僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~


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作:四季の夢
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幕間:相澤・雷狼寺ミキリの章


仕事しているとSSを書く気力が薄れていきます。
ふふ、疲れるねぇ(´・ω・`)


 イレイザーヘッド――相澤は悩んでいた。ぱっと見は普段と変わらないから誰も気付かないが、ある映像を見て悩んでいた。

 

「……雷狼寺。まさかここまでとはな」

 

 それはオールマイトから渡されたヒーロー基礎学の授業内容。

 渡された時に嫌な予感を抱いた相澤だが、蓋を開ければ何の裏切りもない案の定な内容だった。

 

「……最早、蹂躙だ。それと今までのとも、期末で根津校長に見せた姿とも違う。今までので最も獰猛だ」

 

 一長一短でもあるが相澤は自身のA組を評価し、竜牙に関しては特に意識していた。

 最初の個性把握テスト、理不尽を喜ぶべき受難と判断した人間性。

 体育祭では元々の個性の扱いの高さもあっての活躍や、開会式での他者の心を燃やしたカリスマ性。

 一芸だけでは務まらない事実を即座に吸収し、学習する生徒として模範にしたい程の学習力。

 

「……いや適応力というべきか」

 

 郷に入っては郷に従え。そういうべきか、竜牙の他の環境下に入った時の適応力は高かったと相澤は思う。

 今までとは違う環境に入り、そして環境から理不尽の歓迎。並みの者ならばすぐにストレスで参るだろう。

 だが竜牙の場合は何か違う。その環境下で生き残る為に必要だと割り切りが早い。

 

「性格か……それとも個性の影響か」

 

 相澤は更に悩み、一気飲みが普通の栄養ゼリーも半分残してデスクに置いてしまう。

 普段ならば絶対にしない行動だが、今だけは仕方ないと相澤は悩み続けた時だった。

 

「よぉ! イレイザー! どうしたゼリー残してお前らしくねえな。なんか悩みか?」

 

 近付いて来たのは大きな茶封筒を持ったマイクだ。

 長い付き合い故、何か察して近付いてきたようだが、相澤は相手をする余裕はなかった。

 

「マイク……今は構ってやる暇はない。何もないならどっか行け」

 

「つめてぇぇ!! けど良いのか? お前が頼んでいた物が届いたんだぜ?」

 

「っ!? それを早く言え……!」

 

 これ見よがしに封筒を見せるマイクから、相澤は内心で怒りながらひったくる様に奪う。

 用がないどころではなく、とんでもない本件だ。ヒーローとしての権利を使い、ずっと頼んでいた資料なのだから。 

 

()()()()()()()だけあって、本来ならばそこまで苦労しない物だが……やはりか」

 

 僅か数枚しかない資料を素早く見ていく相澤を見て、マイクも気になって横から覗き込んだ。

 そこに記されていたのは文章がビッシリとかではなく、寧ろ最低限しか書かれていない見やすいものだった。

 だが、そこに記されていた文章を見てマイクも思わずヒーローとしての険しい表情となる。

 

「おいおいイレイザー……こいつは――」

 

<雷狼寺 ミキリ。個性:目利き――他者や物を見るとオーラ等が見えて価値が判断できる>

 

<雷狼寺 そまり。個性:色操作――物体の色を自由自在に操る>

 

 それは雷狼寺家の個性証明とも呼べる内容だった。

 本来ならばヒーローとして必要なら、比較的容易に手に入る資料。

 だが今回は最近、全てが豹変した竜牙の家族に関するものだ。マイクも探ってしまうのがヒーローとしての性だった。

 

「大企業の身内。その個性か……別に個性に関しては役所に普通に提出届け出だ。けどイレイザー、なんでこれを手に入れるのに苦労したんだ?」

 

「単純に圧力だろ。俺も簡単に手に入ると思ってたからな、逆に驚いた」

 

