案内人は復讐の種を育てる
ライエル( ゜∀゜)「ヒドインの香りに導かれ、俺は帰ってきた! ちなみに、明日はセブンス8巻の発売日! 買ってね!」
黄金の槍に焼かれた案内人は、復讐に燃えていた。
「リアム――お前だけは絶対に許さないぞ」
しかし、ここで問題が一つ。
今のリアムを地獄に落とそうとするのは、ハッキリ言って難しかった。
名君と称えられ、案内人が嫌う正の感情を集めている状態だ。
簡単には復讐できない。
だが、だからといって諦められるものでもない。
ならばどうするか?
「リアムに復讐心を抱く奴は多い。そういった連中に接触し、復讐の種をまくとしよう。いずれ、大きな花を咲かせるはず」
胸を押さえ、苦しみながら案内人はリアムに強い復讐心を抱く人物を探す。
そして、強い反応をいくつも見つける中――際立った二人を見つけた。
「こっちか!」
案内人が扉を出現させると、そこをくぐってリアムに復讐心を抱く人物の下にやってきた。
その人物だが――安士だった。
路地裏で頭を抱えている。
その姿を見て、案内人が叫ぶ。
「またお前かぁぁぁ!」
リアムを手が付けられない強さにした張本人が安士だ。
案内人は、安士に良い思い出がない。
そのため、この場で殺そうとするのだが――安士の言葉を聞いて手を止めた。
「何だよ。一閃流って! 俺の名前まで広めやがって、あいつ絶対に許さねぇ」
幼年学校での試合中継後、リアムの流派が話題になっていた。
リアムは一閃流を公言しており、当然ながら気になる者たちは調べるわけだ。
そして、安士は追われる身になっている。
案内人は安士を見る。
「こ、このままだと、いつか嘘がばれて――俺がリアムに殺される。今だって、海賊狩りのリアムを育てたって、海賊たちに恨まれているのに」
安士は、ついに決断した。
「やられる前にやらないと――俺がリアムに消されちまう。こうなったら、弟子を取って鍛えないと。ひ、一人じゃ駄目だ。二人がかりなら――リアムと同じように鍛えれば、きっと勝てるはずだ」
その考えに、聞こえていないだろうに案内人は拍手を送る。
「安士――私は君を信じていたよ」
安士の考えは、このまま嘘がばれてリアムに殺されるかもしれない。
ならば、リアムを育てたように――弟子を二人用意して、リアムを殺してしまおうという考えだ。
ついでに、海賊からも自分を守ってもらおうと考えていた。
「リアムより才能のあるガキさえいれば――金なら、まだある。何としても鍛えて、リアムへの刺客に育てないと」
その考えに、案内人も大賛成だった。
「安士君、君は素晴らしい。その考えに私も賛成だ。そして、私からのプレゼントだ」
指を鳴らすと、少し離れた場所で争う声が聞こえてくる。
安士はびくつきながらも、そちらの方を覗く。
すると――幼い子供たちが、棒を持って自分たちを襲ってきた男を殴り倒していた。
痩せ細った体で、大きな木の棒を握りしめていた。
棒には血が付いており、大男が地面に倒れ伏している。
二人の子供が――安士を見た。
その目は、獣のように鋭かった。
「ひっ!」
近付いてくる子供たち。
案内人は、安士に聞こえていないが説明する。
「この近くで才能を持つ子供を見つけて用意した。鍛えてやるといい。リアムを殺すため、真の一閃流継承者を用意しろ、安士!」
安士は、逃げ腰になりながらも懐から食べ物を取り出し、二人に投げ与える。
それを受け取った二人は、獣のように食べ始めた。
その姿を見ながらも、安士もこれだと思ったようだ。
「こいつらなら、鍛えればきっとリアムも超えられる。あんな大きな男を倒せるんだ。きっと強くなる」
そして、二人の子供に声をかけていた。
案内人はその姿を確認すると、次の復讐者の下へと向かう。
「さて、次は誰かな」
そこは軍の再教育施設だった。
本来なら、女性軍人として成功したようなコースを歩んでいたユリーシアがそこにいた。
「おや、この女は?」
厳しい訓練に耐えている。
目つきは鋭く、綺麗だった髪は剃って坊主頭だ。
特殊部隊に入隊するための訓練を受けていた。
泥にまみれ、教官に投げ飛ばされ――それでも立ち上がる。
その執念に、案内人は感心した。
