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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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バーベキュー

新年明けましておめでとうございます。


今年もよろしくお願いします。

「――お前はやり過ぎた」


「反省してますって」


 指導役の騎士に怒られた俺は――いや、俺たちは、パーティー会場の外でバーベキューをしていた。


 本来なら室内でパーティーに参加するはずが、前日の余興をぶち壊しにしたとして外に追い出されたのだ。


 俺と同じ扱いを受けていた子弟たちも、外でバーベキューをしている。


「でも、スカッとしたよな」

「あいつらが目を覚ました時の顔は傑作だったよな」

「まぁ、どうせ室内にいても、扱いなんてたいして変わらないって」


 全員、何だかんだで楽しんでいる。


 バーベキューのセットは、なんというか安物ばかりが揃っていた。


 まぁ、ただ追い出されたところに、指導役が憐れに思って色々と自腹で用意してくれたんだけどね。


 クルトがお肉を焼いている。


「焼けたよ」


 串に刺さった肉やら野菜を、俺に手渡してきた。


「ピーマン抜けよ。嫌いなんだ」


「好き嫌いはよくないよ」


 子爵家の領地にあるピーマン、って苦いんだよ。


 まずいんだよ。


 指導役が笑っていた。


「まぁ、色々とあったが、最後くらい笑顔で終わろうじゃないか」


 その意見には賛成だ。



 パーティー会場。


 招待されたヘンフリー商会のトーマスは、挨拶などを済ませると会場でリアムを探していた。


「リアム様の姿が見当たらないな」


 連絡しようと考えたところで、軍服姿のニアスが近付いてくる。


「トーマスさん、リアム様を見かけませんでしたか?」


 かなり急いでいるようなニアスに、トーマスは首を横に振るのだった。


「見当たりません。まだ来ていないのでしょうか?」


 ニアスも不思議がる。


「時間にルーズな方ではないですし、何か理由があるんでしょうか? 困りましたね。早く商談に入りたいのに」


「――この場で商談ですか?」


 ニアスは視線をそらし、笑って誤魔化す。


 すると、ドレス姿のユリーシアが優雅に登場した。


「あら、第七兵器工場の方も来られていたんですね」


「――あんたも来たのね」


 二人の間で火花が散り始めるが、ユリーシアは余裕を見せている。


「えぇ、実はバンフィールド伯爵に機動機士を大量に購入していただきましてね。この際ですから、空母――要塞級も購入してもらおうと思いまして」


 それを聞いてニアスが焦る。


「な、なんでそっちが要塞級を売るのよ」


「最近、新型を発表しまして、その販売に色々と声をかけているんです」


 リアムに買って貰おうと、二人の間で火花が散っているのだ。


 トーマスは視線をそらした。


(リアム様も大変だな。それはそうと――本当にどこにおられるのか?)


 トーマス、ニアス、ユリーシア――三人だけではない。


 これを機会に縁を持とうと、パーティーに参加した人間が多かった。


 会場内でリアムを探している人物が多い。


 すると、ランドルフの声が会場に響く。


『皆様、この度は当家のパーティーにお越しいただき――』


 最初は簡単な挨拶、そして、娘の婚約を発表しはじめる。


 ただ、その相手がおかしかった。


『娘、カテリーナの夫となるペーター・セラ・ピータック殿です』


 紹介されたのが、あのピータック家だ。


 ニアスは知らないのか会場の雰囲気に合わせて拍手をしており、トーマスは唖然とする。


「修行に来た子息と、娘の結婚なんてあるあるですね」


「え? いや――え?」


 理解が出来なかった。


(どうして、レーゼル家がピータック家と縁を結ぶんだ? どう考えても、結婚など考えられない相手じゃないか)