 圧力を掛けてまで隠したいものならばもっとあるだろう。そう相澤は思っていたが、マイクはある事が気になった。

 

「だが何で今更? 家族構成やらは入学時に分かってた事だろ?」

 

「逆だ。今だからこそ、真剣に再度確認するべきなんだ。――近年の雷狼寺の周辺で起きた事。そして根本的な原因は必ず雷狼寺の身内が関係している筈だ」

 

 アングラ系として目立たないヒーローとして活動してきた相澤だからこそ、調べ方は慎重で時間も掛ける。

 例え無駄だと思っても、自身が納得しなければ何度でもだ。

 

「それに今回は前の資料とは違う……気になっていた事もあったからな」

 

「なんだよそりゃ?」

 

「……()()()()()だ」

 

 竜牙の入学時、渡された資料。そこに記されていたのは祖父母・両親・保護者の家政婦の個性のみ。

 双子の娘は個性が目覚めてないとされ未記入だった。

 

「雷狼寺は両親と疎遠だ。――両親は雄英に入学したとも知らなくとも、今は両親を始めとした身内の個性証明を学校に提出するのが普通だ。だからこそ、こんな普通の事で何かを隠すとも思えん」

 

 けれど、相澤は本当に目覚めてないのか違和感は感じていた。ただ竜牙の同期に、緑谷というイレギュラーがいた事で意識も逸れてしまった。

 

「近年、個性の発現が早い子供も増えている。だからデータ的に見れば発現していても不思議はない。――無論、本当に発現していない可能性もある」

 

 マイクにそう言いながら相澤は更に資料を捲り、そして()()()()()で動きを止める。

 同時に記されていた内容を見て、相澤の中の疑問が確信へ変わった。

 

「――だが、もしもだ。もし発現していながらも、その事実を隠していたならば、その事実はとんでもないものの筈だ」

 

 雷狼寺グループという超大企業が隠したかった事。

 それが記されていた資料を見た相澤は静かに息を吐くと、落ち着く為に目薬を差した。

 資料の内容。やはり、とんでもない事実を示していたからだ。

 

「オイオイ! どうしたイレイザー?」

 

「……マイク。突然変異型で発現した個性が、別の人間にも発現する可能性はあると思うか?」

 

「……んだと? そんな馬鹿な話――」

 

 相澤の雰囲気からマイクも何かを察し、ちゃらけた口調ではなく真剣そのもので資料を見直した。

 そこに記されていた中身を見た途端、マイクの表情にも険しさが生まれた。

 

「オイオイ、イレイザー……これって」

 

「これが雷狼寺グループの隠したかった事か……だが――」

 

「確かに異常な内容だが、雷狼寺くんと謎のヴィランと繋げるには関連性が見えないのさ!」

 

「うおぉっ!?」

 

「……校長」

 

 机の下からひょっこりと出現した根津校長。彼?の突然の出現にマイクは驚いたが、相澤は平常心のまま続けた。

 

「……根津校長は雷狼寺について、どういった意見を?」

 

「彼の人間性や才能以外の話で良いのかな?」

 

 分かっている癖に。ハイスペックなのに合理的じゃない。

 相澤はそう思いながらも、根津校長の持つハイスペックを頼りにして頷いた。

 

「そうだね……わたしも雷狼寺 竜牙君の過去の経歴から今日までの事を調べて考えてみたよ。――過去の個性制御系の研究所での事故。そして近年の謎のヴィランの襲撃。少なくともヒーロー殺しの一件では、脳無の動きは完全に雷狼寺君を標的にしていたのは間違いない。つまりは間違いなく、彼の一連の事件は雷狼竜の個性が関係している筈なのさ!」

 

 そう言って根津は相澤の机にバンッと、大きな資料を置いた。

 マイクは音にビビッて一歩下がるが、相澤は素早くその資料を手に取る。

 

「これは……確か10年程前に雷狼寺が巻き込まれた個性制御研究所の事故? 校長もこの一件をご存じだったんですか?」

 

