個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア


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作:ばばばばば
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11話(4/6)


 

 

 

 

『オッハー!!!オッハーーー!!!!!!(爆音)

 

 林間合宿2日目です!!!

 

 今回の個性強化の特訓はかなりうま味、とくに増強型は基礎ステと運が良ければスキルがもらえますので張り切っていきましょう!

 

 まぁ林間合宿は3日目の夜に襲撃されるので、実質2回分しかないぞ!

 

 行事のたびにヴィランに襲撃されるとか、もうヴィランくんもファミリーみたいなもんやし』

 

 

 合宿2日目 個性を伸ばすための特訓は朝の5時30分、早朝からの開始だった。

 

 普通の学生ならまだ寝ている時間であり、クラスメイト達の半分はまだ寝ぼけ眼といったところだ。

 

 

「……ねみぃ」

 

「上鳴おまえ、寝癖がひでぇことになってるぞ」

 

「これ、寝癖じゃなくて静電気なんだよ……、バクゴーの髪が個性で爆発してんのと同じなの」

 

「アホ面、何勝手なことほざいてやがる」

 

「緑谷もすげぇ寝癖だな」

 

「これは元々だよ瀬呂くん……」

 

 

 今日からは自由行動は極端に制限されるため、森の仕込みは昨日の段階で済ませた。

 

 

『いやー、昨日の訓練後、温泉イベントが大抵の場合であるのですが、何事もなく次の日を迎えました

 

 その代わりいつもは見れるはずの女性陣入浴CGはありませんでしたが、何の問題ですか? 何の問題もないね

 

 こんな所にいる時点でメスになんて興味ないダルルォ!?(正論)』

 

 

「やば、私、寝起きの顔やばくない?」

 

「ゲロ、本条ちゃんは全然平気そう、朝に強いのね」

 

「もともと眠りが浅い方だから」

 

 

「えー、本日から本格的に強化合宿を始める。今回の合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免取得だ」

 

 目をこすっている者がまだ多い中、しかし相澤先生が話し始めると皆の目は自然に開いていく

 

 

「今日から君らの“個性”を伸ばす。死ぬほどキツイがくれぐれも……、死なないように」

 

 

 意地悪気な笑みを浮かべる相澤先生が号令をかけ始まった合宿二日目。

 

 

 

 その指導は先生の言う通りかなり厳しいものとなった。

 

 

 

「アバババババ!! 吸われるぅ!!」

 

「こ、こんなの、エレガントじゃないッ!」

 

 

 上限のある発動型はひたすら個性を使うことを強いられた。

 

 ここから見える場所だと上鳴くんは大容量コンデンサに繋がれ、青山くんはひたすらビームを限界まで放射している。

 

 

「葉隠、見つけたぞ」

 

「ひえー、バレちゃった」

 

 

 異形型や複合型は個性に由来する部位を反復させて強化させるため、障子くんと葉隠さんは休みなく、互いの個性で競い合わされている。

 

 

 そして恐ろしいことに、プッシーキャッツのメンバーは私達全体を完璧に管理していた。

 

 

「の、登り終わったケロ……」

 

「うんうん、この壁を越えられるのなら次はもっとトゲとか落石がいるかしら?」

 

「ゲ、ゲロ……」

 

 

「マンダレイ、ブドウ頭の男の子、まだまだ元気なのに手を抜いてるよ!」

 

「ホラ、隠れたって体調もバッチリ把握されてるのよ! もっとプルスウルトラ!!」

 

「毛が抜ける……! これ以上もぎったら、絶対にハゲになる!! うぅ……」

 

 

 ピクシーボブで個性「土流」でそれぞれに合った修行場を作り、個性「サーチ」を持つラグドールはそれぞれの状況を収集し、マンダレイが個性「テレパス」で全体を管理する。

 

 手を抜くことすら許されず、自身の100%を無理やり発揮させるこの手の訓練は成長はするが苛烈だ。

 

 逃げ道なく100%の全力を出しきらなければいけないこの訓練はまさしく苦行だ。

 

