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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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領地経営

 惑星一つを支配する貴族たち。


 だが、その惑星にも色々とある。


 資源が豊富、環境が素晴らしい、その他諸々の特徴がある。


 領地である惑星の特徴をしっかり調べ、それにあった領地経営を行うのが領主の仕事でもあるのだ。


 ――だから、資源豊富なレーゼル子爵家は、資源採掘やら加工技術に特化していた。


「レーゼル子爵家がアコロジーを採用しているのは、それが理由なのか」


 資源採掘により環境破壊が進み、地上にアコロジーと呼ばれる完全環境都市を用意して富裕層が暮らしている。


 俺たちが世話になっているところは綺麗だが、それ以外は酷い環境にあるようだ。


 授業中、他の子弟と机を並べて領地経営の基礎を学んでいた。


 クルトの奴は、難しい顔をしている。


 これならもっと搾り取れるとか、そんなことを考えているのだろうか?


 こいつも悪徳領主の資質が十分だな。


 授業で話を聞いていれば、子爵家の領民たちは、出世してアコロジーで生活するために頑張るらしい。


 そのため、黙っていても人材が集まるというのは、領主側から見れば利点だろう。


 領民からすれば、たまったものではないだろうけどな。


 ただ、自分の惑星を穴だらけの酷い環境にするのはいいのか?


 俺としては、そこまでしたくない。


 領民云々ではなく、自分の家が汚いのは誰だって嫌なはずだ。


 ――レーゼル子爵家のやり方は、うちでは採用できないな。


 領地経営も、手堅いというか、鉄板というか――領主として、善でも悪でもない中間のような立場だ。


 アコロジーや、領民たちの扱いには見るべきところはあるが、それだけだった。


 授業が終わると、クルトが呟いた。


「酷いと思わないか、リアム?」


 こいつは悪徳領主として、ギリギリまで領民を追い込むタイプだ。


 ギリギリのラインを見極めるために頑張っている。


 俺の場合、そこまで労力を裂きたくないので、ある程度のラインを見極めればそれで終わりだ。


「誰もがお前みたいな考えじゃないさ」


「そうだけど――これはちょっと酷いよ」


 まだまだ搾り取れると、怒りを滲ませている。


「なら、今日の授業を自分の領地に活かせばいいだろ」


「――うん、そうするよ」


 こいつの父親は、成り上がって貴族になった男だ。


 そのため、息子には領地経営を学ばせたいと、レーゼル子爵家に修行に出したらしい。


 悪徳領主の資質十分の男だ。


 クルトの父――男爵の思惑は成功したと言えるだろう。


 真面目なレーゼル子爵家の授業を受けて、このクルトの反応は将来性を感じさせる。


 そもそも――領主貴族なんて、偉そうにしているが本質は海賊と同じだ。


 自分の領地だと主張し、そこを支配して余所者が来たら叩く。


 少しお行儀がよく、海賊ではなく貴族と名乗っているに過ぎない。


 本質は同じ。


 レーゼル子爵は、その辺りをまったく理解していないようだ。


 まぁ、色々とためになる授業を受けつつ、こうして友好関係を結べる場を提供してくれたことには感謝しているけどね。


 俺個人としては、もう少しだけ表裏のしっかりした家で修行したくもあった。



 レーゼル子爵家で、特別待遇を受けている子弟たち。


 その中には、ペーターの姿もあった。


 今日の授業は、ランドルフ自らが領主の仕事について教えている。


 子弟たちは、サイドテーブルに飲み物やお菓子を置きながら、ランドルフの話を聞いていた。


「領地経営にとって、もっとも重要なのはバランスだ」


 バランスの重要性を説くランドルフは、実例を出すのだった。


「時にはならず者とも手を取ることが重要になってくる。よく、海賊たちを滅ぼそうとしている馬鹿貴族もいるが、海賊たちも元を辿れば領民である場合がほとんどだ。つまり、彼らは自分たちの不始末を隠そうとしているに過ぎない」


