個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア


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作:ばばばばば
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8話 前編


 雄英襲撃の事件の後、私達1-Aは遭遇したヴィラン達とその出来事についての事情聴取を全員が受けた。

 

 私は記憶された映像と音声から、正面から見た顔を絵として正確に出力したり、ヴィランそれぞれの会話内容を時系列で全て書き出すなどしながら全面的に協力した。

 

 普通に考えるなら襲われた学生に対してすぐそのようなことをさせるのは世間の批判を受けそうなものであるが、ここは雄英、生徒であったとしてもヒーローとしての振る舞いを求められるのだろう。

 

 当然、最前線で敵の頭目とされる人物と戦った私は特に念入りに話を聞かれた。

 

 敵の顔、名前、個性、会話の内容からの襲撃の目的……。

 

 そして……私の行動。

 

 あの時、命の危機を感じた私は何もできなくなった。

 

 まさか怖いから動けないなんて自分のことながら笑いたくなる。

 

 

 でももう間違えない。

 

 

 ご丁寧に声はすべてを準備してくれている。

 

 走りやすく作られた道、行く場所を示された分岐、初めから決められた終着点

 

 ここまで揃えてあるというのに私という人間が何かを考える必要なんてない。

 

 

『友情は見返りを求めない♥ 恋愛シミュレーションと化したヒロアカRTA Part8 はぁじまぁるよー!』

 

 私はただ声の指示をなぞるだけの存在になればいい。

 

 

 

 

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

 

 事件から2日しか経っていないというのに、教壇に上がった相澤先生は生徒たちに言い放った。

 

 

『はい来ました雄英体育祭。学校行事は生死のフラグ関係なしに純粋な経験値稼ぎが行えるので積極的に上位を狙っていくとは以前お伝えしたと思います』

 

 

 雄英体育祭は日本において形骸化したオリンピックに代わるビッグイベント、当然多くの注目が集まることとなる。

 

 

『この雄英体育祭は3種目で成り立っており、その3種目それぞれで経験値の配当があり、最終的な総合順位でさらに取得経験値は増えます。

 

 経験値的には、各種目1位かつ優勝を狙っていきたい所ですがこれはかなり安定しません。詳しい理由は後で話しますが、無理に狙えばタイムが犠牲になるのでRTA走者達は様々な方法で対策をとっていきます。

 

 現状で最も早い選択は途中の順位が多少ぶれても総合優勝を狙っていく方法です』

 

 

 つまり、ここで活躍することはヒーローを目指す上で非常に重要だ。

 

 自然にペンを持つ私の手の握りも強くなる。

 

 

『ですが全部1番の方が気持ちがいい上経験値が太いので、王道を征く、各種目1位、総合優勝を目指します(安定志向)

 

 えっ? こんなだらしねぇ♂低速ボディでRTAを名乗るなんて各方面に失礼?

 

 うるせぇっ!! 今更止められねぇよ!オリチャースイッチONだ! (TNTN亭)

 

 オレはRTAが好きなんじゃねえ…… チャート作成と安全完走が好きなんだよオォッ!!!』

 

 

 将来のプロを思い、興奮に包まれるクラスの皆はお互いに頑張ろうと仲良く語り合っている。

 

 

 私は醜いことを自覚しつつも、冷ややかにその様子を眺めるのを止められない。

 

 

 雄英体育祭で1位を取るということは自分以外のすべてが敵になるということ。ましてここはヒーロー科、本番で最も厄介な敵になるのは今すぐそこで座っている彼らだ。

 

 そう思えば、敵の前で友達ごっこをする彼らのような豪胆な真似は凡人の私には到底できない。

 

 声は勝利を望んだ。

 

 ならば自分にとって勝利こそがすべてだ。

 

 友達を踏みつけてでも……いや、そもそも彼らは友ではない。私は誰に憎まれようと、この雄英体育祭で勝たなければいけないのだ。

 

 

『はい、では学校行事である雄英体育祭までにすべきことをお伝えします』

 

 

 声の指令が下る。

 

