あの意識が切り替わる感覚が来る。
自分の自由がそれほど残されていないことを感じ取ると私は芦戸さんと青山君にせめてもの警告をする。
「私はあなた達を信用していない……、だから私に気を絶対に許さないで」
突然の宣言に呆気にとられる二人、彼らは何かを言いだそうとするがその前に私の体がきりかわった。
「……ついてこい」
話の前後を無視し、いきなり言い捨てると同時に動き出す私、それを青山君と芦戸さんは戸惑いながらもついてきてくれる。
『ハイ、よーいスタート(棒読み)まずは「ついてこい」でとにかく勝手な行動をとらないように牽制しましょう、もう始まってる!(仲間という名の敵との闘い)』
「本条さん? ちょっと速くない?」
「……ついてこい」
「スパルタだね☆」
『おっと、離れすぎると命令が出せないので、仲間から目線を切らないようにしましょう。おそいおそいおそい、あ^~もうおしっこ出ちゃいそう!(苛立ち)』
ついてこれるギリギリの速度で動きながら必ず2人を視界に収めた。
そしていつかやったように私の脳が勝手に動きだし、閉鎖されたビルの内部構造を勝手に作りあげる。
壁に囲まれた建物ではその内部構造までは詳しくわからない。
だが3階に2つ並んで呼吸音がする。音の位置が高いほうが八百万さんだろうか?
でももう一方の方が呼吸数が多い……、いや荒い?
以前ほど脳に痛みが走らない、それどころか精度も上がっている気がするのは気のせいだろうか。
「ぐへへへ」
「ちょっとレーダーの画面が一つしかないからって引っ付きすぎです!!」
……これでどちらが峰田君で、どちらが八百万さんか分かった。
『峰田と八百万に当たることが確定した時、先んじて投擲、回避、索敵のスキルを取得しておきました。
ここは余剰分の経験値を使って当たった敵に合わせて割り振りましょう。
敵に合わせて最適なスキル構成を組むのキモティカ・キモティ=ダロ
私的にはゲームの楽しさの神髄は試行錯誤ですね。
貴重な戦闘フェイズでは新しいスキルもガンガン使って熟練度を貯めてイクゾー』
ビルに侵入する直前、不意に私は道端の小石を掴むとそれをビルに向かって無造作に投げつける。
昔、友達の部屋の窓にコツンと小石を投げて呼んでいた男の子を見た時があるがこれは違う。
私の知っている野球投げではない、腕を鞭のようにしならせた独特の投げ方は遠心力を受けてビルの窓に次々と飛んでいく
あまりに軽い小石達は、全て同じ硬質な音を立てるとそのまま地面に落ちた。
全く別々の距離にあるというのに同じ衝撃で石が窓や壁に当たる。
その反響音を耳が聞き取り、脳が勝手に処理を始めてビルの構造の空白を埋めだした。
どう考えても人間業じゃない。
ようやく慣れたことの一段階上の機能で酷使され、脳はまたもや悲鳴を上げた。
「何してるんだい?」
「……かたまってこうどうしよう」
「お~、よくわかんないけど仕事人な雰囲気だね本条さん」
「……ついてこい」
当然、その奇怪な行動を二人は不思議そうな目をしながら見てくるが私は一切の意味ある返答をせずに、ビルの内部に侵入する。
『核を見つけました。5階の西側の大部屋です。八百万の個性で壁の中に隠してありますね
ずいぶんと遠いですが、状況的にはデレてます。
峰田、八百万の核の配置はたいていが奥、場合によっては罠がつまった核の張りぼてを八百万が作るとかいう遅延行為を行ってくるので要注意です。
ここで仲間に敵の位置を共有することもできますがまだしません
それでは罠を注意しながら進みましょう』
注意しながらと言いつつも私の体は一切の減速をしない。
『んにゃぴ……、罠の場所がよくわかんなかったです(んにゃっぴ警察への煽り)
卑劣な罠はどこ…・・・、ここ?
