個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア


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作:ばばばばば
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10話 前半(2/2)


 職場体験当日、それぞれの事務所に向かうため、朝早くから駅のホームに集まった。

 

 

「よし、コスチュームは持ったな、学生のお前らは、まだ公共の場での着用は不許可だ。絶対に落とすなよ、……よし、くれぐれも失礼のないように気をつけろ」

 

 先生が、目線で生徒の人数を数えながら、本日何度目かも分からないほど繰り返された話をして、興奮気味な生徒に釘を刺す。

 

 ここからは別行動、それぞれの目的地に分かれることになる。

 

 一応、個人で向かうことも可能であるが、学校に申請して向かえば金銭も予約も雄英が行ってくれるので、あえてそんなことをする必要もない

 

 目的地の方向が同じ生徒はそれぞれ固まって出発していく。

 

「お前九州か? じゃあ逆だな」

 

「楽しみだなぁ」

「じゃ! またね!」

 

「飯田君……、本当にどうしようもなくなったら言ってね、友達だろ」

「ああ」

 

 

 私が乗るべき車両のアナウンスが流れると、誰に何も言わずに動き出そうとするが

 

 

「おや、本条君もこの列車か」 

 

 飯田君に話しかけられる。

 

「っと、こんなところで立ち止まっては人の邪魔か、早く席に着こうか」

 

 ふと手元の乗車券を見れば、さすが金満雄英だ。見事にグリーン車かつ指定席、嫌な予感をひしひしと感じる。

 

「ふむ、俺は通路側で君は窓側だ。先に行ってくれ」

 

 私の先を歩いていた彼が手元の乗車券を覗き込みながら、交互に席順を確認する。もちろん飯田君は隣席だ。

 

 まともに目をあわせずに席に座ると、話しかけられないようにすぐに窓にそのまま視線をスライドさせる。

 

「本条君と同じ方面とは奇遇だな。君はどこのヒーロー事務所に行くんだ?」

 

 だが彼は普段通りに私に何気ない会話を仕掛けてくる。

 

 次は話しかけられないよう、最大限に気だるげに飯田君を見るととげとげしく突き放す。

 

「そんなに遠くはないよ、私は5つ目の駅で降りるから、あなたを残してそこでお別れ」

 

「うん? 俺の行き先を本条君は知っているのか?」

 

 ……失言だった。

 

 たしかに、いつ別れるなんて相手がどこに降りるか知ってないと言えることではない、内心焦りながらも表情には出さずにごまかした。

 

「…………さっき、券を出した時、後ろから見えたから、私の目がいいの、知ってるでしょ」

 

「あぁ、切符に載ってたからか」

 

 言った後に、自分の個性を言い訳に出したのはわざとらしかったと冷や汗をかくが、飯田君はこちらを気にしたような様子はない。

 

「俺のいく場所は結構栄えてる場所でな、やはりそういうところにヴィランは潜むのだろう、気を引き締めなければ、お互い頑張ろう、本条君」

 

 笑顔でそう話す彼は、復讐を企てるような人間には見えない。

 

「まぁ、勝手にそっちは保須市でよろしくやれば、私には関係ないから、ちなみに考え事の最中に声をかけられるのは嫌いなの、そこらへんよろしくね」

 

 これ以上、彼を見るのが辛くて傲慢な態度に言葉を切ると、目線を切って窓を見た。

 

 飯田君はそうか、と一言言うと、前を向いてしまう。

 

 

 ここからは互いに無言となる。

 

 何をするわけでもない私と、行った先の町の地図を読み込んでいる飯田君

 

 お互いしゃべらず、あと一駅で私の職場体験の場所につくといったところ、やることもないので窓に流れる景色を見ながら時間をつぶしていると、窓に映る飯田君の横顔をつい見てしまう。

 

 窓に反射した彼の横顔が嫌でも見えてしまうのは失敗だった。

 

 何か適当な本でも持ってくればよかったと反省する。

 

 

 ……飯田君の態度は平然としたものだ。

 

 

 大切な人がヴィランに殺されかけたというのにその感情をおくびにも出していない。

 

 もしも自分の大切な人がヴィランに奪われたら、そんな考え私なら思い浮かべるだけでも耐え切れない。

 

 飯田君はたしか、襲われたお兄さんを誰よりも尊敬していた。

 

 犯人を許せるわけがないだろう。

 

 

「……本条君」

 

 

 考え事をしている最中に突然声をかけられた私は動揺した。

 

「さ、さっき言わなかった。考え事をしている時に話しかけないでって」

 

