僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~


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作:四季の夢
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第三十話:巨悪の先導


お久しぶりです(´・ω・`)
コロナ渦で仕事やらにも影響が出ておりまして、他作者さん達の作品を読めても自分の作品を書く余裕はありませんでした。


ただ若干、落ち着いてきた事もあってボチボチと書いていたのですが、ヒロアカ原作でショックな事があり、また筆は止まりそうです。




『やぁ、僕の可愛い教え子。あれからまた強くなった様だね!』

 

「――!?」

 

『GAaa!』

 

――身体が! 雷狼竜が!?

 

 画面からのふざけた様子で話すオール・フォー・ワンの声を聞いた瞬間、竜牙の瞳が血走って開眼した。

 ()()()()を放ち、同時に右腕が雷狼竜の頭部へと変化。今にも黒霧へ飛び掛かりそうになるのを抑えるので必死な程に雷狼竜の頭部は荒れていた。

 けれど竜牙は咄嗟に左腕を変化させ、なんとか抑えつけるが、雷狼竜は未だにオール・フォー・ワンへ唸り声をあげ、その敵意が静まることなかった。

 

『Grrrrr……!』

 

『アハハ! 随分と嫌われたものだ……けど、僕達の出会いを考えれば仕方ない事だろうね』

 

――何がそんなにおかしいんだ、それだけ俺も雷狼竜も脅威でも何でもないって事か。

 

 可笑しそうに笑うオール・フォー・ワンに、竜牙は複雑な心境を抱く。だがその話に興味が引かれてしまった。

 

――出会い。確かにオール・フォー・ワンは言った。つまり、断片的にしか思い出せない俺と雷狼竜の原点にオール・フォー・ワンが存在していたのを認めた。

 

 竜牙は雷狼竜からの記憶もあって、どこか腑に落ちた様に感じてしまう。

 また本音を言えば過去の真実を知りたくとも、ヴィランに答えを求める理由はないと竜牙は必死に己を抑えていた時だった。

 

『……知りたそうな顔をしているね雷狼寺 竜牙くん。知りたいなら教えてげるよ、それが先生としての義務だからね』

 

「……ふざけるな。何が先生だ、何が教え子だ。お前はヴィランでしかない、だからお前から聞く事は何もない!」

 

 竜牙は心を読まれた事への驚愕を必死に隠し、右腕の雷狼竜の頭部を無理矢理戻してから携帯を取り出した。

 

「通報させてもらう。ヒーローの卵としての、今の俺に出来る最善の行動だ」

 

『最善ねぇ……それにヒーローの卵か。――まぁ、君がそう思っているのも無理はない。誰も導く者、教える者がいなかったのだからね。しかし、その答えは何の捻りも無く、君自身で考えた意思も素振りもないマニュアル化した答えだ。故に、あまりに堕落し過ぎているとも言えるし、僕は悲しいなぁ』

 

 竜牙の言葉にオール・フォー・ワンは嘆く様に言い捨てた。

 その感じはまるで期待する教え子が、他の無能教師に個性を潰されて嘆く恩師の様に、一々と恩付けがましい程に癪に障る言い方だ。

 また逆撫でする様に、撫で回す様にもネットリとした言い方であり、竜牙の淵にいる“雷狼竜の個性”の怒りが強くなる。

 けれど竜牙はそれもまた抑えるとオール・フォー・ワンは続けた。

 

『……けど、僕には分かるさ。ヒーローの卵……いやそもそも、君はもうヒーローに期待も、希望も抱いていない事にね』

 

「……そうか」

 

――下手な事を口にするな。それだけで奴は全てを理解する。 

 

 口数を減らし、少しでも情報を悟らせない様に試みるが、相手は伝説のヴィラン――オール・フォー・ワン。

 雷狼竜の個性を持つ少年だろうが、経験値の差により一瞬で見破られ、オール・フォー・ワンは悪戯を隠す子供を見たかのように笑い出す。 

 

『ハハハハ! 素直だね君は! 死柄木とは違うから、これはこれで新鮮で何か楽しいなぁ』

 

