予備役
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残念娘に絡まれていた時だった。
急に案内人が姿を見せると、胸を押さえて苦しそうにしていた。
急いで駆けつけたのだろうか?
「リアム――気付いたか? 私がお前の敵を集めていたことに!」
「え?」
どうにもバークリー家の艦隊の数が多く、軍の一部も俺の邪魔をすると思っていたら案内人の仕業らしい。
「お前、もしかして敵を集めてくれたのか!?」
「そう言っただろうが! なのにお前は気付かず、オマケに――くっ!」
悔しそうにしている姿を見て理解する。
「――ごめん。気が付かなかった」
「まぁ、いい。だが、これで気付いたはずだ」
「何が?」
「気付けよ! お前の本当の敵が誰なのかって事だよ!」
本当の敵?
案内人が俺に本当の敵を教えようとしていた。
つまり――バークリー家を操っている存在がいたのだろうか?
もしかして、そんな存在から俺を守るためにこいつは――。
「お前、まさか!」
「ようやく理解したか!」
「あぁ、理解した。本当に――ありがとう」
「――え?」
疲れているように見える案内人が怒るのも当然だ。
俺を真の敵から守っていたのに、俺がその敵に気が付かないなら怒りもするだろう。
きっと苦労したのだろう。
よく見ると、服もボロボロになっている。
それに、こいつは俺の敵をかき集めてくれた。
面倒がっていた俺の気持ちを察し、一度の戦闘で全て終わるように段取りを付けてくれたのだ。
「おかしいと思っていたんだ。バークリー家にしては数が多いし、軍の一部も俺に敵対したからな」
ま、しょせんは数だけの集まりだ。
正直弱すぎてビックリした。
意外だったのは最後に出て来た秘密兵器くらいかな?
「いや、だから!」
案内人が何かを言う前に、俺は今までのお礼も伝えておくことにした。
「アヴィドの件や、他にも色々とあるからな。お前には本当に世話になりっぱなしだ。本当の敵のことについても調べさせておくよ。とりあえず――ありがとな!」
どうにも照れくさい。
俺が本気でお礼を口に出来る相手は少ないからな。
すると、案内人が震えていた。
「や、止めろ」
「おい、照れるなよ。お前も可愛い奴だな」
「止めろぉぉぉ!」
◇
案内人に見えていたのは、リアムの後ろに並んだ黄金の火縄銃だった。
随分と古い銃がいくつも並び、銃口を案内人に向けている。
リアムが大勢から感謝される気持ちが加わり、それらがリアムの感謝の気持ちを弾丸として詰め込み案内人に撃ち込もうとしていた。
リアムには見えていないようだ。
「おい、どうした?」
「ひっ!」
案内人が直接リアムに手を下すことは出来なかった。
弱った自分では返り討ちに遭う。
それだけの実力をリアムが手に入れてしまっていた。
(なんなんだこいつは! 私がどれだけお前を不幸にしようと頑張ってきたと思っている!? それなのに、毎回感謝して――こいつ、私が無様に転ばせても喜んで感謝しそうじゃないか!)
何をしても感謝してくるリアムが、案内人には怖かった。
もはや、わざと感謝しているのではないかと勘ぐってしまうほどだ。
(実は私が感謝の気持ちを嫌うと知って? い、いや、それはない――はずだ)
リアムが案内人に一歩近付くと、火縄銃から次々に弾丸が放たれる。
弾丸は案内人を貫き、そして黒い煙へと還してしまう。
「嫌だぁぁぁ!」
感謝の気持ちが込められた黄金の弾丸が、案内人の体を貫いていく。
その苦痛に耐えきれず、案内人は黒い煙となってこの場から逃げ去るのだった。
「お、おい、どこにいくんだよ! まだちゃんとお礼を――いなくなった」
案内人が消えると、ニアスとユリーシアが動き出す。
「リアム様、私に予算をください!」
「一生離しません!」
残念娘たちに抱きつかれるリアムは、案内人に何かお礼が出来ないのか考える。
その姿を、部屋の隅から覗き込む犬が残念そうな顔で見ていた。
◇
正式に配属されて四年が過ぎた。
最終的な階級は、今後の爵位も考慮されて大将として予備役入りが決定した。
何やら功績とか色々とついて、異例の出世を遂げたが――賄賂の効果は絶大だった。
たった四年で大将だ。
軍の階級など、貴族の前ではこの程度ということである。
因みに、ティアは准将にまで昇進していた。
マリーは少佐。
ユリーシアは大将の副官として大佐の階級まで昇進。
あと――ニアスが俺の支援を受けて技術少佐にまで昇進した。
何故かあいつの後ろ盾は俺ということになっているが――妙に納得できない。ただ、断るのも面倒というか、あいつは残念枠なのでこれでいいかと思っておく。
そして、本当に残念なのがウォーレスだ。
「ウォーレス、お前は大尉で予備役か? 一体何をしていた?」
俺についてくればそれだけで少佐は確実だったのに、こいつは一階級下の大尉止まりだった。
気まずそうな顔をしている。
「いや~、その~」
「何で昇進しないんだよ! 賄賂だって渡したんだぞ!」
違った。季節の挨拶と寄付だった。
というか、俺は軍に割と気を使っているはずだ。
軍の金で好き勝手に正規艦隊に恩を売り、任地でリアル内政ゲームをして補給物資を追加申請もしたが、古い艦艇を買い取って軍の装備更新に貢献している。
ウォーレスの昇進も一応頼んでおいたのに!