 ピータック家の内情を知っているトーマスからすれば、不思議としか言いようがなかった。


 それは、ユリーシアも同じだ。


「ピータックとは――ピータック伯爵家ですよね?」


「は、はい。そうだと思います。ピータック伯爵家のご子息に間違いありません」


 会場の空中に、ペーターとカテリーナの姿が映し出されていた。


 ユリーシアは信じられないという顔をしている。


「ピータック家で、何かレアメタルが発掘されたのでしょうか?」


 トーマスは首を振る。


 レーゼル家は資源採掘や加工業が主流だ。


 ピータック家でレアメタルが発掘されれば、婚姻関係を結ぶこともあり得る。


 あり得るが――そんな話は聞いていない。


「そんな話は聞いたことがありません。私も仕事の関係で色々と調べさせていただきましたが、レーゼル子爵が結婚を認めるなど考えられませんよ」


 参加者たちの中にも、不思議そうにしている人たちが多かった。


 ニアスが周囲の雰囲気に気が付き、そして――。


「あの? ところでリアム様はどこでしょうね?」


 三人とも、リアムなら何か知っているかもしれないと、給仕を捕まえて話を聞く。


 給仕は修行中の貴族の子弟だった。


「リアムさんですか? 昨日、特別扱いを受けていた連中を全員倒して、高笑いをしていたんで子爵様に会場を追い出されたんです。これから飲み物を差し入れするので、案内しましょうか?」


 給仕はリアムと同じ待遇を受けている後輩だった。


 「あの時のリアムさん、凄かったですよ」と笑っていた。


 トーマスが顔を青くする。


「――リアム様を会場から追い出した?」


 ヘンフリー商会にとって、リアムは後ろ盾になってくれる人物だ。


 更に、自分はバンフィールド家の御用商人。


 目眩がしてくる。


 ニアスが給仕の肩を掴み、


「は、早く案内して!」


「え? いいですけど」


 ユリーシアは、何やらどこかに連絡を取っている。


 そんな中、トーマスは給仕から場所を聞くと駆け出すのだった。


「リアム様ぁぁぁ!」



 バーベキューをしていると、トーマスが駆け寄ってきた。


「リアム様ぁぁぁ!」


 俺は食べ残したピーマンを皿に盛って、トーマスに手渡した。


「久しぶりだな、トーマス。お前も来ていたのか。まぁ、食えよ」


 クルトが「リアムは酷いよね」とか言っているが、悪徳領主たるもの好き嫌いは必須だ。


 だから、残しても許されるのだ。


「い、いただきます。――苦っ! はっ! そ、そうではありません! いったいどういうことですか! 何故、リアム様が会場の外にいるのです!」


 騒がしい奴だ。


「子爵に嫌われたんだ。アレだな。俺には子爵家のやり方は合わなかったよ」


 まったく――真面目で善良なレーゼル家に修行に来たのは失敗だった。


 トーマスが安堵している。


 こいつ、もしかして、俺が真面目になるかもしれないと不安だったのか?


 やっぱりこいつは越後屋――違った、悪徳商人だな。


「すぐに子爵様に抗議します。中に入りましょう」


「嫌だよ。今更どんな顔をして中に入れば良いんだ? それより、何か食べる物を持って来いよ。飲み物も用意しろ」


 トーマスが自分の船に連絡を入れていた。


「ぞ、贈答用の品にいくつかございます。酒の類いは、どれも高価な物ばかりになりますが?」


 昨日の件もあって気分がいい。


 俺はトーマスに金を支払う。


「贈答用でも何でもいいから、ここに持って来い。おっと、世話になったおっさんに酒でも渡すわ。とびきりの酒も持って来いよ。ほら、金だ」


 提示された金額を一括で支払うも、残金の桁は変わらなかった。


 俺の口座には、いったいいくら入っているのだろうか?


「す、すぐにお持ちします!」


 トーマスが部下とやり取りをはじめると、会場から外に人が出てくる。


 クルトが気になったようだ。


「あれ? もう終わったのかな?」


「まだ始まったばかりじゃないか。もしかして休憩か? いや、トラブルかな?」


 心配していると、今度は肩で息をしているニアスとユリーシアがやってくる。


「リアム様、お久しぶりです! それから、要塞級を買ってください!」


 挨拶と同時に空母を売ってくるニアスを、俺は冷めた目で見ていた。


 汗を拭うユリーシアが、呆れた様子だ。


「――挨拶と同時に商談なんて、どうかしているわね。伯爵様、こんな第七兵器工場の頑固者は放っておいて、私とお話ししませんか? 今日は新型の要塞級についてお話があるんですよ。第七兵器工場の古いタイプとは違って、最新式ですよ」