まぁ目視だと流石にきついので大人しく索敵のできる個性かスキルに頼りましょう』
声の宣言と同時に私の体に異変が訪れた。
耳が拾う音が脳に直接突き刺さる。
私の足音に反響した音から今までなら聞き逃すような小さな空間が隠されていると知った。
ヘルメットに隠れた目とその奥がひどく熱く、今にも溶けてしまいそうになる。
暗闇に紛れた光止めが施された極細の糸が景色から浮き出した。
周りの空気が全く別々の動きをして、気持ち悪いぐらいに体をまさぐっている。
空気の流れから異常な熱源が隠れている場所を肌で感じ取った。
今まで嗅いだことのない匂いに顔面を真正面から殴られたような衝撃を受ける。
漂っていた匂いを分類し、金属と人の皮脂の匂いからどこに彼らが触れていたのかが分かる。
感覚による情報の暴力は私の意識を洗い流すような勢いで頭を駆け巡る。
『ヤオヨロッパイの罠は本当に姑息です。そのバリエーションはかなり豊富なので対応を考えるのが手間です。
なので基本は罠を見つけて安全な所からガンガン物をぶつけて壊すなり、作動させるなりするか、罠の速度を振り切る超速移動で回避していきましょう』
目の前の空間に多量の罠が隠されていることに、私は気づいたというよりも脳に無理やり理解させられている。
「とまれ」
「……罠かい?」
「えっ! どこどこ!!」
「わながある」
一つ目の罠を指さしたと思うと、芦戸さんの反応を待たずに別の場所を指さしはじめる。
「わながある」
「ちょっ!? 早いって」
「ふぅ、おてんばさんだね」
しかし、二人の動きは淀みなかった。
早いとぼやきながらも芦戸さんは確実に罠を溶かして無効化しているし、青山君は的確にフォローに回っている。
しかし二人は気付いていないだろう。
周到に隠されているが私の目は可視光の外側にあるセンサーのきらめきを見つけていた。
私の感覚はまだ隠されている罠の存在を鋭敏に感じているというのに、声の動きはまるでそれを見えていないかのように振る舞っている。
私が見えるのに声が気づいていないはずがない。
『はい、ここで小技です「核や敵情報の発見と共有」「仲間の危機を助ける」「連携技での敵の撃破」を満たしていきましょう。
敵の仕掛けた罠類は当たり判定があり、しかも敵の判定です。
これを生かして仲間に位置の共有を行い破壊させることで「核や敵情報の発見と共有」「連携技での敵の撃破」が満たせますね。
とはいっても核と敵本体を発見したほうが高得点の傾向にありますし、ある一定の数以上罠を壊してもスコアは上がらないことが報告されているので芦戸と青山にそれぞれ7個以上罠を壊させたら切りあげましょう』
声は何を考えているのか私の体を無防備に罠の当たりやすい場所まで歩かせる。
『次に「仲間の危機を助ける」必要があるわけですが……』
声は歩きながら、明らかに意図的に二人へ射線が通るような位置取りに誘導していく。
ここで私は声の意図に気付くと血の気が引く。
『そのためにはまず危機に陥ってもらう必要があります』
芦戸さんと青山くんへ矢が飛び出す。
芦戸さんへ向けられた矢は、それに気付いた青山君が身を挺して破壊した。
しかしその英雄的行動は彼自身の破滅を呼んだ。
私の目はゆっくりと放たれる矢、それに気づいているのか汗を浮かべる青山君をとらえる。
不可避の矢が青山君に伸びる姿を見て、私は自分の体の自由も利かないことも忘れて矢に向かって無我夢中で手を伸ばす。
『取れないボールがあるものか~♪
両方残るのが理想でしたが片方は壊されちゃいましたね』
高速で動く矢を掴むと腕が軋むのを感じ取るが、それでも動かないように握り締めた拳は矢のシャフト部分を変形させる。
『たまに取り損ねることもありますが(4敗)自分の判定との重なりに慣れれば難しくはありません』
私は頭の声に仲間を無駄な危機に陥れた怒りを感じようとするが、それは悪寒に阻まれる。
背後、左、右前、正面上方
私の感覚は四方から飛んでくる凶器を察知する。
どうして? 勝手に動くような罠ではなかったはずなのに
青山君を助けたその体勢は伸びきっており、とっさには動くことなどは到底できないはずだった。
『真ん中来いよオラァ!』
だが私がいくら動けないと思っていようが頭の声には関係がない。
時間が引き延ばされる。
私の周りから音が消え、色が濃淡だけを映したひどく淡泊な世界になる。
その空間は全てが水中の中にあるように何もかもが動きにくそうだった。
まるで魚のように矢羽を揺らす矢