「そうは言うが、窓越しに睨まれたら、何か俺に用があるのではないかと思ってしまうだろう」

 

「…………」

 

 瞬時に言い訳が浮かばない

 

「……窓の景色が見たいのに飯田君の顔が映って不快だっただけだよ」

 

 あまりにも自分勝手で幼稚な言い訳だが、普段の自分勝手で幼稚な行いの良さを信じてそう言い切る。

 

 

「……」

 

 

 飯田君がこちらをじっと見る。

 

 あまりのことに飯田君も閉口しているかと思ったがよく見れば、何かを話したそうに口を軽く開きかけていた。

 

 

「本条君、君に聞きたいことがあるんだ」

 

「……突然何?」

 

 

 彼は言いよどむと、彼の口からは似合わない一言をつぶやいた。

 

 

「本条君は……、どうしても許せない人がいたらどうする?」

 

 

 その一言にどう返答していいものか私は固まる。

 

 彼はそれを見て、こちらに申し訳なさそうに、言葉を取り繕った。

 

 

「いや、君にこんなこと……、変なことを聞いた、忘れてくれ」

 

 

 飯田君の目には暗い火がともっていたのを嫌でも私は見てしまう。

 

 再度私たちの間に沈黙が訪れた。

 

 ここで何も言わなければ何も起きずに別れられるだろう。

 

 

 

「復讐でもしたいの?」

 

 

 

 だというのに私は余計な口を開いてしまう

 

 言ってしまったと顔をゆがめるがもう遅い

 

 そこからはお互い話したくないのに話さなければ耐えられないという、ひどく歪な言葉のキャッチボールが始まってしまった。

 

 

 

「どう、言ったらいいんだろうな……、まず、本条君は俺が保須市に行くと知っていただろ」

 

 

 私の唐突な言葉をさらに投げ返した飯田君、彼も自分が口にした話題に対して苦々しい顔をしている。

 

 

「あぁ……、うんつまりだな、俺が行き先を教えていたのは一部の人にだけだ。切符に書いてあるのは最寄りの駅名で保須市じゃない、君は知るはずのない地名を俺が言う前に言い当てた。君は俺が保須市に行くことは初めから知っていたんだ。なら、それならそう言えばいいものを君はそれを隠した」

 

「……たまたま聞いてたのよ、盗み聞きで聞いて体裁が悪いからごまかしただけ」

 

「教えていたのは一部の人にだけだ。君はそれを誰に聞いた?」

 

「緑谷君と麗日さん」

 

 当てずっぽうだ。 でもたぶん外れてはいないと思う。

 

「その通り、まぁその話はスマホの会話で伝えたのだが」

 

「……」

 

「君は俺がなぜ保須市に行くか知っているな」

 

 もうここにきてはごまかすこともできないと、私は正直に伝える。

 

「予想だけど、お兄さんがヒーロー殺しに再起不能にされたことを飯田君は許せないの?」

 

「……そうだ」

 

 

 飯田君は深く座席の背もたれに息を吐きながら体重をかけた。

 

 

「だからこそ君に聞いた。聞いてしまった」

 

「どういうこと?」

 

「いや……、まぁ……、君はこういう話をしても人には言わないだろうと思ったんだ」

 

 

 言い方になにか引っかかりを覚えるが、そのままこちらへ力なく顔を向けてくる彼を見て何も言えなくなった。

 

 

「分からないんだ」

 

 

 まるで、途方に暮れた子供のように普段の彼からは想像もできないほどの弱った姿だった。

 

 

「誰かをこんなに憎んだことは無い」

 

 静かな力ない語り口とは裏腹に、握りしめたひじ置きは軋んでいた。

 

「苦しいなんてものじゃない、初めてだ。こんな気持ちは、臓腑が煮えくり返って頭がどうにかなりそうだ」

 

 そうだろう、大事なものを失えば苦しいなんてものじゃない、苦しいを超えて痛くて痛くて仕方がないだろう。自分の体と心なんて何の自由もなく憤怒に支配されて全部がバラバラになるぐらい痛いはずだ。

 

「自分はヒーローを目指している。だからこそこんな考えは許されない、許されないとはわかってる……! だが……」

 

 私にはわかった。 私には彼が何を考えているかが手に取るように理解できる。

 

 

 

 

「僕は、こう思ってしまう……、奴を……ころ」

 

「ダメ」

 

 

 私は自分の手を彼の口に当てて、その先を遮った。

 

 

 

 

