個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア


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作:ばばばばば
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シュガーマン1


 彼には幼馴染がいた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、私も仲間に入れてよ」

 

 

 

 その少女は野球をしている少年たちの姿を遠目で眺めて、しばらくすると話しかけてきた。

 

 

 

「はぁ! 誰が女なんか入れてやるかよ」

 

 

 男の子の一人がそう声を上げる。

 

 

 当時小学生だった彼らは、女と遊ぶことは恥ずかしいという共通の認識があった。

 

 なぜそれが恥ずかしいか考えられないのが小学生男児の限界だが、それはどうしようもない。

 

 別に遊んでもいいぐらいに思っていた砂藤少年でさえ、ひらひらとした汚れのない白いワンピースを着て野球をしたいと言ってきた少女を見て少し呆れ、やはり女は分かってないなと思っていたぐらいだ。

 

 

「だめ?」

 

「女なんて入れた方が負けちまう!」

 

「でも私、足速いよ」

 

「野球はそれだけじゃねーの! 大体なんだよその服、まともに動けんのか?」

 

 

 それでも一緒に遊ぶと食い下がる女子に少年の一人が少女の肩をかなりの強さで押そうとする。

 

 

「いいから帰れってば!」

 

「まぜてってば!」

 

 

 しかし、押し出す腕とまるで鏡合わせのように動かした少女に少年は思わずのけぞって倒れこみそうになる。

 

 砂藤少年は友人が倒れる前に軽く支えると、急に現れた変わり者をまじまじと観察する。

 

 男に押されたというのに微動だにしない相手を見て、足腰が強い奴は野球で強い。もしかしたら、案外やるかもしれない。

 

 

 ただ純粋にそう考えて、砂藤少年は声をかけた。

 

 

「じゃあ入団テストやろうぜ!」

 

 

 これはつい最近、読み切りギガンテスの入団テストがテレビで特集されてたのを彼が思い出して適当に出た言葉だが、当時全員が同じ番組を見ていたので彼の友人たちからの反応は良かった。

 

「聞いたか? 俺たちの仲間に入れてほしけりゃテストに合格してみるんだな!!」

 

「そーだ!そーだ!」

 

「で、どうやって試すんだリキ!」

 

 

「一次テストは50メートル走と遠投で二次テストは投手はピッチング、野手は守備。つまり足が速くて球を遠く投げれて動けなきゃだめだ」

 

 

 競争、遊び、対決、小学生男児がこんな面白いことに食いつかないはずはなく、少女の気持ちは置き去りにどんどん話は先に進んでいく。

 

 

「よし、これを投げてあたったやつは死ぬ。キャッチされたらノーカン、これで戦う」

 

 別に本当に死ぬわけではないが、小学生男児はそういう言葉が好きなのだ。

 

「さすがリキ、頭いいぜ」

 

 どちらかといえば頭の悪い発想であろう。

 

「早く逃げるぞ」

 

 

 砂藤少年は大きめのスポンジボールを少女に渡すと、周りの奴らと一緒に一斉に駆け出す。

 

 

「よくわかんないけど、これをぶつければいいんだよね」

 

 

 走り出した少女は自分で言うだけあって、かなり速かった。

 

 その速度であっという間に距離を詰められ、女と思って甘く見ていた彼らは皆焦る。

 

 

「うぇっ!? 外しちゃった」

 

 

 しかしそこからの投げが下手だった。

 

 

 典型的な女投げ、まっすぐ飛ばずに地面に向かってたたきつけるように投げられたそれはあたるはずもなく、地面に転がっていく。

 

 

「早くとって来いよ」

 

「一回地面についたらあたっても無効ー」

 

 

 少年たちは笑いながらそれを避けていく。

 

 どうせすぐ音をあげて、あきらめるだろう。そんな風に考えていた少年たちだったが、少女の体力は本当に大したもので、いまだに衰えていない。

 

 

 いや、それ所か時間とともに、少年たちの方の余裕がだんだんとなくなっていく。

 

 

「ふん! コツをつかんできたもんね!!」

 

 

 明らかに球筋がよくなっていた。

 

 手だけで投げてた女投げから腰のひねりと肩の力を加えて、より精確で速くなるその姿に少年たちは恐ろしさすら感じ始める。

 