「勿論なのさ!――当時でもそれなりに問題になったけど、何故か被害者側の雷狼寺グループの圧力によって早期決着された謎の事件なのさ。今は解体されたけど、当時の所長を含め、大体のスタッフは転職済みなのさ!」

 

「ハァッ!? これだけの事故を起こしといて?!」

 

 マイクは相澤から借りた資料をパラパラと見ていくが、事故当時の写真も鮮明に貼られていた。

 けれど戦場写真の様に悲惨な現場であり、マイクはよくこんな悲惨な事故を起こしといて無事転職できたなと呆れた。

 

「HAHAHA! 見ろよイレイザー! コイツは少し……ん?」

 

「どうしたマイク?」

 

 テンションが上がってきた途端にマイクの口調が止まり、相澤はどうしたとマイクを見た。

 するとマイクは真剣な表情を浮かべた思えば、険しい表情を浮かべて黙って相澤に資料を手渡す。あるページを開きながら。

 

「見てみろイレイザー」

 

『死亡者:研究員1名――研究所周辺にて違法個性強化剤を所持したまま死亡。原因は全身にわたる圧死。()()()()()()()5名――全員が全身火傷及び、動物に襲われた様な裂傷を確認。死因は強烈な肉体の破損及び出血死』

 

「どうなってる? 雷狼寺に違法強化剤を打った研究員が一人死んでいたのは知っていたが、闇営業のヒーロー5名だと?」

 

「……そうなのさ! 当時はサイドキック達の闇営業が横行していた時代で、金額次第では違法な仕事を受ける者も少なくなかったのさ。どうやら彼等は当時、事務所も通さずに研究所にボディーガードとして雇われていたのさ」

 

「ボディーガードですか? 警備員ではなく?」

 

「そうなのさ! 昔の個性制御系の施設は強力な個性ばかり……それも当人達にも制御ができないほどに強力な! だから雇ったのさきっと!――本当に人間は何も学ばないのさ!!」

 

 根津はそう叫びと机を叩き、額に血管を浮かび上がらせる。

 嘗て動物実験をされた根津故の地雷だったらしく、相澤とマイクもこれ以上は危険と判断して何も言わなかった。

 けれど、同時に謎も増えた。

 

「だがどうなってるんだ……雷狼寺に何があった?」

 

 昔に、そして今に。明らかに人為的な悪意がなければ体験できない筈の多くの不幸。

 明らかに異常だと、何者かが裏にいると相澤は確信しながら精神安定の為に目薬を差した後、根津へもう一度顔を向ける。

 

「校長はこの過去の一件が今も続いていると?」

 

「ハァ……ハァ……!――少なくとも私はそう思うのさ! そしてその謎の大半を知る者を君はもう知っている筈なのさ!」

 

 その根津の言葉に相澤は最初に見ていた雷狼寺家の個性リストに目を向け、そのまま手に取った。

 

『雷狼寺竜牙:続柄 祖父・雷狼寺 アマツ(故)個性:風の簡単な操作。』

 

『続柄 妹・雷狼寺 ルナ・ミカ。個性:金雷

 

 先程、マイクと話していた箇所。明らかに異質な部分。

 根津も既に分かっている。だが敢えて、A組の担任である自身へ任せてくれているのを相澤は察する。

 

「分かっているのに迷う……合理的じゃないな」

 

 そう言うと相澤は素早く備え付けの固定電話を取ると、慣れた手付きで素早くボタンを押し、何処かへと繋げる。

 そして3回程の通信音が鳴った後、やがて相手が出た。

 

『こちら雷狼寺グループ本社受付係りでございます。ご用件をどうぞ』 

 

「私、雄英高校ヒーロー科1年A組担当の相澤と申します。社長である雷狼寺 ミキリ氏に早急にお話したい事がありまして……息子さんの件で」

 

