個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア


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作:ばばばばば
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11話(1/6)


 職業体験が終わり、まず私がしたこと、それはとにかく計画を練る時間を作ることだった。

 

 

「お父さん、お母さん、私、寮から学校に通いたいの」

 

 

 私の一言に二人は複雑な表情を浮かべる。

 

 

 普通の家庭なら、わが子が急にそんなことを言い出して、頷くのは容易ではない。

 

 わざわざ別の場所に住むのはお金がかかる。

 大人になったら1人暮らしなんていくらでもできる。

 寮に入ってまでやりたい目的が分からない。

 

 私を諭す理由なんていくらでも考えられるだろう。

 

 

 だがその点で言えば、説得は非常に容易、というより両親の弱点を私は熟知していた。

 

 

 

 

 

 

 体験学習が終わり、私は家に帰った。

 

 

 

 時間を見ながら、ゆっくりと家に着くタイミングを見計らって帰ると、玄関には大きな塗りたての落書きが書かれてあった。

 

 内容は短く、酷く幼稚な罵倒である。

 

 動揺は全くない。

 

 それがあることは、帰宅中の列車で知っていたし、数日前に消したばかりだというのに一瞬の隙で書かれているのは、これが個性による犯行だからだ。

 

 私は汚れた玄関を無感情に眺めるが、玄関のドアの裏から掃除道具を抱えて外に出ようとしたお母さんに合わせて、適当に口を曲げ、眉を寄せて、まるでひどく傷ついているかのような顔を作る。

 

 当然、お母さんは落書きを消すより一番に私を家に入れて、言葉を尽くして私にやさしくする。

 

 そこで適当な弱音を吐きながら待っていると、表の落書きを見たお父さんが帰ってきて、お母さんと混じって私を甘やかす。

 

 そして私は元気を少し出したように見せかけて、久しぶりにお母さんの手伝いをする。

 

 料理を手伝って、掃除も少し、そして重要なのが、郵便に入っていたものを整理して渡すことだ。

 

 都合のいいことにこの中の一つは個性でカミソリが隠して入っている封筒なので、わざと家族の目の前で開ける。

 

 まずい開け方をすると、かなりの威力で指の骨まで達するので、まずい開け方をして手を傷つけるように気を付ける。

 

 お母さんとお父さんが血相を変えて駆け寄ってくるので、私は手を抑えてうずくまり、涙腺内の毛細血管から無理やり液体を流す。

 

 

 そうして暗雲立ち込める雰囲気の中で私は下準備は済んだと、本題を提示するのだ。

 

 

「お父さん、お母さん、私、寮から学校に通いたいの」

 

 

 目的はここでは集中できないから

 

 事実とは全く違うが、過去に好奇の目で潰された私を見て、守れなかったと後悔しているお父さんお母さん達はこう攻めれば脆い。

 

 金銭面の説得も容易だ。

 

 雄英の寮はヒーロー科であるならかなりの優遇がされていることは調べが済んでいる。

 

 お金についても私が十分な金額を持っていることを説明した。

 

 稼いだお金は体を鍛えるついでに、中学でしていた配達のアルバイトから捻出したと嘘をつく

 

 たとえ職場に問い合わされたとしても。そこの人間は私が中学生の時から働いていると口裏を合わせた証言をするだろう。

 

 どうやってそんなアリバイを作ったかと言えばお金の力だ。そして未来が見える私がどうやってお金を作ったかなど今更説明する必要もない。

 

 

 そしてダメ押しに、これは逃避ではなくヒーローを目指すうえで必要な事だと説明する。

 

 ヒーローになることは私がようやく見つけた私の願い、世間の視線がここでは多い、私のやりたいことの妨げになる。ヒーローを目指すうえで必要な事。

 

 それらしい言葉を適当に並びたてると、なるほど見た目だけは立派に見えてくる。

 

 そうして、これは自分の意志で選んだことだと強く訴えると、両親は最後に項垂れるように頷いてくれた。

 

 

 用意していた書類に必要事項、念書を書いてもらい、私は先のことを考えながらベッドに入る。

 

 すべきことは多い、その日は一睡もせず、思考に時間を割いて次の日の朝を待った。

 

 

 

 次の日、まるで今起きたかのように部屋を出ると学校に行く支度をする。

 

 学校では先生に面談を組まされているので、そこで寮のことを伝えるつもりだ。

 

 玄関を出ると通勤や通学か、住宅街らしい、朝の慌ただしい光景が広がる。

 

 