 

 

 

 

『大抵の増強系は虎のところに振り分けられますね

 

 個性「軟体」柔能く剛を制すどころか柔も剛も使いこなすメイン盾

 

 タイでチ〇コを付けてきたこのチームの兄貴分だ!』

 

 

 増強型である私はヒーロー虎の指導を受けることとなっている。

 

 近接戦闘では決して折れず千切れず立ち上がる。

 

 素の戦闘技術が高く、ヴィランにとっては倒すことも逃げることも困難なヒーローだろう。

 

 

 

 

「我ーズブートキャンプでは常に体を動かせ! 動かぬものは許されん、貴様ら増強系は個性で楽ばかりしおって、真に体を鍛えるとはどういうことか教えてやる!!」

 

「イチッ! ニッ! サンッ! シッ!」

 

「あと1セット!!」

 

「イチッ! ニッ! サンッ! シッ! イチッ! ニッ! サンッ! シッ! 」

 

「よし今だ! そこのお前! 殴ってこい!!」

 

「は、はい! 5%デトロイトスマッシュッ!!!」

 

「遅い! オラ! 全然当たんねぇぞお返しだ!」

 

「グワァッ!!」

 

「ワンモアセッ! 寝てるんじゃないよ、ハリィ!ハリィ!」

 

「サーイエッ、グッ……、ハァッ…ハァッ……!」

 

「誰が数を数えることを止めろと言った!! 声を出さない奴はもう一発だよ! オラァッ!」

 

「ギャァッ!」

 

 

「すいませーん! ぼさぼさ頭君が気絶しましたァ!!?」

 

 

「まだ立てるに決まってるだろ、おらプルスウルトラだろ? 早く立つんだよ」

 

「しかし、白目向いてゲロ吐いてますよ!?」

 

「口からゲロ垂れる前に言葉の前と後ろにサーを付けろ!! 土の味も知らねぇ奴が土壇場で立ち上がれるのか? あ゛ぁ゛!?」

 

「で、でも」

 

「返事ィ!!!!!」

 

「サッ、サーイエッサー!!」

 

〈あっ、その子、もう体力限界みたいだから休ませといて〉

 

「よし! おいそこの小僧! 30秒以内にそいつの気道を確保してそこの林に打ち捨てておけ!」

 

「サーイエッサー! おい しっかりしろ! 死ぬんじゃない!」

 

 

 

「こ、ここは日本だよな……」

 

「ここだけ世界観おかしくない……?」

 

「あっ! バカッ! 教官の目の前でサボるな!」

 

「教官……?」

 

 

 

「どさくさに紛れて休んでんじゃないよ! 連帯責任!! 腕立て100回!! ヨオォォォィ!!」

 

「「「「サーイエッサー!!」」」」

 

 その後100回と言いつつ、数字が戻ったり、同じ数を100以上数えたり、そのままの姿勢を取らせたり、崩れ落ちた者の連帯責任として数字を加算するなど、皆の心は丁寧に折られていった。

 

 

 

「……ふん 今日はここまでだ。」

 

「「「「サーイエッサー……」」」」

 

「うーん? 返事が聞こえんなぁ まだやり足りないのか?」

 

「「「「サーイエッサー!!!!!!」」」」

 

「その元気が残っているなら明日のしごきは今日以上でいいな!! 喜べひよっこ共!!」

 

「「「「サーイエッサー!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 こうして訓練が終わった時、既に太陽は山に隠れかけていた。

 

 

 

 私も含め、皆がそれぞれ満身創痍となって合宿場に着くがトレーニングを終わらせれば、今日の夕食から自分たちの食事は用意せねばならないと伝えられたため、みんなで残った力を振り絞りキャンプカレーを作った。

 

「おい根暗女! んだぁ!? このカレー! サツマイモ、カボチャ、挙句の果てにはオレンジジュースだぁ!? 糞甘ぇじゃねーかボケコラ!! こんなお子様カレー食えるか!!!!」

 

 ここでは2種類の甘口と普通の中辛カレーを作るよう皆に提案してそれは通った。

 