「ここまでリアムを憎む理由が彼女にあるのでしょうかね? 心の声を聞いてみましょうか」
すると――。
(絶対に許さない。絶対に許さない。絶対に許さない――)
繰り返されるリアムへの憎悪。
復讐者として申し分なかった。
「す、素晴らしい! こんな逸材がいたとは――では、私からのプレゼントです。貴女が成功するように、少なからず支援させてもらいましょう」
リアムへ復讐の刃を突き立てるためにも、彼女――ユリーシアには生き残ってもらわないといけない。
先程まで教官に負けていたユリーシアだが、一方的にやられるばかりではなくなった。
教官がユリーシアを怒鳴る。
「尻を振るばかりしか能が無い女だと思っていたが、少しは成長したな糞虫女!」
「サーイエッサー!」
ユリーシアの心の声はこうだ。
(必ずリアムに――復讐してやる)
案内人は頷く。
「リアムへの純粋な復讐心はとても素晴らしいですね。影ながら応援させてもらいましたよ。貴女が、リアムに復讐してくれる日を楽しみにしています」
ユリーシアのことを調べてみると、随分と再教育を受けている。
鍛えているだけではない。
軍で出世するために、色々な分野に手を出していた。
ただ、鍛えれば鍛えるだけ――軍に長く拘束されるデメリットも存在する。
それを無視して、ユリーシアは己を鍛えていた。
全ては、リアムへの復讐のためだ。
案内人は、満足そうにその場を離れる。
「貴女の復讐の刃が、リアムにいつか届くといいですね」
去って行く案内人。
孤児二人を引き取った安士は考えていた。
安宿のベッドで眠っている二人を見ながら、真剣に保身について考えていた。
「もしも、暗殺に失敗したらどうしよう?」
目の前の二人は確かに才能があるだろう。
だが、リアムだって強いのだ。
そもそも、手品を本物の技として再現したあり得ない男だ。
「この二人を刺客にして、もしも返り討ちに遭ったら――次は俺が殺される」
ただ殺されるだけならマシだろう。
相手は貴族だ。
どんな恐ろしい拷問が待っているか分からない。
時間をかけてゆっくり殺されると思うと――恐怖で震えてくる。
だから、小心者の安士は考えた。
「そ、そうだ! 色々と理由を付ければいい。こいつらにも、刺客のことは黙っておこう。そうだな――兄弟子に全力で挑めとでも言えばいいか?」
返り討ちに遭っても、リアムに「よくやった」とか手紙を持たせておけば納得するかもしれない。
「するかな? いや、でも――殺さないと、俺の命が危ない。とにかく、色々と手を打とう。それしかない」
自分の命可愛さに、安士は子供二人を引き取り、一閃流を教え込むことにした。
そのノウハウは、残念ながら持っている。
リアムで実証済みだ。
「同じように鍛えて、どれだけ成果が出るのかが問題だな。普段からリアムの悪口を言っていると、こいつらから情報が漏れるかもしれない。うん、いっそ、こいつらの前ではリアムを褒めておこう」
そんな褒めた相手を、殺させるという所業に矛盾も感じていた。
だが、安士には余裕がなかった。
リアムのせいで広がる一閃流という幻の剣術の噂が原因だ。
その強さを得ようと、貴族や海賊たち――他には武芸者たちも動き始めている。
逃げても、きっと追いかけられるのだ。
安士には、手段を選んでいる時間が無い。
大急ぎで、子供たちを鍛えるしかないのだ。
だって――安士は弱いから。
「よし、失敗したときのために、俺の手紙を持たせておくか。リアムを適当に褒めておけば、勘違いしてくれるだろ。――してくれるといいな。出来れば、仕留めて欲しいけど」
リアムを殺すために、一閃流の弟子を取った安士は考える。
「出来るだけ、俺に恩を感じるように育てて――リアムを意識させておくか」
混乱する安士は、自分でも何をしているのか分からなくなってきた。
軍の再教育施設。
厳しい訓練に男性でも逃げ出す者が多い中、ユリーシアは残っていた。
全てはリアムに復讐するためだ。
洗面所の鏡を見る。
自慢だった綺麗な髪を剃り、体を鍛え直したおかげで筋肉が付いている。
「次の強化でもっと質を上げて――女らしい体をキープするしかないわね。この体も、リアムへの復讐のための道具だもの」
自分を興味もなく袖にした男――リアム。
そんなリアムへの復讐は何か?