「あら、桃子ちゃん」

「どうもおはようございます」

 

 つい先ほどまで、私の家のことをあること無いこと噂で話し込んでいたご近所さん達だ。

 

「大丈夫? また、落書きがあったんですってね」

「えぇ、困っていますが、いつか収まるだろうと思うしかないですね」

 

 私は挨拶を返す。

 

 裏ではどうあれ、直接声がかけられる場面では皆私に好意的な風に接している。

 

 雄英体育祭から、私はこの近所でちょっとした有名人だ。知らない人から声をかけられることも少なくない。

 

 

「本条さん、学校頑張ってね」

「ありがとうございます」

 

 二軒隣に住んでいる新婚の奥さん

 

「おはようさん」

「おはようございます」

 

 児童登校の見守りボランティアをしているおじいさん

 

「本条さんちじゃないか、今色々大変だと思うけど頑張って」

「ありがとうございます」

 

 よくここら辺を散歩をしているおばあちゃん

 

「家の倅にも桃子ちゃんみたいなしっかり者を見習わせたいよ」

「ありがとうございます」

 

 駅に向かう道の青果屋のおじさん

 

 

「おはようございます」

「……っす」

「あ、ちょっと待ってもらえますか」

 

 そして昨日私の家に落書きしたり、カミソリ入りの手紙を送ってきた近所に住む同い年の男の人

 

「……?」

 

「どうも」

 

 下を向いていたので私の顔を認識していなかったようだ、二度声をかけて、ようやく私の顔を見て驚いている様子だ。

 

「あの、訴える気はないです。ただあんな事はもう止めてください」

 

 個性「切手収納」意識したものを切手ほどの大きさの紙に変換して収納できる。収納できる限界は55gと重さに依存している。

 

「な、なな」

「別に手紙とかは、私が開ける分には良いんですけど、落書きとかはやめて欲しいんです」

 

 収納された物は本人の意思で紙から収納される前のもとの状態に戻すことが出来る。紙に収納できる個数は現在82枚まで、また、個性で生成した紙自体を破損させても物体は元に戻るがその場合、収納した元のものは激しく飛び散ってしまう、これは任意で飛び散るように物を出すこともできる。

 

 家族構成は本人、父、母の三人暮らし、彼はここに近いヒーロー科の学校を受験するが落ち、現在は高校浪人中だ。犯行動機は……、まぁ、それはべつにどうでもいい……

 

「俺じゃない!」

「あぁ、目立つので大声を出さないで、もうこんなことをしないと約束してさえくれればいいんです」

「くっ! くそっ……! 動くな! この紙の中には……」

 

 目の前の彼は、懐にあるカミソリが収納された小さな紙を1枚、取り出そうとするが、力を強く入れすぎているので破けるだろう。

 

 私はその紙を手で握り込んだ。

 

 

「危ない、この距離じゃ飛び散って自分に当たりますよ」

 

 

 手の平の中で何枚かのカミソリが飛び出すが、全て拳に収めた。

 

 彼自身がしたことだというのに、私の手を見て、彼は酷く狼狽している。

 

 

「ヒッ……! ち、ちが、脅そうとしただけで……、手紙も指の怪我をさせればって……、お、俺みたいな弱個性じゃこんなッ……!?」

 

「落ち着いて、あなたの個性は結構強いと思いますよ」

 

 収納系の個性は幅が大きい、彼の収納は大きさではなく重さに依存しているため、50g程度と少なく見えるが、大きさに際限はない、私の家にある壁にあった落書きは別の場所で書いて、インクだけを選択的に収納して私の玄関で取り出したものだ。

 

 ここですごいのはインクは塗りたてで乾いていない点で、収納中での時間による劣化がほぼみられない。つまり彼の個性は状態を完璧に保存して収納することが出来るのである。これでも埒外だというのに、触らず目に見える範囲で意識的にインクのみを抽出し、ここまで精密に出し入れできる収納系統の個性は珍しいというより異常だ。

 

 よくよく調べれば誰かが指摘するだろうが、彼が自分の個性を恥じ、周りに隠しているということがその事実を知る妨げになっているのだろう。

 

 どうやら毎日必死に自分の収納に入る重さを鍛えているようだが、それよりは素早い発動サイクル、紙を出せる枚数を増やす練習をした方が得策だ。

 

