僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~


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作:四季の夢
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第三十二話:短命の象徴


ご無沙汰です。
あれですね。仕事しているとSSを書く時間なんて取れませんね(;´・ω・)


 

 ショッピングモールの一件の翌日。

 雄英でも生徒を守る為の対策が出され、合宿先の変更と新たな合宿先は生徒にも教えない事を余儀なくされる。

 その事にA組の者達も思う事はあったが事情なだけに納得し、その安心感か学生故の若さゆえの楽観的な為か徐々に笑顔が戻り始める。

 

――だが竜牙と緑谷だけは笑顔になる事はなかった。

 

 そして昼休み。それぞれのクラスメイト達は色々と話しながら今日は何を食べるかとか、そんな他愛も話しをし始めていた。

 

「お~い! 食堂行く奴誰々だ?」

 

「私いく~!」

 

「オイラもいくぞ!」

 

 切島の言葉に芦戸や峰田が乗っかり、他のクラスメイト達も一緒に行く流れとなっていく。 

 また一人また一人と行く中、芦戸が耳郎と障子にも声を掛ける。

 

「二人はどうする~!」

 

「俺も行くか……耳郎はどうする?」

 

「うちも行こうかな。弁当も無いし。……雷狼寺はどう――」

 

「先客がある」

 

 耳郎と障子の言葉を背に受け、雷狼寺はそれだけ言って教室のドアへ一人で向かう。

 だがその途中で僅かに足を止めると、とある人物の名を呼んだ。

 

「――緑谷、早くしてくれ」

 

「あっ……うん、今行くよ」

 

 特に感情がない口調だが、竜牙の言葉にピリ付くような威圧が含まれている。

 呼ばれた緑谷は弁当を持って慌てて竜牙の後を追いかけていくが、クラスメイト達には珍しい光景でしかなかった。

 

「雷狼寺と緑谷?」

 

「珍しい組み合わせだな」

 

 耳郎と障子は首を傾げながら互いに顔を見合わせる。だが互いに答えは出ず、上鳴や八百万も困惑を隠せなかった。

 

「な、なんか仲良く駄弁りながらの昼飯って感じじゃなかったよな?」

 

「え、えぇ……御二人共、何かあったのでしょうか?」

 

「二人に限って喧嘩とは思えないが……?」

 

 二人の話に飯田は困惑気味に竜牙達の背を見守る。

 ステイン相手に共に戦い、命を預け合った仲だ。あの二人に限って溝も無い筈、そう思いながらも不安はあった。

 飯田がそう思っていると席に座っていた轟が不意に呟いた。

 

「……雷狼寺のやつ。似てるな」

 

「似てるって何が?」

 

 どこか思い詰めた雰囲気の轟。その様子も気になって耳郎が問いかけると、周囲の視線も自然と二人の方に集まった。

 

「俺にだ。……前の俺に似てる」

 

――エンデヴァー……アイツしか見ていなかった時の俺に。

 

『ヒーローになる為。その一言が言えないお前に負ける事はない』 

 

『雷狼寺 竜牙だ。宜しく頼むな』

 

 いつの間にか親友が変わっている。

 誰も見ていない。嘗て自身の様に憎き父しか見ていない。当時は気付かなかったが、何故か不思議と分かる。

 嘗ての自分もあんな感じなんだったのだと。

 

「不安が消えねぇな……」

 

 轟は自分でも珍しい事だと思いながらも、その想いと共に複雑になっていく感情を整理していく。

 けれど、轟には予感もあった。

 

 

「……だけど緑谷なら何かあるかもしれねぇな」

 

 自身を救い上げた緑谷ならば。

 周囲が何の話か分からず不思議そうに見ているが、それで良い。

 けれど一つだけ心残りもある。

 

――友達として、何か言えねぇもんかな。

 

 色々と借りたり教えてくれる友人に対し、何も言えない自分の不器用さに轟は少し後悔するのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

 生徒指導室。人気のない学校の一室の前で竜牙と緑谷は足を止めた。

 ただ黙りピリ付いた雰囲気の竜牙と、そんな彼を何とも言えない気まずい表情で見る緑谷。

 けれど竜牙は緑谷へは一切意識を向けず、ただ扉をノックした。

 

 すると、室内から声が掛けられた。

 

「――どうぞ」

 

「失礼します」

 

「言う通り来ました……()()()()()()

 

 扉を開けて竜牙が入った後、室内にいた男の名を緑谷が呟いた。

 長椅子にスーツを纏って座るオールマイト。だが彼の姿は瘦せこけていて、骨と皮しかない姿は№1の姿を知る竜牙には痛々しく見えた。

 

 けれど、今はそんな事をどうでも良い。竜牙が知りたいそこではないからだ。

 

「……オールマイト、で良いんですよね?」

 

「あぁ、そうだよ雷狼寺少年。私はオールマイトだ。――そして君の因縁でもあるヴィラン『オール・フォー・ワン』を知る者だ」

 

――あぁ、やっぱり本物だったんだ。

 