こちらに手を伸ばそうとする芦戸さん
驚いたように瞳孔を開く青山君
だというのに私の頭だけはその速度を無視したように痛み出す。
頭の中に熱くじわりと広がる鈍痛がそこらかしこに生まれる。そこから次いで、まるでバットで後頭部を延々と殴られ続けるような痛みが私を襲い、鼻の奥の細い血管が破裂してドロリと流れる不快感が消えない。
『はい新スキル、アクションゲームでよく見る敵が遅くなる例のアレです。
使用中はダメージ受けます。
話は変わりますがよく、頭を酷使すると鼻血が出るって描写、あれどういう仕組みなんでしょうね?』
停滞した世界で、私だけが最短の道で矢を次々と避ける。
どうしても間に合わない弓は二つの指でつまんで見せた。
掌で掴めばいいものをまるで自分の力を誇示するように見せつけた結果、私の指がしびれる。
『北斗神拳の奥技には二指真空把がある! 矢を放ったその場所に矢が返ってくるぞ!』
頭の声が意味の分からない言葉を放ち、矢が放たれた罠ではなく授業用のカメラに向かってその矢を投げつける。
『八百万は授業用監視カメラに擬態したカメラを配置してきますので壊しましょう。
壊した瞬間に遠隔の罠の危険はなくなります。
しかし、カメラを壊すと敵のAIがこちらに突っ込んで来たり奥に引きこもる動きに切り替わり、チャンスが生まれるので、壊すのは突入のギリギリまで引き延ばします。
ここからは時間との勝負です。
いままでは時間と戦っていなかったような言い方ですが、言葉の綾です』
「本条さん! 大丈夫!?」
「助けるどころか助けられてしまったね」
「というか青山もありがと、ごめん、気を抜いてた」
「…………かたまってこうどうしよう」
『さて、いまから「核と敵の発見と共有」「敵の撃破」「核の確保」これを自分一人でこなします。
と簡単に言ってしまいましたが、この三つの条件を満たすのはめちゃくちゃ厳しいです。
仲間に敵や核の位置を共有するとそこに向かって勝手に動きます。
普通に進めば敵か核、どちらかを仲間に譲ってしまうので、全然気持ちよくありません。
ならばどうするかというと答えは簡単です』
「……敵の位置は3階西側の通路、核はここから真上、5階西側の大部屋を入って左の壁の中に隠されている。……ガンガン行こうぜ」
「了解! ってえぇ!? ……もう行っちゃった」
『仲間より早く先行し、敵を撃破したのち、先に核を確保する。
つまりはゴリ押しです。
力こそパワー(至言)
このゲーム、強個性のゴリ押しが最強ってそれ一番言われてますから
仲間との協働? 屋内戦に沿った動き? フラグさえ押さえておけば大丈夫でしょ(慢心)
仲間モドキ達とのイライラ棒はもう十分に堪能したのでさっさと終わらせましょう』
急に駆け出した体は二人を置き去りにする。
この声、自分で試験の評価基準を語ったというのに、なぜ独断専行をしようなどと考えつくのだろうか?
『それでは罠地帯を細心の注意を払って通り抜けます。
コツは最速で駆け抜けることです。
止まるんじゃない!犬のように駆け巡るんだ!』
避けきれない罠のみ破壊し、反応するよりも早く駆け抜け続ける。
『峰田が来ました。罠を暴発させてきて厄介なので被ダメ覚悟で撃破するのも手ですが、安定をとって罠を壊してから一気に接近して倒しても十分に間に合います。
ちなみに峰田撃破のこ↑こ↓ 0敗です(威風堂々)』
その場で足を止めて、投石で罠を端から壊すと一気に駆け寄る。
だが峰田君は手元の機械を操作することで、それをすんでのところで避けた。
『ファ!?(1敗)
こんなところでミスるのか(困惑)
ブドウ人間が次の罠場まで逃げたので落ち着いて次で倒しましょう』
しかし次も、小柄な峰田君は罠を駆使してひらりと逃げる。
『こマ?(2敗)練習量に比べて本番の動きが貧弱すぎるだろ……
くっそ恥ずかしいガバですね、早く切り上げてしまいましょう』
次も
『疲れが出てますね、少し落ちつきましょう(3敗)
苛立っても操作の精度が下がるだけです。ロスからのリカバリこそ走者の腕の見せ所です』
その次も
『初めてですよ……、ここまで私をコケにしたおバカさん達は……(4敗)
ぜったいにゆるさんぞ虫ケラども! じわじわと最速でなぶり殺しにしてくれる!!(豹変)』
そして……
『どこだここ…誰かー!!!(7敗) アァー、迷っちゃったぞ~、誰かー!!!誰かいるー!!??(精神崩壊)
どこだぁ…? 探すぞぉ…! 見つけた!! ブドウだぁ…、幻のグレープだ!』
