●　●　●

　駿が真紅郎を倒す光景は、達也の側からも見えていた。

　真紅郎が《不可視の弾丸》を使用する直前、駿は自己加速術式を使用して相手の側面へと回り込んだ。急激な速度の変化により、真紅郎からはまるで姿が消えたように見えただろう。

　相手の意表を突き、講じられた対策をも利用した見事な動き。

　そうして生じた一瞬の好機は、達也の戦術と駿の技能によって生み出されたものだ。

　予選から準決勝までディフェンスに徹したことで、駿の機動力が損なわれていることは他校に対して強く印象付けられていた。

　怪我をしたと報道された選手が運動量の少ないディフェンスに配置換えしたのだ。怪我の影響で動き回れないからだと考えるのは至極自然なことだろう。

　駿から作戦立案を任された達也は第一に、駿へなるべく動かないよう指示した。

　怪我をした足が悪化することを防ぐ趣旨も当然あったが、それ以上に他校への欺瞞目的であることは達也と駿の間における暗黙の了解だった。

　怪我の為に動き回ることができない。そう思われていた選手が先陣を切って飛び込んでくるのだ。相手は少なからず動揺し、戦力を誤認する可能性は高い。

　駿の対処へ向かったのが真紅郎一人だった時点で、戦術的な成功は確定していた。その上で真紅郎までも撃破できたのは、駿の磨き上げられた技能による結果だ。

　幹比古の巻き上げた煙幕から飛び出した時、駿はまだ自身の走力のみで駆けていた。魔法を併用すればより速く走ることもできたにもかかわらずだ。

　意表を突いた接近とサイオン弾による妨害で真紅郎へ肉薄した駿は、そこで初めて《自己加速術式》の手札を切った。それもCADの操作から動きを読まれないよう、起動式の展開と読み取りは煙幕内で済ませる徹底ぶりで。

　一度に2種類までしか魔法を併用できない。

　自ら口にしていた弱点を補うため、駿はこうしたテクニックを駆使して相手の動揺を引き出したのだ。

　限られた手札の中、磨き上げられた技術と工夫で格上の相手に挑む。

　『森崎駿』の真骨頂が、達也の戦術と相まって大きな戦果をもたらしていた。

　真紅郎が敗れたことにより、試合の流れは一高へと傾く――かと思われた。

　だがその直後、駿は横合いから叩きつけられた圧縮空気によって吹き飛ばされた。

　すぐ傍に真紅郎がいたためか威力は控えめだったものの、至近距離からの直撃、それも斜め上方へ掬い上げるような一撃だ。草地の上を激しく転がった駿は立ち上がるのに苦慮していた。衝撃によって脳震盪を引き起こしたか、或いは立ち上がれない程のダメージを負ったのだろう。

　倒れた駿をちらりと見て、達也が僅かに目を細めた。

　見通しが甘かったと、達也は自身のミスを悔いる。将輝の繰り出す攻め手に気を取られ、駿へのサポートが疎かになっていた。真紅郎と対峙している間は手出しもされないと予想した面もある。

　自分や幹比古の頭上に展開される魔法式は迎撃が間に合うものの、離れた位置の地上付近、それも射線に倒れ込む真紅郎が被っているとあって対処が遅れてしまった。

　《偏倚解放》の直撃を受けて駿が倒れ、痛み分けで有利不利は変わらぬまま。

　互いに有力な攻め手を失ったことで、両校の前進する足が鈍る。

（初めから使っておくべきだったか）

　内心で後悔するも遅く、ならば少しでも勝率を高めようと達也は隠すべき手札の一つを敢えて切る。

　一度目を閉じ、瞼と共に閉ざしていた『眼』を開いた。

　『イデア』と呼ばれる情報次元を視ることのできる眼。

　達也の持つ特異な力の一端がこの《精霊の眼(エレメンタル・サイト)》だ。

　この世界のあらゆる存在はイデアにその情報――エイドスが刻まれており、魔法式はこのエイドスの記述を書き換えることで事象改変を引き起こしている。

　この時投射される魔法式はイデアを経由して送られており、だからこそ魔法師はイデアを感覚的に認識することができる。静かな部屋で音が鳴ればそちらへ向くように、静謐なイデアに魔法式が投射されれば魔法師は捉えることができるのだ。