 相澤は向かい合う事を選んだ。一人の生徒に対し、少々贔屓とも見えるレベルだが、それでも少しでも救うおうと。

 担任として、そして一人のヒーローとして。

 

『……社長のご子息の件で?』

 

「?……えぇ。雷狼寺竜牙の事で父親である雷狼寺 ミキリ氏とお話したく、可能な限り早めにアポイントを――」

 

『#&$――それには及びませんよ。相澤教員』

 

「っ! 失礼ですが、アナタは?」 

 

 突如、電話の回線に異音がした瞬間、相手の声がいきなり変わった。

 女性的な声からハッキリとした凛とした男の声。貫録すら感じる堂々とした何かすら声だけでも相澤は感じ、同時に正体も不思議と察した。

 

「……まさか、雷狼寺ミキリ氏?」

 

『えぇ、私がそうです。何やら竜牙について話があるとの事ですが、アポイントを取る必要はありませんよ』

 

「どういう意味でしょう?」

 

『実は現在、商談の帰りでしてね。帰りのルートで雄英の傍を通るのです。それで車内であれば30分程ならば時間は取れます。――それでいかがでしょう()()()()()()()()?』

 

「……成程。構いませんよ」

 

 どうやら一筋縄ではいかない。アングラ系として徹底し、一部マニア・ヒーローぐらいしか自身を認知していない筈なのに、雷狼寺ミキリは平然とヒーロー名を呼んだ。

 その事実に相澤は手札を見抜かれた感覚を覚えたが、動揺を一切殺し、平然としたまま同意した。

 

「親子揃って面倒を……」

 

 当人達がどう思うが、電話を切った相澤はそう思いながら雄英の校門へ向かうのだった。

 

 

▼▼▼

 

 外に出ていれば気付きます。そう言われていた相澤は最低限の仕事を熟した後、校門に向かうと相手の場所はすぐに分かった。

 校門の傍で、セキュリティが発生せず、他生徒の邪魔にならない様に停車してある『雷』と刻まれた一台のリムジン。

 その車の傍に黒スーツの男が立っていて、相澤の姿を見付けると一礼した後に後部の扉を開けた。

 

「お待ちしておりました。どうぞ、相澤様」

 

「……ありがとうございます」

 

 相澤も一礼し、車内へと入ると既に座っていた一人の男がいた。

 どこか竜牙と面影がある一人の男性。それが目的の人物なのはすぐに分かった。

 

「突然の事で申し訳ありません。御電話した相澤です」

 

「雷狼寺ミキリです。そう気にしなくても宜しいですよ。実績を出すアングラ系最高のヒーローの一人、あのイレイザーヘッドからの誘いならば応えない方が失礼というもの。――出してくれ。周囲を簡単に回れ」

 

 ミキリの言葉に運転手は車を出すと、雄英の周囲を簡単に走り始める。

 そして一定の安定した運転が数分続くと、最初に口を開いたのはミキリだった。

 

「しかしまさか、表に出てこないヒーローの一人――イレイザーヘッドとこうして話す機会があるとは。どうでしょう、この様な機会も何かの縁。CM等の露出が嫌いなのはご存知ですので、我が社のサポートグッズのテスター等はいかがでしょう? ()()()()()用など特殊なゴーグルや特殊コンタクト。更に新薬の目薬もあるのですが……」

 

 嫌な相手だ。相澤からして雷狼寺ミキリの印象はそれだった。

 悪人ではない分、尚の事に質が悪い人間。こっちに得がある物を示し、更に情報もしっかりと握っている。

 何一つが偶然ではなく、向こうは万全を期して会っている事に気分が悪い。

 相澤自身、実際にミキリが提示した内容に少し興味が生まれたのが証拠でもあった。

 

「いえ、私はそちらに応えられる様なヒーローではありませんよ」

 

「ご謙遜を。私の目利きの個性が教えてくれています。あなたはに絶対的な価値があることを」

 