 完全に子供扱い。そんな様子のオール・フォー・ワンに竜牙は複雑な感情が沸いて仕方なく、胸の中が気持ち悪い感情だけを循環し、文字通り胸糞悪い。

 ただそれも断片的にしか覚えていない自分とは違い、オール・フォー・ワンが全てを知っているからでもあり、フェアではない現状が更に竜牙を苦しめた。

 

「……ふざけた態度、なのになんで俺を付け狙う!」

 

『ハハハハ……確かに今更だった。でも、僕にも事情があって君の事をすっかり忘れていたんだよ。――けど、この間の体育祭で懐かしい遠吠えを聞いてね、すぐに思い出したよ』

 

「答えじゃない……何が言いたいんだ!」

 

『おや? 僕からは何も聞きたくないんじゃなかったのかな?』

 

――!

 

 それは竜牙の意思か、それとも雷狼竜の激昂か。 

 裏路地の様な場所とは言え、竜牙の腕は一瞬で雷狼竜へと変化させた。同時に両手には双剣が握られた。

 その様子に黒霧の纏う空気が変わるが、オール・フォー・ワンは満足そうに口を歪ませる。

 

『そうだ……それで良いんだ。良い感じに使いこなしている様で()()()()としても嬉しいよ。――どうだい、その『作成』の個性の調子は?』

 

「!?――作成の個性……だと?」

 

 竜牙はその言葉に思考が停止するが、強制的に冷静になった事で両腕も元に戻した。

 しかし竜牙は訳が分からないままでもあった。

 

――作成の個性? 雷狼竜じゃなく? なんでオール・フォー・ワンは、俺に個性が二つある様に言うんだ?

 

 訳が分からない。自分を混乱させる嘘の可能性もあるが、オール・フォー・ワンがどこから嘘を付いていたかと考えそうになり、竜牙は深呼吸をして冷静になろうとする。

 すると、その様子を見たオール・フォー・ワンは少し考える素振りを見せ、仕方ないと言った感じで言った。

 

『ふむ、まぁ分からないのも仕方ない。君は当時幼かったし、個性の暴走もあったんだからねぇ』

 

「……あの事件か。だが俺は当時の記憶を断片的にしか覚えてない。今更知りたいとも思っていない……が、お前という存在が脅威だと雷狼竜の個性が教えてくれる」

 

 そう言った竜牙の瞳は、トラウマを刺激された事で内心で昂ぶった事で雷狼竜の眼へと変化。

 学生とは思えない殺気を放つが、オール・フォー・ワンは笑いながら頷き、黒霧の名を読んだ。

 

『――黒霧』

 

「分かりました」

 

 オール・フォー・ワンに呼ばれた黒霧は端末を操作した。

 すると画面が二つに分かれ。オール・フォー・ワンの隣に別の映像が流れ出す。

 それはリアルタイムの映像であり、映像の角度的にも監視カメラの類だと竜牙は判断した。

 けれど問題は何の映像かではなく、何が映っているかだ。

 

「!……このショッピングモール?」

 

 映像には見覚えがある光景や、人々の声が発せられていた。

 それは間違いなく、今いるこのショッピングモール。そして二人の少年の姿がアップで映され、竜牙はその二人の姿を見て思わず瞳を大きく開いた。 

 

「緑谷と……敵連合の死柄木!?」

 

 ショッピングモールの片隅で一見、仲良さそうに座っている二人の少年は緑谷と、実際に見た事はないが雄英・警察と共に見たUSJの監視カメラに映っていた先の事件の主犯――死柄木 弔だった。

 死柄木はすぐにでも個性の発生条件である五指で触れる――その一歩手前、四指で緑谷の首に触れており、緑谷の表情も嫌な汗を流す程に蒼白くなっていた。 

 

――人質。

 

 その映像を見て竜牙の脳裏に、その言葉が過る。

 竜牙は半分の画面となったオール・フォー・ワンを睨みつけた。

 

「緑谷に何をする気だ……!」

 

『別にどうこうするつもりは僕にはないが……これで少しは僕の話を聞いてくれる気になったかな?』

 

 熱が冷めた様に口調が大人しくなるオール・フォー・ワンだが、言葉の内容と映像を見る限り、竜牙に選択肢はない。

 