 どんな命令だろうと私は完璧に遂行してみせる。

 

 

 

 

 

 

『友達を作りましょう』

 

 

 

 

 私は握ったペンを取り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、何時ものベンチで座りながらモソモソと購買で買った弁当を割りばしで食べていた。

 

 

『いやー、ようやくこのゲームの楽しい部分を紹介できますね。

 

 このゲームは本来ならキャラたちの交流とそれに合わせて変化する複雑なストーリー、様々な仲間との組み合わせが生み出す人間模様が名作といわれる所以の一つとなっています。

 

 幸先のいいことにホモ子もこちらの狙い通り、一般科近くの休憩所にいますね』

 

 

 

 突然友達を作れ、そう話す声は続けて私が以前からよく来ていた場所に行けと命令した。

 

 今まで人と関わるなと言われていた中、今になって人と仲良くしろなんて悪い冗談にしか聞こえないが、声の指示なら従うしかない

 

 

『今までのプレイでわかる通り、RTAではその面白さを殺しきっていました……

 

 まるで、ぼくのなつやすみRTAみたいな虚無だぁ……(直喩)

 

 ようやくこのゲームの面白さを伝えられます

 

 それを初めて教えてくれる記念すべきキャラはちょうど画面の端、木の生えたベンチの前でボーっとしてますね

 

 今回は彼との友好度を雄英体育祭までに5に上げるのが目標です』

 

 

 声の言葉に私は思わず顔をあげる。

 

 この場所で木の前に置かれたベンチは一つだけだ。

 

 そこには一人の男の子が気だるげに、ベンチに座っていた。

 

 見たことがある、彼は以前悩んでいた私に心配して声をかけてくれた親切な人だった。

 

 

『心操人使、彼と友達になりましょう』

 

 

 私は決意を込めて拳を握りしめると声の命令に従おうとする………。

 

 命令に従って友達になろうと……

 

 

 

 あれ、

 

 友達ってどうやってなるんだっけ?

 

 

 

 友達になる……? どうやって……?

 

 今になって気づく、

 

 とうの昔に友達の作り方など 忘れていた。

 

 

 いや、そもそも彼と私に接点などない。そんな私が、急に友達になろうと話しかける?

 

 

 私は必死になって考えるが何もいい答えは浮かばない。

 

 一瞬で見た映像を保管して瞬時に取り出す記憶力、物質の動きのシミュレーションまで可能にする処理能力。

 

 これらの力を兼ね備えた脳は私に友達の作り方一つ教えてくれない。

 

 

 どうやって友達になる? そうだ話しかけなければ

 

 どうやって話しかける? そうだ友達なら話しかけられる

 

 どうやって友達になる? そうだ話しかけなければ………………

 

 

 あれから10分間、私はひたすら考え続ける。初めの1秒で既に脳はオーバーヒートし、残り9分と59秒間は、同じ考えがグルグルと脳内を回っているだけだ。

 

『はい、ヒーロー科への入試に不合格となり鬱屈捻くれボーイと化した心操人使です。心操とのイベントを安定して発生させるには幼馴染かヒーロー科に編入後に起こすかになるのですが、一応その前でも、イベントを起こすことは可能です』

 

 

 私は藁にもすがる思いで声に耳を傾ける。

 

 彼はどうやらヒーロー科を目指して落ちて一般科に来た生徒。しかも声によれば、彼は将来的にはヒーロー科に編入する予定らしい。

 

 ヒーロー科で落ちて一般科に入った生徒は多いと噂話の盗み聞きでよく聞いたが、そこからヒーロー科に編入する生徒がいたとは聞いたことがない。だとしたら彼は相当に優秀な生徒なのかもしれない。

 

 だがそれを知っていたところで「あなたはヒーロー科を目指して落ちて一般科に来た生徒なんだね、でも大丈夫、君は優秀だからヒーロー科に入れるよ」、と訳知り顔で話しかけてくる奴と友達になろうとは思うまい。

 

 

