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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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機動騎士トーナメント

(皆さん、セブンスを予約するのです。書店に行くか、通販サイトを利用するのです)


――いつかは、心に届くようなダイレクトマーケティングをしてみたいですね。

 三年生も終わりが見えて来た頃。


 機動騎士によるトーナメントが行われる。


 割と人気もあって、マスコミも来ている。


 観戦するために金持ちたちも集まるので、注目されているのは間違いない。


 格納庫――俺はアヴィドの前にいた。


 マリーが俺のヘルメットを両手で持っている。


「リアム様の戦いを間近で見られるなど、嬉しさで震えてきます」


「よかったな」


「はい! マリーは果報者です!」


 頬を染めてお世辞を言ってくるところは可愛いが、俺が求めているのはこんな対応ではないのだ。


 すると、俺の横を通り過ぎる女が一人。


 ロゼッタだった。


 体に自信があるのか、体つきがよく分かる薄手のパイロットスーツを着用していた。


 男子たちの視線を集めている。


 大きな胸や尻。


 バランスも非常に好みだ。


 獣のような男子たちの視線を集めながら、涼しい顔をしているのも気に入っている。


 声をかける。


「よう、ロゼッタ。お前も出場するのか?」


「――そうよ」


 とても冷たい目で俺を見ていた。


 俺が婚約話を持ちかけたのは知っているだろうし、きっと軽蔑しているのだろう。


「冷たいじゃないか。もっと愛想良くしろよ。ロゼッタちゃん」


「興味がないわ」


 ロゼッタが歩き去ると、マリーが無表情だった。


 きっと、俺に逆らったロゼッタが許せないのだろう。


 こいつは俺を全肯定するイエスマン――違った、イエスウーマン? まぁ、そんな奴だ。


 だが――今は、ロゼッタのような女の対応が欲しい。


 俺を見もしないこの女を屈服させたいのだ。


 こいつの顔が屈辱に歪んだら、さぞ気分がいいだろう。


「マリー、一回戦の相手は誰だ?」


 マリーに確認する。


 自分で調べないのは、俺がそれだけ高い地位にいるからだ。


 このような雑事は全て、下に任せればいいのだ。


 だって俺は偉いから。


「――ロゼッタ様です」


 マリーが神妙な顔付きで呟くと、俺は笑みを浮かべた。


「俺は運が良い。そう思わないか、マリー?」


 一回戦から、高慢ちきな女を叩きのめすことが出来る。


 簡単に折れてくれるなよ、ロゼッタ。


「はい。リアム様は幸運を背負っているようなお方ですからね」


 俺の冗談に真面目に返してくるマリーを見て思う。


 ――やっぱり物足りないな、と。




 観客席は、試合会場から離れている。


 何しろ、機動騎士同士の戦いは危険だ。


 観客席に被害が及ぶ場合もあるため、立体映像やら大型モニターを用意して観戦するのが普通だった。


 試合は中継され、帝国中で見ることが出来る。


 貴族にしてみれば、これはちょっとした見世物であるのと同時に――大事な試金石だ。


 どこの跡取りは強く育っているとか、あの家は育て方を間違えたとか――実際に目にして確認が出来るのだ。


 そういった意味で、デリックは多くの貴族に醜態をさらしていた。


 試合相手を買収し、脅し、実力もないのに優勝を経験すること二回だ。


 デリックがいる間は、まともな試合にならないだろうと貴族たちは考えている。


 観客席――クルトはデリックの試合を見ていた。


「酷い試合だな」


 ウォーレスは、そんなデリックの優勝に賭けている。


 間違いなく優勝するだろうと考えているからだ。


 リアムも出場するのに、それでいいのかとクルトは思っていた。


「贅沢な機体だな。どこの兵器工場だ? 形から見れば――第三兵器工場の新型か?」


 デリックの機体は最新鋭の機動騎士だった。


 まだ、正規軍にも配備されていないだろう。


