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みーこ

薬剤耐性訓練

薬剤耐性訓練 - みーこの小説 - pixiv
薬剤耐性訓練 - みーこの小説 - pixiv
3,833文字
習った事を忘れるなよ
薬剤耐性訓練
こういう話が読みたかったので書きました。
⚠クスリ、嘔吐、暴力表現
7,7888,15483,063
2020年6月27日 03:14

前回話した通り学年合同で薬剤耐性訓練を行う、レジュメ上から五行目。リドルローズハート」
「はい…使用薬品、繝舌う阮ャ。効果、強い幻覚作用、色彩異常。」
「よろしい。今回は錠剤を用意した。繝舌う阮ャは少量でも強い幻覚作用を振るう。運が良ければ胃の中のもん全部吐いて終わり。調子が良ければ花畑で天にも昇るような気分が味わえるが踊り出したら三途の川に片足突っ込んでるから周りが止めてやれ。殴って止めてもいいし失神魔法や回復魔法を使ってもいい、但し服用は全員同時に行う。意識の残った者は死ぬ気で周りを助けること。加点は付けるぞ。」

 無茶苦茶である。なんせ天下のNRCなので。
これは二年生になれば必修の授業だった。魔法士たるものあらゆる知識を広げあらゆる経験を詰むべし。何にせよ最上の証明は経験である、とはフランシス・ベーコンの言葉だ。対魔法については防衛魔法として呪文学で習うがこれは違う、人の悪意に対して本気でぶつからねばならない。他人に薬を盛るなんてのは〇.〇二mm程の倫理観もない。もし薬を盛られた際に自分はどれだけの抵抗力があるのか、どういう風に壊れるのかを知っておけとこの教師は言っている。一つ上の先輩も二つ上の先輩もOBである先生たちも皆一七の歳にこの授業で悪夢を見た、見させられた、故に後輩がのたうち回る姿が見たいのだ。これも悪意なのかしら。

 魔法薬学室はいつもと違いがらんどうである。机も無ければ椅子もない、実験器具の入った棚もないし生徒は全員ネクタイを外している。なんてったってヤクがキマった人間は何をするか分からないので。首を吊っただとか近くにいたクラスメイトを椅子で殴ろうとしたとかそんなのはン十年前に起こっていてとっくに対策されている。生徒達は薬学室の床に直接座り「始め!」とクルーウェルの合図で一斉に薬を口に放り込んだ。

