モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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 沢山の評価、感想ありがとうございます。
 思い付きで投稿し始めたものをこれほど沢山の方に読んで頂けて恐々としています。頑張って続きを書かねばぁ……。





第5話

 

 

 

 風紀委員会本部のある本棟を出ると、あっという間に群衆に取り囲まれた。

 

「新入生だよね。クラウドボール部って興味ない?」

「テニス部です! よろしくお願いしまーす」

「君も山岳部でいい汗かかないか?」

「あれ、もしかして君、森崎くん? スピード・シューティング部どうかな?」

「うそ、実技2位の子じゃない!」

「こっちこっち、ぜひうちの部に!」

「クロス・フィールド部……」

「いやいや陸上部……」

「…………」

「……」

 

 あの、ちょっと落ち着いて。僕は風紀委員ですから、ほらここに腕章が……って、引っ張らないでください、ちょっ、やめてください、うわっ、どこ触ってんだぁ!

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 はぁ。ひどい目に遭った。風紀委員の腕章を付けていてもお構いなしとは。

 どうにか抜け出せたが、あれでも魔法無しなだけマシだったのかもしれない。さすがに風紀委員の目の前で魔法を暴発させるような命知らずはいなかった。

 

 本棟前の一番賑わっている場所から抜け出し、校舎を背に軽く息を吐く。

 巡回は始まったばかりだというのになんだかドッと疲れたな。勧誘期間中のお祭り騒ぎは相当なものだと聞かされていたが、想像を遥かに超えていた。原作では達也が二科生だったこともあってか、こういう描写はされてなかったからな。

 

 息を整えて顔を上げ、メインストリートの喧騒を眺める。

 さっきと変わらず上級生による勧誘合戦が繰り広げられており、一年生たちは勢いに気圧されながらも大半は雰囲気を楽しんでいるようだった。

 こういう場面においては一科も二科も気にしないようで、魔法系も非魔法系も一緒くたになって手当たり次第に声を掛けては、ビラを渡したりブースへ引っ張って行ったりと忙しなく動き回っている。

 

 時々他の一年生以上に多くの上級生に取り囲まれる生徒もおり、そういう生徒には特に魔法系クラブの勧誘が集まっていた。

 よくよく見ていると、そういった生徒に詰め寄る前には端末と一年生とを見比べているのがわかった。裏で入試の成績リストが出回っているようだから、成績上位者は特に狙われるのだろう。

 

 道理でさっき囲まれたときも人が多かったわけだ。風紀委員とはいえ、あの深雪に次ぐ実技成績を挙げてしまったのだから狙われるのも当然か。

 実際は干渉力も強度も足りないのを、多少マシな速度と小手先の技術でどうにか補ってるだけなんだけどな。

 

 軽くため息を吐く。と、俄かに本棟前が騒がしくなった。

 

「また誰か獲物がやって来たのかな」

 

 一応、強引な勧誘や魔法を伴う衝突を見張るために目を向ける。

 

「入りませんか!」

「軽体操部興味ないですか!」

「テニス部です。とりあえず見学だけでも!」

ちょっ、引っ張らないでくださぃ……

 

 取り囲まれていたのは、ほのかと雫だった。

 さすがに男子は遠慮しているらしく遠巻きに見ているだけだが、女子の先輩らに囲まれ掴まれ揉みくちゃにされている。嫌がっているとか迷惑そうにしているとか以前に、混乱して訳がわからなくなっているようだ。

 

 あれを見て見ぬフリするのは無理だろう。

 知り合い云々を抜きにしても気の毒が過ぎる。

 

 校舎から背を離して駆け出す。

 一応CADをスタンバイモードに変え、いつでも起動式を読み出せるようにしておく。ないとは思うが、強硬手段に出る輩がいるかもしれない。怪我をしてからでは遅いし、怪我をさせないためにも確実な制圧手段は用意しておく必要がある。

 

 レコーダーの録画スイッチを起動しつつ、声を張り上げた。

 