　達也の《精霊の眼》は、この魔法師なら誰にでもある感覚を拡張したものと言える。

　さながら暗中を映す赤外線カメラのように、はたまた水中を探るソナーのように。《精霊の眼》はイデアに記されたエイドスを能動的に『視る』ことができるのだ。

　そしてこの『眼』のもたらす恩恵は、殊魔法師にとって非常に大きいものとなる。

　イデアに存在の刻まれないエイドスはない。

　詰まるところ、達也の『眼』から逃れられるのは存在しないものだけなのだ。無数の重なり合った情報の中から一度でもピックアップされたが最後、《精霊の眼》から逃れることは非常に難しい。

　そして、それはイデアへ投射される魔法式であっても同じこと。

　《精霊の眼》を開いた達也が空を見上げる。

　本当は顔を向ける必要すらないのだが、そこは少しでも情報漏洩を防ぐため。情報次元に視える景色を追って、視線を砲撃の来る座標へと向けた。

　将輝がCADの引き金を引く。投射されたサイオン構造体が将輝の身体から伸び、空中の複数箇所に像を結んだ。計8つの魔法式が半円状に並んで展開する様子を、達也の『眼』はしっかりと捉えていた。

　頭上に広がった魔法式が効果を発揮する前に撃ち砕く。砲口の位置は魔法式が展開する前からわかっており、だからこそより素早く確実に迎撃を終えた。

　すかさず達也が呟く。

「やるぞ、幹比古」

　返事を待たずに駆け出し、持ち前の俊足で300メートルの間合いを詰めに掛かった。その後に、徐々に距離を離しながら幹比古が追走する。

　静かに疾駆する達也の視線が、勇み笑む将輝と絡み合った。

　●　●　●

　勝負に出た一高チームに対し、将輝の反応は冷静だった。

（やはり攻めてきたか）

　司波達也と森崎駿。

　二人を擁するチームを相手に、真紅郎は最大限の警戒を敷いていた。真紅郎に絶対の信を置く将輝ですら大袈裟に思ったほどで、しかし現状、一高は真紅郎が危惧した以上の善戦を見せていた。

　遮蔽物のない草原ステージに煙幕を張られた時点で将輝は真紅郎の予想が正しいと直感した。それからはもう迷いもなく参謀(真紅郎)が提示した方針通りに砲撃を続け、真紅郎が敗れた瞬間、手筈通りに(・・・・・)駿を打ち倒した。

『もしも僕らが森崎駿に倒された時、彼はヘッドギアを外そうとするだろう。これまでの試合を見る限り、彼は相手の頭を揺さぶって脳震盪を起こし、意識レベルを低下させる魔法を使っているんだと思う。倒した相手の意識がいつ戻るかわからない以上、試合への復帰を阻むためにも確実に相手を脱落させようとするはずだ』

　真紅郎の分析した通り、駿は倒れた真紅郎のヘッドギアを外そうと近付いた。

　無防備に足を止めた駿へ《偏倚解放》を放ったのは、そこに隙ができると真紅郎から聞いていたからだ。

『もし僕が負けたら、将輝にはその瞬間を最大限利用して欲しい』

　そう頼まれていたからこそ、将輝は真紅郎が倒されるのを阻まなかったのだ。

　リベンジに燃える親友へ水を差したくなかったのはもちろん、それ以上に親友の覚悟を汲んでやりたかった。そうして仇を討った将輝は、試合前に真紅郎が漏らした懸念を疑うことはなかった。