ユリーシアが行き着いた結論は、リアムが士官学校を卒業して軍役に就く期間だ。
その期間、軍はリアムに副官を派遣する。
選ばれるのは、女性士官の中でもエリート中のエリートだ。
容姿、能力、全てが揃わないと選ばれない。
そこに食い込むためには、並大抵の実績では足りない。
何しろ、バンフィールド家からも大量に女性士官を軍に送り込んでいる。
士官学校で優秀な成績を収め、そのままリアムの副官になるために教育を受けている者たちがいるのだ。
生半可な手段では、選ばれることはないだろう。
だから――ユリーシアは、特殊部隊への入隊を希望した。
厳しい訓練を突破し、実戦に投入されれば過酷な任務が待っている。
そこを突破し、必ずリアムの副官になる。
そして――リアムを籠絡し、今度は自分が捨ててやるのだ。
別に捨てられたわけではないが、ユリーシアのプライドの問題だった。
案内人の思惑とは――ズレていた。
「必ず振り向かせてやる。そのために、リアムを徹底的に調べてやるわ」
リアムのことを常に考え、厳しい訓練にも耐え抜いてきた。
そして、訓練ももうじき終わる。
そうなれば、実戦が待っている。
もう、諦めて女性の幸せを追えば良いのに、ユリーシアはリアムのことで頭がいっぱいだった。
「どうやって籠絡してやろうかしら。あいつの好みを調べておかないとね」
鏡の前でニヤニヤしているユリーシアを――入り口近くを通った同僚が見て「ひっ!」と悲鳴を上げていた。
案内人は首都星にあるビルの上に立つ。
「これからもどんどん種をまいていきましょう! いずれ、そのどれかがリアムに届くと信じてね」
今だけは見逃してやる。
案内人はそんな気持ちだった。
「その時まで、私は力を蓄えることにしましょう」
今もリアムの感謝の気持ちが案内人の体を焼く。
案内人は、首都星の負の感情を吸収しつつリアムへの復讐の機会を待つのだった。
案内人は見逃したが――リアムへ復讐心を抱く者たちはまだいた。
バークリーファミリーだ。
薄暗い会議室で、立体映像として出席するファミリーの幹部たち。
全員、バークリーファミリーのボスの子供たちだ。
「デリックが死んだそうだな」
ボスの言葉に、幹部たちはデリックへの不満を口にする。
「野郎、惑星開発装置を一つ失いやがった」
「使えない奴だったな」
「戦力も失った。あいつは本当に役に立たないな」
ボスは片手に猫のような何か――猫に似た別の生き物を可愛がっている。
「可愛い息子が殺された――なんて言わねぇよ」
ボスは額に青筋を浮かべている。
「ファミリーに喧嘩を売った馬鹿がいる」
会議室に映し出されたのは、リアムの顔だった。
「海賊狩りのリアムか」
「落ちぶれたバンフィールド家の麒麟児か」
「すぐに殺せばいい」
幹部たちがそれぞれ反応を示すと、ボスは拳を振り下ろした。
猫のような生き物が驚くと、優しく撫でて落ち着かせている。
「こいつには前から海賊狩りで被害を受けている。以前から消したい奴だった」
海賊たちが懸賞金をかけられるように、裏社会ではリアムに莫大な懸賞金がかけられている。
馬鹿がリアムを狙うのだが、その全てが返り討ちに遭っていた。
一時期、リアムの領地に海賊たちが殺到した時期もあったが――今は恐れられ、懸賞金の額がつり上がっても挑もうとする海賊団はいない。
狙うのは、命知らずの馬鹿たちで――その誰もが、リアムに出会うことなく消されている。
「これからうちとバンフィールドで戦争になる。日和見を決めそうな貴族たちに、脅しをかけて覚悟を決めさせろ」
味方を増やし、リアムを叩くことをボスは決めた。
それだけ、リアムを脅威と判断している証拠でもある。
「親父! そんなことをしなくても俺が!」
息子の一人が、リアムをやると名乗り出た。
だが、それを止める。
「デリックはそれで死にやがった。これ以上、戦力を小出しにするな、馬鹿野郎が」
ボスはリアムの顔を見て口角を挙げた。
「小僧――バークリーファミリーに喧嘩を売って、タダで済むと思うなよ」
リアムの知らないところで、大きな戦いが始まろうとしている。
ブライアン(´・ω・`)「バークリーという貴族家は多いので、誰が誰だか分からなくて辛いです。というか、苗字だけであの家! とはならないくらい、家が多くて――辛いです」