「それだけは言っちゃダメ、嘘でも絶対に言わないで」

 

 

 飯田君は驚いた表情で固まってこちらを見ている。

 

 私はそっと口から手をどけて、飯田君の胸に手で触れる。

 

 

 

 

「痛い?」

 

「ッ!?……」

 

 言われて気づいたみたいにビクリと飯田君は体を震わせる。

 

「普通は痛いよね、もうどうしようもないくらい」

 

「……僕なんてどうでもいいさ、兄さんの受けた苦しみに比べれば」

 

 飯田君は軽く私の手をのけようとするが、私は手をどかさなかった。

 

「普通は痛いの、本当は痛いのに、人のためにこんなに我慢するなんて、馬鹿かヒーローぐらいだよ」

 

 

 私は飯田君の目を見て伝えようとする。

 

 

「飯田君は強いから、今から厳しいことを言うよ」

 

 飯田君は目をそらそうとするが、目線を合わせてくれるまで私は待った。

 

 根負けした彼が伏し目がちにこちらを見る。

 

 

「飯田君はまっすぐすぎ、辛いこと全部抱え込んでたんじゃ、飯田君がダメになっちゃう。周りを見てみようよ、力になってくれた人がきっといたでしょ」

 

「……僕の私事に、巻き込めるわけないだろう……」

 

 今、飯田君にどう言おうともその復讐心はどうにもできない、そんなことでどうにかなるほどのものなら、そもそもここまで苦しんでいない、それをどうにかすることは私では不可能だ。

 

「そうだね、でも君の周りは君が思っている以上に君を思って、巻き込んで欲しいと思ってる人がいることは忘れないで」

 

「……君が、それを言うか」

 

「私は関係ないよ、君を助けるのは私じゃないから」

 

 

 

 そこから飯田君と私はしばらくその場で動けなくなる。

 

 

 

 ふいに、私の手をのけようと触れたままの飯田君の手に力が少しこもったのを感じた。

 

 そのまま強まる力で手を握られる前に私はひょいと飯田君の手から逃れる。

 

 

 

「そろそろ私は降りる準備をするよ」

 

「そうだな」

 

 目的地の駅名が言われたとはいえ、まだ誰も立ってなどいない車両内で残る時間、私たちは何もせずに黙り込んだ。

 

 

「悪かった本条君、君にこんな話をしてしまって」

 

「お互い、がんばりましょ」

 

「あぁ、元気で……いや、待ってくれ」

 

「なに?」

 

「ありがとう、少し楽になったよ」

 

 

 

 最後に短く会話を交わすと私は飯田君と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“周りを見ろ”か……」

 

 飯田天哉は、深く座席に腰掛け、兄を再起不能にされてからの自分と、先ほどまでの奇妙な時間を思い返す。

 

 

 

 

 

 飯田天哉は、どうしようもない感情のジレンマに陥っていた。

 

 

 ヒーローは個性の使用が特例で許可されているが刑罰を行使する権利はない。

 

 それはヒーロー活動が人を救う為のもので私刑を行うためのものではないからだ。

 

 そんなことはヒーローを目指すうえでの常識で、学んだ資料の中でそんな事例や解説は幾つも載っていた。

 

 優秀な成績を収める彼も、当然そんなことは理解している。

 

 

 だが、それがどうした。

 

 自分の憧れの兄がヴィランによって半身不随にされた

 

 それがすべてだ。

 

 

 ただ頭で理解したことなど、吹き飛んでしまうぐらいに、彼の体の全てが憎しみを叫んでいた。

 

 許さない、絶対に捕まえる。

 

 それこそ、もし相手が抵抗するなら、手足を砕いても、いや、いっそ……

 

 

 そこまで考えると彼はかぶりを振って思考を凍らせた。

 

 彼の兄が襲われてから、もう何度したかわからない作業だ。

 

 

 彼は、正しい人間だった。

 

 

 それが幸か不幸か、容易に曲がれないほどの実直さを持っていた彼の理性は、憧れたヒーローである兄にふさわしくと思えばこそ、そのような私刑じみたことが許されないと分かっていたのだ。

 

 規則を守るべき者がそれを守らないなどという矛盾は決して許されない、そんな正論に彼は挟まれ、表面上では取り繕いながらも急速にその心は摩耗していく。

 

 

 そんな時、体験学習の指名のプリント、彼の目の前にある文字列が鮮明に映った。

 

 

 マニュアルヒーロー事務所 住所 ……保須市

 

 

 仇のヒーロー殺しは何件かの被害を出してから拠点を移すことはすでに知っていた。犯人はまだ保須市に潜伏している可能性が高い

 

 

 彼にある考えがよぎる。

 

 

 もし、偶然にヒーロー殺しと体験学習中に会えばどうだ?