「だからわざわざ二つに分けたでしょ」

 

「ふむ、人々に振舞うという点では甘口を作っておいた方が苦手な者にも満足してもらえる……、なるほど! 流石本条君だ!! まてよ、ならば被災時にはアレルゲンフリーな料理も必要になるのでは……? 料理は奥が深い……、流石雄英だ!!」

 

「熱心な奴ってどんな所からでも学ぶんだな……」

 

「飯田のそれはもうなんか違くねぇか?」

 

 

 できたカレーを皆で食べ始めれば、しばらくは歓談となるが、私は一人で手早くカレーを食べきる。

 

 食の細い人達がおかわりをせずに片づけを始めたあたりで、私は目的のクラスメイトに近付いた。

 

 

『こういうキャンプって、なぜか薪で火をつけて米を炊くのは男子、カレーは女子ですよね(懐古)』

 

 

「緑谷くん、お昼は食べなかったみたいだったけど大丈夫?」

 

 一人で洗い場にいる緑谷君に話しかける。

 

「あっ! うん お昼は胃が受付けなかったけど、夜は食べれる……、というか食べないと明日がもたないよ」

 

 緑谷君は普段話しかけてこない私への驚きを一瞬浮かべ、次いですぐに笑顔を見せた。

 

 それに合わせて私は薄ら笑いを張り付け直す。

 

「そう、よかった」

 

「それにしてもすごい特訓だったね……、あの特訓に参加した人みんな一度は吐いたんじゃないかな……」

 

「ああいう特訓は普通だったらしないよ、いくら個性が育っても体壊しちゃう人には逆効果だし」

 

「……多分、精神面を鍛えたかったのかな、ほら、増強型の人って結構何でもできちゃうから」

 

「あぁなるほど、良く気付くね緑谷君」

 

「あっ、うん! 僕は増強型って言っても、全然だからそう思ったっていうか……、やっぱりすごいのは本条さんだよ、見習うべき点が多すぎてさ、とくに体の使い方!移動の時とか基本的にかっちゃんを参考にしたんだけど、高速移動の本条さんの動きも参考に……、あっ……」

 

 

 だんだんと早口になってきた話の途中で、私の後ろ側を見て緑谷君の会話が止まる。

 

 この時間は何もなければ洸汰くんが秘密基地に向かうタイミングだ。

 

 今、緑谷君は私の背中にいる洸汰くんを見ているのだろう、目線は私の後ろを滑っている。

 

 

「そんなに洸汰くんが気になる?」

 

「えっあっ! ごめん話し中に! ご飯はもう食べたのかなって、もしだったら食べるか聞いてこようかなってさ、あはは」

 

「そうなんだ……、おーい!洸汰くーん!」

 

 

 私が大声を出すと少し離れた場所にいる洸汰君がこちらを見る。

 

 ついでに珍しく私が出した大声に皆の注目が集まっていた。

 

 

「私の横の彼、緑谷君があなたに用事があるって」

 

 

 そう私は伝言するが、彼は警戒した様子で近付かず、緑谷君の方を睨む。

 

 

「なんだよ」

 

「そのさ、もし夕ご飯がまだだったらカレーでもどうかな?」

 

 

 私は2人が話している隙にカレーを皿に盛り付け、人のいない離れた場所に置いた。

 

 

「よかったら今から持っていくからさ、一緒に食べ……」

 

「なんで俺がお前らヒーローなんかと飯を食わないといけないんだ」

 

「あっ食べないの? ゴメン、もうそこに盛っちゃった」

 

 ここで緑谷くんから手渡した場合、洸汰君はカレーを受け取らないため、彼が取りやすいよう皆から外れた場所にポツンと料理を置いた。

 

 

「ご、ご飯食べたかなっておもってさ、ほら!お腹減ってない?」

 

 

 緑谷君の問いを無視し洸汰君はしばらく緑谷君とカレーを交互に見てじりじりと近付き、瞬きの間に皿を掴むと、すぐに背を向けて走り去っていく。

 