結局その後も峰田君と八百万さんが合流するまで倒すことはできなかった。
取り乱した声は峰田君が逃げ込んだ部屋に突貫する。
『……長引いたおかげで投擲やその他スキルの熟練度がかなり上がってしまいましたね(皮肉)
まだ時間があるはずなので、速攻で敵二人を倒して核を確保しましょう』
部屋に踏み込んだ瞬間、色の濃いレンズのゴーグルをつけた八百万さんが見えた。
「いくら貴女が駆けっこの一等賞でも光には勝てませんでしょう」
爆音と閃光
比喩でなく本当に光と音が刺さった。
たまった鼻血がごぼりと溢れて、マスクの中を汚す。
あまりの衝撃に精神は千切れ、意識は蒸発した。
『わぁ、これがRTAですかー いろんなガバがありますねー(現実逃避)
ランキングで入賞したこの素敵な走りを見せてお(白痴)』
目の前の大きなクロスボウをこちらに向けられても何も考えることはできない。
飛び出た矢を私の体が勝手に防いで、勝手に壁にたたきつけられる。
矢に直撃した頭部はヘルメットに守られたがその質量は私の頸にかかり、ゴキリと嫌な音を脳内に響かせる。
たたきつけられた体は骨が砕けた。
『立つんだ! 立つんだホモ子!! 主人公にとってあばらの1本や2本かすり傷だろ! 普通に重症だとしても、あばらが折れたら実際は動くことも息することもできない痛みだとしても! それが主人公の条件なんだ!!(錯乱)』
体の発する痛みの信号に脳がどうだ以前に心がついていけなかった。
頸が再生されるときの神経を無理やり生やされる痛みなんてどう表現すればいい。
折れた骨を無視して動いて内臓がずたずたにされ、その端からつながれていく感覚は?
しかしそれらを無視して体は立ち上がり、こちらを見ている峰田君と八百万さんと目を合わせる。
「……のあと…………なら………おつり……」
『再走?
この後がすべてノーミスならばタイム的にはお釣りがでるので続行します(ウンチー理論)
まだ間に合うはずです。最悪でもこの二人は倒さないと経験値が足りずに再走案件確定です』
「……ぞっこうします」
「ヒーローチーム!!!!! ウィィィィーーーーン!!!!!!!!」
『は?』
「そこまでだ。核は青山くんと芦戸くんが確保した。とりあえずは講評をしようか本条くん」
『ン゛ォ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛ォ゛ォ゛!!!!!!!!!!!!!!ゥ゛!ァア゛ア゛ア゛!!!!!!アア" !ア" !ア" !ア" !ア" !ア" !ア" !ア"ア"ーーー!!!!!!』
「動けるかい?」
動けるわけがない、そう叫びたい心とは裏腹に、バラバラになった体は何とか歩けるまでにつながっていた。
「あぁ、あぁ……、動けるみたいです」
ここで倒れたら減点される。
私は棒みたいになった体を無理に人のように動かして講評の場へと戻った。
「では、今回のMVPは誰かな!!」
「いやー、本条ちゃんのおかげで私たち勝てたからね、でもみんなで協力したからあの結果って感じでしょ」
「僕のきらめきも忘れないでね☆」
最後に合流し、私の戦闘を見ていない芦戸さんと青山君は嬉しそうにそう話した。
先についた時の私を見る彼らの目は何時かと同じような目で、笑いそうになってしまった。
今、クラスメイト達は皆一様に複雑そうな顔をしている。
その反応に気付いた二人は怪訝な顔をしながらあたりを不思議そうに見まわした。
「あ~、峰田の粘りはすごかったよな」
「芦戸ちゃんと青山ちゃんの核の確保の仕方は個性をよく活用していたわ」
「八百万さんの個性で作った罠も……」
「私だよね」
何かに遠慮したかのような空気を無視して私は声をあげた。
こんなことを臆面もなくいうなんて心臓が潰れそうなほどの吐き気がする。
この場で私がMVPだなんておこがましいことが言えるはずがない。
「私がMVP」
だけど言うしかない、私がヒーローになるためには。
もちろん、そんなたわ言は反論される。
「悪いが本条、俺はそうは思わねーな、お前の動きは前半は良かった。だが途中の独断専行、あれはどう説明するんだ」
「私が何かミスをした?」
轟くんが私の人を食ったような反応に眉をひそめる。
「一人で突っ走って、敵にやられかけた。勝手な判断が減点対象なのは爆轟の時に注意を受けてわかっていただろ、それを聞いて同じことすんのはミスじゃないのか?」
「ううん、違うよ、むしろもう少し時間があれば二人を倒していたよ、だよね峰田くん? 八百万さん? あのあと私を倒せた? 私から優勢をとった時が一度でも二人にあったかな」
