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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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誤算

現在、コミックウォーカー様、ニコニコ静画様にてコミカライズ版「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」の6話~9話を無料公開中です。


1話~5話はコミックス1巻に収録されていますので、是非とも購入して続きを楽しんでいただけたらと思います。


自分は発売が嬉しくて結局三冊買っちゃったヽ(*´ω`)ノ


 七万隻の大艦隊が立ち向かうのは、四倍を超えるバークリー家の艦隊だ。


 要塞級と呼ばれる空母は、とても大きくバンフィールド家の旗艦として利用されている。


 普段は開拓惑星の宇宙基地として使われているが、この危機に駆り出された。


 将軍たちが集まり、バークリー家の艦隊への対処で揉めている。


「何故突撃しない!」

「司令官、ここは突撃あるのみだ!」

「これだけの数の差があれば、まともにぶつかれば勝ち目はないぞ!」


 将軍たちが突撃を進言するが、司令官は向かい合ったまま一週間が過ぎても行動を起こそうとしなかった。


 大規模な艦隊がぶつかる前は、異様に静かだ。


 互いの陣形が分かり、その対処で陣形を変えて距離を詰めるなり開けたりする。


 実際に攻撃を行うのに、一ヶ月以上も時間がかかることもある。


 ただ、突撃で相手を叩き潰してきたバンフィールド家の艦隊は、この待つ時間に焦れていた。


「リアム様の命令だ」


 司令官がそう言うと、将軍たちが顔を見合わせる。


「リアム様だと?」

「今は帝国軍で任官しているはずだが」

「連絡がついていたのか?」


 司令官はリアムの現状について語る。


「配属された艦隊を率いてこちらに向かっているそうだ。それまでは睨み合っていろとの命令だ」


 何十年と突撃してきた艦隊は、突撃志向が強くなっていた。


「司令官、だがこのまま援軍を待っても状況は変わりません」


 リアムが配属された艦隊は多くて三万隻。


 その程度の数が増えたからと言って、戦力差はそこまで変わらない。


 バークリー家が依然有利だった。


「分かっている。だが、これは命令だ」


 リアムの命令では従わざるを得ない。


 将軍たちは、口を(つぐ)むのだった。



 バークリー家の旗艦。


 レアメタルを贅沢に使用した戦艦のブリッジで、ドルフにカシミロの長男が詰め寄っていた。


「おい、あいつらは動かないぞ!」


 だが、ドルフは動じない。


「心配ありません。リアムがいないため、判断に困っているだけでしょう」


「だが、これでは予定が違う」


「最初から予定通りにいくとは考えていませんよ。ですが、この戦力差を覆すのはほぼ不可能です」


 兵器工場からは、最新鋭の艦艇やら機動騎士を用意させた。


 クルーの教育や訓練も行っている。


 莫大な予算をかけて用意した大艦隊だ。


 だが、その影でエリクサーを確保するために滅んだ惑星や、重税で苦しむバークリー家の領民たちがいた。


 もっとも、ドルフも長男もそんなことは気にしない。


「――リアムが軍で自分の艦隊を編成した噂もある」


「三万隻を用意したようですが、その艦隊が加わっても我々の優位は崩れません。挟み撃ちされたとしても、艦隊を二つに分けて対処可能です。そして、この状況を覆すために残っているのは――」


「バンフィールド家のお家芸の突撃か?」


「はい。もっとも、突撃などしてこなくても問題ないのです。我々は既に勝っているのですよ」


 リアムを警戒し、出来うる限りの準備をしてきた。


 今のドルフはリアムの天敵のようなものである。


(リアム――士官学校での借りを返させてもらうぞ。お前の大好きな実戦で、お前を負かしてやる!)


 堂々としたドルフに、長男は少し安堵したようだ。


「そ、そうか。なら、安心だな」


 バークリー家の艦隊は、これまでの海賊たちとは違い訓練されている兵士たちである。


 ドルフの命令にしっかり従い、バンフィールド家の艦隊と向き合っている。


 自分の手足のように動く味方を得て、ドルフは勝利を確信していた。


 だが、気を抜いた様子は一切ない。


 それは、士官学校でリアムに負けたことで、成長したからだ。


(あの時の敗北は、今日この時のためのものだ。シミュレーターでの負けは受け入れてやる。だが、最後に勝つのは私だ!)



