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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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暗躍

「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」はコミカライズも公開中!


コミカライズ版は、現在一話と五話が無料で楽しめます。


コミックウォーカー様、ニコニコ静画様でお楽しみください。

 幼年学校の学生寮。


 その屋根に三人の男たちがいた。


「様子はどうだ?」

「問題ない」

「今日も無事に終わりそうだな」


 そんな会話をしている男たち。


 すると、影から伸びるように仮面を付けた黒ずくめの大男がぬっと出現する。


 両手は体と比べると異様に長い。


 そして、何とも不気味な仮面をしていた。


 男たちが武器を手に取る。


「な、何だ!」


 すると、大男が両手を広げて挨拶をしてきた。


「こんばんは。いい夜ですね」


 その直後、男たちの背中に大男と同じ格好をした部下たちが出現し、ナイフで一突き――男たちの命を一人だけ残して奪った。


 大男がクツクツと笑う。


「お仕事の邪魔をして申し訳ない。さて――」


 その学生寮は――リアムたちが利用している男子寮だ。


 大男は建物に沈み込むようにその場から消えていくと、リアムの部屋に忍び込んだ。


 ベッドで寝ているリアム――。


 大男は、そのままリアムに手を伸ばして――毛布をかけ直す。


 リアムが目をパチリと開けた。


「――騒がしかったな、ククリ」


 リアムを起こしてしまい、ククリは膝をついて深々と頭を下げた。


「申し訳ございません、リアム様。五月蠅い犬がおりまして、追い払っておりました」


「犬? ――飼い犬なら、ちゃんと飼い主のところに返しておけよ」


 ククリはリアムの指示に従う。


「リアム様のお望み通りに」


 床に沈み込むように消えていくククリは、また外に出ると部下たちを集めた。


 屋根の上で生き残った男の顔を覗き込む。


「さ~て、飼い主は誰かな~」


 怯える男は震えていて答えない。


 だが、ククリの瞳を見ていると――うつろな表情になって喋りはじめる。


「――デリック様に頼まれた。リアムを捕らえ、拷問しろと命令を受けている」


 それを聞いて、ククリの部下たちがナイフを抜く。


 殺気立つ部下たちを、ククリが止めた。


「お待ちなさい。リアム様は、飼い主の所に届けろと仰せですよ。皆で切り刻んでしまったら、誰だか分からないじゃないですか」


 ヒヒヒッと笑い、そして部下たちも笑う。


 正気を取り戻した男は、冷や汗が吹き出ていた。


 不気味な集団だ。


 それに、使っているのは魔法か? 暗殺なども行う自分たちが、見たこともないような魔法を使う。


「お、お前ら、何者だ」


 首をかしげたククリが答える。


「何者? ふむ――滅んだはずの一族。もしくは、過去から舞い戻った一族でしょうか? まぁ、貴方には関係の無い話。さあ、飼い主の所に戻してあげますよ。立派な飾り付けをしてあげましょう」


 大きなククリの手が、男に伸びる。


「や、止めろぉぉぉ!」


 叫ぶ男に、ククリは囁くのだ。


「リアム様に手を出した。それだけでお前も、お前の主人も万死に値する」




「ぎゃぁぁぁ!!」


 第二校舎の学生寮。


 使用人の叫び声に目を覚ましたデリックは、頭を押さえながら起き上がった。


「う、五月蠅いぞ。二日酔いで頭が痛いんだ。叫んだのは誰だ? 処刑して――」


 部屋の中を見渡すと、そこには自分がリアムのもとに送り込んだ連中がいた。


 ただ、何とも不気味なオブジェと化している。


「ヒィィィ!」


 デリックが見てもおぞましい何か。


 それが、自分の部屋にあるなどと信じられなかった。


「は、早く片付けろ!」


 二日酔いすら吹き飛び、そして心臓の鼓動が早くなる。


(い、いつだ。いったい、いつ俺の部屋に忍び込んだ?)


 学生寮の警備は厳重にしてある。


 自分がリアムを拉致して拷問にかけようと考えているだけあり、警備に関してはこれでもかと厳重にしていた。


 凄腕の騎士たちも雇っていた。


 なのに、誰にも気付かれること無く、悪趣味なオブジェを置いていく――デリックには、それがどれだけ異常なことか分かっていた。


 デリックの叫び声を聞いて部屋に入ってくる騎士たちも唖然とし、使用人たちは嘔吐していた。


「デリック様、ご無事ですか!」


「ぶ、無事に見えるのか! 漏らしてしまったではないか。そ、それよりも、すぐに片付けろ」


「いえ、それよりも幼年学校の関係者に連絡を――」


「ば、馬鹿! リアムの所に送り込んだ連中だ! こいつらは、幼年学校にいないことになっている。そいつらがこんなことになったと知られれば面倒だ」


 色々と調べられると、自分が困るとデリックは理解していた。


 そもそも、堂々と部屋に侵入してくる連中は――間違いなくリアムの手の者だ。


 オブジェは「いつでもお前を殺せる」というメッセージである。


 デリックは頭を抱えた。


(くそっ! かき集めた艦隊は全滅するし、兄貴たちには責められるし――“アレ”も失った。このままだと俺の立場がない)