 じっとりとした汗をかきながら誰一人として口を開かない。薬が体に回るまで多少は時間がかかるから。一番最初に異変が現れたのはアズールだった。ガボっと音がしたかと思ったら吐いた。墨に混じって昼食が消化されないまま出てきた。白衣が黒く染まるがそんなことはどうでもいい。なんせめちゃくちゃ辛いのだ。エッ嘔吐ってこんな気持ち悪かったですっけ? 飲みすぎたとか食べ過ぎたとかそんなもんじゃなくて去年の夏に牡蠣に当たったあの時の比じゃなくてゲェゲェ吐いた。吐いても吐いても苦しかった。口の周りは墨でベタベタ、涙は止まらないし腹痛も酷い、床にうずくまり体の水分を出し続けるアズールの背をカリムがさすってやった。
 カリムはこの程度のヤクなら自分に効くことはないと確信していた。だって普段あんなに盛られてるからな。そりゃあな! こんな世に出回ってる合成麻薬なんて六つの頃には耐性がついてた。故に彼はケロッとしている。同じように毒味やなんかで耐性の出来てしまってるジャミルもケロッとしていた。効かないのだ、悪意に対する場数が違う。ゲェゲェ吐き続けるアズールにいっそ失神魔法でもかけてあげようかしらと思ってやめた。吐くのは良い方なのである。賽の河原で踊る奴らを止める戦力になり得るくらいには。
 一人また一人と症状が出てくる。頬を赤らめて訳の分からない言語を喋る赤い腕章の生徒、突如服を脱ぎ出す獣の耳が生えた生徒、横に座っていた友人をかじろうとする水色のベストを着ている生徒。そんな折スコーンと良い音が教室に鳴り響いた。ジャミルが振り返るとシルバーが床にぶっ倒れている。どうやらオチたらしい。昏睡だ。こりゃ戦力にもならんな、と仕方ないので軽い回復魔法だけかけてやった。
 歌が聞こえ出す、綺麗な歌声。普段は海を荒らす人魚の歌声はいつしか二重奏になっていた。あの双子が三途の川に突っ込んだらしい。スクっと立ち上がり決して広くない教室を踊り出す。長い手足をぶん回し心底楽しそうに、泳ぐように、キラキラしながら二人が泳ぐと周りがつられるように歌い出し踊り出した。どうやら彼らも川遊びを始めたようだ。さあ、いよいよ棺桶に半身を突っ込み始めたので止めねばならない。ざっと八〇人はいる教室でケロッとしているのはほんの一割程度。ポムフィオーレの寮生とカリムとジャミルとそれからラギー。ラギー、実はなんともない、何故ってスラムにゃヤクが横行してるもんだから。安い金で体を売って売人からヤクを買う、これ自然の摂理。夕焼けの草原はそんなにお上品なところばかりではないのだ。彼も勿論昔吸ったことがある、どころか帰省の度に仲間に合わせるように吸っていた。要は慣れっこなのだ。多少先生が電気ネズミのような色味で見えるだけ、こんなもんなんてことはない。とりあえずあの図体がデカくて邪魔なウツボから止めるかな…とチカチカする視界に目を細める。
「ジャミルくん、俺が動き止めるんでリーチ止めてもらっていいっスか! 失神魔法とかで!」「分かった、ただ俺は失神魔法は苦手で加減が出来ないから殴って止めるな!」
真っ赤な嘘である。あのジャミル・バイパーに履修後苦手とするような呪文なんてものはない。実は四章の事を未だに許していないだけ。ラフウィズミーで止まったジェイドの鳩尾にありったけの恨みつらみを叩き込んだ。長い体躯がぽっきり折れる。「ふふ、お転婆なきのこですこと」と惚けたことを言いながら彼は気絶した。どうやら花畑ではなくきのこの群生地にトリップしたらしい。彼だけマジックマッシュルームでもキメたのかな。
 同じようにラフったフロイドのこともありったけの力で鳩尾に膝蹴りを入れた。虹色の吐瀉物を撒き散らしながら彼もオチた。後は面倒なのでそこらで踊っている奴らには失神魔法をおみまいした。加減の出来ないカリムが放った呪文でふっとんで壁に思い切りぶつかったりうっかり錯乱魔法をかけられてクルーウェルに殴りかかって逆にぶん殴られて気絶したり、まあまあの人数が床に臥せることになった。
 内訳とすれば六割くらいがぶっ倒れた。ジャミル達に潰されたり吐き戻して意識が朦朧としていたり。吐いてる奴はそのままにしてマジカルペンでめちゃくちゃな魔法を出してる奴らの頭をスっ叩いて止める。床にしっちゃかめっちゃかな魔法陣を書く者、しっちゃかめっちゃかな動物言語でキメラを呼ぶ者、古代呪文! と叫びながらクルーウェルのコートにマッチで火を付ける者はやっぱり先生にぶん殴られて床に沈んだ。
 一人明らかに様子がおかしいのがリドルだった。カタカタと震えながら小さい声で呟いているだけなら他が鬱陶しすぎて目にも止まらないが、ペンを腕に刺して自傷するし、吹き出した血液を見て「ごめんなさい」の声が更に教室に響く。流石にラギーがやめましょって肩を掴むが振りほどいて暴れ出す。高笑い混じりの絶叫にラギーがキレた。彼は気が短いのだ、なんせ一七歳なので。ユニーク魔法で止めようとして、弾かれた。リドルは優秀なのだ、なんせ学年一位なので。
 気が触れたようにごめんなさいと高笑いを繰り返すリドルに、まアたバッドトリップはハーツラビュルかとクルーウェルは頭を抱えた。去年の授業でバッドトリップを起こし魔法を暴発させたのは何を隠そうケイト・ダイヤモンドである。オレはコイツでコイツはアイツ! 重なる声と声、ねずみ算式に増えていく分身、二〇〇人を超えたところで教室に収まらなくて周りも手出しが出来なくて仕方ないからクルーウェルが分身を全部殴って消して本体の頭をぶっ叩いて万事解決。ケイトは魔法の使いすぎで二週間寝込んだ。
大体その前の年もその前の年もなんだったらクルーウェルが学生だった頃もハーツラビュルから毎年毎年面倒なバッドトリップを起こす生徒が出ていたのだ。元寮生として頭が痛い。
 現在進行形で騒ぎ、のたうち回り、あらゆる妨害魔法を弾き返すリドルをそろそろ止めないとダメかしら、と腰を上げたところで一番最初にダウンしたアズールがよたよたとリドルの元に這って行くのを見て座り直した。白衣はほとんど真っ黒であるし彼が通る道に黒い痕跡が残る。タコスミって水性? 擦れば落ちる?
 リドルの元までやっとのことで来た彼は白衣のポケットから注射器を取り出して迷わずリドルの内ももに打った。「…ゥ、筋弛緩剤です、ッハ、すぐ効くので、」と言葉も半ばでぶっ倒れた。気絶したんだろう。対してリドルはビク…ビク…と体を震わせてまるで陸に打ち上げられた金魚みたい、なんてね。落ち着いたところでカリムが失神魔法を放った。今度は成功したようでリドルはちゃんと気絶した。


 改めて見回すととんだ死屍累々である。意識があるのはラギーカリムジャミルを含めて七人、床は虹色に輝く吐瀉物と人魚達が吐いた黒い墨や青い液体、一人だけやたら綺麗なのは早々に昏睡に陥ったシルバーだけ。
「Good boy! 終わりだ! そら片付けるぞ、教室の外から見てる先輩達呼んでこい!」実は上級生達は皆授業をサボって窓やらドアやら遠視魔法やらで覗いていた。当たり前だ、普段生意気な下級生が確実にゲェゲェ吐く一大イベントなのだから。毎年こう、それで片付けも手伝ってくれる。
去年の自分を思い出して頭を抱えるケイトも全員立ってる寮生に「やるじゃない!」と褒めるヴィルもラギーの顔に付いた吐瀉物を拭ってくれるレオナも手伝って薬学室は元通りになった。めでたしめでたし。

薬剤耐性訓練
こういう話が読みたかったので書きました。
⚠クスリ、嘔吐、暴力表現
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2020年6月27日 03:14
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