 その言葉を聞いた竜牙は、もうオールマイトの言葉も姿も疑わなかった。

 本物だった。№1の隠し事を知ってしまった。知りたくなかった。

 内心では乱れている心を何とか抑え、竜牙は目の前の現実を受けいれた。

 

「警察署では済まなかったね。あまり、あの場で長話はしたくなかったから」

 

「……いえ、仕方ない事です。こんな事実、隠さなければいけませんから」

 

 申し訳なさそうに話すオールマイトに竜牙は静かに頷いた。

 警察署の前で事実を問い質したが、オールマイトからは後日時間を作ると言われた。

 当然だ。警察署の前では自分の様に不本意でも聞いてしまう者がいるかも知れない。だから竜牙はこの場で話をするというオールマイトの提案に乗ったのだ。

 

「……では、単刀直入に聞きます。オールマイト、あなたのその身体は一体……?」

 

「……代償だね。5年前……いや、もう6年になるか。――とあるヴィランと戦った時に受けた傷が原因でこうなってしまったんだ」

 

 各内臓の損傷・摘出。オールマイトは簡易的に話すが、それだけでも竜牙に重症度を教えるのに十分だった。

 

「内臓の損傷や摘出……!? それに6年前のヴィランってまさか……!!」

 

 竜牙の衝撃は計り知れないものだったのだろう。いつもの無表情の仮面は崩れ、驚愕や困惑に満ちていた。

 緑谷はこんな竜牙を見た事がないと隣で驚いていたが、オールマイトだけは逃げてはならないと言わんばかりに冷静に目を見続け、そして頷いた。

 

「あぁ……6年前のヴィラン。そいつは君の思った通りだ」

 

「6年前……18禁ヴィラン“メチャエロンビキニ”!?」

 

 竜牙の言葉にオールマイトと緑谷がズッコケた。

 ヴィラン名『メチャエロンビキニ』――それは5年前まで活動していた女性のヴィランだ。

 際どいビキニを纏い、小学校や中学校、そして公園などの一目の多い場所に出没するヴィランでミッドナイトと激闘を繰り広げたのは一部のファンには有名で伝説。

 

「確か……6年前にオールマイトの説得により自首したとは聞いてましたが、まさかそれ程までのヴィランだったなんて」

 

「いやそいつじゃないよ!? っていうか良く知ってたね!? 彼女は格好とか問題あって報道や規制が凄かったのに!?」

 

「――追っかけでしたから」

 

 その言葉でオールマイトは思い出す。

 彼女には信者の様な一般の協力者――つまりはファンが存在した事を。

 アイドルの親衛隊の様にメチャエロンビキニの出現場所に現れていて、最後は自首する彼女を全員で警察署の前まで見送った凄い連中だ。

 

――まさかあの集団の中に君もいたのかい雷狼寺少年?

 

 危うく聞き返しそうになるオールマイトだったが、すぐに頭を切り替えた。

 

「彼女じゃないよ雷狼寺少年! 6年前のヴィランはオール・フォー・ワン!! 君にとっても因縁のあるアイツだよ!!」

 

「……オール・フォー・ワン」

 

 その名前が出た事で竜牙も18禁ヴィランの話から現実へ戻って来れた。

 オール・フォー・ワン。自身の人生を狂わせ、雷狼竜の逆鱗を己の意思で触れた悪者。

 

――そして俺の心に侵食してきた師。  

 

「……オールマイト。あなたとオール・フォー・ワンの関係は一体……あと、緑谷もだ。緑谷とオール・フォー・ワンに関係が?」

 

「――いや、緑谷少年とオール・フォー・ワンとの間に関係はないよ。彼の場合は私の個性と似ている点があり、制御が出来ない彼に私がお節介を焼いている状態だ」

 

 その過程で正体がバレたがね。――オールマイトはそう言って困った様に笑った。

 オールマイトのその言葉を聞いた竜牙も、隣にいる緑谷の方を見る。

 

「そうなのか、緑谷?」

 

「えっ……う、うん。そうなんだ……オールマイトに目を掛けられて贅沢だよね」

 

――嘘だな緑谷。言葉が軽いぞ。

 

 緑谷の言葉に重みがない。目にも力が入ってない。

 何となくだが、最近はそんな細かい所に意識が向けられるようになった気がする。

 

――雷狼竜が教えてくれる。

 

 不甲斐ない宿主に力を貸してくれている。

 竜牙も本能的にそれを理解できたが、今は特に追求はせず、その嘘に乗っかる事にした。

 

「そうですか……緑谷との事は分かりました。じゃあ本題の件ですが……オールマイト、その身体はオール・フォー・ワンに?」

 

「あぁ、そうだよ。奴との戦いにより私はもう、一日30分、いや……それよりも短い時間しかヒーローになれないんだ」

 

「!?」

 

 その言葉を聞いた竜牙の頭は真っ白になる。

 №1ヒーローがもう短い時間しかヒーローになれない。そんな想像もしなかった現実によって。

 

「……治るんですか? 治療すれば、また今までの様に――」

 

「――無理だね。治療に専念すれば多少は変わるかもしれないが、私は平和の象徴だ。私に助けを求めている人がいる以上、それは出来ないよ」

 