 バークリーファミリーでのデリックの立場は、自前の艦隊を失い大きく発言力を失っていた。


 兄たちにも責められ、デリックは何もかもうまくいかなかった。


 そして、よりにもよって大事な“アレ”を失ってしまっている。


 このままでは、デリックは家族に殺される可能性すらある。


「くそ――くそっ! どうして要塞級なんて購入してんだよ!」


 艦隊を送り込んだ場所に待っていたのは、要塞級と呼ばれる宇宙空母だ。


 正規軍や一部の貴族しか持っていない宇宙空母を、開拓惑星に配備するのが理解できなかった。


 そんな化け物空母があるなら、デリックだって攻め込まなかった。


「このままだと、俺の面子に関わる。何としても俺の手でリアムを始末しないと」


 既に幼年学校でデリックは四年生。


 リアムは二年生だ。


 自分が卒業するまでに片付けないと、他の兄弟たちが先に動いてしまう。


 そうなると、言い訳も出来ない。


「――そうだ。トーナメントだ。あそこでリアムをボコボコにすれば、まだ俺の面子も立つ。あいつは絶対に出場するはずだ。それに――トーナメントへの参加には、危険が付きものだからな」


 幼年学校のトーナメントだが、機動騎士を扱うために万が一の出来事も想定される。


 ――死亡を覚悟しなければ、トーナメントには参加できないのだ。


 そんな危険なトーナメントに出て来たリアムを叩き潰す。


 あらゆる手段を使って、リアムを追い詰める。


 そう決めるデリックだった。




 最近、俺の周りが色々と騒がしい。


 この前も、学生寮に犬が迷い込んでいた。


 犬――前世でも飼っていたから、無事に飼い主のもとに戻れていたらいいな。


 それにしても、体が大きな俺の護衛であるククリだが――見た目の割に名前が可愛くない?


 犬が迷い込んできたら報告してくる辺り、俺が犬好きであるというのも理解していてポイントが高い。


 石化していたところをマリーと同じように助けたが、エクスナー男爵家での海賊退治は大成功だったと今なら思える。


 さて、そんな俺も幼年学校では二年生だ。


 一年生の時とさほど変わらない授業内容。


 もう、流石に飽きてくる。


 だから、本格的にロゼッタを屈服させる方法について考えていた。


 あのお嬢様のよりどころは、名ばかりの公爵という地位にある。


 実情は貧乏らしいが、それでも爵位だけは本物だ。


 ウォーレスも言っていたが、過去にねちっこい皇帝陛下がいて何千年と苦労しているらしい。


 ねちっこいにも程がある。


 そして、それにも屈しないクラウディア家の精神――屈服させたら面白そうだ。


「だが――簡単じゃないな」


 あいつのプライドをへし折ることを考えると、金では難しいだろう。


 あの気の強そうな目は、簡単に折れないと思う。


 いくら俺が伯爵でも、あいつには関係ないのだ。


 誇り高いお嬢様じゃないか。


「さて、どうやってへし折ってやろうか」


 強気なお嬢様を土下座させて、頭を踏みつけてやりたい。


 それが悪徳領主の正しい姿であるはずだ。


 ブツブツと教室で呟いていると、ウォーレスが俺を見て引いていた。


「よく楽しそうにしていられるな」


「楽しいからな」


 どうやって高慢ちきなお嬢様を屈服させるか、考えるのが今の楽しみだ。


「リアムの気持ちが理解できないね。私は不安な気持ちで毎日を過ごしているというのに」


 気の小さい奴だ。ただ、そう言いながら、お前は俺に小遣いがなくなったと言ってせびってきたじゃないか。


 しかも昨日だ。


 まだ、残り半月以上あるのに、お小遣いを使い切るなんてこいつは計画性がなさ過ぎる。


 それに、こいつは俺の子分として自覚があるのか?


 ただ、都合のいい財布のように思っていないか?