「こちらは風紀委員です。そこの先輩方、強引な勧誘は違反行為に当たります。とりあえず手を放して落ち着いてください」

 

 取り巻きの男子を押し退けつつ、女子生徒の集団へ繰り返し呼び掛ける。上級生の女子生徒たちは初めこそ何事かとこちらを窺い見るだけだったが、腕に巻いた腕章を見ると渋々といった様子ながら包囲を解いていった。

 

 続々と離れていく集団の中からほのかと雫が出てくる。

 二人とも目を回したかのようにフラフラで、囲んでいた先輩方もそんな二人の様子にやり過ぎを自覚したのか苦笑いを浮かべていた。

 

「大丈夫か? 随分と小突き回されてたみたいだが」

「うん、なんとか……」

「……大丈夫」

 

 息も絶え絶えにどうにか立ち直った二人。

 そこへ、ひっそりと忍び寄る影があった。

 

「うんうん。そりゃあよかった」

「じゃあ頂いていくわね」

 

 あっという間の出来事だった。

 どこからか颯爽と現れた二人の女子は包囲網をするりと抜けてきて、ようやく呼吸の整ったほのかと雫をひょいと抱え込んだ。

 唐突な光景に呆気に取られていると、彼女らは二人を抱えたまま来たときと同じように去っていった。

 

 一瞬、その場を静寂が支配する。やがて事態に気付いた誰かが悲痛な声で叫んだ。

 

「バイアスロン部だ!」

「有望株を取られたー!」

「あーもう、またあそこなの!」

 

 どうやらこれが初めてではないらしい。バイアスロンといえばスキーとライフル射撃の二種競技だったと思うが、あの先輩たちが乗っていたのはスケートボードだったな。

 

 一瞬追いかけようかと頭に過ったが、見る見るうちに遠ざかる影を見てすぐに諦めた。あんな車並みのスピードのものに追いつこうなどと考えるのは時間の無駄だ。それよりもっと建設的な方法を取ろう。

 

 とりあえず、一年生が二人誘拐紛いな目に遭ったことを委員長に報告するか。

 端末を取り出し、事前に知らされた通信コードを使用して渡辺委員長に呼び掛ける。

 

『――どうした森崎。なにか問題か?』

「こちら本棟前。新入生2名がバイアスロン部と思わしき女生徒によって連れ去られました。現在、目標は一年生を脇に抱え、ボードに乗って逃走中です」

『なんだと? もしかしてまたあいつらが……待て、こちらでも確認した』

 

 また、とは。委員長は犯人に心当たりがあるようだ。

 その後、端末の向こうから何やらやり取りする声がしたかと思うと、簡潔で忙しない指示が飛んできた。

 

『追跡は私の方で行う。お前は他を当たれ』

「了解しました」

 

 返事を言いきる前に通話は切られてしまった。よほど急いでいたのか、はたまた下手人に恨みでもあるのか。ともあれ、追跡は任せても構わないらしい。

 

 優秀な新入生を連れ去られて嘆く一団にやり過ぎないよう注意だけしてその場を後にする。特に違反行為があったわけでもないし、厳しく言ったところで右から左だろう。

 

 レコーダーを止め、CADをサスペンドモードに切り替えて移動する。

 委員長に指示されたとはいえ、現状では違反者や諍いの情報もない。当てもなく校内を巡回してもいいが、このままさっきの件を投げっ放しにするのも据わりが悪い。

 

 巡回をしつつ、誘拐犯が行きそうな場所に先回りでもしてみようか。

 思い至ったところで目的地を定める。

 ほのかと雫を抱えていった二人に見覚えはないが、周囲は彼女たちを指してバイアスロン部と言っていた。であれば、バイアスロン部のブースを訪ねるのが常道だろう。

 

「さて、バイアスロン部の割り当ては……」

 

 端末でバイアスロン部の割り当て場所を探す。今回の勧誘期間に伴い、風紀委員には各部の割り当てが地図情報に載せて送られていた。

 

 地図上の細かな文字の中から目当ての並びを見つける。

 