 

 始めてから30分も立たないうちに、次第に当てられてくる者が出始めていった。

 

 

「くっ、早ぇな」

 

「へへーん、息が上がってるよ」

 

 

 鋭い球を投げられるようになってからはどんどん仲間はボールに当てられてしまい、残されたのは砂藤少年だけになる。

 

 彼は逃げることを諦め、迎えうつように体を少女の真正面へと据える

 

 

「当たれ!」

 

「ふんッ」

 

 

 投げられた球を彼は取り返すと逆に投げ返す。

 

 

「うぉっとっと、お返しだよ!!」

 

「ぬッ……」

 

「すげー。リキがとったぞ」

 

 

 既に少女の球は、少年たちの誰よりもいい球を投げてくる。そして恐ろしいことにそこからでさえ、球威が上がっていることに砂藤少年は気づいた。

 

 これは少女の個性かもしれない。

 

 彼はそう分析し、必死に食らいついていくが目の前の相手にはまだ余裕が見えることに気付く。

 

 

「すげぇ! すげぇ!」

 

「負けるなよリキ! やっちまえ!!」

 

 

 周りの声に押され、彼は奥の手を使う、個性による投球だ。

 

 

「これで、終わりだ!!」

 

「キャッ!」

 

 

 流石にその速度に追いつくことはできなかったようで、取り損ねたボールはころころと転がっていく。

 

 

「やった!リキの勝ちだ」

 

「いぇーい!」

 

「俺たちの勝ちー」

 

「えぇ~そういうルールだっけ」

 

 

 理不尽の極みである。

 

 だが恨まないでほしい。その場のテンションですべてが決まるのが小学生のルールなのだ。

 

 

「まだ私まだ動けるし、まだやれるよ」

 

「どうするリキ?敗者復活戦か?」

 

「やーい負け~、まけまけまけ~」

 

「う~、まだ負けてないもん!」

 

 

 意外に負けず嫌いなのか、その目の闘志はまだ衰えていない。砂藤少年もここでもう少し少女と遊びたかった。

 

 

「よし、じゃあ三次テストだ」

 

「三次テストって何やんだよリキ?」

 

「たしか実戦形式の試合だったぜ」

 

「よし、じゃぁ次は試合だな!」

 

「さっさとグラウンドに行こうぜ」

 

「おい、なにぼさっとしてんだ、行くぞ?」

 

 

 ポカンとした表情をして、動かない少女の手を引いて少年たちはグラウンドへと走り出した。

 

 

「フフ……」

 

「なに笑ってんだよ?」

 

「なんでもなーい」

 

 

 グラウンドについてすぐに彼らは野球をした。

 

 もちろん2つに分かれて試合ができるほどの人数がいない彼らは、攻撃も守備もぐちゃぐちゃの入れ替わりで行っているため、敵も味方もありはしない。

 

 

「うぉ、女のバッティングじゃねーぞ!でかい! でかい! 下がれ下がれ!」

 

 

「ナイスキャッチ!! 女のくせにやるじゃねーか」

 

 

 これでは野球どころかテストにすらならないが、そもそも彼らはその時すでにテストのことなんて忘れてただ遊んでいるだけだった。

 

 

 夕日でグラウンドが赤く染まる頃には少女の白い服は泥まみれであったが、そんなことは誰も気にしない。

 

 

「おい! お前!! また明日も来れるか?」

 

「……私、本条 桃子っていうちゃんとした名前があるんだけど」

 

「ほんじょうももこ?」

 

「桃? こいつが桃とかいうガラかよ」

 

「確かに、じゃあ縮めてホモ子で」

 

「それでいいじゃん」

 

「明日も練習あるから来いよな、ホモ子」

 

 

 これが砂藤少年とホモ子の出会いだ。これは彼自身思い返しても頭を痛めていた。

 

 

 小学生が考えるあだ名のネーミングセンスは残酷で常軌を逸してるといえども、このあだ名だけはなかったと、後になって彼は深く後悔する。

 

 

「えー……、全然かわいくない」

 

「それでいいだろ、じゃあなホモ子」

 

「あばよホモ子」

 

「そろそろ帰るか! さらばだホモ子!」

 

「じゃあね~ホモ子!」 

 