　将輝が駿を狙う瞬間、将輝の視線は駿へと向く。

　そうして生じる隙を達也が見逃すことはないだろう。予選から準決勝までの3試合を経て、達也の類稀な戦術眼とセンスを知った真紅郎はそう予想していた。

　結果は真紅郎の危惧した通り。囮の魔法で達也の注意を逸らし、真紅郎へ近付く駿を撃った瞬間、達也はすかさず駆け出した。

　警戒していなければ焦っていただろう。あっという間に距離を詰めてくる達也を前に、或いは判断を誤っていたかもしれない。

　予想外はない。油断も拘りもなく、将輝は達也を見据える。

　守るべき本陣を背に、親友を討ち取られた将輝が全霊を解放した。

　チームメイトの位置を確認し、巻き込む心配はないと断じた将輝が迎撃を開始。

　まずはこれまで通りの《偏倚解放》で注意を上空へ。同時に相手の足下の土を振動系統の魔法で砕いて細かい砂にし、体勢を崩したところに速度重視の移動魔法を叩き込む。

　迎撃の段取りを立てた将輝が立て続けにCADを操作し、迫りくる達也の頭上へ向けて魔法を放った。

　達也の足は止まらない。

　上空へ展開した8つの《偏倚解放》を正確無比な射撃で打ち消した達也は、そのまま液状化した地面を跳び越え、読み込み途中だった移動魔法の起動式を吹き飛ばした。

　まるで使う魔法が分かっていたかのような対処に、将輝は唇の端を歪める。

　再度CADを叩き、走り寄る達也を取り囲むように砲門を生成。砕かれる傍から追加して途切れることなく砲口を向け続け、迎撃する達也の足下を流砂へと変えていく。

　これにはさしもの達也も進行が止まる。

　一撃必殺の威力を持つ《偏倚解放》を無視するわけにはいかず、かといって足下の魔法を放置すれば身動きが取れなくなってしまう。《術式解体》を撃てるのは右手のCADだけで、全周に展開される《偏倚解放》と足下の振動魔法を破壊するには手数が足りなかった。

　《精霊の眼》を開いたことで迎撃に問題はない。

　だが移動にまで魔法を使う余裕はなく、なかなか前に進むことができなかった。

　達也と将輝の距離は残り約100メートル。

　一瞬も気の抜けない砲火の下、罠を避けて進むには遠い距離だ。冷静に確実に将輝の攻撃を捌く達也は、しかしあと一手が足りないと感じていた。

　そんな最中、ふと達也の『眼』が何かを捉えた。

　眉を寄せ、眼差しを鋭くした達也が通信越しに幹比古の名前を呼ぶ。

　直後、二度目となる轟音が三高陣地の目と鼻の先で上がった。

　再び遮られる視界。だが、それでも将輝は落ち着いていた。

　装填していた《偏倚解放》を展開しつつ、アイコンタクトをチームメイトへ送る。

　自身の魔法式が《術式解体》に砕かれるのを知りながら、達也の進攻を阻むためにも二つの魔法を揮った。

　三高のオフェンスが起動式を展開。収束系統の魔法式が煙幕の直上に投射され、流れ込んだ空気が土煙を押し流しに掛かる。煙の奥から飛来するサイオン塊は《偏倚解放》を砕くのに掛かりきりで、煙幕の消失を止める者はいない。

　二度目は破ったと将輝が確信した、その瞬間――。

　横合いから撃ち出された《術式解体》が、頭上の魔法式を撃ち砕いた。

「いつの間に……っ！」

　あの一瞬で回り込まれたのかと魔法の出所へ目を向けて。

　将輝は驚愕に目を見開いた。

　視線の先には、片膝を突き、荒い息に肩を上下させる駿の姿があった。

　◇　◇　◇

　打ち上げられ、錐揉みしながら宙を舞った身体が勢いそのままに草の上を転がった。

　受け身を取る余裕などなかった。衝撃のあまり意識が飛びかけて、全身を叩く鈍い痛みで目が覚めた。うつ伏せの状態で止まった身体は痺れるように重く、指先一つにすら力が入らない。