 彼は気づいていないが、切手を切手に収納することで彼の収納の上限は跳ね上がるし、収納時の運動エネルギーもそのままに収納することが可能なので、目を鍛えれば相手の飛び道具を疑似的に反射することも可能だろう。個性が行きつくところまでいけば、彼が見たものを問答無用でバラバラに分解することもできるくらい、強くなる可能性を秘めているんじゃないかと私は思う。

 

「う、うるせぇ! お前みたいな強個性に何が分かる! 俺のポケット代わりにもならない個性のなにが!!」

 

「うーん……、あなたよりは知ってることになるんですかね……」

 

「自分だって努力したってか? 自惚れんな! テメェは最初から環境と才能に恵まれてただけにすぎねぇんだよ!!」

 

「そう言うことじゃないんだけど……、とにかく嫌がらせはやめてくださいね」

 

 

 もちろん彼にそのことを伝える理由はない

 

 

「カミソリレター程度なんて考えてたかもしれませんが、運が悪いと大怪我になると思います。……あっ」

 

 そこまで話して、私は手の中にあるカミソリのことを思い出す。 

 

 ゆっくりと手を開くと、じゃりじゃりと両刃のカミソリが地面に音を立てて落ちていく、手の甲を突き抜けかけたものも引き抜いて地面の集めやすい場所に落とした。

 

「すいません、あなたの個性で片づけてもらっても?」

 

 私の声掛けと反して男の人は私から後ずさっている。じりじりと距離を取る様を見れば、どうやら逃げようとしている様子だ。

 

「俺は悪くねぇ! それになんもしてねぇ!!」

 

「落ち着いてください、ここで謝った方が貴方のためですよ」

 

「こ、こんなの……、俺じゃない!! 俺のせいじゃない!!!」

 

「危ないですよ」

 

 当然、私の言葉は届かない、彼は顔を真っ青に、目だけを赤く血走らせて駆け出そうとする。

 

 が、私は彼の靴のかかとを踏んだ。

 

 

 彼はアスファルトに滑るように飛びこんだ。

 

「グッ……、覚えてやがれ!!」

 

 盛大に転んだ彼は私を睨みつけるとよろよろと立ち上がって、すぐに逃げ出した。

 

 

 私はその場に立ち止まって、彼が消えた先を目で追うが、ここにいても仕方がないので手早くカミソリを片づけると歩き出す。

 

 

 道の途中で、まばらながら人だかりができている場所を通り過ぎる。

 

 

 

 

 

「大怪我で運ばれたって、頭を打って血の泡吹いてたぞ、なんでも急いでたみたいで踏切でつまずいたんだと」

 

「アブなかったよな、電車が来てたらどうなってたか」

 

「実際、間一髪だったな、転ぶのがちょっと早かったら、俺たちとんでもねぇもんを朝から見せられてたぜ」

 

 

 

「くッ、ははっ……!!」

 

 

 そんな噂話を横で聞き流しながら私は駅を目指すが、思わず笑ってしまう。

 

 幸運なことに、私の笑い声はタイミングよく通った電車の音でかき消され、注目を浴びずに済んだ。

 

 

 

「だから謝った方が良いって言ったのに……」

 

 

 

 

『攻撃を相手のゴールにシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!! バトルドームと化したヒロアカRTA part11はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッハッハッハッハ!! マジか爆豪!! その8:2分け! ヒーヒッヒヒ!!」

「おい笑うなぶっ殺すぞ……」

 

「へぇー! ヴィラン退治までやったんだ! うらやましいなぁ!」

「避難誘導とか後方支援とかの裏方で、実際戦ってはないんだけどね」

「それでもすごいよ」

 

「私はトレーニングとパトロールぐらいかな、お茶子ちゃんはどうだったの?」

「フフフ、とても有意義だったよ」

「オーラが……」

「武に目覚めたのねお茶子ちゃん」

 

 

 学校では体験学習で久しぶりに会うみんなが、明るい声で再会を喜んでいた。

 

 その変化を互いに確認し、良く刺激しあっているようだ。

 

 

「いやぁ、みんな見違えたもんだぜ」

 

「でもまぁ……特に変化というか、大変だったのは、アイツら3人だな」

 

 

 特にクラスの目を集めるのは緑谷君、飯田君、轟君の3人、これは当然だろう。

 

 ヒーロー殺しの逮捕に貢献した3人の成長は目覚ましい

 

 

「ヒーロー殺しは、信念の男ではあった。それをかっこいいと思う人がいるのも……分かる。だが奴はその手段に粛清という手をとった。それだけは間違いなんだ。……もう俺のような者をださぬため、俺は改めてヒーローの道を歩む!」

 