 ミキリは個性を使い相手の価値を見た時、しょぼい相手だと本当に少し湯気が出ている程度しか価値が見えない。

 だが本当に価値がある相手を見ると、文字通り全身にオーラを纏っている様に見えており、相澤はまさにそれだった。

 

「勝手に個性を使った事は謝罪しますが、仕事癖のようなもので……しかし、流石は数ある事件の縁の下の力持ち。アイドル気分で大した価値の無いヒーローが増える中、あなたの価値は本当に――」

 

「そろそろ良いでしょう」

 

 相澤は失礼を承知でミキリの言葉を遮った。

 そんな事の為にこの時間を得た訳ではない。そう伝える様に相澤は鋭い視線をミキリに送ると、ミキリも察した様に顔を正面へ向け直す。

 

「残念です……それで本題ですが、竜牙について何かあるとか? そちらも既にご存知かも知れませんが、私達と息子は疎遠ですので内容がどうであれ、話せる事はないと思いますが?」

 

「それはこちらで判断します。――別にあなた方と雷狼寺の関係を探る気も無ければ、非難するつもりもありませんよ。ただ幾つか聞きたい事があるだけです」

 

「……何でしょう?」

 

 相澤の言葉にミキリは先程の態度が嘘の様に冷静さを出しながらも、正面を向きながら相澤の問いを許した。

 

「まず最初に10年程前の個性制御系の研究所の事故を覚えていらっしゃいますか? 雷狼寺グループも事件の解明に催促して事件です」

 

「……覚えています」

 

 相澤の遠回しに、圧力掛けたの知ってるぞが含まれた言葉にミキリは特に反応せずに肯定した。

 

「ならば聞きます。あの事故では何があったんです? 何故、被害者側のあなたは圧力を掛けてまで事故の処理をを望んだんですか?」

 

「何があったと言われても警察が持っている資料のままの事があっただけですよ。研究所所長の助手が功を焦り、息子を始めとした子供達に薬品を投入し、個性が暴走した。その後、助手は何故か死亡していた様ですがね。――早期に処理したのは我が社のイメージの為です。僅かな問題でも関係していれば、あっという間にデマ等は広がってしまいますからね」

 

「しかし、その結果……あなたは雷狼寺と距離を置いた。見方によれば被害は大きかったのでは?」

 

 実の息子との家族関係が崩壊しているのだ。

 雷狼寺夫妻がその事件が起こる前までは、必死に竜牙の個性を何とかしようと行動していたのは相澤も調べ済みだった。

 だからこそ違和感を感じた。あまりにも切り捨てる判断が良すぎるから。

 

「竜牙の個性は突然変異……しかも並みの個性ではなかった。増強系でもなんでもない私達では万が一の時に何もできない。頼みの綱でもあった個性制御の施設ですら、あんな事件が起こったのです。ならば心も折れるというもの」

 

 相澤の考えを察してか、ミキリは竜牙との関係の理由を口にする。

 だが相澤もその答えで満足する気はなかった。

 

「少し質問を変えます。――所長の助手が死亡したのをご存知ならば、同じく5名のヒーローが死亡したのもご存知ですよね? 闇営業で職員達のボディーガードをしていたという」

 

「えぇ知ってますよ。ヒーローもヴィランも大した違いがないとよく分かる」

 

「同じヒーローとして恥ずかしい限りです」

 

 本音を言えばそんな連中と一緒にされたくないと相澤は思っていたが、資料を読む限り、嫌悪する様に呟くミキリの気持ちも分かった。

 

『証言:死んだ5名のヒーローは暴走した少年達を攻撃。大人しくさせる感じではなく、ヴィランとの戦闘よりも過激だったと複数証言あり』

 

 闇営業に手を出すレベルのヒーローだ。合理的な戦いなど出来る筈もない。

 座席の握る手が力強く震えているミキリも当時の事を思い出しているのだろう。相澤はやはり雷狼寺家は被害者側である事は間違いないと確信する。

 