　意識がはっきりしてくると、次第に身体の各所が痛みを訴えてきた。

　ダメージが重いのは右脚と左腕。特に左腕は脱臼しているようで、動かすこともままならない。圧縮空気の砲弾に打たれる直前、胸元への狙いを避けた結果だろう。

　右脚の痛みは自己加速術式を使った反動だ。元々怪我をしていたところに負荷を掛けたことで症状が悪化したのか、ハンマーで殴られたような鈍痛が後を引いている。

　それでも、意識だけはどうにか繋ぐことができた。

　震える右手で身体を起こし、肘で支えて前を見る。

　霞んだ視界の向こうに、達也と幹比古の姿があった。どちらも懸命に腕を揮い、迎え撃つ三高の二人へ迫ろうとしている。

　三高の陣地までは残り100メートルといった位置。

　だが、二人の足はそれ以上先へ進むことができずにいた。

　一条将輝が本陣にいる。達也と戦うために攻め込んでいた原作との差異が、そのまま相対距離に現れていた。

　加えて一条将輝の使うCADは汎用型。《偏倚解放》以外の魔法も振るえるというメリットが活き、攻める達也の進攻を完全に阻んでいる。

　幹比古の方も押しているとは言えない状況だった。

　CADを使うことで高速化されているとはいえ、彼の扱う古式魔法は速度よりも威力や応用性に重きを置いたものだ。実力者揃いの三高でモノリス代表に選ばれるほどの選手には、さしもの幹比古も攻めあぐねていた。