 SSボード・バイアスロン部。

 場所は第二小体育館と準備棟の間、か。

 準備棟はともかく、第二小体育館に近いのは厄介かもしれない。

 

 第二小体育館、通称闘技場は、原作において達也が剣道部と剣術部の諍いを止めた場所だ。剣道部のデモンストレーションに割り込んだ剣術部の生徒を取り押さえるため、達也はそこである特殊な魔法を用いていた。

 

 この魔法は人体を傷つけることはないが、サイオンへの感受性が高い者に乗り物酔いに似た症状を引き起こす。自分が特別サイオンに敏感だとは思わないが、可能な限り巻き込まれたくない魔法だ。

 

 タイミングが合いませんようにと願いつつ、第二小体育館の方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと、SSボード・バイアスロン部のテントには留守番を任された一年生だけしかいなかった。デモンストレーションの順番が間もなくということで、アップのために準備棟裏に向かったらしい。

 

 留守を任された生徒はテント下のパイプ椅子に座り、テーブルに頭を預けていた。

 

「現役生はみんなアップに行ってるはずだから、二人を連れて行ったのは部員じゃないと思う。その辺りも姉さんに訊けばわかるんじゃないか」

 

 気の抜けたような口調で、五十嵐鷹輔(いがらしようすけ)はそう言った。

 彼はバイアスロン部の現部長の弟で、姉に引っ張られてバイアスロン部へ入部させられた挙句、留守番を強制されたらしい。お陰で色々なクラブを見て回る予定が御破算になったようだ。

 気の毒なと思うも、本人は姉の行動に「もう慣れたよ」と苦笑いを浮かべるだけだった。案外、姉と同じ部活が嫌というわけではないのかもしれない。

 

「そうか。ありがとう、五十嵐」

 

 こう見えて五十嵐は入試成績総合6位の優等生だ。夏の九校戦で選抜される可能性も高いし、なんなら一緒にモノリスコードの舞台に立つことになるかもしれない。

 まあ、そのためにはまず僕自身が選手に選ばれなければならないんだが。

 

 気怠そうに手を振る五十嵐に礼を言って、準備棟の裏手へ向かう。

 

 校舎の角を曲がり裏側へと回り込むと、そこでは十数人ほどの生徒がストレッチをしていた。全員が競技用のユニフォームに身を包んでおり、傍らにはボードがいくつか並べている。あれがバイアスロン部で間違いないだろう。

 

「すみません。少しいいでしょうか」

 

 声を掛けると、バイアスロン部の面々が一斉に振り返る。

 反応は様々で、風紀委員の腕章を見て困惑している人や僕の顔を見て表情を綻ばせる人、純粋に誰だろうと首を傾げる人など。

 そんな中、一人の女子が進み出て応えた。

 

「一年生の森崎くん、よね? もしかして入部希望?」

 

 名前を言い当てられ、その上で期待に満ちた目を向けられる。

 嬉しい反応であることは確かだが、頷くことはできない。

 

「いえ、残念ながら。少し聞きたいことがあって来たんですが……」

「なんだ、残念。鷹輔と二人で男子部の二枚看板になると思ったのに」

 

 五十嵐を名前で呼び捨てるということは、この人がお姉さんか。

 肩を落としてため息を吐く姿がどこか大袈裟で、思わず気が抜けて表情が緩む。

 

「バイアスロン部部長の五十嵐亜実(いがらしつぐみ)です。それで、聞きたいことって?」

 

 部長と言うからには三年生なのだろう。それにしては親しみやすいというか愛嬌があるというか。知っている三年生女子が七草会長と渡辺委員長くらいだから、比べる相手が悪いというかあの二人が傑物過ぎるだけというか。

 

 毒気を抜かれたような気になりつつ、姿勢を正して事情を説明していく。

 

「――それで、今は渡辺委員長が追っているのですが、こちらに来てはいないかと」

 

 簡単に説明を終えると、五十嵐部長は腕を組んで頬に手を当て、視線を左上へ。

 