 

 正式ではないとはいえ仮にもヒーローとしてその場に立つ、ならば捕まえるようなことになったとしても仕方がないことでは? 

 

 

 自分を留めていた理屈にひびが入った瞬間、彼の心の激情は解放された。

 

 

 

 もはやそれを止めるのは彼自身では不可能だった。

 

 仲間へ対する取り繕いはより強固になり、ヒーロー殺しへの憎しみはより強くなる。

 

 

 そして彼は自分に渦巻く感情を整理できぬまま、保須市に向かった。

 

 

 

 

「復讐でもしたいの?」

 

 

 

 

 そして時間は一気に飛び、クラスの問題児と優等生の二人が隣り合う奇妙な時間に移る。

 

 

 保須市への道すがら、隣になったのはクラス1の問題児だった。

 

 いや、ただの問題児というには正確ではない、何せ彼女の成績や授業態度はわるくない、それどころか優秀で、クラスの誰よりも上にいた。

 

 だがそれを帳消しにするのが彼女の人当りだ。

 

 決して誰とも関わろうとしない、それどころか人を遠ざけているとしか思えないその態度、ストイックというには行き過ぎな普段の授業に対する鬼気迫る姿勢。

 

 いくら友好的な1-Aの面々でも、周りを見下すような発言やUSJのヴィラン襲撃での彼女を見て。お互い傷つけない適切な距離を取るべきと何人かが考え始めた時もあった。

 

 その時は、ある出来事から、クラスメイトたちは偶発的に彼女の過去を知ってしまい、皆、彼女がただ残忍な性格なだけでないと知った。

 

 彼自身は、以前自分が委員長に立候補した時に票を入れてくれたことを感謝しており、むしろその話を聞いて、声をより多くかけようと考えていたぐらいだが、今説明すべき話はそんなことではない。

 

 

 つまり彼女、本条桃子は自分と同じような過去の経験があることを彼は知っていたということだ。

 

 

 一体この気持ちをどうしたらいいのか、そう苦しむ彼が彼女と二人きりになってしまった時、その答えを彼女なら知っているのではないかと考えるのは当然だ。

 

 だが初めは聞くつもりはなかった。

 

 知らないうちに勝手に彼女の事情を知って、不躾にそれを聞くことははばかられたからだ。

 

 だが、彼女と話すうちにその欲求はどんどん高まる。

 

 そして、彼女が自分の目的を知っているのではという予感が強まってからは、それを耐えるのも難しくなる。

 

 

「復讐でもしたいの?」

 

「予想だけど、お兄さんがヒーロー殺しに再起不能にされたことを飯田君は許せないの?」

 

 

 もし、どうしても許せない人がいたらどうするか?

 

 そんな最大限、言いぼかした質問の本意を真正面でうち返され、あまつさえ自分の事情を言い当てられる。

 

 こんなことをされてはクラスメイト達の前でいるような、規則を守る委員長ではいられない。

 

 

「誰かをこんなに憎んだことは無い」

 

「苦しいなんてものじゃない、初めてだ。こんな気持ちは、臓腑が煮えくり返って頭がどうにかなりそうだ」

 

「自分はヒーローを目指している。だからこそこんな考えは許されない、許されないとはわかってる……! だが……」

 

 

 彼は驚くくらい、すらすらと、心のうちにあった黒々としたものを吐き出した。

 

 自分の口から出たとは思えないと彼は驚きながら、考える前に怒りと悲しみを含んだ言葉を吐き出し続ける。

 

 そして最後に、止まれなくなった彼はヒーローが言ってはいけないその言葉を言おうとする。

 

 

「僕は、こう思ってしまう……、奴を……ころ」

 

 

 瞬間、彼女が彼の顔に手を伸ばす。

 

 その表情があまりにも苦しそうで、彼は、彼女の指先が唇に触れる前にその一言を言わずに済んだ。

 

 

「ダメ……、それだけは言っちゃダメ、嘘でも絶対に言わないで」

 

 

 普段の強気な彼女とは思えないほどやさしい声色、動揺した彼を差し置いて、彼女の手は顎から首を伝って胸に手が伸びる。

 

 

「痛い?」

 

 

 そう言われて初めて

 

 あぁそうか、自分は痛いのか

 