 お前も変わらないじゃないか。


 呆れていた俺は、ドレス姿で着飾ったユリーシアを見る。


 俺が見ていると、ユリーシアは意識したのか笑顔を向けてくるのだが――。


「――興味ない」


 思い出すのは前世の元妻――出かける際に着飾っており、今にして思えば浮気をする度にばっちり化粧をしていた。


 どうにも――萎える。


「え?」


 俺の態度が意外なのか、ユリーシアは固まっていた。


 対して、ニアスの方はユリーシアを笑った。


「残念でした~」


 そして、汗をかいたのか上着のボタンを外して前を開ける。


 色仕掛けではなく、本当に暑かったようだ。


 随分と走ったのか、シャツが汗ばんでいるのだが――下着はスポーツブラとかそんなタイプだった。


 俺に見られたと思い、慌てて隠して恥ずかしそうに笑っていた。


「い、いや、これはその――売り上げの成績が悪いので、給料が悪いとかそんなことではなく、最近はほら、あれですよ――健康を意識して、こういうタイプを――」


 言い訳をはじめたニアスに、俺は近付いて――。


「いくらだ?」


「え?」


「お前のところの要塞級はいくらだ?」


「か、買ってくださるんですか!」


「仕方のない奴だな。ほら、契約書を出せ。一隻か?」


「駆逐艦や巡洋艦も買ってください! 新型なのに売れ残っているんです!」


「しょうがない奴だな。三百隻までだぞ」


 泣いて喜んでいるニアスが万歳をしており、その度にシャツが透けて中の色気のない下着が見えていた。


 こっちの方がグッとくる。


 いいものを見せてもらったので、要塞級を買ってやることにした。


 ユリーシアが俺の腕を掴む。


「ま、待ってください、伯爵! どうしてですか? まだスペックの確認もしていないじゃないですか!」


「――お前も残念な子だったな」


 というか、兵器工場関係の女性軍人は、この手のタイプしかいないのだろうか?


 すると、二人の他に商人やら兵器工場関係者が俺に挨拶をしてきた。


「リアム様、お初にお目にかかります」

「リアム様、是非ともうちの兵器工場をご利用ください」

「リアム様、是非とも私共に融資を――」


 いつの間にか、長蛇の列が出来ていた。



 パーティー会場――ランドルフは唖然としていた。


 招待客のほとんどが外に出てしまったのだ。


 残っているのは三割ほど。


 ガラガラになった会場は、見ていて寂しかった。


 周囲も何が起きたのかという顔をしている。


「ど、どういうことだ?」


 何が起きているのか?