「んー、部員はみんな揃ってアップしているし、部のボードも貸し出しはしてないんだけどなぁ。……その二人、どんな格好をしていたかわかる?」

「確か、学校指定のジャージだったと思います」

「見た目は?」

「一人は髪が短くて、もう一人は長髪を束ねていましたね。背はどちらも高めです」

「あー、だったら多分あの先輩たちかな……」

 

 思い当たる節があったのか、彼女は苦笑いを浮かべた。

 と、そのとき五十嵐部長の目が僕の後ろへ向いた。

 

「お、噂をすれば」

「ああ、あの二人です。光井と北山も無事ですね」

 

 振り返った先には例の二人組がいた。スケートボードを唸らせ、バイアスロン部員たちの前でピタリと止まる。

 五十嵐部長が苦笑いのまま二人へ駆け寄っていった。

 

萬谷(よろずや)先輩に風祭(かざまつり)先輩。お二人ともどうしてここに?」

「よう亜実。とりあえず、こいつらを頼む」

「新入部員よ。可愛がってあげて」

 

 言うが早いか、ほのかと雫を放り投げた。

 投げられた二人は驚き固まっていた。無理もない。誰だって抱えられて散々連れまわされた挙句に投げ捨てられたら冷静でなんていられないだろう。

 

 しかし投げた方の二人は余裕の笑みを浮かべていた。怪我をさせたら心証が悪くなるだろうに、そうならないという確信でもあるのだろうか。

 そう思っていたら、ほのかと雫は地面に落ちる前に空中で止まった。まるで見えないクッションでもあるかのようだ。萬谷先輩か風祭先輩、或いは五十嵐部長のうち誰かの魔法だろう。

 

 とりあえず、二人に怪我がなさそうでよかった。

 これで心置きなく仕事に臨むことができる。

 

「目的は果たせましたか? では、風紀委員本部までご同行願います」

 

 満足げに笑みを浮かべる二人の先輩を前にCADを手に取った。

 拳銃形態の特化型CADを片手に、油断なく目を凝らす。

 

 声を掛けて初めて気付いたのか、二人の先輩はようやく視線を寄越した。

 

「ああ、お前はさっきの。先回りされてたのか」

「君のおかげで簡単に連れ出せたわ。ありがと」

 

 萬谷先輩は不敵に、風祭先輩はにっこりと、両者ともに笑みを浮かべた。

 これはどう見ても舐められてるよなぁ。

 

「どういたしまして、と言いたいところですが、それは後にさせてもらいますよ」

 

 表情を改め、CADへサイオンを注入する。

 こうすることで起動式の展開を早めることができ、またサイオンを知覚できる魔法師に対しての警告ともなる。

 

 だが二人の先輩は怯んだ様子もなく、ボードに乗ったままCADを操作し始めた。

 

「悪いね。怖ーいやつに追われてるんだ」

 

 起動式が急速に展開していく。二人が手にしたCADは特化型でないにも関わらず、目にも止まらぬ速さで展開が進んでいった。

 

「させませんよ。僕はその怖い人の部下なので」

 

 準備していた魔法を発動。前と違って今度は照準補助の力も借りつつ、両先輩の展開した起動式を狙い撃つ。

 連続で放った二発のサイオン弾は過たず命中し、二人の魔法発動を妨げた。

 

「っ! 起動式が乱された」

「おー怖い。真由美の他にそれを使えるやつがいるとは、ね!」

 

 しかし止めたと思ったのも束の間、萬谷先輩が間を置かずに起動式を展開する。

 その起動式はさっきと桁違いの速さで展開を終了し、こちらがサイオン弾を撃ったときにはもう魔法式を完成させていた。

 的を外したサイオン弾が空中に溶けて消え、直後、視界がガクッと沈み込んだ。

 

 バランスを崩される。見ると右足部分の地面が10センチほど窪んでいた。

 基礎単一工程の加圧魔法だ。強度も規模も小さく、よろめく程度の影響しかない。

 

 だがそれは致命的な隙となった。

 足を取られた一瞬、視線を逸らされた一瞬の隙に、二人はボードを加速・移動させる魔法式を完成させ、この場を後にしようとしていた。

 