 クラスメイトは突然のことでぽかんとその様子をただ見ていた。

 

 

「なんつーか、野生動物の餌付けみたいだったな、すっげー警戒心」

 

「ヒーロー嫌いか……、俺があんくらいの時ならみんなヒーローごっこしてたのになぁ……」

 

「ま、まぁ食べてくれるならよかったよ!」

 

 

 その後、余ったカレーも皆が食べつくして片づけをし始めた頃になっても緑谷君は難しい顔をしている。

 

 洸汰君がいなくなった後から洸汰君を追いかけようか迷っている様子だ。

 

 

 

「……落ち着かないね緑谷君」

 

「へっ!? あっ、いや、ちょっとね」

 

「洸汰君、追いかけたいんでしょ」

 

 

 私の言葉に緑谷君の目が大きく泳いだ。

 

 みんな緑谷君ぐらい表情の変化が分かりやすければもっと簡単になるのにと思いながら、私は会話を続ける。

 

 

「はは、山は安全とはいいきれないし、暗くなってきたからさ!」

 

 

 緑谷君の行動は善意でしかないだろう。

 

 それは人に優しさを感じさせてくれる。

 

 そして優しさが人の心を救う場合はもちろんあるだろう。

 

 多くの場合はそうである。

 

 

 だが、洸汰君がそうだとは私は決して思えなかった。

 

 

「やめた方がいいと思うけどね」

 

「ほ、本条さんは反対なんだ」

 

「まぁね、拒絶されてるのは分かってるんだから無理に近づく必要はないんじゃない?」

 

「うん……そうだね、でも、余計なお世話かもしれないけど、どうしても気になってさ」

 

 

 緑谷君の意志は固い様子であるが、私は構わずに彼を否定した。

 

 

「余計なお世話って分かってるならやらなきゃ良いのに」

 

「……でも、自分ならどこかで助けを呼んでいるんじゃないかって、そう思うんだ」

 

「うーん、自分ならって、それは洸汰君の気持ちじゃないでしょ? お節介さも行き過ぎたら、それって暴力じゃないかな」

 

「そ、それは……」

 

 

 私たちの間に沈黙が流れる。

 

 私達はそれほど大声で話し合っていたわけでもない、むしろ小さいぐらいだ。

 

 しかしいつの間にか近くに座る幾人かの目と耳は私達に集まっていく。

 

 

 

「……もしかして本条さんってどうして洸汰君がヒーローが嫌いか分かったりするのかな」

 

「さぁ? でも難しく考えなくても良いと思うよ、緑谷君ってヒーロー大好きでしょ」

 

「う、うん、僕の周りの人はヒーローになりたい人ばっかりだったから、だから洸汰君があんなにヒーローのことが嫌いなのが珍しくって……」

 

 

「緑谷君はヒーローが好きな理由なんて沢山言えるよね? だったら単純にその逆だよ、いたでしょ、ショッピングモールでさ、そんな奴」

 

 

 緑谷君の表情が硬くなる。

 

 

「洸汰君は……ちがうよ、あの子は違う」

 

「そうだね、でもヒーロー嫌いなことは一緒だよ」

 

 

 

 私は知ったように口を開いて彼を揺さぶる。

 

 

「そのくらいしか私には分かんないな、でも考えてみれば不思議だよね、夏休みに一人で叔母さんの所にいるのもそうだけどさ、旅行って雰囲気でもないし、マンダレイだってヒーローで忙しいのに余所の子供を預かっているのはなんでなんだろうね」

 

「それは……」

 

「人が何かを強く憎むのはそれなりの理由がある。ましてや多感な年ごろの子供がそう思ってる。そっとしてあげた方がいいって私は思うよ」

 

 

 自分で言っておいてなんではあるが白々しいというのに緑谷君はそんな私の空っぽな言葉に対して考え込んでいるのが可笑しい。

 

 

「それでも……、夜の森は危ないよ」

 

「……そう」

 

 

 プッシーキャッツの私有地であるこの一帯の危険度は低い、じゃなければ夜の山に一人子供を野放しにはしないだろう。

 