 宇宙空間で旅行鞄の上に立つ案内人がいた。


 向かい合う艦隊を眺め、カップを手に持って紅茶を飲んでいる。


 ここが宇宙空間であるとか、そんなことは案内人には関係ない。


「――動きはなし。だが、もう勝敗は決まったも同然。後は、どのような形でリアムが絶望するのかが気になるところだな」


 リアムが合流しても十万。


 バークリー家の戦力は三十万以上。


 共に装備、練度では大きな差がない。


 バンフィールド家の方が全体的に優れているが、それで覆せる差ではない。


「ある程度実力が同じであれば、戦いは数が多い方が勝利する。当然のことだな」


 動きはないが、一度動いてしまえば後は終わるまで続く。


 この静かな時間を案内人は楽しんでいた。


「私をここまで苦しめてくれたリアムとの関係もこれで終わる、か」


 感慨深い。


 ここまで自分を苦しめたのはリアムが初めてである。


「――とびきりの地獄を用意してやるぞ」


 リアムが泣いて許しを請う姿を想像しながら、案内人はその時が来るのを待つ。


 すると、肌を焼くような嫌な感覚が強くなった。


 それだけで、案内人はリアムが近くにいると分かる。


「来たか、リアム!」


 ワープホールが出現し、そこから次々に艦艇が出現してきた。


「ふははは! 待っていたぞ、リアムゥゥゥ――ん?」


 案内人が喜んでカップを放り投げ両手を広げていたのだが、ワープホールから出てくる艦艇の数が――多い。


 おまけに、まだ続々と出現してくる。


「おい、ちょっと待て! いったいどういう事だ!? どうしてそんな数を用意できる!」


 リアムが近くにいるのは間違いない。


 だが、あまりにも様子がおかしかった。


 間違いなくリアムが率いている大艦隊は――その数が十万を超えている。


 案内人が頭を抱える。


 リアムの強い感謝の気持ちが、案内人の皮膚をこがしていく。


「何故だ。どうしてだぁぁぁ!」



「ん?」


 俺が顔を上げると、紅茶を持って来たマリーが俺に尋ねてくる。


「どうしました、リアム様?」


「いや、知り合いの声が聞こえてきた気がした」


 懐かしい案内人の声が聞こえたような気がした。


 そうか――あいつが見守ってくれているのか。


 なら、この結果も当然だな。


 俺が紅茶を飲むと、オペレーターたちが次々に報告をしてくるのだった。


「第二十四艦隊、無事にホールアウトしました」

「第三十六艦隊、こちらの指示を求めています」

「敵艦隊を確認! まだ交戦していません!」


 俺の領地に攻め込む馬鹿がいると聞いて戻ろうとしたら「あ、手を貸すよ」と言ってくれた正規艦隊の司令官が多かった。


 国境を守る艦隊も必要なので、連れて来られたのは十二万隻だ。


 やはり賄賂の効果は絶大だな!


 それから、商人たちが補給物資を次々に送ってくれるそうで、気兼ねなく大艦隊を動かせる。


 御用商人を増やしておいて正解だった。


 ティアが俺に提案してくる。


「リアム様、この状況なら敵を挟み撃ちに出来ます。数はこちらが少ないですが、バンフィールド家の艦隊を突撃させれば、大打撃を与えられるかと」


「そうか」


 それでいこうとすると、司令官が慌てて俺を止めてきた。


 普段何も言わないのに、何かあったのだろうか?


「待ちなさい!」


「――司令、何か問題でも?」


 ティアが司令を睨み付け、マリーが武器に手をかけようとしているところで俺はシートから立ち上がって止める。


「待て。――司令官、何か他に提案があるのですか?」


 すると、司令官は咳払いをしてから俺に説明してくれる。


「確かに有効な手だが、それでは被害が大きすぎる。これだけの規模の戦いならば、相応のやり方があると思う」


 ユリーシアが疑った視線を司令官に向けていた。


「相応のやり方とは?」


「――まずは距離を取り撃ち合うのがいいだろう」


 マリーが腕を組み、司令官の弱腰の戦い方に文句を言う。


「消極的すぎますわね。リアム様に相応しい戦いではありませんわ」


 ――え? そうかな?


 俺に相応しい戦い方って何だろう?


