挿絵表示切替ボタン
▼配色






▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
メンテナンスのお知らせ4月17日 14:00 ~ 14:30
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
42/243

二千年の歴史

乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です、もよろしくお願いします!

 幼年学校での生活も三年目。


 俺は許可を取って第七兵器工場に足を運んでいた。


 愛機の様子を確認するために訪れたのだが――。


「お前ら、何をしている?」


 完成したアヴィドに、頬ずりや抱きついている奴が多かった。


 ニアスなど、まるで蝉のように抱きついていた。


 しかも、俺が声をかけても気が付いていない。


「アヴィドちゃん、よく頑張りまちたね。ママは嬉しいわ」


 ――どうやら、アヴィドの改修はかなりハードだったようだ。


 ニアスが壊れてしまった。


 アヴィドを見上げると、これまでとあまり変わってはいなかった。


 だが、フレームや装甲は全てレアメタルだ。


 性能も現行機を凌駕している。


 ――カタログスペックには満足していた。


 ただし――。


「気に入らないな」


 そう呟くと、俺を見つけて一瞬で距離を詰めて膝をつくマリーが慌てる。


「な、何か落ち度がございましたでしょうか!」


 こいつは忍者か?


 まぁ、それはいい。


「俺は金塊も送っていたはずだ。黒い装甲に銀色もいいが、俺は黄金の方が好みだ」


 すると、ニアスが振り返ってくる。


「誰よ! この子にそんな成金趣味みたいなカラーリングをさせる奴は!」


 俺の趣味を成金趣味と言い切りやがった。


 マリーが立ち上がり、後ろ腰に提げた剣の柄を手に取る。


 すると、柄からブレード部分が出現する。


 収納タイプって便利そうだな。


「ニアス、貴女は優秀な技術者だったわ。アヴィドを完成させた功績に免じて、一太刀で終わらせてあげる」


 ニアスが俺を見て叫ぶ。


「ぎゃぁぁぁ! リアム様ぁぁぁ!」


 まるで幽霊でも見たような反応ではないか。


「ニアス、アヴィドから離れなさい。リアム様の愛機が貴女の血で汚れてしまうわ」


「止せ」


 冷たい目をしているマリーが、ニアスを斬ろうとするので止めた。


「ニアス、アヴィドの改修をやり遂げたことに免じて、今の言葉は聞かなかったことにしてやる。アヴィドの銀色の部分を、金色に塗り直せ」


 すると、ニアスが目に涙を溜めていた。


「嫌です!」


「てめぇ!」


 即答で拒否するなど許されない。


 マリーが剣を構えはじめるが、理由は聞いてやろう。


「銀色の部分はフレームと繋がっているんです。全てミスリルですよ。黄金よりも価値があるミスリルの輝きですよ! 無茶苦茶苦労して加工したのに!」


「それでも俺は黄金が好きなんだよ! いっそ、銀色以外の部分を金色に染め上げてやろうか!」


「悪趣味です! アダマンタイトの輝きの良さが分からないなんて、どうかしていますよ!」


 アヴィドに飾られた家紋やら模様は、全て銀色になっていた。


 それらを金色にしたいのに、ニアスが反対してくる。


 ――お前じゃなかったら、即打ち首だからな!


「このミスリルを塗装してしまうと、性能が落ちるんです! 数字にすれば、二パーセントから五パーセントの性能低下ですよ!」


 ――その程度なら問題ないな。


「なら、塗り直せ」


「そもそも、塗装なんてしていませんよ! この黒もアダマンタイトですからね! あぁ、アヴィドが悪趣味な塗装で汚されてしまう」


 アヴィドに抱きつきニアスが泣いていた。


 マリーが俺を見る。


「リアム様、拷問しますか?」


「残念娘は俺のお気に入りだ。これくらいは許してやる。だが――そんなに嫌なら、罰としてお前に塗装してもらおうか」


 嫌がるニアスに、アヴィドの塗装をやらせた。


「うわ~ん、リアム様の馬鹿ぁぁぁ!」


 泣きながら塗装するニアスを見るのも楽しかったが、アヴィドの調整をしてその数日後には幼年学校に戻った。




 リアムのいない幼年学校。


 ロゼッタは、自分たち一族の監視役である役人に呼び出されていた。


「――トーナメントに参加しろですって?」


 目の下に隈ができて、やつれているロゼッタに役人たちは言う。


「せっかくの幼年学校です。思い出に参加されてはいかがか?」

「クラウディア公爵家の娘が、まさか尻込みされるおつもりか?」

「レンタル代は借金をしてもいいのです。貸してくれる知人を紹介しますよ」


 自分ではどうせ無様に負けるだけだ。


 そして、借金をする相手は高利貸しだろう。


 まともなところは、クラウディア家と関わろうともしない。


「――分かりましたわ」


 だが、断ることもできない。


 役人たちの説得という名の、長時間の拘束にロゼッタは耐えられないからだ。


 時には数日間、寝食すら許さない説得を彼らはしてくる。


 彼ら自身は交代で説得をしてくるので、負担も少ないのだ。


「流石は次期公爵! 今年はバークリー家のデリック様以外にも、海賊狩りで名を上げたリアムがいます。きっと楽しい試合になるでしょうね」


 デリックには様を付け、リアムは呼び捨て――それだけで、彼らの本質がよく分かる。


 海賊貴族と親しい悪い役人たちだ。


(どうせ、試合に出て怪我をした私を笑いたいのでしょうね)


