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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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四章プロローグ

長く厳しい戦いでした。


そして今も戦い続けています。


――皆さんも虫歯には気を付けましょう。

 幼年学校卒業より一年。


 バンフィールド家の屋敷では、使用人の衣装に身を包んだロゼッタの姿があった。


 頭の上に機械のボールを置いて、白線の上を姿勢正しく歩いている。


 シックな紺色のメイド服に、ロゼッタの長い金髪の縦ロールは目立っていた。


 普段きつめに見える表情は、歩くことに意識を集中しており緊張した様子だった。


 そんなロゼッタを指導しているのはセリーナだ。


 手を叩き、ゆっくり歩いているロゼッタを急かしている。


「いつまでゆっくり歩いているのです? もっと速く歩きなさい」


 今のロゼッタはリアムの婚約者であり、いずれは妻になる身だ。


 身分としてはセリーナよりも上なのだが、現在のロゼッタは屋敷で修行中であるためにセリーナが指導する立場である。


 言葉遣いも厳しいものになっていた。


 ロゼッタが涙を流す。


「もう嫌よ!」


 そんなロゼッタを見るセリーナは、呆れ果てた顔をするのだ。


「――何度言えば理解するのですか? ロゼッタ、貴方にはリアム様に相応しい妻になるための修行が必要なのですよ」


 ロゼッタだが、セリーナの修行が厳しいから泣いているのではない。


 これなら、まだ以前の生活の方が厳しかった。


 作法やら色々と覚えることは多いが、そこは耐えられる。


 耐えられるのだが――問題はリアムだった。


「私もダーリンと士官学校に入学したかったのに!」


 現在、リアムは士官学校に進学中である。


 嫌がるウォーレスも連れて入学しており、バンフィールド家の屋敷にはいなかった。


「教育カプセルから出て来たら、ダーリンが士官学校に入学していたなんて酷いわ!」


 セリーナは冷静に対応していた。


「将来の公爵夫人が軍人になる必要はありません。今のロゼッタに必要なのは、奥向きを管理する能力ですよ」


 貴族の男性は役人と軍人の資格を取って一人前とされるが、女性に関して言えば必要なかった。両方の資格を得る女性もいるが、全体の三割にも満たない。


 女性だからと受け付けないのではなく、単純に希望者が少なかった。


「ダーリンの役に立ちたかったのに」


 泣いているロゼッタを見て、セリーナは呆れつつも感心する。


(努力する姿勢は良いのだけどね)


 幼年学校の卒業時、ロゼッタの成績は最終的に中の下程度まで上昇していた。


 教育カプセルで付け焼き刃の処置をしたので、下の中から上程度になるだろうという予想を覆してその上にいけたのは本人の努力の結果である。


 セリーナはロゼッタを高く評価している。しているが、


(貴族の女性には珍しいタイプよね)


 夫に尽くす女性も多いが、ロゼッタのような士官学校まで付き添うというタイプは珍しい。


 リアムなど、ロゼッタが士官学校についていくという話を聞いて「――ロゼッタが教育カプセルに入っている間に、ウォーレスを連れて入学するわ」と、逃げるように出ていった。


 セリーナが小さく深呼吸をして、再びロゼッタの教育に戻る。


「ロゼッタ、泣いていても終わりませんよ。リアム様に相応しい女性になりたいのなら、すぐに立ち上がるべきです」


 それを聞いてロゼッタは立ち上がる。


「分かっているわ。ダーリンが戻ってきたら、公爵夫人として相応しい姿を見せてあげるの」


「――それは大変結構ですが、リアム様はしばらく戻ることができませんよ」


「え? だ、だって、士官学校の教育期間は六年だって」


 セリーナは丁寧に説明する。


「卒業後はすぐに研修が始まります。二年の研修後、最低でも四年は軍で過ごすのです。配属先によっては、十二年間は戻ってきませんね」


「そんなぁぁぁ!」


 またしても涙目になるロゼッタだった。


「その間に、ロゼッタは他家での修行も行う必要がありますね」


「ダーリンと十二年も会えないなんて」


「――私の話を聞きなさい」


「は、はい!」


 通常なら成人後に他家に預けられるのだが、クラウディア家の者を預かる家はなくロゼッタは他家で修行を受けていない。


 貴族社会では他家で修行をしていないと侮られるので、こちらも早急に行う必要があった。


 ただ、問題もある。


(――バークリーファミリーと争っている今、ロゼッタ様を預ける家は慎重に選ばないといけないわね)