　このままではジリ貧だ。防戦一方の達也に対し、一条将輝にはまだ余裕がある。

　幹比古もすぐに相手を攻略できそうにはなく、達也の防空圏が破られればその時点で勝敗が決まってしまう。

　この状況を打開するには、一条将輝を倒さなくてはならない。

　一条将輝を倒せるのは恐らく達也だけだ。

　だが達也が有効打を与えるには相手に接近する必要がある。

　そして、達也が近付くためには一条将輝の攻勢を緩めなくてはならない。

　意表を突き、一条将輝の目を達也から逸らす。

　今それができるのは、倒されたと思われている僕だけだ。

　支えにしていた右腕に力を込める。

　全身が悲鳴を上げるが、この程度の痛み、三年前に比べれば何でもない。まだ健在な左足と、鈍痛の残る右足も使ってどうにか立ち上がった。

　外れた肩を嵌めている時間はない。まともに動かない左腕はそのままにして、手首のCADだけを操作。自己加速術式を読み出して、感覚が遠く重い身体へ行き渡らせる。

　そのとき、三高陣地の近くで地面が噴き上がった。

　土を砕いて生じた煙幕で視界を遮る、幹比古の仕掛けた魔法だ。試合開始直後、幹比古は作戦通り二体の精霊を地中へ仕込ませていた。

　達也と幹比古が状況の打開へ動いたのだ。

　今しかない。訪れた絶好の機会に、一歩足を踏み出した。

　よろめきながら、倒れそうになりながら、どうにか足を踏み出していく。

　地面を転がった所為か全身の至る所が痺れ、右足は鈍った痛覚でも耐え難い痛みを訴えてきた。左腕は慣性に引かれて刺すように痛み、息が切れて肺が詰まった。

　それでも身体は前に進んで、間もなく三高陣地の側面へとたどり着く。

　瞬間、土煙の上空に魔法式が投射された。

　術者は三高のもう一人のオフェンスで、恐らく煙幕を晴らすための魔法だろう。

　これしかないと思った。これがいいと直感した。

　振り向きながら左足で制動を掛け、ついに耐え切れなくなった右足が折れる。

　力の抜けた右膝をそのまま地面に付け、倒れ込みそうになるのを左足一本で支えた。

　右手に握ったCADを上空の魔法式へ向け、引き金を引く。

　高密度に圧縮されたサイオンの砲弾が、上空の魔法式を撃ち砕いた。

　今回の九高戦において、達也だけがその猛威を見せつけた《術式解体(グラム・デモリッション)》。

　扱える者のほとんどいないこの魔法を、達也以外が使うとは誰も思わないだろう。

　予想通り、一条将輝は振り向いた。

　鋭い眼差しがこちらを射抜き、すぐに驚愕が浮かぶ。

　そうだ。こっちを見ろ。

　君の注意を僅かにでも逸らせれば、その一瞬で王手に持ち込める。

　一条将輝の左手が伸びてきて、CADに指を触れた瞬間、彼は仲間の声で我に返った。

　倒れるだけの僕から目を切って、眼前に迫る脅威へと振り向く。

　土煙を破って、『主人公』が躍り出た。

　遠ざかる意識の下、敵将へ向けて疾駆する横顔へ心からのエールを送る。

　征け、達也――。

　それが、君の戴く栄光への筋道だ。

　●　●　●

　倒したはずの駿を目にして、将輝の動きが一瞬止まった。

　右手一本を空へ向けた駿。

　身体には至る所に擦り傷が付いていて、左手は力なく揺れていた。

　泥の付いた頬はそのまま、けれど口元には小さく笑みが浮かんでいる。

　ハッとして左手を向けた将輝の耳に、仲間の声が届く。

「一条、正面だ！」

　声が聞こえたと同時に、土煙を破って達也が飛び込んだ。

　振り向き、目が合った将輝が得体の知れない怖気に襲われる。実戦を経験した本能が、間近に迫った達也へ激しい警鐘を鳴らしていた。

　気付けば魔法を繰り出していた。

　キャパシティが許す限りの全力。咄嗟の行動の所為でレギュレーション違反となり得る威力を内包した、計12発にも及ぶ《偏倚解放》が至近距離の達也を取り囲む。

　やり過ぎたと後悔する将輝の眼前で、達也が迎撃を開始する。

　《精霊の眼》によって発動順を見極め、早いものから一つずつ《術式解体》で撃ち砕いていく。

　見事な体捌きで強固な砲門を砕いていく姿は力強く、幻想的で、相対する将輝すらも呆然と見ていることしかできなかった。

　一つ、二つと《偏倚解放》が撃ち抜かれ、砕けた魔法式を構成していたサイオンが舞い散る中、最後の一つまでを打ち砕いた達也が止まることなく将輝へ踏み込む。

　CADを持ち替え、無手になった右手が将輝へ伸び、咄嗟に避けた顔の横で止まった。

　一瞬の静寂の後、達也の鳴らした指音がジェットエンジンの如くにまで増幅された。

　至近距離でそれを浴びた将輝はたまらず意識を失い、膝を突いて倒れ込む。

　続いて達也も膝を突き、右耳から血を滴らせて俯いた。

　短く息を吐きながら、達也が将輝のヘッドギアを取り外す。

　あの一条将輝が敗れた。

　信じ難い光景に、スタンドはおろか選手たちの間にすら沈黙が過る。

　唖然とした空気を破ったのは残った最後の一人だった。

　真紅郎に引き続き、将輝まで敗れたのを見て逆上した彼は、片膝を突いて動けない達也と、その向こうで倒れ込んだ駿へ向け、掘り起こした土砂を差し向けた。

　審判団が慌てて動き出す。

　将輝まで巻き込みかねない土の津波はしかし、達也の眼前で突如二つに分かたれた。

　船首に当たる波のように割かれた土砂は達也と駿、将輝の三人を巻き込むことなく流れて止まる。

　思いもよらぬ結果に呆然とする三高の選手。

　その背中へ斜め後方から雷が降り注いだ。

　精霊を介した雷撃魔法。その前に土砂を割断したのも精霊による干渉の結果だ。

　予想外の攻撃を浴びて呻きを漏らし、前のめりに倒れ込む。一時的に麻痺した身体が起き上がることはなく、倒れたまま動かなくなった。

　達也が振り向いた先で、幹比古はCADに手を添え安堵の息を吐いていた。

　やがて、試合終了を告げるサイレンが鳴る。

　優勝候補の本命を破り、一高の優勝が決まった瞬間だった。