『編入前のイベント発生条件は、一般科近くの場所で他のキャラとのイベントを起こさずに一人でいる。この行動を最低でも5回目以上行うことで、その後、たまに発生します。

 

 なので面白いことに教室外の場所に飛ばされることの多いトラウマルートの方が彼とのフラグは立てやすいんですよね

 

 つまり今回はトラウマルート特有のボッチ飯ですでに仕込みは終わっていたわけですね』

 

 

 だめだこっちの情報はあまり役に立たない

 

 

 焦った私はちらりと彼の方を見る。

 

 

 ちょうど彼もこちらを見ていた。

 

 

 なぜこっちを見ているのだろうか

 

 固まる私と、胡乱げにこちらを見る彼

 

 しばらく見つめ合った私たちの沈黙を破ったのは彼の方からだった。

 

 

「……おい、割りばしいるか」

 

「はい?」

 

 彼は自分が持っている割りばしで私の利き手を指していた。

 

 私はそこで自分の握りしめたこぶしを開くと、そこには無残にも細やかな木片になった割りばしがあった。

 

 

「……」

 

「はぁ、あんた本当に大丈夫か? 前もひでぇ顔してただろ?」

 

「あ、あの時はありがとう……」 

 

 やっと会話ができた。私はホッとして一息つこうとする。

 

「まぁ、それならいいよじゃあな」

 

 

 彼は割りばしをこちらに放ってそのまま自分のベンチに戻ろうとする。

 

 ……私は何を落ち着いているんだ。

 

 このチャンスを逃してはいけない

 

 

「あのっ!!」 

 

 

 声は緊張でどう見ても声量はトンチンカンで裏返っていた。

 

「はい?」

 

 まずい、私は馬鹿か、何を話すか考えていない

 

「お礼をさせて欲しいの、以前も心配してもらったし、今回も助けてもらったから……」

 

 口から出た言葉の意味を自分でもよくわからないまま捲し立てる。

 

「……いや、いいよ別に、たかが割りばしで」

 

 私の勢いに困惑した心操君の反応、当然私だって同じ反応を返すだろう、だがそれでも止まるわけにはいかない。

 

 

「お願い、心操君、それじゃあ私の気が済まないの」

 

「……なぜ俺の名前を?」

 

「あっ……」

 

 

 しまった!

 

 私と彼はこの場所以外で面識はない、そんな状況で私が彼の名前を知っているのはどう考えても不自然だ。

 

 彼の目が私を警戒したような視線になる。

 

 自分の失言に気付いた私は必死に言い訳を考えていると、心操君はポツリと呟いた。

 

 

「……俺の噂でもきいたのか」

 

 噂……? いやなんでもいいから不審に思われないようにふるまわなければいけない。

 

「……そう噂、私、個性で耳がよくてね、それで心操君のこと知ってたの!」

 

 

 間髪入れず言い訳に飛びついた私に、心操君は面食らった顔をしている。

 

 今思えば、彼の言い方だと噂とやらは良い内容ではないのかもしれない。

 

 ならば、今の選択は間違いだったのだろうか

 

 

「ごめんなさい、話し続けて」

 

「いや……、なんでもねぇけど」

 

 

 会話が途切れて私達の間に沈黙が流れる。

 

 その間を恐れた私は口を開いた。

 

 

「お、お礼なんだけど今度お弁当奢らせてもらってもいいかな」

 

「いや、だから別にそこまでしなくていいって」

 

 あまりに脈絡のない私の提案に心操君は明らかに不信そうな顔をしている。

 

 その気持ちは痛いほどわかるが、私にはこれ以上の策を練る余裕はない

 

 

「じゃあ、あの、ま、また明日、ここで待って……ます!」

 

 

 なにか彼が口を開いて断られる前に、強引に押し切ると私はその場から逃げ出した。

 

 

『まずは一回目のイベントが終了しました。

 

 本作はマップ上のキャラと一緒の場所に留まると好感度が無条件で上がり、一定数貯めればイベントが起きて友好度が上がるといった古き良きエンカウントスタイルです。

 

 なので今後も執拗に心操の尻を追いかけましょう』

 

 

 

 

 

 

 とにかく学校から遠い場所に逃げ込んだあと私は頭を抱えた。

 

 ボロボロだ。

 

 私はこんなに人と話すのが下手だったのだろうか?

