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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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海賊狩りのリアム

 両肩にシールドをマウントしたアヴィドという機動機士。


 機動機士の中では大型で、操縦者に負担が大きい機体でもある。


 また、大型に相応しいパワーを持ち、パイロットをアシストする機能をオミットするという扱いの難しい機体だ。


 黒く、大きく、そして――強い。


 そんなアヴィドがピータック家の巡洋艦に近付くと、左手に持っていたバズーカで攻撃を開始する。


 巡洋艦の対空レーザーが、アヴィドに当たるも――全てエネルギーシールドに阻まれていた。


 バズーカの攻撃で炎に包まれる巡洋艦。


 リアムは次の獲物を探し、逃げ惑うピータック家の機動機士を追いかけ回した。


『遅いんだよ!』


 ピータック家の機動機士は、どれも中古品で主流のものではない。


 性能差が大きすぎて、アヴィドに追いつかれ掴まれると握りつぶされてしまった。


『圧倒的な性能の差で蹂躙するのは、気分がいいな!』


 笑っているリアムに続くのは、騎士たちの乗る機動機士だ。


 リアムの護衛であるはずが、リアムに追いつけず追いかける形になっている。


 バンフィールド家の機動機士は、帝国主力の量産機。


 もしくは、精鋭が扱う新型機だ。


 数的有利を得るには、敵――海賊やピータック家は、四万から五万を用意しなければならない。


 ただ、揃えたとしても、勝てるかは別問題だ。


 ピータック家の旗艦にリアムが着艦すると、そのままアヴィドの周囲に魔法陣が出現する。


 その中から出てくるのは、ミサイルポッドだ。


 数百発のミサイルが、ピータック家の旗艦を焼いた。


 その様子を見ている、白い機体に乗るティアは――。


「あの難しい機体を手足のように操る――何と美しい姿か。私も負けていられませんね」


 見惚れていると、敵が近付いてくる。


 フットペダルを踏み、機体を加速させるとトップスピードに持っていき――そのまま敵とすれ違いざまに破壊していく。


 止まらないティアの機体に、敵が次々に破壊されていく。


「もっと――もっとだ」


 ティアの目が血走る。


「私の味わった地獄は――こんなものではなかったぞ!」


 逃げ惑い、許しを請うピータック家の兵士たち。


 そんな声を聞いても、ティアは同情などしなかった。


 海賊を名乗った時点で、ティアにとっては敵でしかない。


 ティアの機体が過ぎ去った後には、敵の残骸が残るだけ。


 亡国の姫騎士を止められる相手は、海賊にもピータック家にもいなかった。



 ピータック家と海賊たちが蹂躙されている頃。


 領地に帰還するペーターに同行したカテリーナは、困惑を隠しきれなかった。


 迎えに来た艦艇が、どれも旧式だった。


 それはいい。


 旧式でも大事に扱っていれば問題ない。


 だが、ペーターを乗せる戦艦「ペーター三世」も旧式だ。


 何百年も前の戦艦で、外見は派手にしているが中身が酷い。


 おまけに、ペーターの部屋は無駄に豪奢だった。


「どうかな? 俺様の船は最高だろう」


 ペーターが声をかけてくると、カテリーナは返事に困る。


「こ、これ、随分とその――ビンテージものというか、アンティークものよね」


 自分でもこれはないという感想だったが、ペーターは気にした様子がない。


「凄いだろ。俺様のお気に入りなんだ。うちにある中でもかなり優秀でね」


 それを聞いて目眩がしてくる。


 帝国軍――正規軍の払い下げである艦艇でも買った方がマシな宇宙戦艦だった。


 おまけに、無駄に広いペーターの部屋は、艦艇のスペースを圧迫しているはずだ。


 性能が低いのに、更に性能を落としているのを、ペーターが理解していない。


「わ、私はもっと小さいのでもいいかな。巡洋艦とかお勧めだよ」


 こんなでかい的に乗っているよりも、払い下げの巡洋艦の方がマシだ。


 父に頼んで、一隻融通してもらうべきかと、本気で悩みはじめる。


「巡洋艦なんて駄目だよ。買うなら超弩級戦艦がいいね。でも、うちには帝国が売ってくれないんだよね」


「――え? 認められているんじゃないの?」


 カテリーナが、聞いていた話と違うと驚くと、


「頼んだのに売ってくれないんだよね」


 超弩級戦艦やら、空母の要塞級と呼ばれる超大型の艦艇は、帝国が認めた領主にしか販売をしていなかった。


 これは帝国がどれだけその家を信用しているかの物差しでもある。


 伯爵家で、帝国の許可がないというのは――明らかに何かあると思われる。


(は、話が違うじゃない! 結婚すれば、生活には困らない家だって!)