「……何を話したいんだ、あんたは」

 

『アハハ……やはり素直だね君は。少しは弔にも見習ってほしいが、ただ言う事を聞くだけの生徒でも駄目なんだ。――難しいだろ? 教育というのは?』

 

「何を話したいって聞いたんだ……!」

 

 ふざけた態度ばかりのオール・フォー・ワンに竜牙は怒りを抱くが、同時に余裕も若干だが生まれていた。

 態度が態度だけに、内容は逆撫でする様にくだらないモノだと思いながらも、その話を黙って聞き始める。

 

『――ステインにより、君はヒーローの現状を分かった……いや、思い出したのだろ?』

 

「……なに?」

 

 突然オール・フォー・ワンが雰囲気を一変させ、そんな事を呟く。

 そして何故か、竜牙がその言葉を聞いた瞬間、何かがストンと落ちた様な感覚を抱きながらも、オール・フォー・ワンは話を続けた。

 

『君はどこまで自覚しているか分からないが、少しは不思議だったんじゃないかね?――あの場で、なんで自分だけがステインの思想に影響されたのかってね』

 

「……確かに思った」

 

 竜牙は少し迷いもあったが素直に答えた。

 きっと嘘をついても無駄であり、ただただ無駄に神経を逆撫でられるだけだと分かったからだ。 

 

「だがそれは……俺がオールマイトに完全なヒーロー像を重ねていたからだと思ってる。オールマイト以外にも尊敬するヒーローは多くいるが、それでも雄英での事や、インターンでヒーローの現場を知った事で違いや価値観を知った。――オールマイトの様じゃない、弱すぎるヒーローとかも」

 

 弱すぎる、それで誰かを守れるヒーローとは思えない。それが竜牙が戦力外だったヒーローを見た感想だった。

 ステイン・脳無との戦闘で数多くいたにも関わらず、最終的に大きな役割を担ったのエンデヴァー・リューキュウ等の上位ヒーローと、無名ながら奮闘したグラントリノだけだ。

 だが、そんな彼等もオールマイトと同じかと聞かれれば、竜牙は違うと断言できる自信もあった。

 

――性格・ヒーローとしての思想。

 

 それらの違い程度の僅かな差なのか、それでもリューキュウ達も命がけで市民を守れる立派なヒーローだが、竜牙の心の隅には、ほんの僅かでも認めたくないという感情はあった。

 

――オールマイト以外はヒーローじゃないという、そんな感情が。

 

「けれど、それは俺がヒーローの経験が足りないから、そしてオールマイトをあまりに英雄視してしまってるからだ。だから同じ様に英雄視していたステインの言葉を俺は――」

 

『――違う。そうじゃないんだよ』

 

 オール・フォー・ワンがいきなり言葉を遮った。

 まるでパソコンの電源を不意に切られた様な衝撃を竜牙は受けた。

 しかし当のオール・フォー・ワンだが、まるで教えた事を忘れた教え子に、もう一度教える様な感じで話を続ける。

 

『僕は言った筈だ……君が忘れているだけだとね。まだ思い出せないかい? あの時の事を――』

 

「あの時……?――グッ!!?」

 

 それは所謂フラッシュバックの一種の様に、脳内に閃光が放たれた様だった。

 オール・フォー・ワンの言葉を聞いた途端、竜牙の頭に痛みが走った。

 強烈、だが収まるのは凄まじく早い痛み。

 けれども、同時に竜牙の脳裏にある記憶が蘇った。

 

『怯むな! 所詮は子供の個性だ!』

 

『本当に楽な仕事だ。ヒーローなんて人気だけで金額が変わるからなぁ』

 

『無駄口はそこまでだ。とっとと、この化け物を止めるぞ』

 

 それは派手な格好をした男三人――恐らくヒーローが自分を見て、そんな事を言っている記憶だった。

 目線が高い事から、自分が雷狼竜化している状態だと分かるが、雷狼竜になってからヒーローと対峙した事は竜牙の思い出せる限り、そんな記憶はない。

 

――こんな露骨に敵意を向けるヒーローなんかに。

 

