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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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海賊狩りと海賊貴族

モニカ( ゜∀゜)「セブンスをよろしくお願いいたします! 「せぶんす」ではなく、「セブンス」の方ですからね! でも、どっちもよろしくね!」

 格納庫。


 ロゼッタの機体が運び込まれると、待機していたマリーが周囲に指示を出す。


「クラウディア家のご令嬢は、リアム様の正室になられる。粗相があってはリアム様の顔に泥を塗ることになるのを忘れるな」


 かき集めた侍女たちが頷き、騎士たちが整列する。


 兵士たちは大急ぎで赤い絨毯を用意していた。


「おい、医者はどうした?」

「奥で待機させている」

「き、着替えだ! 着替えを用意させろ!」


 騒がしい格納庫。


 マリーが一喝する。


「はしゃぐな、馬鹿共!」


 機体のコックピットから、ロゼッタが出てくる。


 両脇を女性騎士に支えられていた。


 弱り切ったロゼッタは、目を真っ赤に腫らしていた。


 騎士、兵士、そして侍女たちが整列し、騎士は剣を抜いて剣礼をする。


 兵士たちは敬礼し、侍女たちはカーテシーをして出迎えた。


 リアムの正室と言うことは、この場にいる全員の主人と同じだ。


 マリーもロゼッタの前で膝をつく。


(まさか、こうして時を超えてクラウディア家と関わり合うとは思わなかった)


「ロゼッタ様、お迎えに上がりました。さぁ、まずは治療を受けてください」


 ロゼッタが戸惑っている。


 事前に公爵家の実情を聞いているマリーは慌てない。


 立ち上がり笑みを向けた。


「怯える必要はありません。ここにいる者たちは、リアム様の家来たちです。――お前たち、ロゼッタ様をご案内しなさい」


 女性騎士たちがロゼッタを支え、そして奥へと向かう。


 侍女たちも付き従い、見えなくなると騎士たちが剣を鞘にしまった。


「さて、次は――」


 マリーが次に何をするべきか考えていると、ククリが影の中から姿を見せた。


「マリー殿、急ぎの用件がございます」


「後にしろ。私はリアム様の命令で忙しい」


 無視しようとすると、ククリが譲らなかった。


「そのリアム様ですが、バークリー家に襲撃されておりますよ」


 マリーが額に青筋を浮かべ、目を血走らせた。


 周囲の騎士たちが、マリーの威圧に冷や汗を流す。


「――何だと?」


「クラウディア家を覗き見していた者たちが、リアム様を邪魔だと判断したようですね。手引きしておりました」




 試合会場の荒野。


 俺を取り囲むのは、海賊たちの機体だった。


 その中に、デリックの機体を見つける。


 わざわざ新型を用意したようだ。


『リィィアァァムゥゥゥ! 会いたかったぜぇぇぇ!』


 わざと威圧するような声を出してくるデリックだが、幼年学校で俺から逃げ回っていたのはこいつだ。


 俺は遊んでやろうと、捜し回ったのに逃げるのだ。


 まったく――面白くない奴である。


「今日は逃げ回らないんだな」


『てめぇ、この状況で強がれる度胸は褒めてやる。だが、楽に死ねると思うなよ。助けだってこないぜ。もう、俺が買収済みだ。それだけじゃない! クラウディア家を監視している連中が、お前は邪魔だとさ!』