 彼が森でケガすることはないと知っている私は反論を続けた。

 

 

「もちろん私が洸汰君のことを知ってるなんて言わないよ? でもさ、緑谷君って洸汰君のことどれくらい理解しているの?」

 

「えっ……」

 

「緑谷君は洸汰君と初めて会った時のこと覚えてる?」

 

「流石にあれは覚えてるよ」

 

 あの出会いは緑谷君にとっても忘れ難いのは当然だろう。

 

「殴られたことも?」

 

「……うん」

 

 やや気まずそうな緑谷くんだが、私は構わず質問を続けた。

 

 

「緑谷くんはなんで殴られたと思う?」

 

 

 その一言に、彼は手を顔に当てて考えこんでから口を開く。

 

 

「それは……、ヒーローが……嫌いだから? 嫌いな奴に触られたくなかったんだと思う、かっちゃんもそういう感じでキレるし」

 

 その通りだ。

 

 おそらく洸汰君はヒーローが嫌いである。そこまではあっている。

 

 

「私はね、それだけじゃないと思う」

 

「それは……?」

 

 

 私の言葉に緑谷君は意外そうな顔をして聞き返す。

 

 私は彼を無視して立ち上がり、座っている緑谷君を見下すと頭の上から手を伸ばす。

 

 

「えっ? な、なに!?」

 

 

 緑谷君はぎょっとして少し身を引いていた。 

 

 私は緑谷君へと伸ばした手をそのまま引っ込めて、彼から離れる。

 

 

 

「な、なに?」

 

「こういうの……、ちょっと違うけど爆豪君がさ、急に緑谷君の頭に手を伸ばしたらどう思う?」

 

「えっ……?」

 

「分かんない? 敵に囲まれて、自分は負けないって必死に立っててさ、そこから自分より大きい敵が出てきて頭の上から自分に手を伸ばしてくる。反応しない人もいるけど、緑谷君は結構分かってくれると思ってたんだけどね」

 

「あっ……」

 

「怖かったんじゃない?」

 

「あぁ……!」

 

 私の一言に緑谷君がはっとした表情になり、顔を下に向け黙り込んでしまう。

 

 

「きっと怖かったんだよ」

 

 

 見えないが知っている。

 

 その表情は悔恨にみち、見てて哀れになるぐらいだ。

 

 

 

「プッ……」

 

 

 私はこの学園に来て初めてと言って良いくらいの明るい声色を出した。

 

「そんなに本気にしないでいいよ、所詮はこれも自分ならって妄想、洸汰君の気持ちはあの子しか分からない……、ごめんね緑谷君、行きたいなら行ってもいいと思うよ、あなたが正しいと思うなら」

 

 

 自然と嫌味に聞こえるように言い捨てると私はどうでもよさそうに目線を外した。

 

 

「……あのね本条さん、もしだったらでいいんだけど、君が洸汰君ならどうして欲しいと思う?」

 

 顔をあげた緑谷君は私を強く見つめていた。

 

 この反応は説得が成功した時のものだ。あぁ良かった。

 

 

「私の想像でもいいの?」

 

「本条さんの考えが聞きたいんだ」

 

「追いかけるのはやめて、どんな耳触りの良いこと言ったってダメ、行動で示して、それ以外信じられない」

 

 

 私の空っぽな言葉を緑谷君は真剣な顔をして聞いている。

 

 

「で、どうするの? 緑谷君は追いかける?」

 

 

 洸汰君に対してこちらから距離を詰めた場合、彼は必ずそれを拒絶する。

 

 彼には追いかける行為自体がタブーであり、基本的には偶然を装って接触するしかない

 

 緑谷君の行動は逆効果である。

 

 

 

 しばらくして緑谷君が顔をあげた。

 

 

「……追いかけない、けど……! 放っておくこともできないから、ここで洸汰君が来るのを待ってみようとおもうよ」

 

「……そう、じゃあ私も待とうかな」

 

「えっ! 本条さんも一緒に!?」

 