「お前の後ろ盾である俺が恥ずかしいだろうが!」
「いや、だってさ! 私に活躍の場なんて無かったじゃないか! 地上で建設現場の監督ばかりだったよね!」
「それでも昇進するのが貴族だろうが!」
「私はこれでも皇族だよ?」
まったく――こいつの兄であるセドリックは、昇進して少将になっているというのに。
ウォーレスが頭の後ろで手を組んだ。
「そもそも、予備役に入れば軍の階級など無意味だよ。毎年少しお金が入るくらいかな?」
俺は当主なので支払われないけどね。
そもそもいらないし。
「あとね。私はあまり目立たない方がいいんだよ」
「それっぽい事を言っているだけで、出世できなかっただけじゃないか?」
ウォーレスが俺から視線をそらしたので、きっと出世できなかっただけだろう。
だが、こいつに仕事とは関係ないことをさせてきたのは俺だ。
今回は目をつむってやる。
「まぁ、いい。来年からは帝国大学に入学だ。軍での階級など意味がなくなるからな」
「そうだよ! あ~、憧れのキャンパスライフ! 毎日のように合コンをして、楽しく遊ぶぞ!」
――皇族がこれで良いのだろうか?
というか、既に婚約者がいる俺は――合コンに参加できないのではないだろうか?
もう少し、人生というものを真剣に考えた方がいい気がしてきた。
ユリーシアを見ているとそう思う。
「リアム様! 首都星では有名ホテルを貸し切っているんですよね? 私も一部屋貸してください!」
目をキラキラさせて頼み込んでくる残念娘を見て、俺は首を横に振る。
「好きにしろ」
「やったー! 憧れの暮らしに一歩近付いたわ!」
ユリーシアを見て、ウォーレスが呆れている。
「真面目な軍人さんだと思っていたのに、何だか普通の女だな。見た目は良いのに」
これでも一応優秀だからね。
側に置くのは問題ない。
ただ――。
「あ~、ホテルのプールで泳いで、お昼は買い物。カフェで優雅な一時を過ごして~」
――妄想を楽しんでいる姿を見ていると、やはり残念に思う。
ウォーレスが俺に声をかけてくる。
「それより、副官のことをロゼッタに話を通さないと駄目なんじゃないか?」
「――あ」
婚約者に愛人を囲うって伝えないといけなかった。
――何だろう? 気が重い。
「それよりリアム、本当によかったのか?」
「何が? 愛人? 側室? 俺は元々ハーレムを築くつもりだから問題ないぞ」
「え、そうなの? いや、今は違う話だよ。バークリー家の領地の問題だよ」
「あ~、あれか」
バークリー家をまとめて倒したおかげで、奴らの持つ財産を根こそぎ奪えた。
それはいいのだが、奴らの支配していた惑星が多すぎるのだ。
管理しようとしたら、領地にいる天城から「――本星から遠すぎる惑星が多すぎますね」と言われてしまった。
手に入れたのが飛び地ばかりみたいなイメージだ。
ワープで移動するだけに思われるが、意外と距離とは大事である。
あと、ボロボロの惑星が多い。
あいつら、エリクサー欲しさに死の星を量産してやがった。
手に入れたのはいいが、実際に欲しいかと言われたら「う~ん」という惑星ばかりだった。
だから、帝国に売った。
いくつか俺の手元に残しているが、他は売り払っている。
それに、回収したい物は回収した。
惑星開発装置――バークリー家が沢山持っていたので、今後は俺が有効活用するつもりである。
要塞級に乗せて、荒れ果てた惑星の開発に使用するとしよう。
エリクサーなど売るほどあるから。
商人たちにレアメタルを売りつけたら、ガンガン売れてエリクサーが出回ったので俺がほとんど購入した。
――あと、案内人の気になる言葉もある。
俺の真の敵。
きっとバークリー家とは比べものにならない存在がいるのだろう。
そいつと戦うことがあるとすれば、俺は今よりももっと強い力を手に入れなければならない。
あと、飛び地を守るのは面倒だ。
それなら、最初から持たない方がいい。
「もったいないよ。私にくれてもよかったのに」
「荒れた星で良いならすぐにくれてやるが?」
「それは嫌だ。頼むから多少発展した星を頼む。君が片手間で整備した惑星くらい発展していたら、文句は言わないから」
――任地でリアル内政ゲームをした惑星だが、場所がよかったのかもの凄く発展した。
店を出したいという商人が多かったので、トーマスたちに丸投げしたら徐々に人も増え始めて――うん、発展した。
そもそも帝国の直轄地だから、都会近くなのだ。
発展スピードが桁違いである。
