橋場英男の場合 12
第七節
事件はあっけなく解決した。というよりも、何故かいつの間にか終結していた。
それぞれの部屋を見張っていた犯人たちは個別に呼び出され、その都度行方不明になり続けた。
実際には橋場英男に確固撃破されていた訳だ。
橋場英男は単に相手を男から女に性転換し、セーラー服の女子高生にしてしまう能力だけがある訳ではない。
恐ろしいまでの跳躍力、瞬発力、打撃力、防御力などを兼ね備えた一種の超人なのである。
と書いてしまうと何やら馬鹿馬鹿しいが、これは彼に生まれつき高い身体能力が備わっていたという意味“ではない”。
それこそ見るだけで物を動かしたり、透視したりするのと同じ意味での「超・能力」としてある日を境に発現したのだ。
何やらアメコミことアメリカン・コミックのヒーローみたいだ。
だが、橋場は特に「変身」したりるする訳ではない。素のまんまこの能力が使える。
もしも橋場に「徳」が無かったとしたら大変なことになっていただろう。多少腕っぷしが強い程度ですら、学校をシメただの、番を張るだのといった下らない順位争いをしてしまうのが人間である。
暴力に溺れ、どれほどの圧政を敷いたものか分かったものではないではないか。
しかも、橋場にはそれに加えて唯一無二の「特殊能力」があった。
それが「直接触れるだけで、相手の男の肉体を女に性転換させ、セーラー服に強制女装させる」ことが出来るのである。
しかも、リップやヘアピン、生徒手帳など「女子高生」の範囲をはみ出さない小道具なども強制させられるし、髪型やアクセサリーなどのバリエーションも可。下着の種類や色、デザインまで自由自在なのだ。
正直、自分だったら絶対に敵に回したくない恐ろしい相手である。
男女構わず性交渉の餌食とする地獄のハーレムを形成することすら可能だろう。
だが、橋場はそういう柄ではなかった。
ちなみに、どうして「セーラー服」なのかは分からない。
それも、全身が真っ黒で丈の長いスカートの「冬服」だけなのだ。
イメージの問題なのか、夏服にしようとしても駄目だった。スカーフや名札の色を変える程度のことは出来るらしいが、セーラー服そのもののデザインを変えることも不可。
女子高生っぽい制服なら何でもいいのかと言うと全くそんなことは無くて、ブレザーやボレロなどの別種類の女子高生の制服も対応していない。スカート丈すら、多少伸ばすことが出来ることは確認出来たが、短くするのはやはり不可なのだ。
しょーもないことだが、スカートや上着の裏地のあるなし、スリップでなくてキャミソールにするかビスチェにするか程度のバリエーションはやはり可能みたいだ。
ただ、ソックスは白黒対応で丈も膝まで伸ばすことは出来るが、ストッキングは不可と基準が良くわからない。
いずれにしても、こんな超人が本気で戦えば見ての通りテロリスト集団すら簡単に葬ることが出来る。
相手は銃を持ってはいたが、狭い建物の中であんな長いものを振り回しても使い勝手が悪いばかりだ。乱射でもした日には、跳弾がどう跳ねまわって自分を傷つけるか分かったものじゃない。
そもそも生徒を撃つにしても咄嗟に撃てば味方に当たりかねない。
フルオートで振り回しながら乱射すればかなりのダメージだが、それでは本当に無差別大量殺戮になってしまう。
どんなテロ集団でもそれでは民衆の共感を得ることは不可能だ。
まあ、要するに元々撃つ気が余り無い相手だったところに持ってきて、銃弾くらいならどうにか当たっても耐えられると踏んでいたから大胆な行動をとることが出来たって話だ。
(続く)