 試合と言っても危険である。


 時には死亡者も出してしまう。


 そんな試合に、旧式の機体で出場させて笑いたいのだろう。


 ロゼッタの心は――もう折れていた。


(いっそ、その試合で楽になりたい)


 そして、役人が釘を刺す。


「あ~、それとですね。変な夢は見ない方がいい。バンフィールド伯爵が貴方との結婚を考えているようだが、公爵家の背負っている借金を知ればどうせ逃げます。そうだ。いっそ、リアムから精をもらいますか? 貴女の嫌いなリアムに、土下座をして精をもらいましょう。その程度の交渉なら、私たちが引き受けますよ」


 自分がリアムを嫌っていると知ってこの台詞だ。


 ロゼッタは、もう何もかも諦めていた。


「――好きにしなさいよ」




 トーナメントに向けた準備をしているのは、リアムだけではなかった。


 幼年学校のある惑星に近付くのは――海賊たちの戦艦だ。


 デリックがかき集めた海賊たちは、数百隻。


 ただ、この戦力でリアムを襲撃するのではない。


「たったこれだけか」


 苛々しているデリックに、海賊たちは不安そうにしていた。


「ほ、本当に海賊狩りのリアムと戦うんですか、デリック様?」

「いくら報酬がよくても、あのリアムと戦うなんて」

「名のある海賊たちが、手も足も出なかったのに」


 そんな弱腰の彼らに、デリックは指を鳴らす。


 格納庫の明かりが付き、照らされるのは新型の機動騎士だった。


 海賊たちがどよめく。


「第一兵器工場の新型機だ。無理を言って取り寄せた。こいつを使って、リアムの野郎を殺してやる」


 デリックの作戦は――。


「幼年学校のトーナメントだが、出場しても機動騎士を一体運び込めるだけだ。当日は、試合会場に大気圏から突入してリアムを囲んで叩く。邪魔者は気にするな。クラウディア家を監視している役人たちが、手を貸してくれるそうだ」


 クラウディア家をいたぶることに快感を得ている役人たちにしてみれば、リアムとの婚約など認められなかった。


 そのため、彼らはデリックに手を貸すのだ。


 デリックは苛立っていた。


 リアムの件もあるが、アレの回収ができていない。


 バンフィールド家の領内で失ったアレを回収しようにも、バンフィールド家の軍隊が邪魔で探すことも出来ない。


「リアムさえ、消せば――俺だって」


 幼年学校では、以前と違い怯えるように学生寮に引きこもっている。


 第二校舎の生徒たちも同様だ。


 他の校舎に出向いて威張り散らすなど出来ない。


 もしもリアムと出会えば――いじめられるのは、自分たちだからだ。


 好き勝手に暴れられたのも以前の話。


 今は、リアムに怯えるように生活している。


「――必ずリアムを殺せ。一人を新型機で囲んで叩くなら怖くもないだろ」


 多少強いだけだ。


 囲んで叩けば怖くない。


 デリックはそう信じて、親指の爪を噛むのだった。


(そうだ。大丈夫だ。外見は海賊が使う機動騎士だが、中身は金のかかる新型機だからな。こいつでリアムの野郎を――ぶっ殺してやる!)