「じゃあな、少年。摩利によろしく言っておいてくれよ」

「亜実も、積もる話はまた今度」

 

 一度構築された魔法式をどうにかする手段は、僕の手にはない。

 

 干渉力に乏しい僕では移動魔法の重ね掛けで止めることができない。

 減速空間も大した規模のものは作れないからすぐに範囲外へ出られてしまう。

 自己加速術式では速さが足りず、移動魔法と慣性制御を併用するには処理能力が追いつかない。

 

 結果、離れていく背中を見つめて歯噛みすることしかできなかった。

 

「ちっ、逃げられたか」

 

 直後、すぐ横に渡辺委員長が現れる。

 彼女は前の二人と同じようなスケートボードに乗っていた。追いかけると言っていたのはこのことだったのか。

 

 渡辺委員長へ正対し、不手際を謝罪する。

 

「すみません。足止めしきれませんでした」

「森崎か。いや、仕方ない。あれは去年卒業した代でも随一の不良だからな。逃げ足の速さは一級品だ」

 

 なるほど。卒業生だったのか。言われてみれば五十嵐部長も先輩と呼んでいたし、魔法の腕も駆け引きも相当なものだった。

 一年生だから勝てないのも仕方ないと自分で自分を慰めるわけではないが、相手が3年も経験値で上回る相手だったというのは気休めにはなる。

 

 トレーニングの強度を上げるべきだな。

 内心でぼやいている間に、渡辺委員長はバイアスロン部の面々へ目を向けた。

 

「それで、さっきのはそこの現役生もグルなのか?」

「わ、私たちは無関係です」

「はい。間違いありません」

 

 慌てて否定する五十嵐部長。

 僕も彼女の主張に口を添える。

 

 委員長は特に気にした様子もなく鼻を鳴らした。

 

「そうか。無関係ならばいい。森崎もご苦労だった。引き続き警備に当たってくれ」

「了解しました」

 

 再びボードに乗って去っていく委員長を見送り、疲れた様子のほのかと何故か頬の赤い雫へ向き直る。

 

「さて、二人とも災難だったな。大丈夫か?」

「なんとか……」

「平気。寧ろちょっと楽しかった」

 

 楽しかったって……。脇に抱えられて連れまわされたのが、か?

 雫は案外ジェットコースターとかが好きなのかもしれないな。

 

 苦笑いを浮かべていると、横に五十嵐部長が並んだ。

 

「先輩たちが迷惑かけたみたいでごめんなさい」

 

 そう言って二人に謝罪する。その瞬間、彼女の目がキラリと光った。なんならほのかと雫の名前を呟いてすらいた。

 

 端的に言って、ロックオンされたということだろう。例のリストをこの人も持っていたに違いない。僕のことも名乗る前から知っていたみたいだし。

 

 五十嵐部長はここぞとばかりに競技の説明を繰り広げ、ほのかと雫の反応を窺っている。

 その説明にまだ戸惑いの抜けきらないほのかはともかく、雫の方は興味津々とばかりに聞き入っていた。

 

 その結果――。

 

「ほのか、私ここ入りたい」

 

 瞳を輝かせた雫がほのかへ詰め寄るという光景が完成していた。

 雫が陥落するとあとは時間の問題で、部長と雫の両方からじっと見つめられ、やがて根負けしたほのかが頷くと、バイアスロン部員一同の歓声が上がった。

 

 あの分ならもう放っておいても大丈夫だろう。

 傍から眺めていた僕は、五十嵐部長に一礼してその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、第二小体育館では、達也が剣術部の二年生を拘束した。

 また一部始終を見ていた剣術部の部員十数名が逆上して襲い掛かるも、彼はこれを悠々と退けた。息一つ荒げることなく、怪我をさせる(・・・)ことすらなく。

 

 剣術部の次期エースを破り、並み居る剣術部の一科生を軽くあしらった達也の名は、瞬く間に学校中へ広まることとなった。

 

 

 

 

 

 


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