誤算
もうすぐ「セブンス8巻」の発売日ですね。
予約が多いと作者的に嬉しいのでよろしくお願いします。
――ロゼッタ、お前にはガッカリした。
「ダーリン、この服は似合うかしら?」
「――あぁ」
「よかった。天城に選んでもらったのよ」
「――そうか」
ロゼッタは格にあった衣装やら道具を持っていないので、トーマスを使って色々と商品を持ってこさせた。
そこから適当に選べと言ったのだが――大喜びで選んでいたよ。
そして、今は俺にその服を見せてくる。
鋼の精神を持つ女だと思っていたのに、こうも簡単に堕ちてしまうとは――前世で後輩が言っていた「即落ち二コマ」というやつだろうか?
だが――こんなの許されない!
ロゼッタが、ドレスを着用してその場で一回りする。
縦ロールの髪がふわりと浮かび上がり、ゆっくりと元に戻って――見ている分には美人だよ。
性格? ――貧しい暮らしをしてきただけあって、慎ましいと聞いている。
俺は詳しく知らないけどな。
だって興味がない。
ロゼッタのために予算を用意しているが、オーバーしないなら別に問題ないと思っている。
婚約式もバタバタと慌ただしく行い、すぐに幼年学校へと戻ることになる。
トーマスは、ロゼッタの使用する幼年学校での道具も用意していた。
俺に色々と報告してくるロゼッタは、
「ダーリン、あ、明日なんだけど――」
「墓参りだろ? 俺も顔を出す」
ロゼッタの婆ちゃんだが、孫娘の晴れ姿を見るとその後すぐに眠るように、というやつだ。
ロゼッタもガン泣きしていたよ。
今は立ち直っているようだが、お墓にいくと落ち込むね。
――おかげで扱いに困る。
ロゼッタのお袋さんには、感謝されて泣かれるし、ロゼッタにはダーリン扱いだ。
ここまで感謝されるなんて想定外もいいところだ。
どうしてこうなった? そう考えていると、部屋にある巨大なモニターがドラマを放送する。
ロゼッタが振り返って顔を赤くしていた。
「あ、もうこんな時間ね」
ロゼッタをメインヒロインにしたドラマが放送されるのだ。
見せてやれば、悔しそうにするかと思えば――照れまくっていた。
お前はそれでいいのか?
もっと抵抗して見せろよ! 「こんなの私じゃない!」とか、言ってみろよ。
「まるでお姫様みたいな扱いね。私じゃないみたい」
モニターの中のロゼッタ役の女優は、とても綺麗だった。
本人は大喜びだ。――違う。そうじゃない!
俺が座っているソファーの隣に、ロゼッタは照れながら腰を下ろす。
微妙に距離があるのだが、それを恥ずかしそうに詰めてくる。
――幼年学校で鋼の女と呼ばれたお前はどこに行った?
いや、勝手に俺が呼んでいただけだが、今では恋する乙女ではないか。
ドラマを見ていると、ロゼッタが顔を赤らめる。
「私の実家、こんなに大きな屋敷じゃないのに」
と、貧乏エピソードを呟くので、いたたまれない。
ドラマの終盤には、美形の俳優が俺の役をやっていた。
実家の屋敷で、幼年学校に向かう前のようだ。
無駄に格好いい。
台詞も領民を思いやる優しい領主という感じで、いかに俺という存在を理解していないのかがよく分かる。
きっと、こうあって欲しいという領民たちの願望だろう。
だが、無意味だ。俺は領民に優しい領主ではないのだから。
それにしても、撮影場所が気になる。
「あれ? 俺の屋敷とよく似ているな」
屋敷の再現率高いな~、と思っていると、ブライアンがサービスワゴンを持ってやってくる。
こいつは今日も幸せそうだ。
「失礼いたします。お飲み物をご用意いたしました」
俺はモニターを指さす。
「見てみろよ、ブライアン。うちの屋敷にそっくりだぞ」
笑っている俺に、ブライアンがお茶を用意しながら答えてくる。
「当然でございます。当家の屋敷の一部を、撮影場所として一時的に貸し出しましたからね。いや~、このブライアン、昔は役者を目指していたこともございまして、年甲斐もなく興奮してしまいました。このブライアンもちょい役で出演しておりますぞ」
お前も関わっていたのか、ブライアン。
というか、冒険者を目指していたのか、役者を目指していたのかハッキリしろよ。
照れながら「昔から憧れていた女優さんにサインをもらいましたぞ」などと嬉しそうに報告してくる。
――よかったな。
ドラマを見ていると、気の強いお嬢様のロゼッタが貴公子然とした雰囲気の俺と出会って今回の放送は終わりだ。
色々と突っ込みどころ満載の内容だった。
ロゼッタは、嬉しいのか恥ずかしいのか――顔を真っ赤にしている。