 希望は既になかった。オールマイトは命を削りながら平和の象徴を保っていただけだ。

 つまり、無理をしてだ。オールマイトからの直接の言葉を聞いた竜牙は何も言えず、顔を下に向けてしまう。

 そんな竜牙の姿を見たオールマイトは、意を決した様に口を開く。

 

「顔を上げてくれ雷狼寺少年。君の気持ちは嬉しいけど、助けを求める人には君も含まれているんだ。……私は警察署でも言ったね。――オール・フォー・ワンの事は私に任せてくれ」

 

「!……そんな、無理ですオールマイト!!」

 

 オールマイトの言葉を聞いた瞬間、竜牙は思わず立ち上がって声をあげた。

 警察署の時とは状況が違う。任せては駄目だ。あんな巨悪と今のオールマイトが戦えば間違いなく死ぬか、良くて再起不能だ。

 それだけはさせてはならない。何故ならばオールマイトは『平和の象徴』だからだ。

 

「駄目だオールマイト! オール・フォー・ワンはまだ力を持っている! 死ぬだけだ! それか良くても平和の象徴が終わってしまう! 今の社会のヒーローの大半は腐ってる! あなたの影に隠れた贋作ばかりだ!! あなたは終わってはいけないんだ!!」

 

「……ありがとう雷狼寺少年。けれど、これは私と奴の因縁なんだ。その因縁は君達の時代には必要ない。――それに君はそう言うが、そこまで今のヒーロー達は悪くないよ? エンデヴァーやリューキュウを始め、沢山の心強いヒーローがいるじゃないか?」

 

「それ等が贋作なんだ! エンデヴァーは検挙率は№1です! ですが再犯率や新たな犯罪の抑止力にはなっていない! 寧ろ悪化させている! 他のヒーローだってそうだ! あなたと違って、他人と自身の命を天秤にも掛けない連中ばかりだ! いざって時に逃げ出す! 抑止力には誰一人なれない!」

 

 自身の想いを竜牙はぶちまけた。感情的になったと自身も反省するが、それでも後悔はない。

 オールマイトに教えなければならない。今の社会に平和の象徴は一人しかいない現実を。

 

「……雷狼寺少年」

 

 けれどオールマイトは竜牙の想いを受けて尚、冷静でいた。

 小さく、ハッキリと彼の名を呟くと、しっかりとした目で竜牙を見上げながらこう言った。

 

「それでも私は皆を……ヒーローを信じる」

 

「!……オールマイト」

 

――分かっていますか? 信じるなんて、所詮は他力本願か願望でしかないって事に。 

 

 竜牙はオールマイトの言葉にもう何も言えなかった。

 変わらない。この人は死ぬまでこのままなんだと分かってしまったから。

 愚かとも言える程の想い。だからこその№1ヒーロー。自身の憧れた存在。

 それを分かっているからこそ、竜牙はもう黙るしか出来なかった。

 

 そんな時だった。学校のチャイムが三人のいる教室に鳴り響いた。

 

「もうこんな時間か……緑谷少年、先に戻っていなさい。私はあと少しだけ、彼と話しをするよ」

 

「……は、はい」

 

 オールマイトの言葉に緑谷は何とか頷いた。

 だが内心では自分は必要だったのだろうか、何か言うべきだったんじゃないのかと、少しの迷いを抱いていた事をオールマイトは知らない。

 

「じゃあ……失礼します」

 

 緑谷はそのまま教室を出て行った。

 それを見送った後、オールマイトは静かに立ち上がり、再び顔と肩を落としている竜牙に肩に優しく手を置いた。

 

「雷狼寺少年……すまない。君の心の傷も、今までの事も、そしてご家族との事も。それは全て、オール・フォー・ワンを止められなかった私の罪だ。――だからこそ、私が終わらせよう。もう君が望まぬ姿を選ばぬ様に」

 

 体育祭の時に聞いたヒーローに憧れる№1の少年を、オールマイトは忘れていない。

 開会式で皆を燃え上がらせ、自身の個性と向き合っていた真っ直ぐな少年の事を。

 だからこそ止めるのだ。目の前にいる少年から大切な何かを奪った巨悪を、自身の手で。 

 

「だから君も私を信じてくれ。大丈夫さ!」

 

 そう言ってオールマイトはボンッと煙を出すと、そこにはいつものマッチョな№1の姿があった。

 

「HAHAHA!! なんたって私はオールマイトだからね!!――終わらないさ、私は。君や緑谷少年達が立派なヒーローになるまではね」

 

「……本当ですか?」

 

「本当だとも! さぁ! 昼休みは終わりだぜ!! 次は私とのヒーロー基礎学だ! 遅刻は許さないぞ雷狼寺少年!!」

 

 HAHAHA!!――笑いながらオールマイトも教室から出て行った後、残されたのは立ち尽くしたままの竜牙だけとなる。

 竜牙は数分間、その場から動かず、やがて静かに顔を上げて小さく呟いた。

 

 

――平和の象徴は終わらせない

 

 胸の中にある檻。その扉に手を掛ける様なイメージを抱いたまま、竜牙もまた教室から出て行くのだった。

 

 

 

END

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