 特別扱いを受けている子弟は少ない。


 そのほとんどが、ランドルフの話を聞いて納得していた。


「本来であれば、海賊共を出さないのが領主の仕事だ。だが、そんなことは不可能だ。ならば、海賊共をコントロールする方が効率的だ」


 ペーターが、口を挟んだ。


「分かりますね~。俺様の実家もそのタイプですよ~」


 ランドルフは笑顔で頷く。


「そうか。少し意外だが、今後も君の実家とは仲良くしていけそうだと確信できたよ。さて、話を戻そう。多少の悪事に目をつむることで、それ以上の損失を防ぐことが出来る」


 海賊たちが商船を襲って、根こそぎ奪うようなら困りものだ。


 だが、通行料程度を支払わせるなら、商人たちも払うと教える。


「うまく付き合う。これがもっとも重要だ」


 ランドルフの教育を受け、子弟たちは納得した顔をしていた。



 ヘンフリー商会に一つの連絡があった。


 それは、ピータック伯爵家からの借金の申し込みである。


 トーマスは頭を抱え、返信に苦慮していた。


「――よりにもよって、こんな家から借金の申し込みが来るなんて」


 相手の家を簡単に調べたが、あまりの酷さに唖然としてしまった。


 簡単に言うなら、リアムが生まれる前のバンフィールド家並だ。


 莫大な借金を抱えており、領内は見るべきところが少しもない。


 バンフィールド家よりも酷いのは、ピータック伯爵家の私設軍だ。


 ほとんど、海賊のような連中だった。


 借金を拒否すれば、武力を持ち出すようなニュアンスを文章に入れていたのだ。


 運悪く、最近になって手を広げたレーゼル子爵家と縁を持っており、そちらに出向く際には向こうが手を出せる状況だ。


 部下が心配そうに、


「バンフィールド伯爵家に相談してはいかがでしょうか?」


 それを聞いて、トーマスは首を横に振る。


「相談して、両家の話し合いになった場合、決裂すれば戦争になる。それに、リアム様が世話になっているレーゼル家には、ピータック家の子息もいる。――迷惑はかけられないよ」


 下手にリアムに相談し、こじれると迷惑になるだけじゃなく――戦争だ。


 そんな決断をさせる気にもなれず、トーマスは借金の申し出を受け入れることにした。


「返す気など最初からないのが分かりきっているのに」


 そんな状況でもお金を貸さないと、今後商売の邪魔をされる。


 現在リアムは修行中。


 数年で戻ってきたとしても、今後は首都星への留学が待っている。


 数十年は戻ってこない。


「――今は耐えよう。それにしても、リアム様が子爵家で変な教育に染まっていなければいいんだが」


 ピータック家と縁が出来ているレーゼル家――心配になってくる。


 トーマスの不安は募るばかりだった。



 レーゼル子爵家の領地にある歓楽街。


 そこに、裏カジノと呼ばれる場所があった。


 海賊たちが取り仕切るその場所では、ならず者たちの他に貴族の子弟の姿もある。


 子爵家の騎士たちも顔を出しており、公然の秘密である違法カジノだ。


 そこで、ペーターはカードゲームをやっていた。


 ペーターが、カードを投げる。


「また負けた」


 スーツ姿の男が、ペーターに近付いてくる。


「ペーター様、今日の調子はいかがですか?」


 ペーターは、酒を飲みながら自分の左に女性を置いて肩を抱いている。


「負けて無一文さ。ツケといて」


「ツケですが、金額が大きくなりすぎてしまいました。一度精算していただきたいのですが?」


「え~、なら子爵に頼んでよ」


「それではペーター様の評判に傷が付いてしまいますよ。ですが――お聞きしたいことがあります」


 情報料代わりに、ツケを精算すると言われてペーターは了承した。


 深く考えてなどいない。


「何が知りたいの~?」


「バンフィールド伯爵のことを調べております」


 画像データをもらったペーターは、空中に浮かぶリアムの顔を見て目を細めた。


「え~、こんな奴は知らないよ」


「レーゼル子爵家の屋敷で世話になっていると聞いています。本当に知らないのですか?」


「子爵の家には世話になっている師弟が多いからね。俺様みたいに特別な扱いを受けていないとなると、見込みがない三流貴族じゃないかな~?」


 それを聞いて、スーツの男性は少し笑っていた。


「ペーター様、もう少し詳しい内容を聞かせてくだされば、当店の特別サービスをご用意いたしますよ」


 スーツの男が指を鳴らすと、ペーターの周りに綺麗な女性たちが集まってくる。


 両手を広げるペーターは、笑っていた。


「任せてよ。子爵に言えば、色々と教えてくれるはずだよ」


「期待しております――ペーター様」


 スーツの男が暗い笑みを浮かべた。



 場末のスナックのような店に連れてこられた。


 家庭的な店は、老婆と中年女性が切り盛りしている。


 カラオケで演歌のような歌を熱唱している指導役の騎士を前に、俺たちは愚痴をこぼすのだ。


「連れてくるなら、もっと派手な場所にして欲しいよな」


 俺の愚痴に、クルトが困っていた。


「リアム、失礼だよ」


 だが、事実だ。


 老婆が俺を見て笑っている。


「お貴族様にはうちの店はお気に召さないようだね」


 しかし、スナックなのに料理が出て来て、それがうまいというのはどうなんだ?