 

 出会えば好感度が上がる? 声を疑わないと決めていたが、それがこんなにも簡単に揺らぐ。

 

 先ほどまでの会話を客観的に見て反省して悶絶することでその日の午後は占められた。

 

 せめてもし次に会うことがあればと、私は図書館と書店から他者との会話に関する書物を手当たり次第に暗記し、家で作戦を練って次の日に臨んだ。

 

 

 

『んほぉ~この幸運たまんねえ~、また心操とエンカウントです』

 

 

 次の日、一応は約束通りにベンチの場所で彼を待っている。

 

 既に匂いと足音と歩幅は覚えたので位置は把握しているが、まだ彼はクラスの教室内にとどまっていた。

 

 来ない公算の方が明らかに大きい。私だって、あんな不審な誘いに乗らないだろう。

 

 だが彼は声の言う通り、しばらくすると教室を出て私の方に歩いてきた。

 

「……まさか本当に来るなんて」

 

「誘っておいて、なんてセリフだよ」

 

「あっ、……ご、ごめん、来てくれてありがとう心操君」

 

 

 驚くべきことに彼は来てくれた。

 

 昨日よりは心の準備ができていたので、取り乱すようなことは表面上はなかったと思うが、来るとは思わなかった私はかなり動揺してしまう。

 

 

「まぁ別にくれるっていうんなら、もらって損はねぇし」

 

 そう言いながら、突然こちらの横に腰掛ける彼に私は事前に考えておいたいくつものシミュレーションの3割が吹き飛ぶが、残りの計算通りに受け答えを行う。

 

「なにか食べたい物とかあった?」

 

 彼はしばらく考え、ポツリと言葉をこぼす。

 

「ビッグステーキ弁当」

 

「わかったよ、すぐ買ってくるね」

 

 私はすぐに立ち上がって、彼が見えるところでは普通に、見えなくなった瞬間全力で購買に向かって買いに行くと、すぐさま出来立てを心操君のもとに届けた。

 

「……じゃあもらっとく」

 

 こうしてお互い横に座ってご飯を食べ進めていく。

 

 ご飯の途中は無言でも許される。

 

 しばらく食べ進めながら気持ちを落ち着け、一息ついた時に私は、練りに練った話題の一つを慎重に投下した。

 

 

 

「今日はいい天気ですね」

 

 

 

 日常会話の王道である天気の話題、老若男女に通じる無難な会話だ。

 

 将棋における角道を開ける7六歩しかり、オセロのウサギ定石、チェスのオープニング、盤石に進める一手、可能性を残し、自分の不利にさせない、まさに王道の選択だ。

 

 

「いや、曇ってるだろ」

 

 

 えっ、あれ……本当だ。曇ってる。

 

 

 今日の天気予報は晴れだったはずだというのに

 

 だっ、だめだ。これでは私の戦略が崩壊してしまう、何とかして元の流れに戻さないと

 

 

「晴れとは空の雲量が8割以下で、かつ降水現象がない状態だよ、だから今日は晴れだよ」

 

「つっても8割がた雲に覆われてんじゃねーか」

 

「でも定義上は晴れであることは間違いないよね?」

 

「定義とかはよくしらねーけど……、まぁそうなのかもな」

 

「今日はいい天気ですね」

 

「あっ? ……あ、あぁ、いい天気だな」

 

 

 よし定石は守られた。

 

 

「ここ数日は良い陽気で過ごしやすいよ」

 

「まぁそうだな」

 

「私は色々な命が芽吹く春が好きだけど、心操君は好きな季節はある?」

 

 

 私は会話を広げにかかる。好きな季節からその季節特有の話題を広げる。

 

 一分の隙も無い作戦である。

 

 

「……いや、特にどれがいいってのはないな、どれも同じくらいだ」

 

 

 一つや二つではなく全部だと……?