 ペーターの話を聞いていると、どうしても不安になってくるカテリーナだった。


 そんなカテリーナを余所に、ペーターは関係ない話をしていた。


「俺様もこの三年で随分と成長したよ。俺様のものも前より倍は大きくなって――」


 下の話をはじめたペーターを無視して、カテリーナは今後のことを考えるのだった。


(まずはお父様に連絡して、それから婚約破棄が出来るか確認をしないと)


 非常にまずい状況なのではないか?


 カテリーナは不安がどんどん大きくなるのだった。



 アヴィドに乗って暴れ回っていると、敵の陣形が崩れて逃げ惑っていた。


 ピータック家を名乗った馬鹿な奴ら。


 こいつら、有名貴族の名前を名乗れば、俺が退くと勘違いした馬鹿だ。


「よりにもよって、ピータック家はないだろ」


 善良、真面目、そして、個人的な武勇に興味もない家だ。


 きっと、内政重視で理想の貴族という家に違いない。


 そんな家の私設軍を名乗ったのが、古い装備に低すぎる練度の艦隊だ。


 ――普通にあり得ない。


 名乗る名前を間違えたな。


 こいつら、きっと貴族を騙って海賊行為をしている悪い奴らだな。


「だが、そんなお前らよりも悪いのが俺だけどな」


 この世界の貴族の本質は、宇宙海賊と同じだ。


 ちょっとお行儀がよくて、本拠地をしっかり管理しているのが貴族に過ぎない。


 つまり――お前らよりも悪党である俺の方が強いのだ。


「さて、そろそろ敵の旗艦を探したいところだな」


 先程から、敵の旗艦を探しているが見つからない。


 どいつもこいつも同じに見えてしまう。


 俺が敵を探していると、取りこぼした敵を味方が奪い合うように撃破している。


 中でもティアは凄い。


 撃破数のカウントが止まらない。


「お、結構やるじゃないか。いい拾いものだったな」


 だが、ここにいては敵がいなくなってしまう。


 新しい敵を求めて移動を開始すると――少しばかり他より大きな海賊船を見つけた。



 ヴァールのブリッジには、海賊から通信が入っていた。


『頼む! 降伏するから見逃してくれ。俺たちははめられたんだ。俺たちをはめたのはレーゼル子爵だ』


 対応しているのは総司令官だ。


「ほう、面白い話だね」


 コーヒーを飲みながら会話をしていた。


 こうしている間にも、味方は海賊たちに攻撃を行っている。


 落ち着いている総司令官とは違い、海賊団の団長は焦っていた。


『降伏を認めてくれたら全て話す。なんなら、これからはあんたたちに従う。俺たちが裏社会をしっかり管理する。上納金だってちゃんと払う!』


 自分たちを売り込んでくる団長に、総司令官は笑みを向けた。


 団長も笑顔になるが――。


「寝言は寝てから言うものだ。それにしても、海賊というのはどいつもこいつも同じだね。負けると分かると命乞い。その後は自分たちを売り込んでくる」


『な、何?』


「そんな海賊たちを、我々がどうするか知っているかな?」


『レーゼル子爵のことを知りたくないのか!? あんたらを襲った理由を聞きたいだろう!』


「――不要だ。海賊とは取引する必要がない」


 団長が何かを叫ぼうとすると、モニターの映像がノイズに混ざって――そして消えた。


 オペレーターが報告をしてくる。


「アヴィドが敵旗艦を撃破。リアム様からの伝言です。“飽きたから戻る”です」


 総司令官が溜息を吐く。


「了解と伝えなさい。やれやれ、もう少し話しておきたかったんだが、リアム様が飽きたのなら仕方がないか」


 あのまま団長が何を言うのか聞いておきたかった。


 オペレーターが次の報告をしてきた。


「敵が撤退を開始」


 総司令官は命令する。


「追撃戦に入れ」


 だが、リアムが必要ないと判断したのなら仕方がない。


 総司令官が、緊張の糸が切れたクルトが椅子に座り込むのを見た。


「クルト様を海賊退治に巻き込み、大変申し訳ありませんでした」


 クルトは首を横に振る。


「いや、とても勉強になりました。見ているだけなのに、とても疲れてしまいましたよ」


「そう言っていただけると助かります。誰か、クルト様にもお飲み物を」



 帰還すると、俺を出迎えるために兵士たちが整列していた。


 実に気分がいい。


 アヴィドから降りると、一斉に拍手が始まった。


「お見事です、リアム様」


「あぁ」


 軽く手を上げて返事をしておいた。


 俺のご機嫌取りのために、こいつらも大変である。


 アヴィドというとんでもなく強い兵器に乗って暴れ回るだけで、こいつらは俺を褒め称えなければならない。


 権力を持つって気分がいいな。


