、体つきもしっかりしてきている。


「正直に言えばきついけどね。でも、悪くないかな? 無骨な暮らしは首都星での役人生活より馴染めるよ」


「今は首都星の防衛部隊配属だって?」


「すぐに事務処理に回される予定だけどね。その後はパトロール艦隊に配属かな?」


「正規艦隊に行くなら紹介してやろうか? セドリックが中将に昇進したんだ。あいつの艦隊なら融通が利くからな」


 俺が後ろ盾になり昇進させた。


 周りを認めさせるために、常に仕事を回してやったから功績だって十分だ。


 セドリックは疲れた顔をしていたが、何の問題もない。


「リアムは相変わらずだね。なら、お願いしてみようかな?」


「任せろ」


 嬉しそうにしているクルトを見れば、やはりこいつは悪徳領主の二代目の悪徳領主だと実感できる。


 エクスナー男爵の血をしっかり受け継いだようだ。


 対して、ロゼッタの側にいるシエルは別だ。


 兄をドン引きした目で見ている。


 俺はからかうために、クルトにシエルの話を振った。


「クルト、シエルが話したがっているぞ」


「え、そうなの? シエル、元気そうだね」


 笑顔を向けるクルトを見て、シエルが残念そうな顔をしていた。


 だが、すぐに笑みを浮かべると社交辞令を述べる。


「はい。伯爵やロゼッタ様には大事にしてもらっています」


「それは良かった。あれ? そのドレス、もしかしてリアムが?」


 クルトはシエルの新しいドレスに気が付いたようだ。


 シエルが嫌がるように、俺がクルトに自慢をしてやる。


 こうすると、シエルが嫌がるのだ。


「あぁ、首都星で人気のデザイナーを集めて作らせたんだ。確か――今は六十着くらい作らせていたかな?」


 パーティーが続く限り、ドレスも毎日のように変わる。


 一度着たドレスは、二度と着ない。


 この無駄がいいのだ。


 悪であると実感できる。


「リアムは凄いね」


 すると、セシリア殿下との会話を一区切りしたロゼッタが、俺たちの話に割り込んでくる。


「ダーリンは剛毅よね。でも、私としてはお気に入りがあるから、それは残しておきたいわ」


 ――ロゼッタの奴、実家が貧乏だったために節約癖が抜けていない。


 物を大事にするとか、悪徳領主である俺の婚約者として自覚があるのか?