 

 

 そんな回答予想できるわけが……

 

 

 と言うとでも思ったかな

 

 

 もちろん春夏秋冬どれを何個選んでも隙は無い、16通り全て想定ずみだ。

 

 

「ふふ、心操君は四季が全部が好きなんだね……」

 

「まぁそうなるか」

 

「よく四季が有るのは日本だけではないと言われているけど、ケッペンの気候区分におけるcfa(温暖湿潤気候)で山と海の距離が近いのは特筆されるべき点だよね、日本はより気候の差が出やすく、自然と共に醸成された季節ごとの独自の文化があるの面白いのはたしかだし」

 

「うん?」

 

「特に日本の四季における特徴でおもしろいのは……」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「なに?」

 

「……四季の話題はいったん止めないか?」

 

 

 なんだって、昼休みいっぱいはこの話題で粘れるのに

 

 しかしそう言われたら仕方ない、自分の好きな春の話題でもして時間を稼ぐしかない

 

 

「私の好きな春は、低気圧と高気圧が交互に日本付近を通過するから、低気圧に伴って気温は大きく変動するの、だから天気は数日の周期で変わって……」

 

「おい、いったん止めろ……」

 

「なに?」

 

「なにじゃない。ここまで季節と天気の話題を引っ張るヤツははじめてだ。その話題以外にしてくれ」

 

 

 難しい注文をする。

 

 

「……実は春キャベツは春にとれるわけじゃなくてね、正確には春系キャベツという名称で、葉がやわらかいから生食に向いて加熱調理には向いてないの、中心部にはビタミンC、外側にはカロテンが多く含まれていて、どちらも食べられる輪切りにした方が栄養バランスがよく食べられるんだよ」

 

「わかった。あんたさては会話が苦手だな」

 

「ちっ、ちがうよ、得意だよ」

 

「春キャベツ、どう考えても春の話題から流用しただろ」

 

「……さぁ」

 

「ふーん、じゃあ他にどんな話題があるってんだよ」

 

 

 だめだ。実は私が会話が苦手で、昨日徹夜で初対面の人と会話するための関連書籍12冊を読んで対策を練っていたとばれてしまう。

 

 この秘密だけは守らないと……

 

 しかし考えれば考えるほどドツボにはまり、とっさに答えが出てこない。

 

 

「……野球とか話せるよ」

 

「あんた絶対にわかだろ」

 

「4月におけるセ・リーグ、パリーグの日程と結果はもちろん、各選手の成績も言えるし、新人王の予想にも毎年参加して当ててるよ」

 

「いや、それは逆に俺が分かんねぇ……」

 

「あっ! ……今のなし、忘れて」

 

「は?」

 

「野球と政治と宗教の話題はタブーって本に……」

 

「本?」

 

「あっ……」

 

 

 あぁ!!? もうだめだ!!

 

 何一つうまくいかない

 

 最悪の場合もしかして友達どころか絶対に変な奴だと思われてしまっているかもしれない。

 

 

「クク、意味わかんねぇ、あんた変な奴だな」

 

 

 なんてことだ……、もう思われていた。

 

 

「弁当おごったり、よくわからない話をしたり、なんで俺にわざわざ関わるんだか訳わかんねぇ」

 

「そ、それは……」

 

 進退窮まった私は、言いつくろうことも難しく、命令を素直に話してしまう。

 

 

「……その、心操君と友達になるため」

 

「は?」

 

 心操君の眠そうな半開きの眼が初めて開かれた。

 

「俺とか?」

 

「うん」

 

「なんでだ?」

 

「なんでって言われたら……」

 

 

 声の命令でと言われたのがきっかけであるが、彼と友達になれと言われて、今までの自分の努力が打ち砕かれる苦しさを味わいはしたが、彼自身への拒否感は全くなかった。

 

 

「だって心操君いい人じゃない」

 

 

 私を心配してくれたし、割りばしをくれた。

 