 たまには役に立ってもらいたいが、こいつが役に立つ事なんて――いや、ある。


「おい、ウォーレス」


「何だ? お小遣いの増額か?」


 頭を叩き、俺は知りたいことを聞いた。


「爵位を上げる方法を知りたい。それも、出来るだけ時間がかからない方法だ。皇子のお前なら何か知っているんじゃないか?」


「え?」


 俺の質問に、ウォーレスは腕を組んで考え込んでいた。


 そして、一つ思い出したようだ。


「手っ取り早いのは、爵位を買うことだね」


「宮殿が爵位を売っているのか? いくらだ?」


「いくらなんでも、爵位は売らないよ。買うというのは――他の家からだ」


 ウォーレスが言うには、名ばかりで実がない家というのは多いらしい。


 以前のバンフィールド家みたいな家だ。


 だが、簡単に爵位は手放せない。


 すると、力を付けてきた家が、その爵位を買うのだ。


 娘や息子に爵位を与え嫁がせ、相手の家に爵位を譲る。


 ただ、これには問題がある。


 そうした力のない家というのは、総じて莫大な借金を抱えている。


「借金や色々な問題も抱えてくれるなら、爵位を引き継ぐのを帝国は認めているんだよ」


 それを聞いて一つ思い付いた。


「金があれば爵位も買えるわけだ」


 思っていたのだ。


 伯爵ではまだ俺に不足している。


 同格の貴族も多いし、その上には侯爵も公爵もいる。


 そして、手頃なところに、公爵という爵位を持つ貴族の関係者がいた。


 俺は思ったね。


 あいつが拠り所にしている爵位を俺が奪えば、プライドもへし折れるだろう、って。


「つまり、貧乏な家の面倒ごとを――借金を支払い、その家から妻を迎えれば俺の爵位は上がるんだな?」


 ウォーレスは頷く。


「上がるね。けど、リアムの爵位で上と言えば限られてくる。辺境伯は少し特殊だから別として、そんな家が抱えている借金を払えるの? 払うくらいならお小遣いの増額を――」


 ウォーレスにデコピンをして黙らせ、俺は早速計画を練るのだった。


 ロゼッタに直接「お前の受け継ぐ爵位をくれよ」何て言えば、きっと冷たい目で睨み付けてくることだろう。


 反抗的な態度もいいのだが、俺はあいつの絶望する顔が見たい。


 拠り所にしていたものを奪われたと知ったら――あいつはどんな顔をするだろうか?


 前世――俺が絶望した顔を笑ってきた連中を思い出す。


 今度は俺が他者を踏みにじり、笑う番だ。


 俺は席を立つ。


「トイレ? なら私も――」


 ウォーレスがそう言うと、俺は首を横に振る。


 いや、お前まで立つんじゃない。なんで連れションに向かおうとするんだ。


 それから、離れて座っていたクルトまで立つんじゃない。


 お前ら、なんでそんなに連れションにいきたいの?


「ちょっと実家に連絡を入れてくる。楽しいことを思い付いた」


 教室内。


 一人俯いているロゼッタの姿があった。


 あの、周囲を寄せ付けない孤高ともいえる感じがいい。


 あと、割とお馬鹿な成績も気に入っている。


 お馬鹿で、そして運動音痴で、それでも頑張っている姿がいいのだ。


 そして、気が強い。


 ロゼッタ――俺はお前が気に入ったよ。




 首都星の宮殿。


 宰相にセリーナから緊急の報告が入った。


「何かあったのか?」


『――リアム様が、クラウディア家との婚約を決めました。すぐに交渉に入るとのことです』


 セリーナ――侍女長の言葉を聞いて、宰相は目を見開き驚くも首を横に振った。


「馬鹿な真似をした、と思った方がいいのだろうね。だが、これで肩の荷が下りた気がする」


 クラウディア家への冷遇は、随分前の皇帝陛下が決めたことだ。


 それが続いてしまっており、辟易している貴族も多かった。


 だが、助けるには生半可な気持ちではどうにもならない。


 名ばかりの公爵家であるクラウディア家には、莫大な借金があるのだ。


『既にブライアンがクラウディア家の当主と話をしております。あちらは疑っておりますが、このままいけば決定は確実かと』


「クラウディア家に断る理由はないな」


 長いこと苦しめられてきたクラウディア家は、バンフィールド家を信じ切れていないようだ。


 だが、こんな話は二度とあるか分からない。


 いずれ折れるだろう。


「私の方からも話をしておこう」


『止めないのですか?』


「君も知っているのだろう? クラウディア家は、もう十分に耐えてきた」


『ですが――』


「これでバンフィールド家は、良識ある貴族たちに一目を置かれる。バークリー家と争っているようだが、色々と考えているじゃないか」


 宰相が笑みを浮かべた。


 助けるには難しく、見返りも少ないクラウディア家。


 そんなクラウディア家を助け、リアムにメリットはない――とは言えない。


 不当に冷遇されてきたクラウディア家を助けるのだ。


 分かる者には、リアムがどれだけ高潔か分かるだろう。


 そして、宰相はバークリー家と本気で争うつもりのリアムに期待する。


「長らく放置してきたが、そろそろ片付ける時が来たな。伯爵には頑張ってもらうとしよう」


『では、宮殿はこの結婚を認めるのですね?』


「当然だ。帝国は潤い、罪悪感からも解放される。力のある伯爵が、公爵となり帝国を支えるというのなら、こちらも歓迎しようじゃないか。帝国は少々――腐敗しすぎた。ここらで、掃除をしたい」


 侍女長は納得していなかったが、宰相に言われて渋々受け入れた。


『では、リアム様には宮殿の許可については問題ないとお伝えします』


「あぁ、頼む」


 通信が切れると、宰相は笑うのだった。


「――伯爵。いや、公爵。これからも期待しているよ」


ブライアン(´・ω・`)「相手の家に婚約の話を持ち込んだら『騙されないぞ!』って言われて辛いです。――でも、リアム様が生身の女性に興味を持って幸せです」


ブライアン(´;ω;`)「ただ、また借金が増えるのは辛いです。総合的に辛いです」


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