「……だからこそ暴かねばな」

 

 ミキリ達が何を隠しているのか。きっとそれは竜牙と謎のヴィランとの繋がりを証明する何かの筈と、相澤は小さく呟くと動き始めた。

 

「ですが、そんな連中の被害に遭ったにも関わらず、雷狼寺グループは圧力を掛けた。企業のイメージを理由にするのにも違和感を感じる被害です。――これは考えたくはありませんが、そのヒーロー達を殺害したのは暴走した雷狼寺 竜牙なので――」

 

「――違う。あの時の事故で竜牙は誰も殺してはいない」

 

 圧力を掛け、息子を捨てた理由はそれぐらいだと思った相澤だったが、ミキリはハッキリとした口調で竜牙ではないと断言した。

 相変わらず相澤へ顔を向けないが、それでも真剣な様子で断言するミキリの姿に相澤は驚きを隠せなかった。

 

――こんな表情をするとはな。

 

 前に簡単に調べた時は親子仲は完全に冷え切っていると聞いていたが、今のミキリを見る限りでは子を侮辱されて怒る親そのものだ。

 これ以上は無駄な刺激になると思い、相澤は別の方から仕掛ける事にした。

 

「分かりました。――では最後に御聞きますが、雷狼寺は()()()突然変異系なのですか?」

 

「……当然でしょう。私と妻の個性と、竜牙の個性は別物。変異じゃなければ説明がつかない」

 

「確かにそうですね。けれど、他の親族とはどうなのでしょう?」

 

「……なに?」

 

 相澤の言葉に懐疑的に反応するミキリだが、同時に何かを察したのか目が鋭く光る。

 

「まさか……雷狼寺家の個性図を?」

 

「ヒーローとして確認しました。既に故人のあなたの父親・雷狼寺アマツさんの個性は『風操作』らしいですね。そして娘さん達は『金雷』――金色の雷を操るとか」

 

「……それがなにか?」

 

 平常心を保つミキリだが、顔は先程よりも相澤へ向こうとしない。

 後ろめたい事でもあるのか、相澤はある確信を突いた。

 

「突然変異系は文字通り、予測不能で生まれるイレギュラー。なのにこうも関係者に似た状態を確認できるのはありえない。――もう一度、そして単刀直入に聞きます。雷狼寺 竜牙は突然変異系ではなかった。違いますか? 恐らくは鍵を握っているのは亡くなった雷狼寺の祖父ですね?」

 

「……これはヒーローとしての正式な要請ではない。故に、私は黙秘する事も可能の筈だ」

 

「否定はしません。今回はヒーローよりも担任としての方が強いですので」

 

「ならば黙秘しますよ。これ以上は他人が踏み込んではいけない家庭の領域です」

 

 都合が悪いと言うよりも、本当に言いたくない様に顔を逸らすミキリ。

 普通のヒーローならば、この辺りで退き際と思うのだろうが、相澤は同情で事態が悪化したりすれば非合理この上ないと口を閉じなかった。

 

「ですが私はヒーローです。何か力になれるかもしれませんよ?」

 

「なれませんよ。ヒーロー殺し事件の時もそうですが、リューキュウを始め、エンデヴァー等、大勢のヒーローがいたにも関わらず私の娘達を連れ去られ、竜牙も守れなかった。そんなあなた方が何の力になれると?」

 

「その一件は雄英側としても言い訳はしません。生徒の安全を保障しながらも、あの様なのはこちらの責任です。――ですが、あの一件を覚えているならば分かっている筈です。雷狼寺が謎のヴィランに狙われている事を」

 

 警察・ヒーロー側から口止めをされてはいたが、それでも竜牙の両親であるミキリ達には謎のヴィランの報告はされていた。

 また、謎のヴィランは敵連合と関係しているのもショッピングモールの件で分かっている。

 まだ終わっていない。寧ろ、竜牙に何か影響を与えているのだ、未だに。

 