 

 私としては飯田君には尊敬の念しかない、ヒーロー殺しがカッコいいと失言してしまったクラスメイトに理解を示し、改めて自分の答えを言い切った。

 

 そこに暗さは一切ない、飯田君は委員長然とした態度で、いつもと変わらずチャイム前に席に座るよう促している。

 

 

「本条くん、この前の時はありがとう、改めてあの言葉の意味を理解したよ」

 

 皆が席に向かう直前、飯田君は私にそんなことを言ってきた。

 

「あぁ、あれね、いいのあんなのは、気にしないで」

 

 そういえば飯田君にはもっと自分の周りを見ろと説教を垂れた時があったなと思い出す。

 

「君はそういうが、あの一言で俺は自分を……、いや周りを顧みることが出来た。改めて礼を言わせてくれ」

 

「フフッ、そうだね、一人の力じゃできることも限られちゃうからね」

 

「……」

 

「……? どうしたの?」

 

「いや、君が笑ったのを初めて見た」

 

「あれ、そうかな? あぁ、もしかして私の行ったヒーロー事務所のせいかも、そこがとにかくユーモアを重視する変わった場所でさ」

 

「なるほど、本条君にもいい出会いがあったようだな」

 

 

 周りを見ろ、自分で言っておいてなんだが、その通りだ。

 

 状況を利用し、自分の立ち位置を変え、目的のために都合よく駒を動かす。

 

 

「困難な事こそ、周りの力を借りるべきよね、飯田君」

 

「あぁ! そうだな本条君!!」 

 

 

 実際にそのように動けばこうも簡単に事はなせる。

 

 あぁそうだ、今朝の事故だって私のせいじゃない、あそこで反省しなければどうなるかを知っていて、忠告だってしたのだ。

 

 

 まぁ、彼が謝罪をしないことも知っていたのだが

 

 

 おかしくてつい、口の周りが歪むのがこらえきれない。

 

「本条君……?」

 

「おっと、もうチャイムだよ委員長」

 

「……あぁ、そうだな!」

 

 不思議そうな顔をしている飯田君はそれ以上何も言わずに席に戻った。

 

 

 

 

 その日のヒーロー基礎学は救助訓練レース、つまるところ障害物競争だ。

 

 私と競い合うのは爆豪君、障子君、蛙吹さん、常闇君の4人

 

 

『救助訓練レース、複雑に入り組んだ工業地帯の中で、如何に指定された場所にいち早くたどり着くのかを競います

 

 強化系なら当然1位を目指しますが、セロハンテープ君か爆豪あたりに運が悪いと負ける時があるので注意

 

 定石ならマップ外の東南辺りに位置取り、すぐ前のクレーンに駆け上って障害物のない高所から移動するのがおすすめです』

 

 

 私は声を無視して移動し、10秒後にくるスタートの合図である救難信号を待った。

 

 

『げげ、場所が反対の北西が初期位置……

 

 おっと? ですが救助場所も近いです』

 

 

 救難信号が出る。それは私から近い位置にあることは分かっているので、すでに溜めていた力で加速して町へ侵入する。

 

 意識は最短へ

 

 自分の意識が体を超えて何秒か先にあるような心地だ。

 

 私の体が何かを置き去りに進み、二つのズレはどんどん広がっていく

 

 

『サイドバイサイド!

 

 あー!近スギィ!近スギた!お互いに近スギました!

 

 これは2人とも近スギだからOKか!(近スギ両成敗)』

 

 

 ついに意識のみが目的地にたどり着くその瞬間、はるか後ろにあった私の体は淡く消える。

 

 

『はえ~、すっごい速い(自己べ更新)

 

 自分の操作がここに来て熟達してますねぇ!!』

 

 

 私は何の波乱もなく、当然のように1位を手に入れた。

 

 そこに何の想定外もない、一番早い私が、一番ゴールに近い位置につき、誰よりも上手くスタートダッシュを決めた。ただそれだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体験学習から数日が経った。

 

 体験学習後の私は身体的な成長はそこまでなかったが、授業成績は誰がどう見てもさらに伸びている。

 

 様々な形式の訓練、座学なども、私は要求以上のパフォーマンスを提示し続けた。

 

 

『豪運! 圧倒的豪運!!

 

 え、何これは……(困惑)明日に僕死んじゃうんですか?

 

 そんなレベルで運がいいです(恐怖)

 

 もう顔中、(ウン)まみれや!