「無茶を言うな。ま、多少は整えてやる」
「そいつは期待できそうだ」
――こんな奴でも俺の子分だ。
将来的に味方を増やす必要もある。
真の敵を告げずにいなくなった案内人――奴のことだから、きっと何か考えがあるのだろう。
今は、力を蓄えておくことに専念しよう。
「あ、そう言えばこれからどうする? すぐに首都星に戻るのか?」
ウォーレスに聞かれ、俺は素直に答える。
「一度領地に戻る。仕事もあるからな」
「あ、なら私は首都星で――」
「お前も来い!」
俺はウォーレスも連れて一度実家に戻ることにした。
◇
「あ~、懐かしの故郷よ!」
両手を広げている俺を見ているのは、涙を拭っているブライアンだった。
「リアム様、ご立派になられましたな。このブライアン、涙で前が見えませんぞ」
「その状態で俺が立派になった姿見えるのか?」
こいつはいつも泣いている。
天城を見れば、いつも通り無表情だ。
「天城、何事もなかったか?」
「はい。軍事行動で被害が出たので、その補償などでゴタゴタしたくらいでしょうか」
やはり被害は出たらしい。
「そうか。軍人は優遇してやれ。俺の大事な戦力だからな」
「はい」
涙を拭ったブライアンが俺にロゼッタのことを尋ねてきた。
「それよりもリアム様、せっかく側室候補を迎えられたというのにロゼッタ様とご本人はどこでございますか?」
「――置いてきた」
「何故でございます! ようやくリアム様が女性に興味を持ったと嬉しく思いましたのに!」
女に興味がないように思われていたのは心外だ。
ブライアン的には、ロゼッタやユリーシアと一緒に帰ってきて欲しかったのだろうが、二人ともホテル暮らしを満喫中だ。
ロゼッタの方は――顔を合わせ辛いので放置である。
というか、ユリーシアは副官として引き抜いただけで、側室候補でもない。
あいつは残念枠だ。
だが、それを言うとブライアンが五月蠅いので、俺は話を変えることにした。
「あ~、ところでブライアン、これをどう見る?」
見せたのは心臓のような機械だ。
それを見て、ブライアンは興味深く眺めていた。
「ほう、これは珍しいですな。【マシンハート】――命なき機械に命を吹き込むと言われたオーパーツですぞ」
「何!?」
天城を見て、俺はマシンハートをその大きな胸に当ててやる。
押した分だけ沈み込むが、張りがあっていい胸をしている。
だが、天城が冷めた目を俺に向けるのだ。
「何か?」
「いや、命を与えるっていうから」
「――偽物ですよ。オーパーツがそう簡単に見つかるはずがありません」
「そ、そうか? お前に命が宿れば嬉しかったのに」
「――あり得ませんよ」
天城はそう言うが、少しだけ悲しそうに見えた。
ブライアンが俺を見る。
「それよりもリアム様、要塞級を複数購入されたと聞きましたぞ。玩具を買うように戦艦を買ってはいけません」
「いいんだよ。開拓惑星の臨時基地にするんだから」
「何と! 本気で開発するおつもりでしたか」
「当たり前だ」
手に入れた惑星開発装置を積み込み、正しい使い方で領地を発展させてやる。
いずれ来る真の敵に備える必要があるのだ。
今は力を蓄えておく必要がある。
「今は地力を付けることにした。天城、俺は領地をもっと発展させるぞ。新しい計画を用意してくれ」
ただ、天城の返答が普段と違った。
「それについてですが、そろそろ私が管理するのは止めようと思います」
「え?」
「既に人材が育っています。私がせずとも、サポート用の人工知能を使えば十分に領地は発展しますので」
「そ、そうなのか?」
「――今後は旦那様のサポートに入ります」
ブライアンが天城の今後の予定を話してくれた。
「引き継ぎが終わり次第、天城は首都星でリアム様のお世話をすることになりますぞ。順調にいけば、リアム様と一緒に首都星へ向かえるはずです」
それを聞いて安心した。
「何だ。そうか! よし、天城が来るなら派手に出迎えをさせよう!」
「いえ、結構です」
断る天城に寂しさを感じてしまう。
「――そ、そうか? なら、普通に出迎えさせるが――本当に良いのか?」
「はい。それに、あまり私を表に出すのは帝国では周りがいい顔をしませんから」
派手な出迎えは俺のためにならないと言う天城に、やはり寂しさを感じた。
ブライアン(´・ω・`)「――ロゼッタ様は婚約者。ユリーシア様は副官として引き抜いた側室か愛人候補――辛いです。ハーレムが出来上がっているようで出来ていない現状が――辛いです」