「……何だったんだ今のは?」

 

『あぁ思い出したようだね、少し強引にしてしまって申し訳なかったけど、これも君の為なんだ……今、君は雄英・ヒーローという名の檻によって苦しんでいるんだよ。それで本当の自分が分からず、個性の制御もブレ始めているんだ』

 

「ふざけるな! 何が檻だ! そもそもお前が、お前が俺を――」

 

『そもそも僕は君に何をしたんだい?』

 

「――えっ……?」

 

 平然と言い返してきたオール・フォー・ワンの言葉を受け、竜牙は冷や水を浴びせられたように冷静になってしまった。

 思い出せばそうだが、職場体験の時に確かに重傷を負ったとはいえ、竜牙が感じるのはそれ以前からの感覚の敵意。

 けれど、それだけだった。

 

――オール・フォー・ワンは俺に何をした?

 

 知ってて当然の事だ。敵意と恨みを抱くほどの相手に対し、自分が何をされたのかは。

 けれど冷静になればなるほど、現実を正面から突き出された途端、竜牙は気付いてしまった。

 

「……雷狼竜の感情だけしか俺は知らない。オール・フォー・ワン、あんたは俺に何をしたんだ……!」

 

『しいて言うなら……僕はあの時、頼まれて来た。――そして、その中で正当防衛をしただけだよ』

 

 オール・フォー・ワンは特にふざける事もせず、ただそう言った。  

 そしてそれを聞いた竜牙は今までの態度の事を踏まえ、オール・フォー・ワンが嘘を言っていないとも理解出来た。

 理由は今の話の流れでオール・フォー・ワンが嘘を付く理由もなく、同時に竜牙も少し相手を理解出来ており、雰囲気的にも本当の事を言っているとしか思えなかった。

 

 けれど、納得できない点もあった。

 

「……じゃあ、なんで雷狼竜の個性はここまであんたを憎んでいるんだ?」

 

『憎んでいるというよりも、ただ“敵”として認識されただけじゃないかな? 野生というのは君や僕が思う以上に奥が深い。だから僕にとっての正当防衛が、雷狼竜にとっては許してはいけない行動だったんだろうね』

 

 オール・フォー・ワンは自分の事なのに、まるで仕方ない事だと思う様にそう言った。

 その口調も優しく、本当に教師が教え子に教えているような感覚に竜牙は錯覚しそうになった時だった。

 

『あぁ、すまないね。今日はここまでの様だ』

 

「?」

 

 何の突拍子もなくオール・フォー・ワンは話を終わらせた事に、竜牙は訳が分からなかったが、画面の半分に宇映る緑谷達の変化を見て、竜牙はその意味に気付いた。

 

「麗日……!?」

 

 緑谷達の画面に映るは新たな登場人物――麗日がいた。

 麗日は明らかに死柄木の存在に気付いている様に動揺しており、死柄木は特に気にした感じもなく緑谷から離れて行く。

 そして、その死柄木の行動を見届けると黒霧は目の前に個性で作ったゲートを出現させた。

 

『じゃあ今日はこれで失礼するよ。また今度、ゆっくりと話せると良いね』

 

「!――待ってくれ! あんたは何なんだ! 何を知ってる! 俺と雷狼竜の知らない何を知っているんだ!?」

 

 気付けば竜牙は自身の意思でオール・フォー・ワンを呼び止めていた。

 この男は何かを知っている。自身の過去はこの際どうでも良かったが、力や、自身にとってプラスになる何かを。

 少なくとも、それだけの何かを目先に突き付けられたような衝撃を竜牙は感じた。

 

 そして竜牙の姿にオール・フォー・ワンは嬉しそうに笑うが、その様子に反して首左右に振る。

 

『残念だけど、今日の授業はここまだ。――だが可愛い教え子の為に、最後に二つ程アドバイスを送ろう』

 

 モニターを切ろうとする黒霧を画面から制止し、オール・フォー・ワンは静かに口を開いた。

 

『まず君は檻から放たれなければならない』

 

「檻……?」

 