 幼年学校の第一校舎。


 その男子トイレで、クルトとウォーレスが話をしていた。


「僕? 今年は出場しないよ」


 話題は、トーナメントに関するものだ。


「お前も免許皆伝持ちだろ?」


 男爵家の跡取りであるクルトは、トーナメントに参加するつもりがなかった。


「実家に余っている機体なんてないからね。それに、レンタルした機体だと、リアムと勝負にもならないよ」


「お前の実家も大変だな」


「これでも随分と楽になったんだよ。リアムに艦艇やら色々と借りているからね」


 支援をしてもらったおかげで、領内も以前より豊かになっていた。


 だが、それでも以前よりは、という程度に過ぎない。


 クルトが贅沢を出来る余裕はなかった。


 ウォーレスは心配そうな顔をして、


「なぁ、リアムの出場も止められないか? バークリー家のデリックが仕掛けてくるなら、絶対にトーナメント中だ」


 クルトは、そんなウォーレスに無理だと言う。


「リアムは決めたことは簡単に曲げないよ。それに、少し前にデリック先輩に目を付けていたからね。たぶん――本当にやるつもりだ」


「相手は海賊貴族だぞ! ファミリー以外のお仲間だって多いんだ」


 特に悪い貴族たちにお友達が多い。


「なら、余計にリアムは容赦しないだろうね」


 ウォーレスは凄く悩んでいた。


「せっかくのパトロンを切り捨てられないし、かといってあいつは清廉潔白すぎるし――ちくしょう、私の人生はいつも困難が多い」


 皇族に生まれたのも厄介なら、ようやく見つけたパトロンも厄介だった。




 バンフィールド家の本拠地。


 そこに招かれたのは――クラウディア家の先代と現当主だった。


 仕える使用人もいない彼女たちは、たった二人でリアムの屋敷に招かれる。


 出迎えるのは、執事であるブライアンと――騎士や使用人たちだ。


「お待ちしておりました。ですがその――お招きしたのはお二人なのですが?」


 笑顔を向けるブライアンだったが、二人の後ろに控えている帝国の役人たちを見る。


「我々はクラウディア家の護衛のようなものです。お気になさらずに」


 そう言っているが、鋭い視線をブライアンに向けていた。


 とても好意的に見えない。


 その様子を、セリーナは黙って見ていた。


 二人を応接間へと移動させると、監視役の役人たちもついてこようとするので別室で待機させることにした。


「ブライアン、私はあの役人たちの相手をするよ」


 セリーナに言われ、ブライアンは頷いた。


「公爵様とご隠居の相手には、同性のセリーナにも同席して欲しかったのですが――分かりました。こちらはお任せください」


 ブライアンは、何としても婚約の話をまとめようと気合を入れるのだった。




 応接間。


 顔色の悪い先代を、現当主――ロゼッタの母親が支えていた。


 ブライアンは、そんな先代を見て駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか? すぐに医者を呼びます」


 ただ、先代は首を横に振った。


「もう手遅れなのです。今はただ――孫娘のためにこの命を使いたいのです」


 過酷な環境で貧しい暮らしをしていた先代は、その体が弱り果てていた。


「――ブライアン殿、婚約のお話は辞退させていただきたい」


「な、何故です? リアム様は、本気なのですぞ」


「だからこそ、です。クラウディア家への温情は大変嬉しい。ですが、そのせいでバンフィールド家が背負うのは借金だけではないのです。あの護衛と名乗る役人たちを見て気が付きませんか? 彼らは――ただクラウディア家をいたぶるための存在なのです」


 何代も前の皇帝の命令を盾に、好き勝手にする連中だ。


 集まるのも加虐的で、非道な行いにも平気で手を出せる連中だった。


 人が苦しむ姿を見て楽しむ――そんな連中だ。


 現当主――公爵が深々と頭を下げる。


「せめて、リアム殿の精をいただきたい。クラウディア家が続くために、何卒よろしくお願いいたします」


 クラウディア家の事情を聞いて、ブライアンは泣きそうになる。


 そして思った。


(リアム様――この方たちを助けたかったのですね。昔からお優しいリアム様を、このブライアンは誇らしく思いますぞ)


 ブライアンはハンカチで涙を拭う。


「――お断りいたします」


 二人が暗い表情になると、慌てて説明を付け足した。


「リアム様の望みは、ロゼッタ様を奥方にお迎えすることです。このブライアン、そこは絶対に譲れません!」


 先代が首を横に振る。


「駄目なのです。彼らに理屈など通らない。二千年も続いた彼らの仕事には、それだけの重みまで加わっているのです」


 今は亡き皇帝の命令。


 それを盾に好き放題に二千年もやってきた。


 そこまで続くと、誰もが思うのだ。


 ――仕方がない、と。


「そのようなことに負けるリアム様ではありません。それに、帝国の許可は得ていますぞ。公爵家の罪も借金も、バンフィールド家が背負うのです。公爵家の方々は、これでも不満と仰いますか!」


 心が折れてしまっている二人に、ブライアンの言葉は届かない。


 それでも、ブライアンはリアムのために必死に説得するのだった。




 別室。


 セリーナは、監視役の役人たちと話をしていた。


「既に婚約の許可は得ています。あなた方のお役目もこれで終わりですよ」


 ソファーに座り、テーブルに足をかける役人たち――不遜な態度だった。


「そんなことは関係ない。これは亡き皇帝陛下のご命令ですよ。たとえ、役職を奪われたとしても、我々はこの仕事に誇りを持っていますからね。今度はバンフィールド家を監視するだけです」


 二千年の間に、深く広く根を張った組織になっていた。


 厄介な連中である。


「――バンフィールド家に敵対すると?」


 役人の一人が言う。


「そもそも、結婚など無理なのですよ。リアム殿はやりすぎた。帝国の闇は、彼を飲み込んでしまうでしょうね」


 セリーナが目を細める。


「リアム様に手を出して、ただで済むとお思いですか?」


「しょせんは多少強いだけのガキ一人ですよ。残念でしたな」


 この態度を見て、セリーナも理解する。


(彼が――宰相が苦労するはずね)


 そう思うセリーナの影が、少しだけ蠢いた。


 赤い目が二つ――役人たちを見ている。


ブライアン(´;ω;`)「アリスター様の愛機を金色にしようとするリアム様――辛いです」

  • ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねをするにはログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。