早口で捲し立てると私の異様な雰囲気に呑まれた二人はあからさまに目をそらした。
私の攻撃的な態度を咎めてか、周りから私に対しての反論が出る。
「でも……、みんなで協力すればもっと確実に倒せたんじゃないかな」
「俺もそう思うぞ! 君は知っているかはわからないが、あのあと青山君と芦戸さんの機転で核を取ったんだ。君も素晴らしかったが二人の活躍もすごかったぞ本条君!!」
「酸で天井を溶かして、青山君のレーザーの反動で登る。とっさの判断で個性の力を合わせてたケロ」
ほかにもいくつかの反論が出てきたが私は不満が出切るのを待った。
会話が途切れた時に私はゆっくりと周りを見渡す。
「ふーん…、じゃあみんなは二人がMVPだと考えてるんだ」
「……正直全員すごかったけど、強いてあげればだよな」
「本条さんの活躍もすごかったから……」
みんな私に気を遣うように口を開く、どうやら私が癇癪でもおこしているようにでも見えるらしい、実際は驚くほどに心は冷めているといのに。
「うん、私もそう思うよ、二人の連携の発想、最高だね、あれこそがMVPだよ」
私の反応があまりにも意外だったのかみんな一様に驚いた顔だ。
「じゃあ、やっぱり、その連携を考えた私がMVPだよね」
私は首を回して二人を強く見つめる。
「うん、私たちの個性から事前にそういうことができるか確認されたの、他にもいろいろ作戦を考えてくれたのも本条さん、GPSは高さの位置情報が弱くてばれにくい可能性があるから、核の真下から登って行けって」
「とにかく前から行動は決められていたんだよ、一人飛び出した時も事前の取り決め通り、僕たちは核、本条さんは敵を担当したわけさ、それでも急に走り出したのは驚いたけどね」
二人がいなければできなかった手柄を、まるで自分のおかげであるかのように論点をすり替えると私は一気に畳みかける。
「二人の連携は、ついさっき、個性を初めて知った赤の他人である私が考えたものだった。
独断専行は全部事前の取り決めで、私たちは敵中で相談なんて無様なことはせずに迅速な行動ができた。
時間をかけながら、みんなで一緒に戦う? 時間を与えたら八百万さんがもっと強い罠をたくさん出してたよね。
私が追い詰められたってホントに言ってるの? あの攻撃を受けたのも二人の意識を私に集中させるためだよ」
連携を考えたのは確かに私だけどそれは二人がいてこそ。
独断専行はその通り。
あの攻撃で私は死にかけた。
いまだって表面だけはきれいだが中身はぐちゃぐちゃな体を意地を振り絞って動かしてる。
だけどそんなことは誤魔化して、私は周りの反論の一つ一つを潰して黙らせた。
静まり返る周りの中、八百万さんがふいにポツリと呟いた
「……どうして監視カメラが私の作ったものだと」
「狙いすましたかのようなタイミングの罠、絶対にどこかから見てると思ったよ、あんな露骨な位置にあって、笑っちゃった。
カメラを壊したのも突出して移動したのもプレッシャーを与えるためにしたけど効いてた?」
全部あと付けの屁理屈だ。声がなければカメラなんて気にもしていなかった。
律儀に返答のお礼を呟いてから八百万さんは悔し気に口を結ぶ。
私は反論が出ないことを確認してから、傲岸不遜に言い放つ。
「ねぇ、もう一度聞くよ、誰が一番?」
今度は誰からの反論も出なかった。
もちろん賛同した人も誰もいなかったわけだが。
『おかしい……、まだ時間があったはずです。 あの二人がこんなに早く核を確保することはないはず……』
何か肩の荷が下りた気がする。
『RTAの名を騙るただの通常プレイ……』
彼らは善人で、優しくて、それは本当に私にとっては毒だった。
『自分のことをRTA走者と思い込んでいる精神異常者……』
いい加減慣れろ、覚悟を決めろ、痛みと孤独にいちいち感情を動かすのはもうやめろ。
『ただの近所のゲーム好きのあんちゃん……』
私の個性は「成長」ならこの心を閉ざすよう成長することだってできるはずだ。
『はい……、リザルトは……、ファ!? 悪くない!!?? ええやん……(困惑)
なんで?(混乱)なんで?(疑念)なんで?(受容)なんで?(歓喜)
目標より少し低いですけど全然マシです。
このゲーム相変わらず未知のエリア♂がありますね……
……まっ、いっか、誤差だよ誤差!!!
きっと幸運の女神が私に微笑んでるんでしょうね』
このふざけた声にだって私は耐えられるようになれるはずだよね。