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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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悪夢

気が付いたら20時を過ぎていました(;゜ロ゜)


申し訳ないです。

 バークリー家にとって悪夢が現れた。


『アヴィドの偽物を用意して、この俺に勝てるわけがないだろうがぁぁぁ!』


 両肩に大きな盾を浮かべている黒い機体は、黄金の装飾を付けていた。


 今では珍しい大型の機体が、バークリー家の大型機動騎士をその手に掴んで戦艦に突撃して――ぶち抜いた。


 味方機は大破。


 アヴィドは無事だ。


 爆散する戦艦を背景に、アヴィドが大型機の残骸を放り投げるように手放す。


 ドルフが眉間に皺を寄せた。


「これが噂に聞くアヴィドか」


 第一兵器工場の新型機では歯が立たなかった機体。


 そして、搭乗するパイロットのリアムは、騎士としてもパイロットとしても超一流だ。


 アヴィドの性能を引き出せる数少ないパイロットである。


 ドルフが揺れる艦内で指示を出す。


「囲んで叩け!」


「だ、駄目です。味方機――敵機を相手にして動けません」


 違う映像がドルフの前に出現すると、両手に大鉈のような武器を持った機動騎士が味方機を破壊していた。


 荒々しい動きと叫び声が聞こえてくる。


『邪魔だぁぁぁ!』


 普通の機動騎士が、特機扱いの味方機を次々に破壊している。


「っ!」


 ドルフがこの状況をどうにかしようと脳内でシミュレートをするが、状況は待ってくれなかった。


「敵機、来ます!」


 オペレーターの悲痛な叫び声が聞こえると、ドルフの乗る旗艦にアヴィドが荒々しく滑り込むように着地した。


 装甲の一部がはげ、そこからエアーやら液体が噴き出していた。


 ドルフは、ブリッジの前に立って刀を担ぐアヴィドを見た。


「リィアムゥゥゥ!!」


 すると――ドルフの憎悪が膨れ上がり、周囲の破壊された戦艦やら機動騎士が旗艦に集まってくる。


 乱暴にくっつき、その形はまるで機動騎士の上半身のような姿だ。


「な、何が起こった!?」


 ドルフも混乱していたが、その隣では苦々しい顔をした案内人の姿がある。


 奥歯を噛みしめ、口の端から血を流して胸の辺りを握りしめている。


「――どうしてお前は死なない。どうしてお前は――私をこんなに苦しめる!」


 リアムの感謝の気持ちが増している。


 いや、リアムが感謝されており、リアムの感謝の気持ちが増幅され案内人に激しい痛みを与えてくるのだ。


 持てる力を振り絞り、なりふり構わずリアムを潰そうとした。


 アヴィドが旗艦から離れると、両手を広げる。


『まだ隠し球があったのか! ――ついに俺もこいつを使う時が来たな!』


 実に嬉しそうにしていた。


 ドルフと案内人の声がかぶる。


「リアム、貴様だけはぁぁぁ!」


 案内人がその手に出現させたのは、心臓の形に似ている装置だった。


 それを旗艦の操作パネルに押しつけると、コードが伸びて操作パネルを侵食する。


 血管が張り巡らされたようになり、脈打つ。


「こいつで――お前をぉぉぉ!!」


 各地を旅している間に偶然見つけたオーパーツの一つだった。


 巨大な機動騎士が口を開けて咆哮すると、艦内が激しく揺れた。



 何やらバークリー家は秘密兵器を用意していたらしい。


 周囲の戦艦や機動騎士を使って、巨大な機動騎士もどきを用意した。


 上半身だけのとんでもなく大きな機動騎士――大きな的である。


「前回は全力を出せなかったから、不完全燃焼だったんだ。アヴィド――お前の本気を見せてやれるぞ」


 操作パネルに手を触れると、音声が聞こえてくる。


『――コネクト』


 電子音声が短くそう呟けば、アヴィドの背中に大きな魔法陣が出現する。


 そこから出現するのは巨大戦艦だ。


 いや――アヴィドの本体と言えば良いのか?


 今俺が乗っているのはコアに過ぎない。


 あの第七兵器工場が一度は諦めた計画がある。


 機動騎士に戦艦の性能を持たせたい、と願った連中が行き着いた答え。


 戦艦を機動騎士にすればよくね?