「そして私は思っています。その謎のヴィランを、雷狼寺 ミキリ氏……あなたはご存知なのでは?」

 

 時折、感じさせる謎の冷静さ。未知なるヴィランに家族が狙われたならば冷静でいられないのが普通だ。

 けれどミキリは予測の範囲内とも思えてるかの様に冷静さを失わず、ずっと同じ様子で座り続けている。

 相澤は疑い、そしてもし脅されているならば救いたいと思っていた。これ以上、この一件を長引かせれば竜牙がヴィランよりも厄介な存在になる可能性が見えているから。

 

「黙秘します。――私から何か聞き出したいようですが、それは無意味です。私と竜牙は血縁以外は親子関係が破綻している。そんな私から、あの子を救える何かがあるとは普通は思いませんよ」

 

「それで良いんですか?」

 

「……百歩譲り、竜牙が突然変異系ではなかったとします。だが、それが何だというのです? 我々の関係、そして謎のヴィランとの何かが変わるとは到底思えませんが?」

 

「でしょうね。ですが、親の言葉は救いになる可能性がある。――これを見てください」

 

 相澤は服の中から小型のプレーヤーを取り出し、ミキリへ今日あった実技での竜牙の様子を見せた。

 切島・八百万。確かな実力を持つクラスメイトを蹂躙する雷狼竜の姿に、ミキリは最初は黙って見ていたが、やがて目を逸らした。

 

「……言いたい事は分かりました。ですが、私に何が出来るというのです。嘗ての事件も、竜牙へ何かを言う事も、その敵連合の謎のヴィランの事も言える事は何もありません」

 

 何かを思い出しているのか、ミキリの顔色はやや悪くなる。そして自身に出来る事は何もないと相澤へ断言する。

 

「……確かに、必ずしもあなたの言葉が救いになるとは私も断言はしません。けれど、本当にそれはあなたの意思なのですか?」

 

「何か言いたそうですね、イレイザーヘッド」

 

 ミキリがハッキリ言えと、鋭い視線を相澤へ向けると、相澤は再び服から一冊のカタログを取り出した。

 そこには雷狼寺グループ『サポートグッズカタログ』と記されており、それを見たミキリは拍子抜けだというように静かに目を閉じた。

 

「それが何だと言うのですか?」

 

「雷狼寺グループがサポートグッズを始める様になったのは、約10年前からですね。体質に合わない個性のサポートグッズ、力を制御できる様な特別機器、帯電仕様のグッズや負担になりずらい電気系個性用のバッテリー……それ以外にも色々とあります。雷狼寺の奴にもきっと適合するグッズが幾つもあるでしょう」

 

「……だから何が言いたいのですか?」

 

「雷狼寺 ミキリ……あなたは本当は雷狼寺を――」

 

「――到着致しました」

 

 急に車が停車し、ドライバーは素早く降りて相澤側の扉を開けた。

 

「時間切れという事ですか?」

 

「そう思ってもらって構いませんよ」

 

 ドライバーは主を助ける為の行動で、ミキリも終了と言わんばかりに腕を組んで顔を下へ向けた。

 相澤へと接触を拒否したような姿勢に、相澤も無駄な抵抗をする気はなかった。

 

「今日はありがとうございました」

 

 まぁ多少は情報が手に入ったし良いかと、相澤はそう思う事で無駄ではなかったと自身を納得させる。

 そして車からゆっくり降りた時だった。

 

「親というのは()()()()()のですよ。勝手に捨てて、事実に気付いて後悔したから、やはりやり直そう。――そんな傲慢は例え親でも許されないんですよ()()()()

 

 それはまるで懺悔の様に絞り出す様に弱弱しい言葉だったと、相澤は印象に残った。

 やがてミキリの車が走って行っても、少しの間、その場に立ち尽くす程に。

 