 彼はそう自覚した。

 

 

 憐みの感情ではない、彼女も同じぐらいの痛みを感じているのだと彼は気づく

 

 

「飯田君はまっすぐすぎ、辛いこと全部抱え込んでたんじゃ、飯田君がダメになっちゃう。周りを見てみようよ、力になってくれた人がきっといたでしょ」

 

「君の周りは君が思っている以上に君を思って、巻き込んで欲しいと思ってる人がいることは忘れないで」

 

 これから厳しいことを言うなんて言っておいて、かけられた言葉には甘やかな優しさしか含まれていない、普段の彼女とあまりにも違う表情を見て、これは彼女の演技か、それとも本来の彼女なのか、動かない頭で彼はぼんやりと考えた。

 

 いつの間にか、彼女の手を掴む自分の手のひらに力が入る。

 

 そうすると彼女は抜けた感覚すら覚えさせずにするりと手を自分のところに戻した。

 

 

「そろそろ私は降りる準備をするよ」

 

 

 彼女の顔はいつも通りの無表情に戻る。

 

 彼は最後に感謝を伝え、彼女と別れた。

 

 

 

 

 彼女が隣からいなくなり、彼は深く座席に腰掛けひとり呟く

 

 

「“周りを見ろ”か……」

 

 

 自分を心配してくれた人たちの顔を彼は思い出す。

 

 今から自分がやろうとしていることは、そういった人たちに対する裏切りではないかと彼は復讐に囚われかけた心の中で思い返す。

 

 彼女の話を聞いても、まだ彼の心は、ヒーロー殺しに復讐したいという気持ちが消えたわけではない。

 

 だがそれは、個人としてではなく、ヒーローとして彼を捕まえるべきであると、彼女のおかげで少し思えるようになっていた。

 

 

「……本条君はどうなのだろうか」

 

 

 自分のことばかりで、いまさらになって彼女の事情を知りながらあのような質問をしてしまったことを彼は恥じ、そんな一言がつい出てしまう。

 

 

 彼女も自分と同じ復讐に囚われているのか

 

 

 彼は考えを巡らせるために彼女を倣って窓を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に短く会話を交わすと私は飯田君と別れた。

 

 私の行くべき目的地へ徒歩で向かう。

 

 

 なんであんな話をしてしまったのだろう

 

 私と彼の言葉の応酬には何の意味もない。

 

 彼はあぁ言っていたが、私の助言で彼が憎しみを捨てられる可能性は少ないと考えていた。

 

 飯田君が堕ちてしまったのならもうすべてが遅い。

 

 憎しみに目先の言葉なんて関係ない。仇を見た瞬間に我を忘れ、私の言った綺麗ごとなんて吹き飛んで、本能を露わにするに違いない。

 

 そしてたとえ憎んだ相手を友達と協力して捕まえようが、いまさらなのだ。憎しみで歪んだ心は変わらない。

 

 

 飯田君はもう逃げられないんだ。

 

 

 大した親交もない飯田君に、なぜそんなことを言いきれるかといえば簡単だ。

 

 

 

 

 私がそうだからだ。

 

 

 

 

 もしも、もし、そんな行き止まりの感情から人を救い上げるような、全部に手が届くような存在がいるなら

 

 

 それこそおとぎ話のような表現になるが“ヒーロー”しかいないだろう

 

 

 

 

 

 

「ヘーイ! そこのしかめフェイスの君!」

 

「きゃっ!!」

 

 

 私は思わず驚きの声を上げて、目の前の地面を見る。

 

 まるで私の感覚内に急に浮かんだように出現したその人物は、地面に落ちた仮面のように床から生えていた。

 

 

「おっ、ようやく気づいてくれたね! 君が体験学習の子でしょ? 俺は通形ミリオ、これから君が向かうヒーロー事務所の案内役を任された……、君と同じ雄英生さ!」

 

 

『はい、来ましたね、彼は雄英ビッグ101のアイツ、ボルトボーイこと通形ミリオ

 

 スタンド名はハヴォック神、非常に強力なスタンドで、名ありキャラを選択するモードで、彼を操作するTAS動画はもはや眼球に対するテクスチャの暴力です』

 

 

 




ホモ子「私と(ダークサイドに)堕ちろ! ……堕ちたな(確信)」
IID「イッテェ……(堕ちてない)」


ホモ子、お前なんだ男の乳首触って喜んでんじゃねーよお前

IID君はヒーローの鏡だからホモ子と違い復讐心に負けるわけないんだよなぁ……
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