 

 どれもデレ過ぎて怖い……アイアンマン!』

 

 

「すごい、本条さん、最近は絶好調だね!」

 

「運がいいんだよ」

 

「いやぁ、あそこまでの実力見せられちゃ運じゃすまないよ!」

 

「ううん、本当に私の“運”が良いからだよ?」

 

「またまた~、ご謙遜を~、なんか秘訣とかあるんじゃな~い?」

 

「嘘じゃないんだけど……、うーん、そういえば最近寮から学校に通うことにしたから、自分の時間が多く取れるの、それが原因かな」

 

「えっ! じゃあ今一人暮らしなの!? じゃあじゃあ今度さ!」

 

「……あっ、そういえば次の数学、前の授業の進み具合から考えると芦戸さんが当てられるんじゃない?」

 

「えっ! ヤバッ! ホントだ!」

 

 

 人との付き合いもいくらか楽になる。

 

 何をしていいのか、そして何がダメなのか、その差がなんとなく分かれば、常に刺々しく突き離す必要もない。

 

 人が人に心を許す瞬間というのはただ話をして訪れるという訳ではない

 

 興味をひかない無味乾燥な話題、相手に緊張を強いる本心が分からない空虚な笑顔、一線引いた無意識の拒絶

 

 会話は成り立っているようでも、傍で聞けば楽しそうでも、互いの心は全く動かない。

 

 人と話すときはこうすればいいのかと気づき、私は今、感心すらしていた。

 

 

「本条ってさ、体験学習あたりからトゲがちょっと取れたよな、まだガードは固いけど」

 

「あぁ、分かる! 無視とか嫌味とか確実に減ったよな! よかったよかった」

 

「……そうか? 俺は、前のツンケンしていた方がまだマシだったと思うよ」

 

「いやいや、誰が見ても今の方が……、まさか、お前ドMか!?」

 

「なんでもアイツが行った先の事務所が変わった場所らしくて……」

 

 

 

 学校でも、細くは『アレ』と繋がるようにして、体を慣らすように気を張りながら時間が過ぎるのを待つ。

 

 早く帰って私は備えなければいけない。

 

 

 

 

 

 学校が終わった後、誰ともすれ違わずに私は自分の部屋に帰る。

 

 一人では少し広いぐらいの部屋、私が入ることになった雄英の寮だ。

 

 

 体験学習のあと、先生との面談で誹謗中傷で学業に集中できないと寮での生活を申請すれば、思ったよりすんなりと入寮の手続きが行われ、話があった次の日には荷物さえ持ち込めば住むことが出来るよう手配された。

 

 一人暮らしは初めてだが、今までも基本的に家のことは自分でしようと心がけていたので、そこまでの苦労はなかった。

 

 唯一の苦労と言えば引っ越した当初、ひっきりなしに家から電話が来ていたくらいだが、今は流石に落ち着いている。

 

 両隣の部屋に人は住んでいない、寮の入居率は2割程度で部屋の外からは、普通の耳では何の音も聞こえないくらい静かだ。

 

 いわゆるいいとこの学校とされる雄英に子供を通わせられるほど裕福な家庭

 それに個性による科学技術の発展で、どこからだってすぐに行ける交通機関

 入居者が少ないのは、そんな条件がそろっていて、わざわざ入寮を許す親はいないからだろう。

 

 結果として周りのことを気にせず好き勝手出来る部屋があるのは非常に助かっている。

 

 寮での生活は集団行動を強いる場面もあるが、それでも自由にできる時間の方が多い。

 

 部屋に帰った私は食事などを済ませ、この時間帯に母からくる多量の文章に一言二言の返信をしてから、机の前に座り、日課を始める。

 

 

 

 私は硬く目を瞑り、神経を尖らせると一日中頭から伸びていた線をさらに意識する。

 

 力を行使すれば足腰が立たない程頭が痛むが無視をした。

 

 自分の限界まで追い込むギリギリのラインを探りながら私は耐えて、耐えて、耐え続ける。

 

 いつの間にか噛みしめた奥歯が砕けていた時、限界を感じた私はそこで力をせき止めた。

 

「ッ! ハッ……!! はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 時計を見れば経過していた時間は10分ほど、そこで私は大きく息を吸った。

 

 顔から汗が吹き出し、呼吸は乱れている。 

 

 口の中に残った割れた歯を吐き出し、5分ほどかけて何とか息を整えた後、私は椅子にしっかりと座りなおす。

 

 

 そうして私は再度『アレ』に深く意識を集中させた。

 

 