 何を言っているのか分からないから、俺はよく考えた。


 クラウディア家を見守っている役人たちがいると聞いていたし、俺とロゼッタが結婚すればそいつらは仕事がなくなる。


 きっと、それは困ると焦ったのだろう。


「そうか。それはそうと――これだけでいいのか?」


『あ?』


 俺を取り囲む機体の数は百機に届かなかった。


「だから、これだけの数でいいのかと聞いたんだ。新しいアヴィドのお披露目なんだが、さっきの試合では全力が出せなかったからな。もう少し数を用意しろ」


『な、舐めやがって! やれよ!』


 デリックの号令に、海賊の機体が俺に押し寄せてくる。


 随分と性能は良さそうだ。


 外見は海賊に見せているが、新型かもしれない。


「いいな。これでアヴィドの性能を少しは確かめられる」


 操縦桿を握り直して、機体を動かすと――周囲の機体が吹き飛んだ。


「お、凄いじゃないか」


 アヴィドを褒めてやったのは、一閃流の再現度が以前よりも上がっているからだ。


「ニアスも褒めてやるとするか」


 追加報酬も考えていると、海賊たちがまだ集まってくる。


 機体の状態を確認しつつ、相手をしてやるとアヴィドの動きが非常になめらかで感動した。


「いいぞ、アヴィド! 今度はこれだ!」


 デリックたちを相手に、アヴィドの性能を確かめられてよかった。


 普段相手をしている海賊たちよりも多少歯ごたえがある――気がする。


 だが、それだけだ。


 そうして倒し回っていると、逃げ出そうとする機体がでてきた。


「てめぇ、待てごらぁ!」


 追いかけて止めを刺すと、周囲の機体は動かなかった。


 デリックも静かだった。


「さて、続きだ。俺を楽しませろ!」




 数百隻の海賊船は、撮影している映像に震えていた。


「――何なんだよ」


 誰かが呟く。


「あ、悪魔だ」


 自分たち海賊を嬉々として狩るリアムが、彼らには悪魔に見えていた。


 新型機が次々にスクラップにされていく。


 船長が叫んだ。


「て、撤退だ! こんなところにいたら、海賊狩りに目を付けられる!」


 デリックを見捨てて逃げることを決めた船長だったが、同乗していた役人が止める。


「約束はどうなる! リアムを消すのだろう?」


「あんなのをどうやって倒すんだよ! お前らで暗殺でも何でもしろよ!」


 役人は混乱して口走ってしまった。


「失敗したからお前らに頼んだんだよ!」


 すると、彼らの影から黒ずくめの仮面をした者たちが出てくる。


 ワラワラと出て来て、そして海賊たちを殺しはじめた。


「な、なんだ!」


 叫んだ船長の頭部を、大きなククリの手が握りつぶした。


「おや、脆いですね。昔の海賊はもっと骨がありましたよ。さて――お役人さん、貴方には聞きたいことがある」


「ひっ! わ、私は、帝国の役人だぞ!」


 ククリたちは、周囲の海賊たちを殺し終わって役人を囲んでいた。


「いえね、聞き捨てならない台詞があったんですよ。いったい、誰を暗殺しようとして失敗したのか気になりましてね」


 クヒクヒと笑うククリの部下が、役人の太股にナイフを突き刺した。


「いだぁぁぁい!」


 泣き叫ぶ役人の頭を、ククリが掴む。


「おっと、部下が失礼しました。血の気が多い部下たちで困っていますよ。さて、質問です。いったい誰を殺そうとしたのかな~?」


 役人が泣き叫ぶも、助けは来なかった。


 モニターを見れば、バンフィールド家の艦隊が自分たちを攻撃している。


「な、なんで」


 震えている役人に、ククリが教えるのだ。


「リアム様に事実をお伝えしたら、面白いからもっと機動騎士を投下しろとご命令されてしまいましてね。アヴィドの試運転に丁度良いそうです。新型、まだあるのでしょう?」


 制圧された海賊船から、新型機に乗せられた海賊たちが惑星に放り込まれる。