 ヒーロー科に編入すると聞いてむしろ納得してしまったくらいだ。

 

 彼のような人こそヒーローに向いている。

 

 

「良い奴だから友達になろうってか? ガキみたいな理論だな」

 

「うん」

 

「はぁ……」

 

 心操君が呆れたようにため息をつく。

 

 

「……俺の個性がなんだか知ってんだろ“洗脳”だ。俺の言葉に応えた者は、みんな俺の言いなりなんだぜ?」

 

 

 なぜか、急に威圧するような態度で今度はにやりと不気味にこちらを見つめてきた。

 

「どうだ? 怖いか?」

 

 しかし、洗脳。

 

 強力な個性だ。私の声もある意味洗脳と言えなくもないため、その強さは身に染みて理解できた。

 

 

「強そうな個性、ヒーロー向きだね」

 

 

 個性の話題は天気に並ぶ鉄板の話題と本に書いてあったはずだ。

 

 そして目の前の彼はヒーロー科にいずれ編入することが決まっている。その個性は確かにヒーローを目指すうえで非常に強力な個性だ。

 

 私は思ったそのまま彼の個性を褒めた。

 

 

『順調に心操イベントの個性に関する話題が発生してますね

 

 彼の個性は「洗脳」

 

 彼は自分の個性に強いコンプレックスを抱いているので、友好度を上げていきながらその悩みを解きほぐしていくのが彼のストーリーの主軸となります』

 

 

 …………はい?

 

 

 私は無表情で固まった心操君を見た。

 

 

 そして声の言葉をもう一度咀嚼する。

 

 

 つまりこういうことだろうか?

 

 私の触れた個性の話題は、彼が触れられたくないデリケートな部分で私はその中に無遠慮に突っ込んだと

 

 彼の無表情と対照的に私の顔がどんどん青くなる。

 

 もうだめだ。仲良くなるどころか関係の修復すら困難になってしまう、せめてもの悪あがきに私は彼に精いっぱいの謝罪をする。

 

 

「ごめんなさい。個性はデリケートな話だったね、心操君。怒らせるつもりはなかったの。だから気を悪くしないで……謝罪の用意はあるわ。今日だけとは言わない。体育祭までのお昼は私がだして……」

 

 

「なぁ、そういえばアンタの名前ってなんて言うんだ?」

 

 私の謝罪を打ち切って彼はこちらを見てそう話した。

 

 そこで今更、自己紹介は人間関係の初歩の初歩であると私は気が付いた。

 

「ほ、本条です」

 

 

 私の謝罪と自己紹介を本当に聞いているのか、適当な相槌を彼は打って昼休みは終わった。

 

 

 ……これは失敗したかもしれない。

 

 

『心操の友好度が早速2になりました

 

 友好度的には1~2が知り合い、3~4が普通の友人、5~6が親しい友人、7~8が恋人またはおホモだち、9~10はポジ種ヤバ交尾であろうと躊躇なくナメクジばりにまぐわいだす仲です(右枠ナメクジ表示)

 

 好感度は恋人まで行ってしまうとトラウマがはがれて特大ロスなので絶対に防ぎましょう

 

 個人の好感度を積極的に上げるのは心操だけですね』

 

 

 声が言うには好感度が上がっているらしいが、私が声の命令をこなせたとはどうにも思えない。

 

 

 次の日も私はいつもの場所へ行く、わずかな可能性もないと思いつつも諦められなかった。

 

 深く落ち込みながらベンチに座る。

 

 

「よぉ本条」

 

 

 だが彼は来た。

 

 混乱に陥った私は、失礼にもなぜここに来たか直接心操君に聞いた。

 

 

「……まぁ友達は急だが、知り合いくらいから始めるのがちょうどいいだろ」

 

 

 その意味をたっぷり時間をかけて考え、理解した時に私は驚きの声を一つ上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話で砂藤、今話で心操、その変わり身の早さ、恥ずかしくないのかよ?

女主人公のくせに男をとっかえひっかえとか、こいつすげぇ変態(ビッチ)だぜ。

 
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