 勝って当たり前なのに、こうして褒められるんだから。


 軍人が俺に報告をしてくる。


「戦闘終了後は、この場に三千隻を残し、残りでエクスナー男爵家へと向かいます。総司令部に報告し、男爵領に補給部隊を送るように手配しました」


「デブリは全てかき集めろ。領地に持ち帰る。それと、お宝は見つかったか?」


 軍人が首を横に振った。


「リアム様に相応しい財宝は見つかっておりません。ただ、敵は賞金首ですので、帝国から懸賞金が支払われます」


 この懸賞金がじつに莫大だ。


 実家の財政再建をするときに、とても助かったのを覚えている。


「今回は外れだな。クルトの実家に期待するとしよう」


 俺Tueeeをして当たり前の環境で、ここまで褒められる――これも全て、俺が権力を持っているからに他ならない。


 もしも俺がただのパイロットだったら、ここまで褒め称えられないだろう。


 逆にもっと働けと言われそうだ。


 自分が好きな時に暴れ、飽きたら帰る――権力って最高だな。



 ティアは、自分の撃墜スコアを見る。


 三位と大きく差が開いていたが、自分のスコアは一位であるリアムには及ばない。


 驚くしかなかった。


「こんな機体でこれだけの戦果を出すなんて」


 ティアから見て、アヴィドというのは――とても難しい機体だ。


 操縦が難しいのはもちろんだが、並のパイロットであれば高い性能に振り回されてまともに動かせない。


 整備兵たちがアヴィドの整備をしながら話をしている。


「こんなじゃじゃ馬を手懐けるなんて、リアム様は生まれを間違えたんじゃないか?」

「騎士の家に生まれていたら、間違いなく帝国のトップエースだな」

「関節が限界だな。こいつはメーカーに戻した方がいいかもしれないぞ」


 振り回されるどころか、限界まで性能を引き出すリアムの技量に――ティアは益々興奮するのだった。



 ヘンフリー商会の大型輸送船が、戦闘後の宙域に来ていた。


 バンフィールド家の艦隊が補給を求めたからだ。


 デブリを集めるために、重力発生装置を置いている。


 引き寄せられたデブリが渦を巻き、その中で使える物はないか作業用のポッドが探し回っていた。


 リアムの領地から、デブリの回収業者が来ている。


 大型輸送船を何隻も引き連れ、補給を行ったトーマスは軍艦に招待されていた。


 細かな話し合いをするためなのだが、話題は海賊たちのものになる。


「――子爵家と繋がっていた可能性があると?」


 真面目そうな軍人は、トーマスの用意したリストを確認しながら話題に食いついた。


「えぇ、商人たちの間では有名でしたね。実際、怪しいと思われる動きも多かった」


 だが、真面目な軍人は情報を鵜呑みにはしない。


 それよりも、だ。


「報告しておこう。だが、こちらはそれ以上に、ヘンフリー商会がレーゼル家と今後も取引を行うのかが気になっているのだがね」


 子爵家の領地の端とは言え、あれだけの大艦隊が襲いかかってきた。


 報告はしたのだが、様子を見に来る気配すらなかったのが気になっているようだ。


 そして、そんな子爵家と御用商人が繋がっているのを、軍部はあまりよく思っていなかった。


「今回の件で距離を置くことにいたしました。流石に、あの対応は失礼すぎます」


 リアムに対する扱いが酷すぎた。


 それについては、軍人も同感のようだ。


 ペンでテーブルを軽く叩いている。


「我々も同じ気持ちだが、リアム様は抗議しないと仰せだ」


「リアム様が?」


 抗議してもいいはずだが、リアムが何を考えているのかトーマスには分からなかった。


 軍人も困り顔だ。


「興味がないそうだ。それよりも、エクスナー男爵家と強く縁を結ぼうとしている」


「随分と肩入れをしますね」


 領地的には、あまりうまみもない相手だ。


 そんな相手に、軍まで派遣して海賊退治をしてやるリアムの気持ちがトーマスには分からなかった。


 ただ、目の前の軍人は少し嬉しそうだ。


「そうでもない。領地的にはうまみはないだろうが、エクスナー男爵は軍人上がりだ。付き合って損のない相手だよ。何しろ、男爵は軍に大勢のファンがいるからね」


 目の前の軍人も、男爵のファンの一人なのだろう。


 男爵のことになると口が軽くなっていた。


 トーマスは頷く。


(なるほど、今後のために軍部との繋がりを強化するおつもりか)


ブライアン(*´ω`*)「リアム様にご友人が出来て、このブライアンは感無量ですぞ」


天城(*´∀`)「はじめてのお友達ですね」


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