 話をしている二人の横に座っているのは、リアムに招待された第七兵器工場のニアスだった。


 周囲には関係者たちが座っている。


 観客席には、新型機のお披露目とあって色んな兵器工場から関係者が来ていた。


「第一兵器工場の機体ですね。首都星に工場を持つからと、他の工場から技術を奪って無理矢理作った品のない機体ですよ」


 恨みでもあるのか、散々な説明だった。


 クルトは呆れながら頷く。


「そ、そうですか。それで、リアムは勝てるんですか?」


 デリックの腕前でも、他を圧倒する性能を見せる新型機。


 ニアスはニヤリと笑った。


「勝てる? 勝負にすらなりませんね。ただ――」


 しかし、すぐに表情を真剣なものに変えた。


 視線の先にいるのは、第一兵器工場の関係者たちだ。


 彼らは、他の兵器工場の関係者たちからも睨まれている。


「――まともに戦えば、ですけどね」


 兵器工場からしても、このトーナメントは機体や商品を売り込む絶好の機会だ。


 ニアスたちもリアムに期待しているが――それは、デリックに新型機を提供した第一兵器工場の関係者たちも同じである。


 ウォーレスが立体映像を見て、首を横に振った。


「こっちも酷いな」


 次の試合はリアムが登場するのだが、その前に出て来たのは幼年学校の練習機で参加したロゼッタだった。


 修理跡も目立つ機体は、もう壊れる一歩手前のような機体だ。


 ニアスがすぐに目を細める。


「あの機体は限界を超えていますね。搭乗者は危険ですよ」


 クルトも同意する。


「えぇ、さすがにこれは酷い。あ! リアムだ!」


 だが、リアムが登場すると笑顔を見せた。


 ウォーレスが隣で「お前、リアム好きすぎじゃない?」と言っている。




 アヴィドで試合会場へと降り立った。


 試合会場と言っても、幼年学校のある惑星の荒れ地だ。


 周囲には何もない。


 前世で言うなら――学校や観客席は日本にあるのに、試合会場はオーストラリアとか海外にある感じだ。


「星間国家はスケールが違いすぎて困るな」


 広いコックピット内。


 空間魔法が使われており、ゆったりとした空間に俺のシートは浮かんでいる。


 贅沢に作られたコックピットは、非常に快適だった。


「さて――」


 目の前にいるのは、随分と古い機体だ。


 乗っているのはロゼッタだった。


 試合開始の口上が聞こえてくるが、耳に入ってこない。


 空中に投影されるモニターには、相手のコックピットの映像が見えていた。


 俯いているロゼッタが顔を上げ、俺を睨み付けてくる。


 ――ゾクゾクした。


 狭いコックピットのシートに座り、俺への敵意を向けてくる。


 俺の乗っている機体はアヴィドだ。


 見た目からして圧倒的な差があるのに、幼年学校の成績も俺の方がはるか上にいる。


 最初から勝負は付いているのに、まだ折れない心に敬意を表したい。


 まぁ、今からどうやっても折るんだけどな。


 既に仕込みは十分だ。


「ロゼッタ。棄権しないで出て来たことは褒めてやる」


 そんな俺の安い挑発に、ロゼッタは答えてくれる。


『――さい』


「あ?」


『五月蠅い! お前なんかに負けるものか! 実戦なら、私にだってチャンスがある!』


 ――お前はどこまでも度し難く、そして可愛い奴だ。


 普段勝てないのに、実戦ならチャンスがあると思う心の強さに感心する。


「教えてやる。現実っていうのは常に強者に微笑むのさ。負けを認めて俺に尻尾を振るなら、可愛がってやるぞ」


『舐めるな!』


 試合の開始が告げられると、ロゼッタが走ってきた。


 下手くそな操縦で、俺に向かってくる姿は――非常に笑える。




 目の前の機体に勝てないと、心は認めていた。


 自分が乗るレンタルした機動騎士とは、物が違う。


 自分の機体が踏み込んで大剣を振るえば、目の前の機体――アヴィドは大きさに反して軽い足取りで避ける。


 リアムはアヴィドに武器すら持たせていない。


「この! この!」


 アシスト機能もほとんど動いていない旧式の機体を動かし、アヴィドに斬りかかる。