ドラマが終わると、ロゼッタが俺の方を見ていた。
――何か期待しているようだが、言わないと分からないぞ。
そう思っていると、部屋にウォーレスが飛び込んでくる。
「リアム、幼年学校に戻ろう!」
「出発は三日後だ」
即答してやると、ウォーレスが絶望した顔をしていた。
ロゼッタが少し不満そうな顔をウォーレスに向けていた。
「何か理由があるのか?」
ウォーレスに聞けば、返ってきたのは情けない答えだ。
「セリーナだよ! あの鬼婆が、私のマナーがなっていないと厳しいんだ。せっかく後宮を出たのに、あの頃と変わらない暮らしなどごめんだぞ!」
セリーナから逃げたいために、幼年学校へ戻りたいようだ。
こいつアホだな。
マナーさえ気を付けておけば、セリーナは文句を言わない。
俺も口の悪さを咎められることはあっても、それだけだ。
「良い機会だ。残りの三日間は、更に厳しく躾けてもらえ」
「裏切ったな、リアム!」
「お前のためを思って言っているんだよ、ウォーレス」
すると、侍女たちが来て俺に頭を下げるとウォーレスを回収して連れていく。
「嫌だぁぁぁ!」
ウォーレスの叫び声を聞きながらお茶を飲む。
子分として面倒を見ることにしたが、ウォーレスは皇子様という感じじゃない。
世の中、誤算ばかりだ。
すると、ブライアンが面白い報告をしてくる。
「ところでリアム様。開拓惑星より、何やら面白い物を発見したとの報告がございました」
「面白い物?」
「はい。偽物でしょうが、縁起物ですね。惑星開発装置をご存じですか?」
惑星開発装置。
開拓惑星を人が住める環境にする装置だ。
「色々とあると聞いたな。その装置がどうした?」
「今ある装置よりも、古代文明の装置は優れていたそうです。それに似た道具を発見したと報告がございました。リアム様はそう言った道具がお好きと聞いておりましたので、屋敷に運ばせております」
――俺は口に手を当てて考える。
以前もこのようなことがあった。
ほとんど案内人が関わっており、俺は莫大な富を得られた経緯がある。
「すぐに確認する」
立ち上がると、ロゼッタも付いてきたそうにしていたので――休んでいるように伝えた。
屋敷に運び込まれたのは、青い球体だった。
サッカーボールほどの大きさで、張り巡らされた線が発光して綺麗である。
ブライアンが隣にいて、俺に解説してくれた。
「これ一つを惑星の近くに置くことで、人が住める環境にする装置でございます。開拓団のお守りのようなものとして、今も模造品が作られておりますね」
「凄いな」
「ただ、惑星を豊かにすると同時に、使用を間違えると惑星を死の星にもしてしまいます。吸い込んだエネルギーをエリクサーに変換するため、古代の文明ではいくつもの死の惑星を作り出したという怖い装置でもありますぞ」
荒廃した惑星を豊かにすることも出来るが、逆も可能ということらしい。
触っていると、球体が赤くなる。
「おや、赤く光るとは珍しいですな。普通は、青く光るだけに作られるのですが」
「――そうか」
これは大当たりかもしれないな。
本物の可能性が高い。
「ブライアン、その装置の詳しい使い方を教えろ」
「リアム様も冒険の話に興味があるようで、このブライアンは嬉しく思いますぞ。では、古い文献の通りであれば――」
ブライアンから使い方を聞き出した俺は――すぐに宇宙へと上がるのだった。
リアムが宇宙へと上がった頃。
ロゼッタは、天城と話をしていた。
天城は無表情だ。
「ロゼッタ様、何か?」
「ブライアンやセリーナから、ダーリンの話を聞いたわ。両親に放置されて、代わりに天城が母親の代わりをしてきたのよね?」
天城は頷く。
「旦那様のご両親、そして祖父母は首都星にいます。育児などはされませんでしたので、代わりに私を用意したのです」
そして天城は言う。
「私の存在がご不満でしょうが、旦那様の決定には逆らえません。出来る限り、顔を合わせないようにいたします」
人形を側に置くというのは、リアムの唯一の欠点とされている。
だが、ロゼッタは――。
「待ちなさい! わ、私がその程度の事で文句を言うと思っているのですか!」
「ロゼッタ様?」
ロゼッタは、自分が作った紐を天城にプレゼントする。
「――手慰みに覚えて作ったものよ。これくらいしか、私が貴女に贈れる物がないわ」
バンフィールド家の領内で買ったものではなく、トーマスから取り寄せたものでもない。
自分に用意できるのはこれだけだ。
「いただいてよろしいのですか?」