「私、夜更かしは結構得意なの」

 

 

 偉そうに話したが、そもそもの話、人を助けようとしても、その結果は誰にも分からない。

 

 だがヒーローは選択するのだ。

 

 どちらが正しいか分からなくても選択する。

 

 そしてその選択で一人でも多くの人が救われるための最善を尽くし、その犠牲を背負う者がヒーローだ。

 

 なんて恐ろしい存在であろうか

 

 何も選ばない人間は何の責任も負う覚悟などしていない、ただ結果だけを見て賢しらに言葉を弄することしかできない愚者だ。

 

 

 それはヒーローではない

 

 

 

「なんか面白い話をしてんな、ちょっと俺たちも混ぜてくれよ」

 

「せっかくだし仲良くしてぇよな、俺があんくらいの時なにがうれしかったか、マジ思い出せねぇ、おもちゃとか?」

 

 

 当然のように緑谷君の隣に立つ上鳴君と瀬呂君は考え込みながらうんうんと唸ってる。

 

 

「そういったおもちゃで仲良くなれるなら私、いくらでも作ってあげたいですが、男の子って何が欲しいのか分かりませんわ」

 

「そうだ! カブトムシ! 男ならカブトムシだ! 口田、お前の個性でカブトムシを探そうぜ!」

 

「うーん。切島の感性ってもしかしたら一番小学生の男の子に近いからひょっとするんじゃない?」

 

「ボソッ……」

 

「えっ、なんて?」

 

「あー、ウチの耳によれば“虫はNGだけどどうしてもとなれば命を懸けて”だとさ」

 

「虫じゃない! カブトムシだぞ!」

 

「え? だから何? 虫じゃん」

 

 

 

「みっ、みんないつの間に……、僕たちの話聞いてたの?」

 

 

 いつの間にか周りには、クラスメイトのみんながいたと言いたいところだが、私にとっては確定事項だ。

 

 むしろ集まってもらわないと困る。

 

 

「しかし本条君の言ってることは間違ってないぞ! そういうデリケートな部分に対しては慎重に扱うべきだ!」

 

「まぁでも緑谷、そういうの気にせずぶっ壊してくるとこあるからな、おまえ意外と」

 

 

 この流れになった場合、洸汰君をA組全員で待つ流れとなる

 

 そしてなかなか部屋に戻らない学生を叱りに先生やマンダレイ達が来るのでそこで洸汰君の過去を話してくれるだろう。

 

 最大限ぼやかして説明された洸汰君を察することが出来るのは日本全国のヒーローの情報を網羅している彼ぐらいだ。

 

 

「本条さんはどう思う!」

 

「うん、いいと思うよ」

 

 

 どうすれば洸汰君と仲良くできるかで盛り上がるクラスメイト達を見ながら私も口裏を合わせた。

 

 

 

 全ては予定(チャート)通りだ。

 

 

 計画に変更なし、ここまでくれば解散するまでは楽だ。

 

 後は彼に目印をつければいい

 

 

 

 今この時点で、ヴィランは集合しつつある。

 

 黒霧、トゥワイス、コンプレス、それに脳無共を除いた敵がすでに潜んでいるのだ。

 

 当然奇襲も考えたが流石に戦力差が厳しく勝ち目が薄すぎる。

 

 なんとか撃退したとしても敵の多くは逃げ延び、その後の雄英への説明も難しく、結果として各個撃破のしやすい3日目に賭けるしかない。

 

 

 

 明日だ。

 

 

 敵の中には奴がいる。

 

 

 

 偶然にも過去を清算するチャンスが転がってきた。

 

 

 正面から相手を倒せる暴力がある。

 

 邪魔されない状況を作る力がある。

 

 自分が罪に問われない環境がある。

 

 

 

 あの頃の私と違う。

 

 

 

 

 

 ムーンフィッシュ、奴だけは私が必ずこの手で殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 




復讐は何も生まないけど、すごくスッキリするってはっきり分かんだね

復讐なんてむしろ何も残らないぐらいがすっきりしていいゾ~これ
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