 これを時間の許す限り明日の登校時間まで続ける。

 

 

 それが私がやっている最近の日課だった。

 

 

 

 この行動の意味は簡単だ。

 

 私は未来視により、自分が望む未来を見つけようとしているのだ。

 

 

 

 サーの事務所で私は未来を見る力を自覚した。

 

 この力は、目標を設定し、そこに行きつくための道を提示する能力

 

 強力な力ではある。

 

 がしかし、万能とは言い難い。

 

 

 特に問題となるのが力自体の許容量、つまりは私の脳の処理能力の限界だ。

 

 曖昧な目標であったり、どう考えても困難な目標、あまりにも先の未来を見ようとすれば、道を探す負担が増え、私の脳はすぐに焼き付いてしまう。ここで無理をすれば私は何時かのように、多量の情報の処理についていけず、自我が漂白されてしまうだろう。

 

 

 これに対して私が出来ることは、脳の処理能力自体を向上させること、負担をかけないように力を使うことだ。

 

 能力の向上にはひたすら力を使うしかない、幸いにして私の個性は「成長」であり、ひたすらの反復練習は得意だった。

 

 だが、面倒なのはもう一方の負担をかけない力の使い方だ。

 

 道を探すこの力、それに負担をかけない方法とは、当たり前の話だが、短く簡素な目標を設定することである。

 

 敵をとにかくすぐに倒す。ただちに指定された場所に到達する。

 

 目先の明確な目標、この場合は最速最短の道を設定すればこの力は無類の力を発揮するだろう。

 

 だがここで厄介なのは、最速の道が、私にとっては最良ではないということだ。

 

 目的地に到達するために、途中にある全てを跳ね飛ばす度胸など私にはない。

 

 しかし、私が周りに被害を出さぬようと条件を増やせば、道に分岐が増え、ゴールへの道が複雑になり、私の脳の処理を上回る。

 

 それでも普段の授業で最高成績を取ることや、クラスメイトと最低限心が動かされない会話をする程度なら処理に困ってはいない、問題は……

 

 

 

「雄英高校林間合宿……」

 

 

 問題はそこで私の目的を達成させることだ。

 

 

 あまりに多くの人の意思が渦巻き、干渉しあい、可能性が混沌と化しているそれは、私にとっての鬼門

 

 この合宿の未来を辿ろうとすれば、無限に分かれた道が絡まり渦巻いて、それ以上の未来を見ることが出来ない。

 

 無理にそこを超えて未来を視ようものならその情報量でパンクしてしまう。

 

 様々な人々の意思が絡まるそここそが、世界の転換点といっていいのかもしれない。

 

 

 だから対策として、私は混沌とした未来に迷わぬよう地図(チャート)を作ることにした。

 

 

 まず私が何もしないで過ごせばどうなるか、未来を分けずに確認し、何が起きるかを大まかに把握する。

 

 そして未来の出来事(イベント)に注目し、それがなぜ起きるのか、要因を分析。

 

 事態が大きく動く出来事(イベント)、あるいはきっかけ(フラグ)というものを見極め、それにのみ介入することで、脳に負担をかけず未来を変えようとする。

 

 後は繰り返しだ。出来事(イベント)への対策と調査を実践し、自分が望んだ未来にたどり着ける(ルート)を走査する。

 

 未来はほんの些細なことで変化をおこし、可能性を膨張させる。枝葉まで探れば無限と言ってもいい数の中で、私が望むたった一つの道を探す。

 

 間違いは許されない、精神を蝕まれる作業

 

 今日も日が昇るまで、私は地図(チャート)を作り続けるだろう。

 

 

 

 ここで何を成すかによって未来は大きく変化する。

 

 

 

 そしてその中で私には胸を焼く宿願があった。

 

 

 

 いまさら、それを成して何が変わるわけでもない、マイナスがプラスになるわけでも、ゼロに戻ることさえもあり得ない

 

 

 意味はない

 

 

 だがどうしても納得できない。

 

 それがこの世界で息をしていること、何かを見てること、何か食べてること、何かを聞いていること

 

 この世界で生きていること、それを感じるだけで正気ではいられないのだ。

 

 

 償いも、反省もいらない、ただ……

 

 

 

 ただ、消えて欲しい

 

 

 

 




先輩こいつチャート作成とかやりだしましたよ、やっぱ(RTAが)好きなんすねぇ!

初めてのチャートで試走もせずの一発撮りしようとするその姿はまごうこと無きチルドレンの鏡

これは……、ガバじゃな?
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