「いくらでも作らせてやる」


「ダーリン、残しておけばいいじゃない」


 そんな会話をしていると、貴族の子供たちがやって来た。


 参加者の中には、俺たちと同じ派閥の貴族の関係者も招待している。


 まぁ、俺たちはここにいるぞ、と示すためだ。


 あと、遠征軍の貴族たちへのご機嫌取りもある。


 家族を大事に預かっていますとアピール中だ。


「ロゼッタ様、今日のドレスもお綺麗ですね」


 女の子たちはドレスの話題で盛り上がるというか、社交界に出て来て着飾ることに興味を持っているようだった。


 興味もない子供たちもいるけどね。


「あら、ありがとう」


「どこで買われたのですか?」


「オーダーなのよ」


「そ、そうだったんですか」


 すると、どこで買ったのかを聞いた少女に、周りの子供たちが呆れた視線を向けていた。


「ドレスなんてオーダーメイドが当たり前じゃない」

「貴女、どこの田舎から出て来たの?」

「既製品なんて全然おしゃれじゃないわよ。やっぱり、人気のある職人に作らせないとね」


 ――女の子は子供でも怖いな。


 ロゼッタが落ち込む女の子に優しく声をかけていた。


「落ち込まないでね」


 泣きそうな女の子を見て、慌てて関係者たちがやって来る。


 かなり焦っていた。


「も、申し訳ありません、リアム殿。――お前たち、すぐにご家族のところに戻りなさい」


「は~い」


 子供たちが去っていくと、何度も謝罪を受けた。


 まぁ、俺が辺境の田舎者だ。


 あと、ロゼッタも貧乏でドレスなど満足に買えなかったからな。


 子供たちの無邪気な言葉で、俺たちの不興を買うのを恐れたのだろう。


「気にしていませんよ」


 ただ、ここにいるのはクレオ派閥の関係者たちだ。


 下手な対応は出来ない。


 泣いている女の子に話しかける。


「そう泣くんじゃない。よければドレスを一つ仕立てさせよう。今後のパーティーには、それで参加してくれるね?」


 女の子が嬉しそうにしていた。


 よし! これで傷ついたからパーティーに参加しない、とは言い出さないだろう。


 家族が来て、俺にお礼を言って離れていく。


 その様子を見ていたクルトは、笑顔でセシリア殿下と話をする。


「リアムは昔から優しいんですよ」


「そうなのでしょうね」


 こいつ――セシリア殿下に、しっかり俺が善人であるとすり込んでいる。


 やはり、悪徳領主として出来る男は違うな。


 シエルが俺を胡散臭そうに見ているので、笑みを向けてやると顔を背けやがった。


 何て面白い子だ。


 もっとからかってやろう。


 すると、ロゼッタが俺に礼を言ってくる。


「ダーリン、ありがとう」


「礼を言われるようなことはしていない」


 何でありがとう? 俺、お前に何もしてないよ。


 それにしても、連日パーティーを開催しているが――ウォーレスの奴に、意外な才能があったな。


 毎回参加しているが、これが飽きずに楽しめている。



 パーティー会場の外。


 会場に侵入しようとしていた武装集団が、ククリたちの手により排除されていた。


 路地で倒れた武装集団。


 彼らはゆっくりと地面に沈み込み――消えていく。


 ククリはクツクツと笑い出す。


「――ようやく姿を現してくれましたね」


 そんなククリに飛んでくるのは、手裏剣だった。


 それらを弾くと、全て炎になり消えていく。


 ククリたち仮面をつけた黒装束の暗部が次々に出現すると、黒い炎が出現してそれらが形を変えて忍者になる。


 炎が忍者の形になると、武器を構えた。


「――殺」


 短く呟くと、彼らは斬りかかってきた。


 狭い路地で戦闘が始まる。


 ククリに忍者二人が跳びかかると、なぎ払われてしまう。


 二人は火になり消えてしまうが、ククリは慌てず――その火の中心にあるコアを掴んで握りつぶした。


 それを見た忍者たちが驚き、距離を取る。


 自分たちの秘密を知っているククリを前に、焦りが感じられた。


「懐かしいですね。貴方たちには随分と苦労させられてきました。ですが、この程度で焦っているというのはいただけない。貴方たちの先祖はこの程度では焦りを見せませんでしたよ」


「――貴様は誰だ?」


「初めまして――そして、お久しぶりです。帝国暗部の影の一族と呼ばれていた者です。もっとも、影の一族というのは勝手に呼ばれているだけなんですけどね」


 忍者たちがそれを聞き、分が悪いと思ったのか逃げようとする。


 それを逃がさず、ククリは自身の影から伸びた黒い棘で彼らのコアを突き刺して倒した。


 ククリの部下たちも影の中に消える。


 ククリだけはその場に残り、この場を見ている者に告げるのだ。


「二千年だ。我らはこの時を二千年も待っていた。必ず復讐してやる。それをお前らの主人に伝えなさい。――お前たちの先祖が悪いのだとね」


 それだけ言って、ククリも影の中に消えていく。



「ウォーレス!」


「リアム――私は――自分の才能が怖い」


 パーティー用のスーツを着崩したリアムは、ウォーレスをねぎらいに来ていた。


 ロゼッタもパーティーから戻り、少し疲れた様子を見せている。


 シエルは、そんなロゼッタに飲み物を用意していた。


 そして、リアムとウォーレスの茶番を横目で見ている。


「俺はお前を無駄飯食らいだと思っていたが、今は本当に感謝しているぞ! 連日のパーティーは大盛り上がりだ!」


「凄く貶されたけど、ありがとう。私も自分にこんな才能があるとは思わなかった」


 リアムはウォーレスが好きな酒を持ってきて、一緒に飲み始める。


 連日のパーティーを企画したウォーレスだが、意外にも好評を得ていた。


 意外な才能である。


(でも、これって普通だったら必要のない才能よね)


 無駄にお金をかけて毎日のようにパーティーを開き遊んでいるようにしか見えない。


 実際、リアムは楽しんでいた。


 対して、ロゼッタは毎日のように関係者に気を使い疲れている。


「ロゼッタ様、明日は休まれてはいかがですか?」


 シエルが心配して声をかければ、ロゼッタは首を横に振るのだった。


「シエル、それは出来ないわ。ダーリンがパーティーを開いて関係者を集めているのは、遠征軍に参加している貴族たちの家族を守るためでもあるのよ」


(確かにそうだろうけど、リアムを見ていると嘘くさいのよね)


 シエルはそんなことを信じていないが、結果として関係者を集めて守っているのは事実だった。


 わざわざ、遠い辺境からも集めている。


 遠征軍に参加する貴族たちからすれば、剣聖を倒したリアムが護衛をしてくれているようなものだ。


「――伯爵様は戦争に参加した方がよかったのでは?」


「そうね。本来なら、バンフィールド家の領地で家族を預かり、守った方がよかったのだけれど――今はデモが起きているから」


「領主の下半身事情でデモとか、うちより酷いですよ」


 バンフィールド家で起きている大規模デモだが、民主化運動のデモは一割にも満たない。


 そもそも、話題にもならないレベルだ。


 残り大半は――リアムの跡継ぎ問題でデモが起きている。


 さっさと跡継ぎを用意しろと、デモが起きている。


(うちは父上の人気が高くて、ヌード写真集はいつ出るのか、って騒ぎがあったけど――それより酷いわ)


 屋敷の使用人たちからの嘆願書も、一向に手を出してこないリアムに「こちらはいつでもOKですから、カモン!」というアピールだった。


 手を出せと言ってくる。


 シエルは思う。


(貴族ってろくでもないわね。まぁ、私もその貴族だけど。こんなことで騒げるんだから、意外と平和なのかしら?)


 リアムとウォーレスは、乾杯をしていた。


「次のパーティーが楽しみだ!」


「期待していてくれ! 次も自信がある!」


「それは楽しみだ。あ、それなら最後にバケツパーティーを企画してくれ!」


「――ごめん、それはハードルが高すぎて無理」


クラウス(;゜ロ゜)「――え? 何で私が腹心扱いになっているの? あの、私って平騎士なのですが」


ブライアン( ´・ω・`)_且~~ 「常にリアム様のお側にいたからでは? あ、粗茶ですがどうぞ」


クラウス:(;゛゜'ω゜'):「いやぁぁぁぁぁぁ!!」




苗木ちゃん( ゜∀゜)ノ「本日は 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です5巻 の発売日! みんな、応援よろしくね」


モニカ( ゜∀゜)ノ「そして明日は セブンス9巻 の発売日! こちらも応援よろしくお願いいたします!」

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