 アヴィドは、大地の上を揺らすことなく動き回っていた。


 大きな機体が地面を踏みしめた音も、振動もない。


「いったいどれだけお金をかければ、そんな機体が出来るのよ!」


 泣きそうだった。


 それでも我慢する。


 せめて、一太刀だけでもと斬りかかるが、アヴィドがマニピュレーターで受け止める。


 本来なら繊細な動きを再現する機動騎士の手で、そんな事をすれば簡単に壊れてしまう。


 だが、アヴィドの手は壊れない。


 むしろ――逆に大剣を粉々に砕いた。


『まるでガラスや土で出来た剣だな』


 質は確かに悪いが、こんなに簡単に砕けるようなものではない。


「――そうやって見下して! お前なんかに!」


 素直にリアムが羨ましかった。


 貴族はこうあるべきという姿を体現し、何よりも強い。


 自信に満ちあふれている姿に憧れる。


 ――自分も、そうありたかったと悔しく思う。


「うわぁぁぁ!」


 踏み込み、タックルをしようとすると――アヴィドがいつの間にか剣を抜いていた。


 刀と呼ばれる形状の武器だ。


「――え?」


 直後、機体の各部を映すモニターが赤く染まる。


 手足が斬り飛ばされていた。


 地面に倒れ、一回転して仰向けになる。


 激しく揺れるコックピット内。


「うぐっ!」


 止まったと思えば、アヴィドに踏みつけられていた。


 コックピット内からアヴィドを見上げ、ロゼッタは現実に打ちのめされる。


(――どうやっても届かない)


 心が完全に折れた。


 涙を流し、そして笑っていた。


「あは、あははは――」


 アヴィドが機体の胴体を持ち上げ、コックピットを器用にこじ開けてきた。


 リアムがコックピットから出てこちらを見ている。


(土下座でもして謝罪でもしようかしら? 媚びを売ればお金を少しくれるといいわね。レンタルした機体を壊したから、また取り立てが厳しくなるだろうし)


 そう思い、途中で笑顔を消して涙を拭う。


(――いえ、いっそ、こんなクラウディア家は私の代で滅ぼすべきよ。私の子供に同じような運命は背負わせない。これが私に出来る、唯一の反抗よ)


 顔を引き締め、リアムを睨み付ける。


「随分と無様だな――ロゼッタ」


 リアムが笑っている。


「あら、優等生がそんな顔をしていいのかしら? 貴方の本性がよく分かったわ。だけど――私は負けても、心までは屈しないわ! 殺すなら殺しなさい! 貴方に下げる頭はないの。私はクラウディア――ロゼッタ・セレ・クラウディアよ!」


 試合に参加する場合、死亡する危険があることを説明される。


 そして、死んでも事故扱いだ。


 これを利用して、敵対的な家の関係者を排除する輩も少なくない。


 今のロゼッタは、リアムに生殺与奪の権を握られているのと同じだ。


 それでも強がって見せたのは、もう何もかも諦めているからだ。


(お母様――お婆様――お許しください。もう、これしか方法がないのです。これしか、私たちが救われる道はこれしかありません。せめて――人並みの幸せが欲しかった)


 贅沢は言わない。


 夫がいて、慎ましく暮らせれば――本当はロゼッタも、出世するよりそんな幸せを手に入れたかった。


 だが、自分には手の届かない望みだ。


(――もしも次の人生があるのなら、お嫁さんになる夢は叶えたいわね。ウェディングドレス――着てみたかったな)


 公爵家の扱いや、監視者たちによるいじめ――もう、ロゼッタは何もかも諦めていた。


 ロゼッタの返答に、リアムは――笑っていた。




 ロゼッタ――お前は本当に素晴らしい逸材だ。


 リアルで「くっころ」を聞かせてくれてありがとう。


 前世で後輩が、「くっころ」について熱く語ってくれていたが――こういうことだったのか。


 俺も「くっころ」の良さを理解できたよ。


 折れないお前の精神にも脱帽した。


 ――だが、残念だな。


『リアム様、やりましたぞ! このブライアン、お二人を説得できましたぞ!』


「でかした。タイミングも最高だったぞ、ブライアン」


 タイミングよく、ブライアンから報告があった。


 これも日頃の行いがいいからだろう。


 いや、悪いから、か?