 逃げれば殺され、拒否しても殺され――リアムと戦う道しか残されていなかった。


 荒野の映像を見れば、リアムが降下してきた海賊たちをいたぶって遊んでいる。


 新型機が次々に破壊され、山積みにされていく。


 同じ機動騎士とは思えない。性能が違いすぎて、別の何かに見える。


 新型機が、まるで歯が立たない。


「た、助けて」


「はい~?」


「助けてください! 全て話しますから! 助けてください!」


 役人のそんな言葉に、ククリは口元だけ笑顔を浮かべた。


「ざ~んね~んでした~。――許しません。それから、実はもう調べ尽くしているので、貴方の情報はいらないのですよ。では、さようなら」


 ククリが役人の頭部を握りつぶす。




 格納庫。


 ロゼッタの監視役である役人たちは慌てていた。


「おい、どうなっている!」

「海賊共が弱すぎて、あれではリアムを殺せないぞ」

「とにかく、ロゼッタを確保しろ。そうすれば、あちらは手が出せないはずだ」


 そんなことを相談していると、ヒールで歩く音が聞こえてくる。


 カツン――カツン――妙にその音がよく耳に入ってきた。


 気が付くと、自分たちの近くに一人の女がいた。


「だ、誰だ!」


 一人がそう言うと、首が飛ぶ。


 女は両手に剣を持っていた。


 分厚い肉斬り包丁のような――剣鉈の形をしている。


「二千年も経って、あの愚物の命令が生きているとは驚きだわ。私を石に変えて笑っていたあの男の顔は、今でもよく覚えている」


 女が何を言っているのか、役人たちには理解できなかった。


 武器を手に取ると、その腕が斬り飛ばされた。


「貴様、こんなことをしてただで済むと――」


 自分たちが帝国の役人であると叫ぼうとするが、女はそんなことなど知っていると言う。


 一人の役人に剣を突き刺し、空いた手でリーダー格の男のアゴを掴み――握りつぶした。


「おぎゃぁあぁっぁあぁ!」


「喋らないで。お前たちはここで死ぬのよ。――私を長年苦しめてきたあの男の部下を、こうして殺せると思うと嬉しくて仕方がないわ」


 自分たちの話を聞こうともしない女は、狂っているように見えた。


 一人が叫ぶ。


「わ、我々は亡き皇帝陛下のご命令を――」


「そうよ! だから私がお前たちを殺すのよ!」


 その役人は、女に縦に両断されて命を落とした。


 切り口が綺麗だった。


「お前たちはあの愚物の命令を守る忠義だけは褒めてあげるわ。だから、地獄にいるあの愚物のもとに送ってあげる。あ、それからちゃんと伝えるのよ。――マリーが蘇ったとね」


 役人たちは震える。


 二千年前の出来事を、彼らは仕事柄知っていたのだ。


「マリー? まさか、三騎士のマリー!?」


 驚く役人の首を斬り飛ばし、女は頬を染めていた。


「リアム様に仕えてよかった。私の苦痛だった二千年は、このためにあったのだと実感できる。これが運命なのね」


 一人で悦に浸りながら、女は役人たちを惨殺した。




 空から下りてくる敵がいなくなった。


 周囲には破壊した残骸が転がり、生き残っているのは足を斬り飛ばしたデリックの機体だけだ。


『た、助けてくれ! 何でもする! 何でもするから!』


 先程から命乞いしかしなくなり、つまらなく感じてきたところだ。


 持っていた海賊の機体を放り投げて、俺はデリックの機体を踏みつける。


 必死に手を使って逃げようとしているデリックは、実に滑稽だ。


「何でもするのか?」


『もう二度とお前には逆らわない。だから、命だけは助けてくれ! 俺は死にたくないんだ!』


「死にたくないのか。なら、何をしてもらおうかな?」


 期待を持たせてやると、デリックがペラペラと喋る。


『何でも言ってくれ! 金だろうと、女だろうと、お前の望むままに与えてやる! そ、そうだ。エリクサーなんてどうだ? お前も欲しいだろう?』


 エリクサーを持っているのか?