『そうだ……ヒーロー・ヴィラン。そんなちっぽけな檻に君は囚われているんだ。君には分かる筈だ、ヒーローはオールマイト以外は腐っていると。ヴィランもステインの様な志を持つ者はいない事が』

 

 ヒーローに関しては何度も聞いた。けれどヴィランに関しては初めてだと竜牙は真剣に聞いていた。

 ステインのやり方は間違っているが、根本的にはヒーローの腐敗化がある。

 そんなステインの存在と、犯罪だからと他のヴィランと同じとも思えない。

 

 竜牙はそう感じていると、その無表情だけでオール・フォー・ワンは全てを察した。

 

『クククッ……やはり君は賢い。だからこそ、最後のアドバイスを聞いてもらいたいんだ』

 

――オールマイトを信頼し過ぎては駄目だ。

 

「!……何故?」

 

 その言葉を聞いた竜牙は目を大きく開き、巨悪へ答えを求めた。

 悪の象徴がオール・フォー・ワン。けれど平和の象徴であるオールマイトは謂わば対の存在であり、単純な意味である筈がない。

 けれど意図が分からず、竜牙は問い掛けるとオール・フォー・ワンは今度は笑わなかった。

 

『オールマイトは確かに平和の象徴さ。けれど彼は教師としては“二流”……誰かを教える能力は不足していると言える。――そして何より、彼は平和の象徴として()()なんだよ』

 

――限界? あのオールマイトが?

 

 その言葉を聞いても竜牙はすぐには信じる事も、理解も出来なかった。

 USJでは脳無を撃破し、後で映像で見た期末試験の時も緑谷・爆豪を圧倒させた№1ヒーロー。

 確かに教師としては抜けている部分もあったが、それも今までのオールマイト自身の経験で補っていて確かに自身のプラスになっている。

 

 少なくとも竜牙のオールマイトの評価は高く、オール・フォー・ワンの言葉を鵜吞みにはしなかった。

――けれど、同時に僅かな“違和感”が竜牙の胸の中に過る。

 

 オールマイトは最高のヒーローだ。けど、なんだこの違和感は?

 ザワザワとし、胸を乱す違和感という名の不快感。まるで己自身の言葉を潜在的に否定している様な気分を竜牙は抱いてしまう。

 

『やはり君も、オールマイトに関しては直感的に感じ取っていた様だね。やはり素晴らしい個性だ。本能、野生の直感……それこそが()()()個性の真髄なのだろう』

 

 素晴らしい、本当に素晴らしい。

 比較的に個性を抑えていた彼でさえ、これ程の成長性を持っている以上、あの5人も必ず役立ってくれる。

 オール・フォー・ワンは教え子の成長を喜び、同時に世界を巡って連れて来た5人の調整を急がせようと思うが、今は死柄木が最優先。

 

『行こうか……黒霧』

 

 オール・フォー・ワンの言葉に黒霧は黙って頷くと、そのままワープゲートの中へと消えて行った。

 それを竜牙はただ見守るだけだった。未だにオールマイトに関する違和感に困惑し、そのまま暫く立ち尽くしていると竜牙の携帯に着信が入る。

 

「……もしもし?」

 

『あっ! 雷狼寺!? ちょっとあんたどこにいんの!』

 

 電話を掛けて来たのは耳郎で、その口調からは焦りや不安を感じ取れる。

 その理由も、内容も竜牙は察していたが、何か言う前に耳郎の方が早かった。

 

『大変なんだって! さっき緑谷と麗日が敵連合の奴と接触して――』

 

「俺の方にも来た……黒霧と、本当の巨悪が」

 

『ハァッ!? ちょっ、どういう事!?』

 

 耳郎は竜牙に事情を聞こうとするが、竜牙は通話中のまま耳から携帯を遠ざける。

 そして耳郎の声がずっと聞こえてくる携帯を持ちながら、黒霧が消えた場所をただただジッと見つめ続ける。

 

――それは竜牙の携帯のGPSを探知し、急いで迎えに来た警察とミッドナイト・マイク達が来るまで続けられ、竜牙はミッドナイト達・緑谷と共に警察署へと向かった。

 

 その際、心配してようやく合流した耳郎達へ一切、視線を送る事もなく……。  

 

 

 

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