 案内人が裏で根回しをしてくれたのかもしれない。


 本当にあいつには頭が下がる思いだ。


 今度お礼をしなければならないが、一体何をすればお礼になるのだろうか?


「――ロゼッタ、お前にいい知らせを届けてやれそうだ」


「何かしら?」


 気丈に振る舞うロゼッタを見て、俺は自然と笑みになった。


「お前と俺の婚約が正式に決まった。お前のお袋さん――公爵が認めたよ」


「――え?」


 ロゼッタの唖然とする顔を見て、俺はやってやったと思った。


 ――信じていた家族に裏切られるのは辛いよなぁ!


「四年生の長期休暇に正式に婚約しよう。お前にはいずれ、正式な公爵へと代替わりをしてもらう。そして――お前の爵位も俺がもらう」


 ロゼッタが震えていた。


 悔しいだろうな。


 心の拠り所だった家族だけではなく、公爵という立場まで俺に奪われるんだから。


 ――前世の俺も辛かったぞ。


 家族を失うだけじゃない。裏切られていたと知った時は本当に辛かった。


 だから、お前の苦しみが理解できるよ。


 でも、俺はお前を踏みにじるけどな! そうだ――今の俺は奪われる側ではない。


 奪う側なのだから。


「帝国からの許可も取ったんだ。嬉しいだろう? お前がいくら拒否しようが、お前の家族は俺を認めたぞ。そして、お前の帰る家は――もうない。お前の故郷は、めでたく召し上げられたそうだ」


「え、あ――」


 声が出ていなかった。家族を人質に取られ、故郷までも失った可哀想なロゼッタに言うのだ。


「喜べロゼッタ――お前は俺の妻になれるぞ」


 ロゼッタが涙を流している。


 ボロボロと涙をこぼし、何か言っているが聞き取れなかった。


 前世の俺も相手にこう見られていたのだろうか?


 少しばかり胸が痛むが、こんなの過去を思い出したからに過ぎない。


 俺はマリーに連絡を取る。


「マリー、ロゼッタを見張れ。何かあればお前が対処しろ」


 命令すると、マリーが忠犬のように喜ぶ。


『はっ! 全てこのマリーにお任せください』


 泣きわめいているロゼッタに背中を向けて、俺はコックピットへと戻るのだった。


「さて、次の試合は誰かな」




 一方的な試合が終わった。


 ウォーレスは、泣いているロゼッタの姿を見て複雑そうな表情をする。


「いったい何を言ったのか分からないが、あのロゼッタをここまで泣かせるとか――リアムって鬼だよな」


 クルトに話を振るが、興奮しているのか聞いていなかった。


「リアム、以前よりも強くなっているね。いや、機体性能もあるのかな? とにかく、あれでは並の騎士では相手にならないよ」


 リアムとロゼッタの会話は、観客には聞き取れなかった。


 すると、次の試合が始まろうとする。


 ただ、ニアスが異変に気が付いた。


「モニターにノイズ?」


 徐々にノイズが酷くなっていく。


 そして、リアムのアヴィドに近付く複数の機体を確認した。


「あれは――第一兵器工場の新型機?」


 外見は変えているが、中身は新型機だとニアスが予想する。


 ウォーレスが立ち上がる。


「ま、まずい! デリックはリアムをここでやるつもりだ!」


 青い顔をするウォーレスだったが、映像は消えてしまい何も映さなくなってしまった。


ブライアン(´;ω;`)「案内人が関わっていないのに、不幸を呼び込むリアム様が可哀想で――辛いです」

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