「合理的な時間じゃなかったな……」

 

 反省の様な呟きをし、相澤は感傷に浸る様に一息入れた時だった。

 

「えぇ!! それは本当かい!?」

 

 静かな雄英の校門の前で、場違いな声が響き渡る。相澤に聞き覚えの声だ。

 

「……何をやっているんだあの人は?」

 

 校門の前にいたのは骨の様にガリガリなオールマイトだった。

 誰かと電話しているのか、少し慌てた様子だが、やがて電話を終えると困った様に肩を落とした。

 

「むぅ……どうなっているんだ?」

 

「何がですか?」

 

「うわッ!? あ、相澤くん!? 驚かさないでくれ!」 

 

 まるで乙女の様にビックリするオールマイトに呆れながらも、こんな所で騒ぐなと思いながら相澤は取り敢えず事情を聞いてあげる事にした。

 

「それで、何事ですか?」

 

「えっ……あぁ、聞いてたんだね。まぁ相澤くんには伝えるべきだろう。――10年ほど前、雷狼寺少年がいた個性制御研究所の元所長なんだけど、()()された様だ」

 

「!……どういう事ですか?」

 

「私も詳しくは分からない。だがヒーロー殺しの一件もあって、嘗ての雷狼寺少年を知る人物に知り合いの刑事が会ってくれる筈だったんだが、アポイントを取っていた元所長は自宅で殺害されていたらしい。――10年前の事件を詳しく聞く筈だったのに」

 

 何故こんな事に。オールマイトはそう呟く中、相澤は静かにミキリが去った方を見ていた。

 

「……本当に合理的な時間じゃなかった」

 

 

▼▼▼

 

 

 相澤との対話が終わった後、ミキリはそのまま本社に戻っていた。

 だが車内でミキリは疲れ切った様に座席に身体を預け、疲れた様に呼吸をしていた。

 

「ふぅ……今更だ。全ては手遅れだ」

 

 こんな事になるなら、そもそも何もしなかった。

 個性迫害を恐れていた父親が個性を偽っていたのを知ったのも、本当にここ数年の事。

 娘達の個性が竜牙と()()だと分かり、母に聞いてようやく解明したこと。

 

「後悔は先に立たないさ……本当に」

 

 謎のヴィランについても知っている。と、いうよりも一人しかいない。

 

『やぁ久しぶりだね。君の息子さんにも会って来たよ。本当によく成長している。――ところで聞きたい事があるんだが、10年前の個性制御の所長の居場所を知っているかな?』

 

 10年振りに突然電話をしてきたと思えば、その時間の感覚など気にせずに変な事を聞いて来た巨悪。

 何やら貸しを返すやらで元所長を探している様だが、逆らえば逆に恐ろしい目に遭うのは分かっている。

 だからミキリは知っている事を話すと、巨悪は満足そうに言っていた。

 

『あぁ助かったよ。お礼に10年前の事は誰にも言わないでおこう。まぁ僕も忘れてたんだけどね』

 

 そう言って大声で笑い、君達にはもう興味ないから連絡する事もないだろうと、一体何の為に連絡を寄越してきたのか分からない存在。

 

「……目的は竜牙か」

 

 本当に後悔とは先に立ってくれないものだと、ミキリは被虐的に笑う。

 もう会いたくもない相手を嘗ては、危ない橋を渡ってすら探したから。

 

『お願いします! どうか……どうか息子の個性を奪って下さい! そして代わりの個性をお与え下さい!』

 

『あぁ良いとも。僕が救ってあげるさ』

 

 その結果があれだった。ふざけた事だとミキリは怒りが沸いた。

 

「何が救うだ……! おのれ……おのれ……()()()()()()()()()()!!――私は何故……あんな事を……!」

 

 ミキリの怒り。それは自身に一番向けられていた。

 それを知っている彼の使用人達は何も言えない。言わないでいる。ちゃんと全てを知っているから。

 

 

 

END

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