「そいつは欲しいな」


『とっておきの装置があるんだ。そいつを使えば、いくらでも手に入る。俺を助けてくれたら、いくらでも用意してやるよ』


 命乞いをするデリックを見るのは、最高の気分だった。


 だが、デリックの話には興味がない。


 欲しいものは、案内人が用意してくれるからな。


 錬金箱、謎の刀などのように、望めば俺の手元に来るのだ。


 今更、こいつを頼る必要がない。


 それに、エリクサーも金で買える。


「う~ん、どれも間に合っている。だから、お前の命をくれ」


『ま、待て! 約束が違う!』


「約束なんてしたかな~?」


 前世、俺は借金を取り立てる男たちに騙され、悲惨な目に遭った。


 あいつらは約束など守ってくれなかった。


 なら、俺が守る必要もない。


『本気で俺を殺すのかよ! さっきは、助けるみたいなことを言ったじゃないか!』


「あぁ、あれは嘘だ。もとから生かしておく理由もない。さて――エリクサーで生き返られても面倒だ。念入りに殺してやろう」


『や、止めろぉぉぉ――ッ』


「俺に逆らったお前が悪い」


 新型機のコックピットに、ブレードを突き刺すとデリックの声は聞こえなくなった。


 ブレードを突き刺したまま機体を持ち上げると、通信が回復したようだ。


 タイミングがよすぎて、俺が気分よく暴れ回る間は通信を切っていた気さえしてくる。


 もしもこの戦いが放送されていたら、きっと試合を止められていただろう。


 そう思うと、非常に運が良い。


 幼年学校の教師が、青い顔をして叫ぶのだ。


『す、すぐに救護班を!』


 どうやら混乱しているらしいが、無理もない。


「先生、無駄ですよ。もう死んでいますから」


 試合に出る以上、死亡するリスクを負うのがルールだ。


 デリックが死んでも俺の責任ではないし、辺境の男爵が俺に盾突いたところで怖くもない。


 ブレードを一振りして、デリックの機体を放り投げてやった。


 踏みつけてやる。


「仲間を呼んでこの程度か。雑魚は集まっても雑魚だな」


 笑ってやると、教師も唖然としていた。


 俺の周囲に転がる残骸の数は――数百機もあるから仕方がない。


 それにしても、アヴィドは以前よりも性能が上がっていて満足した。


 いい試運転になったよ。


 そこだけは、デリックに感謝してやるとしよう。




 観客席。


 誰かが呟いた。


「誰だよ、あいつらを戦わせたの」


 それが貴族たちの本音だった。


 海賊貴族として力を付けてきたバークリー家。


 そして、海賊狩りで力を付けたバンフィールド家。


 両者が戦えば、悲惨なことになるのは目に見えていた。


 そんな静まりかえる会場で、兵器工場関係者たちは笑いをこらえるのに必死だった。


 ニアスなど今にも笑い出しそうだ。


「第一兵器工場の新型が、アヴィドにボコボコにされる姿が見られないなんてショックでしたね。けれど、これで技術力の差がハッキリしましたよ」


 他の兵器工場関係者も同様で、第一兵器工場の関係者たちは大急ぎで観客席から逃げるように去って行く。


 ウォーレスがニアスを見てドン引きする。


「技術屋や科学者はこれだから困る。これからどうなるか分かっているのか? リアムの奴、バークリー家に宣戦布告したのと同じだぞ」


 それがどれだけ危険かを知っているウォーレスに、クルトは言うのだ。


「リアムが分かってやったんだ。勝ち筋はあるはずさ」


「本当か? なかったら泣くぞ」


「それより、試合はどうなるのかな?」


 クルトが心配していると、トーナメントの中止が発表される。


 流石にこの状態で続けることは出来ないと、幼年学校も判断したようだ。


 ニアスが肩を落とす。


「そんな~! アヴィドの雄姿をもっと見たかったのに」


 本当に残念そうにしているニアスを見て、ウォーレスが呆れるのだった。


「お前、こんな空気の中で、よくそんなことが言えるな。まったく、リアムに関わる連中は変人ばかりじゃないか」


 ウォーレスはヤレヤレと首を横に振るのだった。


ブライアン(´;ω;`)「変人ばかりがリアム様に集まるということは――ウォーレス元殿下も変人ではないですか。ヤだー・・・・・・辛いです」

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