 どこに預けてもいい、とは言えない状況だ。


 セリーナはロゼッタの教育に頭を悩ませるのだった。



 バークリー男爵家の屋敷。


 そこはとても立派で、豪奢に作られた屋敷だった。


 ほとんど都市という規模で、男爵家とは思えない屋敷だ。


 そんな屋敷の執務室で、バークリーファミリーのボスである【カシミロ】は葉巻を咥えていた。


 白い煙を吹き、目の前で震えて床に座る男を見ている。


 その男は、バークリー家に敵対した貴族だ。


「人様の悪口ばかりか、バークリー家の邪魔をするなんていけない人だ」


 カシミロがそう言うと、周囲にいる息子たちもニヤニヤしていた。


 彼ら全員が男爵である。


 バークリーファミリーとは、男爵家の集まった組織だ。


 もっとも、巨大な領地をカシミロが子供たちに割譲して独立させたことになっているだけで、実際に全てを管理しているのはカシミロ本人だ。


 実際の領地規模は公爵家と比べても遜色がないどころか、帝国でも随一だ。


 その理由は領地だけではない。


 十万を超えるバークリー家の艦隊。


 そして、帝国中の海賊たちは、カシミロの支配下にあると言ってもいい。


 流れてくる海賊たちは別だが、帝国で活動している海賊たちを束ねているボスがカシミロだ。


 海賊貴族と言われる所以である。


 そんなカシミロと手を組む貴族も多いが、目の前の男のように逆らう連中も多かった。


 目の前の男がそうだ。


「ふ、ふざけるな! うちの領地に圧力をかけ、海賊たちに散々襲わせたのはお前たちじゃないか!」


 カシミロが葉巻を吹かす。


「素直に領地や爵位を渡してくれればよかったんだ。息子を独り立ちさせたい親の気持ちが分からないかね?」


「そのために私の家を滅ぼすのか!? 私の家族も殺しておいて――この海賊がぁぁぁ!」


 貴族がそう叫びながら立ち上がってカシミロに襲いかかると、息子たちが銃を持って貴族を撃つ。


 貴族が倒れると、床に血が広がるのだった。


「――この外道共が。お前らなど、バンフィールド家に滅ぼされてしまえ」


 そう言って事切れる貴族を見下ろすカシミロは、葉巻を投げ付けて踏みつけて消す。


「馬鹿な男だ。バークリー家に従っていれば、命までは奪わなかったものを」


 息子の一人がカシミロに話しかけてくる。


「親父、これで俺も男爵か?」


「ん? あぁ、好きにしろ。もっとも、領地の管理はわしがするがな」


「これで俺もファミリーの幹部だ!」


 喜ぶ息子だが、カシミロはその息子の名前やら何番目の子かなどを知らない。


 ただ、血縁なら多少は裏切る心配もないだろうと思って、息子たちを男爵にしているに過ぎなかった。


「――さて、そろそろエリクサーの在庫も尽きかけてきている。ここらで、惑星一つを枯らして補充しておきたいが、どこがいいものか」


 そう言うと、別の息子が候補を提案するのだった。


「それならいい惑星がある。実は狙っている娘がいるんだが、海賊貴族にはやれないと言われてしまったんだ。報復のために滅ぼしておきたくてね」


 髪を弄りながら喋る細身の息子の頼みで、カシミロはエリクサーを手に入れるために人も動物も、そして星さえも殺すことを簡単に決めてしまう。


「下手な繋がりさえなければどうでもいい。すぐに滅ぼしてこい」


「そうするよ。だが、娘だけは見逃して欲しい。僕の愛人にしたいからね」


「好きにしろ」


 惑星開発装置――古代の技術で作られたオーパーツを複数所持しているのが、バークリー家の強みだった。


 これは惑星を活性化させ、人が住めるように調整する機械だ。


 だが、使い方を変えると、惑星やそこに生きる動物たちからエネルギーを奪い殺してしまう。その対価にエリクサーが得られるのだ。


 これを利用してエリクサーを大量に用意し、バークリー家は帝国で成り上がってきた。


 人を、そして星すら殺して成り上がってきたカシミロは、死んだ貴族を見下ろしていた。


「――それより、バンフィールド家はどうなっている?」


 そんなバークリー家に正面から喧嘩を売った貴族がいる。


 ――リアム・セラ・バンフィールドだ。


 カシミロの息子たちが、顔を見合わせて言い難そうにしていた。


「報告しろ」


 カシミロがそう言うと、髭を生やした息子が報告してくる。


「――うちで抱えている暗殺者、それに凄腕を雇って送り込んだ。だが、全て失敗したよ」


 喧嘩を売られたので暗殺者を放った。


 だが、全て返り討ちである。


「随分と粘るじゃないか。ま、このまま送り続ければ、嫌でもプレッシャーを感じるだろう」


 落ち着いているように見えて、カシミロが頭にきているのを察した息子の一人がすぐに暗殺を止めるように言う。


「親父、リアムの小僧は士官学校に入学した。暗殺者を送り込めば、軍がいい顔をしない」


「それで? このまま黙って見ていろと言うのか? いいか、貴族って言うのは今も昔も面子商売だ。舐められたままでいられるか!」


 カシミロの言葉に、息子たちは暗殺以外の方法を提案する。


「――親父、バンフィールド家には借金がある。結構な額だ」


「先代が残した借金だったか? それがどうした?」


「うちと繋がりのある会社からも借りていた。ここは多少強引な方法を使ってでも、無理矢理取り立ててやろうと思うんだ」


 それを聞いてカシミロは少し悩むのだった。


(真面目に返済している小僧から、無理矢理取り立てるとなると――うちのフロント企業の信用がガタ落ちだな)


 商売と他家の弱みを握るため、金融業にも手を出していた。


 そこからの収益も馬鹿にできる金額ではなく、信用を失うのは避けたい。


 しかし、リアムに暗殺者を送り続けて失敗を繰り返せば、バークリーファミリーを侮る家も出てくるだろう。


(多少の損失を出してでも、あの小僧は潰さないと駄目だな)


 海賊狩りとして成り上がってきたリアムは、カシミロからすればいずれ敵対する貴族だ。


 リアムが貴族社会に台頭してくれば、担ぎ上げる家も増えて厄介になる。


(――ここで決着をつけないと、いずれ食われるか)


 バークリー家に恨みを持つ家も多く、リアムが修行を終える前に勝負を付けたいという気持ちがカシミロにはあった。


「いいだろう。バンフィールド家が返済できずに潰れると噂を流せ。他の金貸し共も、大慌てで取り立てるだろうよ」


 リアム個人から、バンフィールド家に狙いを変更する。


 大貴族同士のつぶし合いが本格化しつつあった。


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。このブライアンどころか、リアム様も未登場で――辛いです」

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