 

 

 こうして彼らは友達になった。

 

 

 それからは彼らにとって楽しいことがたくさんあった。

 

 山に入っての秘密基地、泥だらけになった川遊び、隣町の奴らとの対決。

 

 女であるならまずいかないような場所にも彼女は付いていき、傷だらけの汚れだらけになって遊んでは笑い合う。

 

 そうすれば男勝りの快活な笑顔を浮かべる少女を仲間外れにする者はいなくなった。

 

 

 

 そんな風に過ごせば彼らはあっという間に5年生、もうすぐ中学に上がる年になっていた。

 

 

 

 何時ものように喧嘩を通じて仲良くなった隣町のチームと野球の試合に行くとき、ホモ子がまぶしいものを見るように、目を細めながら砂藤少年を見る

 

 

「リキくんって将来大物になるかも……、きっとヒーローとか」

 

「急になんだよ、けどそうだな! 俺の夢はヒーローだ!!」

 

 

 確かに彼の夢はヒーローだ。

 

 だがそれは、大抵の子供が夢見る職業である。

 

 ヒーローになれるなんて、子供に対してよく使われる称賛。悪く言えば、中身のない褒め言葉であった。

 

 

「リキくんは絶対なれるよ、うーんすごいなぁ……、きっとみんなを守れるオールマイトみたいなヒーローになるんだろうなぁ、今のうちにサインもらおうかな……」

 

 だがホモ子の言い方は、まるで砂藤少年が間違いなくヒーローになることを確信しているようであった。

 

 そんな彼女の態度を見て、砂藤少年はもしかして、本当にヒーローになれるのではないかと大いに自信をつける。

 

 

「当たり前よ! 困った人みんなをかっこよく守れるすげぇヒーローに俺はなるぜ!」

 

「リキくんが望めばそんなヒーローになれるよ」

 

 

「俺がヒーローになった時には助けを呼べよ! 飛んで駆けつけてやる」

 

 

「うん! ありがとう!」

 

「……おうっ、そろそろ行くか」

 

 

 その屈託のない笑顔と称賛にさすがの少年も少し照れてしまう。

 

 彼は少し赤くなった顔を見られまいと鼻をかいた。

 

 

 

 彼はこの時、ふと目の前の少女と周りのことを考える。

 

 

 思えば、ホモ子の周りの男たちが最近妙だ。

 

 

 生花店のハッちゃんは、男勝りなのも逆に気心が知れて良いし、笑った顔に最近ドキドキすると本人に言えばいいものを何故か自分に相談してくる。

 

 ごっツンもみんなで遊んだほうが楽しいのに、最近やけにホモ子と二人だけで遊びに行こうとするし、女なんてと最後までツンケンしていたジローは川遊びの時、ホモ子をちらちら見てからかわれていた。挙句の果てに隣町のガキ大将のダイキなんて、ホモ子をチームから引き抜こうとしている節がある。

 

 

 確かにホモ子は他の女と違って折角とったカブトムシを気持ち悪いとか言わないし、作った秘密基地を汚いだの危ないだの陰でこそこそ言ったりもしないので、他の女子と比べたら断然ホモ子と遊んだほうが楽しい。

 

 

 ホモ子は確かに一緒にいて楽しい。だが、みんなでいればもっと楽しい。

 

 

 そう考える砂藤少年は一つ横の少女にばれぬよう小さなため息を一つつく。

 

 

 

 ここ最近、急に友人たちが浮ついていくことに彼は距離を感じてしまっていた。

 

 

 変わっていく周りを彼は少し寂しく思いながら歩く。

 

 

 人は成長していく。

 

 それは避けられないことで、人が変化していく生き物だからだ。

 

 

「お~い、リキ、ホモ子、何やってんださっさと行かないと試合に遅れちまうぜ!」

 

「遅れていちゃもん付けられたらかなわないぜ」

 

「早く自転車取って来いって」

 

 

「あぁ、今行くぜ!」

「うん、今行くよ!」

 

 

 

 だがそれでもその時まではもう少しこいつらと変わらない関係で一緒にいたい。 

 

 少年はただそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼には幼馴染がいた。

 

 今はもう分からない。

 

 

 




約束は守れましたか?(小声)
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