 だが、司令官はいつにも増して真剣な表情をしていた。


「伯爵――王者には王者の戦い方がある。君がこれまで海賊相手に武功を重ねてきたのは事実だが、これだけの規模を率いる身でそれは駄目だ」


 ティアが司令官を前に武器を抜こうとする。


「無礼な。リアム様に王者の戦いを説くつもりか? リアム様は既に王者の風格をお持ちだ!」


 こいつら、本当に俺を理解していない。


 きっとこいつらの中で、俺という人間は凄く素晴らしい人間に見えているのだろう。


 それは全て錯覚だ。


「止めろと言った」


「リアム様?」


 ティアを押しのけ、俺は司令官を見る。


 その真剣な目に、俺は勝負師として素晴らしい司令官の勘を信じた。


「――いいでしょう。全軍に通達。距離を取り攻撃を開始する。敵との距離は常に一定に保つように伝えろ」


 卑怯な戦い方だが、そもそも悪徳領主は卑怯者だ。


 勝てば良いのだ。


 戦い方などどうでもいい。


 マリーが驚いている。


「リアム様!? ほ、本当によろしいのですか?」


「くどい。俺の命令に従え」



 司令官は安堵していた。


(ふざけんな! あんな大艦隊に突撃とか馬鹿なのか? ここはチマチマ撃ち合って、互いに疲れて退く方が安全だろうが)


 突撃をなんとか回避して安堵する司令官は、もうリアムたちとは関わらないと心の中で誓うのだった。


(このまま距離を取って戦えば、この戦艦は沈まないだろ)


 リアムの乗る戦艦は特注である。


 そのため、簡単には沈まないようになっていた。


 だが――。


「よし、俺も主砲を撃ちたいから、旗艦は前に出ろ!」


 リアムがノリノリで前に出ろと言い出した。


(――え?)


 ユリーシアが驚いている。


「中将、前に出ないのでは?」


「距離を取れば安全だろう? なら、一番前に出て敵を撃ち落としてやる。おい、主砲のトリガーを俺に寄越せ」


(嘘!? 何言ってんの、こいつ!?)



 挟み撃ちにされたバークリー家の艦隊は――大混乱だった。


 リアムたちが距離を保ちつつ攻撃してくる。


 こちらも撃ち返せば良いのだが――問題は近距離に強い艦艇が多いことだ。


 長距離からの攻撃に、耐えるしかない状況だった。


 ミサイルを大量に積み込んだ艦艇が、旗艦の近くで大爆発を起こす。


「くそ!」


 ドルフが拳を操作パネルの上に振り下ろす。


 敵はどうやら守りの薄い艦艇を狙っているらしい。


 長男がドルフの胸倉を掴む。


「おい、話が違うじゃねーか! あいつらは突撃してくるんじゃなかったのか!?」


「落ち着いてください。こうなれば、敵の旗艦を探して狙い撃つしかありません。頭を叩き、敵を混乱させるのです」


「敵の大将がどこにいるのか分かれば苦労はしない!」


 バークリー家の艦隊も、敵の指揮官が乗っているであろう艦艇を探していた。


 だが、バンフィールド家の艦隊の方には、破壊するのも難しそうな要塞級の姿がある。


 一方、援軍として駆けつけた艦隊は――どこに指揮官がいるのか分からない。


 ドルフが乗っていた艦艇に攻撃が当たって、大きく揺れると長男が倒れた。


「こ、こんなところにいられるか! 俺はバークリー家の跡取りだぞ! こんなところで死ねるかよ!」


 長男が逃げ出すのを見て、ドルフは呟く。


「ふん、お前など当てにしていない。だが、この状況はまずいな」


 数はこちらが多いのだが、距離を取られ攻撃されてはいずれ逆転してしまう。


 心配しているドルフに声が聞こえてきた。


『――ドルフ、お前に力を貸してやる』


「誰だ!?」


 ドルフが振り返るが、そこには誰もいなかった。


 幻聴でも聞こえたのかと思っていると、オペレーターが叫ぶ。


「敵旗艦を発見しました!」


「何だと!?」


 十万を超える敵からリアムが乗っているだろう艦艇を割り出せた。


 それはとんでもない幸運だった。


「こうなれば予定は違うが、我々が突撃してリアムを叩く!」


 バークリー家の艦隊がリアムの戦艦に突撃をかけようとしていた。


イイコになった若木ちゃんヽ(°▽、°)ノ「お“乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ1巻”は好評発売中ぅぅぅ! 特典もチェックしてみてね♪」


ブライアン(´;ω;`)「――後書きが乗っ取られて辛いです」

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