 そして、無人戦艦と機動騎士の合体に行き着き――当然のごとくその計画は却下された。


 当たり前だ。


 無駄すぎる。


 だが、俺は無駄が大好きな男だ。


 魔法陣からアヴィドに向かってコードが伸び、各部に接続するとエネルギーが流れ込んでくる。


 周囲に空間魔法で収納しているのは、何も武器ばかりではない。


 アヴィドそのものだ。


 魔法陣からその姿を出現させた戦艦にアヴィドが吸い寄せられる。


 出現した戦艦は変形し、胸部にアヴィドを収納すると人型になった。


 無駄。圧倒的に無駄な機能だ。


「どうだ! 領民から搾り取った血税で作った兵器はぁ! 最高に無駄だろう?」


 目の前の化け物は、俺が持つ錬金箱と同じようなオーパーツを切り札に持っていたのだろう。


 だが、無駄だ。


 俺は無駄に力を求めてきた。


 その結果、行き着いたのが無駄の極み――戦艦を人型に変形させ、戦艦並みの性能を持つ機動騎士を手に入れる、だった。


 敵の方が多少大きいが、そんなことは問題にならない。


 というか、こんなものを本当に作る第七兵器工場は馬鹿である。


 超巨大な機動騎士同士の戦い。


 一度は経験してみたかった!