「当然じゃない! あ、貴女は――ダーリンの大事な人なのでしょう?」
天城は微笑むが――少し悲しそうだった。
「そう、なのでしょうね」
天城は、ロゼッタが編んだ紐を受け取るとお礼を言う。
「――奥様、ありがとうございます」
奥様と呼ばれ、ロゼッタは照れてしまうのだった。
デブリが漂う宇宙空間。
アヴィドでそんな場所に来た俺は――持って来た装置を使用する。
「さて、どうなるか」
惑星開発装置が赤く染まり、吸い上げはじめるのは――生命力とでもいうべきものだ。
漂っているのは、俺の領地にある開拓惑星に攻め込んできた海賊たち。
生命力というか、ブライアン曰く魂を吸ってエリクサーを作り出すらしい。
自領で使うにはためらわれるが、海賊相手なら問題ない。
球体が赤く染まり、そして吸い尽くしたのか光が落ち着く。
コックピットに球体を入れて、調べてみる。
「さて、ここをこうして――」
弄り回していると、球体から液体がこぼれた。
膝の上に落ちた液体は、固まって石になりポロポロと落ちる。
「おっと、こぼしたな」
拾い集めるも、いくつかは見当たらなかった。
だが、そんなことは問題にならない。
瓶を取り出し、エリクサーをそそぐ。
「――大量じゃないか」
エリクサーで満たされた瓶を手に取り、揺らす。
「こいつも本物だったわけだ。案内人に感謝しないといけないな」
次々に俺の手元にお宝が集まってくる。
やはり、デリックと手を組まなくても問題なかった。
ただ、案内人は最近姿を見せない。――あいつは元気にしているだろうか?
いや、俺が心配をしても仕方がない。
こうして俺のために色々と手を回し、アフターフォローも万全のあいつのことだ。
きっと、元気なはずだ。
「この前は照れていたし、顔を出しにくいのかな? あいつ、意外に可愛い奴だよな」
だが、お礼の気持ちは大事だ。
この気持ちが案内人に届くように、俺は目一杯の感謝をする。
「案内人、ありがとう――これで俺はまた力を得たぞ」
しかし、だ。
そもそもエリクサーは嬉しいが、普段から買い集めている。
その資金も錬金箱で作っているので、正直に言えば困っていない。
「――こいつは要塞級に積んで、開拓惑星の開発に利用するか」
ニアスから購入した要塞級だが、臨時の防衛基地には十分だった。
それを開拓惑星に配備し、こいつを使って豊かにしよう。
惑星開発装置自体は、普通に使えば生命力を育ててくれるだけの装置だ。
害はないとブライアンが言っていた。
「新しい開拓惑星の用意と、ウォーレスの領地も用意しないといけないから――こいつは要塞級に縁起物として送っておくか」
石像に埋め込んで隠しておけば、分からないだろう。
普通に使った方が俺にはメリットが大きい。
「こんな便利な道具を次々に送ってくるなんて――案内人はマメだよな」
その頃――案内人は首都星で両手を広げていた。
「ふははは! 何千年も溜め込んだ負の感情が、私に力を与えてくれる!」
負の感情の吸収効率が悪いとはいえ、首都星のような場所では負の感情に困らない。
今では力を取り戻しつつあった。
だが、それでも以前の力には遠く及ばない。
リアムの感謝の気持ちが、案内人の力を奪っているためだ。
「これで忌々しいリアムを地獄に落としてやれる。待っていろよ――リアム!」
さて、これから何をするべきかと思案する案内人だったが――。
案内人の後ろで隠れ潜んでいる光――犬の形をした光が、空を見上げた。
首都星の空は、金属に守られている。
そんな金属の隙間から、リアムの感謝が形になった黄金の槍が――案内人目がけて飛んできた。
黄金に輝く槍が、高笑いをしている案内人の背中に――突き刺さる。
「はうわっ!」
突然の衝撃に、案内人が叫んだ。
槍は案内人を地面に縫い付けている。
「な、ななな、何が起きた!?」
案内人も困惑し、黄金の槍を抜こうと手で握ると――皮膚を焼いた。
煙が出ている。
「いぎゃぁぁぁ! こ、これはリアムの感謝の気持ち!? な、何故だ! 私はまだ何もしていないのに!」
特大の感謝の気持ちが形を得て突き刺さり、案内人は苦しみもがく。
「う、奪われていく。せっかく手に入れた力が――奪われて――こんなことが許されるのか? おのれ――おのれ! リィィィアァァァムゥゥゥ!」
今回は何もしていなかったのに、結局リアムの感謝に焼かれる案内人だった。
ブライアン(`・ω・´)「大女優からブライアンさんへ、とサインをもらいましたぞ! 幸せでございます!」
ブライアン(・ω・` )「あと、案内人ザマァでございます」