 ガツガツ食べているのを見て、中年女性が呆れていた。


「若い子はよく食べるわね」


「これうまいな。追加で」


 追加の注文をしていると、騎士が拳を振り出して熱唱していた。


 俺は呆れながら、クルトと話をする。


 連れてこられた他の先輩や後輩たちも、周囲で勝手に話をしていた。


「子爵家には遊ぶところが少ないと思わないか? これだとつまらないぞ」


 歓楽街もあるのだが、どうにも――といった感じだ。


 クルトは、顔を赤らめていた。


「ぼ、僕に言われても困るよ」


「なんだよ。大事な話だぞ。食う、寝る、やる。人間、どれか欠けても不健全だろうが」


「いや、そうだけどさ」


 三大欲求を満たすのは大事な話だ。


 そこを無視して、綺麗事ばかり言うのは嫌いだね。


 俺は前世で、それこそ真面目に生きてきた。


 こういった店には、上司に連れてこられた経験しかない。


 遊ばず、家庭を大事にしてきたが、今にして思えば馬鹿らしい話だ。


 もっと遊んでおけばよかった。


 生物として、欲求を持つのは正しい。


 そして、解放する場所を用意するのも、領主の仕事である。


 そういった欲望の絡む商売は、大好きだ。


 金が集まるからね。


 俺とクルトの話を聞いて、老婆が感心したように頷いていた。


「若いのにしっかりしているね。そうさ。大事な話だ。世の中、綺麗事じゃ解決しない話も多い。まぁ、男が出すのを汚いと言ったら、男女に関係なく人間は汚い生き物になっちまうけどね」


 話の分かる老婆だ。


「婆ちゃん、気に入った。気分がいいからチップをやろう」


「いらないよ。何か注文しな、小僧」


 クルトが少し落ち込んでいる。


「どうした?」


「うん、僕は色々と足りないんだな、って思って」


 単純に領民から搾り取ることを考えていたクルトが、人の欲望を刺激して金を集める商売に気が付いたようだ。


 ――成長したじゃないか。


 適度に領民の欲望を吐き出させて、ストレスの解消をさせる。


 とても大事だ。


 しかし、クルトも随分とうぶだな。


「お前、やったことあるの?」


「ぶっ!」


 クルトが咳き込んだ。


 俺が何を言いたいのか分かる辺り、こいつも男である。


「な、何を言い出すんだよ、リアム! 僕たちにはいずれ結婚相手が出来るんだ。もっと、誠実でないと駄目だよ」


「誠実~?」


 俺がこの世の中で、もっとも信用していない言葉だ。


 かつて誠実だった俺が迎えたのは、それはもう酷い人生だった。


「な、何さ? 誠実なのはいいことだよ。リアムが不誠実だよ」


「何だと?」


 こいつ、そっち方面はうぶなのか。


 悪徳領主が、女性に対しては真面目って――まぁ、こいつは頭脳派で、領民から少しでも多く搾り取ることを優先するタイプだ。


 俺のような欲望重視型とは違う。


 クルトが、気にした様子で俺に聞いてくる。


「そ、その――リアムは女性とのその――経験があるんだよね?」


 あれ? 待てよ――そういえば、俺もここでは天城としかやってないな。


 生身の女に手を出していなかった。


「――いや、ないな」


「ほら! 口では色々と言っていながら、リアムだって同じじゃないか!」


 周囲が俺たちのことを見て「童貞?」「童貞だな」「いや、もしかしてあいつら――そっち系なんじゃないか?」などとヒソヒソと話をしていた。


 違う! 生身の女じゃないだけで、俺は経験豊富だ!


「騒ぐな! 分かった。なら、このまま遊びに行くぞ」


「え? いや、それは、その――」


 声の小さくなるクルトに、俺は笑顔を向ける。


「ここで捨てたところで、何の問題もないぞ。男は自己申告しない限り、バレることはないからな」


「い、いや、でも――」


 顔を赤くしているクルトは、何か期待しているようだ。


 さっさと行くと言えよ。


 そう思っていると、指導役の騎士が歌を終えて俺たちの隣に座った。


「お前ら、少しは慎みを持て」


「貴族なんですよ。別に遊んでもいいじゃないですか」


 すると、騎士が俺たちに教えてくれたのは――。


「お前ら、立場もあるんだから下手な場所で遊ぶなよ。性病をもらったら大変だぞ」


「そんな性病くらいで――」


「馬鹿! 今の時代、薬で治療できない性病も多いんだ。病気は常に進化するからな。昔は薬草でどうにかなった病気も、今だと効果がない」


 教えてくれたのは、子爵家で流行っている性病だった。


 ウイルスたちもこんな世界で頑張って生きているのか、随分と進化しているようだ。


 今流行の性病は、リア充爆発しろ! を実現した性病だった。


 最初はものが膨れ上がり、大きくなる。


 男なら喜ぶが、数ヶ月もすると次第に赤黒くなって――爆発する。


 マジで爆発する。


 しかも、治療をしても再生しないらしい。


 それこそ、エリクサーを用意しなければならない程の病気だった。


 質が悪いことに、女性には症状がなく病気を持っていても、表面上は分からない。


 男性のものを破壊するだけの性病だった。


 病気というか、もうそれは呪いの類いではなかろうか?


「――クルト、今日はまっすぐ帰るぞ」


「――うん」


 それを聞いて、そんなの知るかと言って遊べるほどに、俺たちの心は強くなかった。


ブライアン(´;ω;`)「幸いです。リアム様の「ピー」が吹き飛ばなくてよかったです。下手をしたらバンフィールド家が詰みます」


天城( ゜д゜)「それより、生身の女性に興味を持てないことを心配してはいかがでしょうか?」


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