「アヴィド、お前の全力を見せてやれ!」


 遊び感覚で操縦桿を握りしめ、フットペダルを踏み込むとまるでアヴィドが返事をするようにうなり声を上げた。


 エンジンやら動力炉の振動か何かだろうが、こんなのは気分の問題だ。


 巨大なアヴィドの腕が、敵の腕とぶつかり――相手の腕を破壊した。


「どうだ。全てレアメタルの特別製だぞ。代用金属の塊じゃあ、太刀打ちできないよなぁ!」


 破壊して相手の腕を一つ引きちぎると、更に周囲のデブリを引き寄せて再生していく。


「再生機能付きか。――楽しませてくれるじゃないか」


 せっかく全力を出せる機会だ。


 色々と試したいこともある。


 アヴィドが大砲全てを敵に向けて撃てば、相手の表面が徐々に削れていく。


 剥がれ、吹き飛び――また引き寄せて再生していく。


「これでは駄目か」


 敵が暴れ回り腕を振り回してくるので、その腕を大きなアヴィドの手からブレードが出現して斬り落とす。


 一閃流の再現は流石に無理だな。


 あと、斬り刻んでも再生する方が早い。


「ミサイル」


 各部からミサイルを放つと、敵が爆発に巻き込まれる。


 それでも再生して元通りになるから凄い。


「ゴミを回収する機能だけは欲しいな」


 胸部が開き、そこから光を放つ。


「とんでもない威力の主砲は浪漫だ。――そう思うだろう?」


 答えない敵に向かって主砲を放てば、周囲が光に包まれる。


 極太の光が敵を貫き、再生する側から焼き尽くしていく。


 敵が防ごうと両手を伸ばしてくるが、そんな両手も焼き尽くしていく。


「無駄なんだよ!」


 次第に体を維持できなくなったのか、敵はバラバラに砕けていくのを見て満足した。


「主砲を撃つだけなら、別に人型じゃなくてもよかったな」


 当たり前のことを再確認しただけに終わった。


 だが、無駄な機能がいいのだ。


 アヴィドがある映像を拡大する。


 そこには、敵の旗艦が浮かび上がっていた。


 ボロボロで、もう動けそうにもない。


「――てこずらせてくれたな」


 巨大なアヴィドの手が戦艦のブリッジを掴んだ。


『リアム様、敵が撤退を開始しました』


 そのまま潰そうとすると、ティアの通信で俺は動きを止めた。


「終わってみれば教本通りの戦いだったな」


『王者の戦いに相応しい勝ち方です』


「世辞はいい。だが、せっかくだから、最後まで教本通りにいこうじゃないか。――全軍突撃。一隻たりとも逃がすな」


 逃げられて抵抗されても迷惑な話なので、このままバークリー家は潰すことにした。


 しかし、親類が多い家だ。


 今回の戦いで全てを倒すのは無理だろう。


 ――最後まで潰すことを考えると、億劫になってくる。



 床に倒れて仰向けになるドルフは、口から血を吐きながら笑っていた。


 腹部から血が出ており、それを自分の手で押さえている。


「――やはり私は正しかった」


 負けたのに笑っているドルフは、リアムとティアの会話を聞いていた。


「突撃などナンセンスだ。防御重視の戦術で、敵が崩れた場合にのみ突撃は有効。リアム、お前は勝ったかもしれないが、自ら間違いを認めたようなものだ!」


 突撃して負けた。


 ドルフは自分の正しさを――候補生時代のシミュレーターでの戦いは、やはり自分が正しかったと確信する。


 ブリッジを掴むアヴィドの手が動き、ドルフは迫り来る天井を見ながら笑っていた。


「私は間違ってなどいなかった!」



 アヴィドに握りつぶされたドルフを、宇宙空間から見ていたのは案内人だった。


 帽子のつばを両手で握り、深くかぶって震えている。


「どうすれば勝てる。どうすればリアムを倒せる!」


 やれることは全てやった。


 切り札も使った。


 それなのに、全て通用しなかった。


 そして、宇宙に漂う心臓の形をした装置をアヴィドが手に入れる。


『お、こいつは何だか気になるな。ブライアンに見せてみるか』


 リアムは上機嫌である。


 三十万を超えたバークリー家の艦隊は、バンフィールド家の艦隊の突撃を受けて散り散りになっていた。


 そこを正規軍に襲いかかられ、為す術なく沈んでいく。


 降伏を申し出た敵だが――容赦なく撃墜されていた。


 案内人は上機嫌のリアムに手を伸ばした。


「リアムゥゥゥ!」


 リアムを不幸にする黒い煙が伸びるも、リアムには届かない。


 見えない何かに守られていた。


「おのれ。おのれぇぇぇ!」


 案内人は何かないかと周囲を探す。


 逃げたバークリー家の長男は、バンフィールド家の艦隊に捕まっていた。


 その他も駄目だ。


 奥歯を食いしばっていると、案内人は気が付く。


「いた。まだ一人、この状況を覆せる人間がいるぞ!」


 それはリアムの側にいる人間だ。


 ――ユリーシアだ。


「リアムに復讐を誓うユリーシア、お前に私が持っている力の全てを!」


 案内人は、ユリーシアのために自らの力を分け与える。


「貴様の刃をリアムに突き立てろ!」



 ――戦争の結果を聞いたカシミロは、燃え尽きたような顔をしていた。


「ま、負けただと?」


 それも完敗である。


 報告に来た息子が青い顔をしている。


「親父、すぐに逃げないとまずい! 正規艦隊は引き上げたが、バンフィールド家の艦隊はこっちに向かってきている。早く逃げないと、殺されちまう!」


 長男はリアムの前に突き出され、命乞いをしたがその場で斬られた。


 リアムは本気だ。


 交渉などするつもりはないだろう。


「首都星に連絡しろ。帝国に仲介してもらって手打ちだ」


 きっと多くのものを失うだろうが、ゼロになるよりはマシだ。


 そう思っての決断だったが、通信用のモニターが開く。


 一つではない。


 いくつも同時に、だ。


「な、何だ!?」


 狼狽えるカシミロが見たのは、同じ帝国貴族の領主たちだった。


 だが、普段手を組んでいる連中ではなかった。


 白髪をオールバックにした男が、陽気に話しかけてくる。


『ハロー、海賊貴族の当主殿。景気はいかがかな?』


 眼帯をした筋骨隆々の男は、忌々しそうにカシミロに話しかけてくる。


『俺たちに海賊をけしかけたな。カシミロ、てめぇは分かっているだろうな?』


 多くの領主たち――それは反カシミロで、リアムを支援する予定だった領主たちだ。


 癖の強そうな彼らだが、帝国貴族としては真っ当な部類である。


 その中にはエクスナー男爵の姿もあった。


『バークリー男爵。貴方に指示されて我々を攻撃したと、貴方のお仲間が喋ってくれましたよ』


 カシミロに味方した貴族たちは、彼らの相手をしていた。


 だが、リアムが勝利したと聞いて――全員が寝返った。


 眼帯の男は腕を組んでいる。


『叩き潰してやったらスッキリした!』


 白髪の男も上機嫌だ。


『――ところで、この落とし前はどう付けてくれるのかな?』


 カシミロが声を絞り出そうとすると、屋敷中にアラートが鳴り響く。


 そして、部下から通信が入るのだ。


『カシミロ様! バ、バンフィールド家の艦隊三万隻が!』


 窓を開けて空を見上げれば、空を覆い尽くさんとする宇宙戦艦が浮かんでいた。


 次々に降下してきており、地上部隊が降りてきている。


 領内の迎撃システムは次々に破壊され、屋敷に陸戦隊が乗り込んできていた。


 息子が泣いている。


「親父ぃぃぃ! あいつらが来ちゃうよぉぉぉ!」


 カシミロが膝から崩れ落ち、床に座り込むのだった。


「――私の首を差し出せ。それを持って、バンフィールド家の当主と交渉しろ」


「わ、分かったよ。親父」


 カシミロの息子が、震える手で父親を銃で撃とうとする。


 そこに、パワードスーツに身を包んだ歩兵たちが乗り込んできた。


「動くな! 抵抗すれば容赦はしない!」


 歩兵を率いてきたのは騎士だった。


 カシミロを発見すると、銃を持った息子を蹴り飛ばした。


 そのままカシミロの身柄を拘束する。


「来い!」


 乱暴に引っ張られるカシミロは、その騎士に言うのだ。


「――小僧と――いや、バンフィールド家の当主と交渉させてほしい」


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。そもそも巨大戦艦を人型にする意味があったのか、問い詰めたいです」


ブライアン(´・ω・)「しかしこのブライアンも――戦艦の変形は嫌いじゃないですぞ」

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