 そう思って誰かに調べさせようとすると、部下が報告に来た。


「ランドルフ様! 会場の外が――外で!」


「何が起きた?」


 急いで外へと向かうと、そこでは――バーベキューが行われていた。


 追い出した者たちが何かしているとは聞いていたが、招待客のほとんどを奪われていた。


 その中央にいるのは――リアムだった。


「どういうことだ? 何故、あんなにもバンフィールド家の子息に人が集まる?」


 人とはとても素直な生き物だ。


 落ち目の貴族がいれば、人はすぐに離れていく。


 ただし、逆に――上り調子ならば人は集まる。


 一人や二人ではなく、商人たち――利にさとい者たちまでもリアムに集まるのなら、何かがあるということだ。


「――バンフィールド家についてすぐに調べろ」


「は? ですが、既に調査は行って――」


「いいから調べろ! すぐにだ!」



 レーゼル子爵家領にある宇宙港。


 到着したバンフィールド家の艦隊は、整列して待機している。


 港にはシャトルが到着し、リアムの出迎えの準備をしている。


 指示を出すのは、ティアである。


 宇宙港の役人と話をしていた。


「絨毯の許可は出来ないと?」


「マットを敷いていますから勘弁してください。立体映像で雰囲気を出すくらいの許可なら出せますよ」


「それでは味気ないわね。三年間の修行が終わったのですから、もっと盛大に出迎えたいわ」


 整列している騎士、兵士――。


 緊張した様子で待っていた。


「地元で盛大に出迎えてください。それにしても、ピータック家の艦隊は見事ですね。子爵様がかなりの数で出迎えに来ると仰っていましたが――え?」


 直後、物腰柔らかに対応していたティアが、目を見開き役人の首を掴み持ち上げた。


「――貴様はリアム様のバンフィールド家の家紋すら分からないのか? その程度の者を対応に寄越す子爵は、何を考えているのだろうな?」


 周囲にいた子爵家の騎士や兵士たちが、慌てて駆け寄るとバンフィールド家の騎士たちが武器を抜く。


 ティアは役人を締め上げつつ、言う。


「いいか、我々はバンフィールド家の艦隊だ。間違えるなど許されない。これは、抗議する必要があるな」


「は、放して――」


「駄目だ」


 ティアが笑みを浮かべ剣の柄に手をかけると、宇宙港のエレベーターのドアが開く。


「あれ~? 俺様の出迎えは~?」


 間延びしたペーターの声に、その場の空気が固まった。


 ペーターはティアを見て、


「もしかして、うちの新しい騎士かな? 随分と美人だね。よし、僕の護衛にしてあげるよ。ほら、さっさと帰るから準備をしてくれ」


 ティアが役人を手放し、落としてしまった。



 宇宙港。


 ベンチに座って迎えを待つ俺とクルトは、空中に投影されている動画を見ていた。


 子爵家で人気のドラマが、丁度最終回だったのだ。


 エンディングが流れると、


「迎え――来ないね」


 俺は溜息を吐く。


「まぁ、気になっていたドラマが見られたからいいが、主人を待たせるとはいい度胸だ」


 苛々していると、エレベーターのドアが開いてそこからティアが駆けてきた。


 床を蹴って飛ぶと、そのままスライディング土下座して俺の前に到着。


 ――ちょっと面白かった。


「も、ももも、申し訳ありません、リアム様! 宇宙港の者が、手違いで我々を別のエリアに案内したもので――あいたっ」


 顔を上げて言い訳をしてくるティアに、デコピンをする。


「言い訳をするな。お前が俺を待たせたのは事実だろうが。まったく――」


 呆れると、この世の終わりのような顔をするティアは――何というか大げさな奴だな。


 これで有能というから、世の中は分からないものである。


 俺の周りにはこんなどこか抜けている奴らばかりだ。


「い、今すぐ、自分で首を落として謝罪いたします」


 剣を抜いて自分の首筋に当てていた。


 こいつは頭のいい馬鹿なのだろう。


「アホか。そんなことよりも荷物を持て。さっさと帰るぞ」


 荷物を渡すと、慌ててティアが受け取り立ち上がる。


「ゆ、許していただけるのですか?」


「船旅中もこき使ってやるから覚悟しろ。クルト、お前の荷物も持たせようか?」


 クルトに尋ねると、


「――リアム、僕は女性に荷物を持たせられないよ」


「馬鹿だな。俺を待たせた罰だよ。なら、さっさと行くぞ。というか、俺たちが乗るのはどの戦艦だ?」


 ティアが背筋を伸ばして答えた。


 どうして頬が赤いんだ?


「はっ! 総旗艦――ヴァールでございます」


 第三兵器工場で建造されたヴァールが、ゆっくりと近付いてくる。


 ――こうして見るとでかいな。


 特別大きく建造されたようで、相応に性能も高い。


「お、大きい。これ、もしかして超弩級戦艦かな?」


 クルトも興味を持ったようだ。


 やはり男だな。戦艦とか人型兵器が大好きだ。


「お前も買えば?」


「買えないよ。それに、買うなら維持費を考えても、駆逐艦や巡洋艦がいいかな」


 そういえば、ニアスから買ったな。


 うちの軍事に関する計画では、俺が買う必要もなかったんだけど――ノリで買ってしまった。


 衝動買いというやつだ。


 しかし、戦艦を衝動買いできるこの世界って凄いな。


「なら、うちで余ったのをやるよ」


 俺が勝手に購入すると、天城が「軍事計画がまた狂いました」と怒るのだ。


 クルトに押しつけてやろう。


「え? いいの。助かったよ。中古でも整備をすれば使えるし、数が少しでも揃うならありがたいよ」


 ――あれ? こいつ中古をもらうつもりなの?


ティア(*´∀`)「首をかっさばくほどの罪を、荷物持ちで許してもらえました。リアム様は優しいです」


ブライアン( ´・ω・`)「すぐに首をかっさばこうとする危ない騎士が、うちの筆頭騎士とか――辛いです」


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