師匠の言葉
ダイマの時間だぁぁぁ!
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です “書籍版”は1~2巻 は好評発売中です。
※コミカライズ版は、コミックウォーカー様、ニコニコ静画様、で無料で楽しめます。(一話、三話を公開中 12/28日時点)
三話の無料公開も残り一週間となりましたので、まだのかたは是非とも読んでいただければと思います。
セブンス 1~7巻もよろしくお願いします。
※書籍版は一から書き直しており、ウェブ版とは別になっております。
お正月休みにどうでしょう?
レーゼル子爵家の領地。
そこに
リアムの剣の師である安士だが、今は採掘作業で人手を募集していると聞いてやってきた。
一閃流という凄い剣術の開祖でもあるのだが、本人はたいした腕ではない。
「ちくしょう。重機の取り扱い免許がないから雇えないってなんだよ。こっちは機動騎士にだって乗ったことがあるんだぞ。乗っただけだけど」
本来は
それっぽいことを言っていたら、いつの間にか弟子が一流になっていた。
安士も意味が分からなかった。
いずれ自分の嘘が暴かれ、リアムに殺されるのではないかと不安になり逃げ出した。
それからフラフラと遊び歩いていたら、金を使いきってしまった。
今は、日雇いの仕事を探してフラフラしている。
「芸を披露しても誰も見ないし、どこも雇ってくれない。は~、いったいどうすればいいんだ」
フラフラと歓楽街を歩く。
もう、酒を飲む金もない。
なのに、歓楽街に来てしまう駄目人間だ。
腰に提げていた剣も売ってしまい、もう売るものもない。
「誰でもいいから、酒をおごってくれないかな~」
騒いでいると、前から来たチンピラたちと肩がぶつかる。
「てめぇ、どこを見て歩いてんだ!」
「痛ぇ! 痛ぇよぉ!」
「大丈夫か! ――弟分に怪我させやがって。お前、ただで済むと思うなよ!」
質の悪い連中に引っかかった。
周囲では「またあいつらだ」と、冷ややかに見つつ絡まれないように離れていく。
安士は、三人のチンピラに囲まれ、逃げ場がない。
「か、軽く当たっただけだろう!」
抵抗するが、三人の前には無意味だった。
「言いたいことはそれだけか? これは痛い目を見ないと駄目みたいだな」
「兄貴ぃ! こいつを闇医者に持ち込んで、臓器を売ってやりましょうよ」
「そいつはいいな!」
話しても無駄。
見るからに悪人の三人組を前に、安士は天に祈った。
(誰か助けて!)
すると、周囲がざわめきはじめた。
三人組は、周囲を無視して安士に殴りかかろうとする。
「俺たちを舐めた奴はみんな――」
だが――。
「みんな――何だ? その続きを言えよ」
安士が三人組の後ろを見ると、聞いたことのある声がした。
以前見た時よりも背丈が伸びている。
もっとも――会いたくない人物に出会ってしまった。
(神様、そいつじゃない。そいつだけは止めてぇぇぇ!)
三人組が振り返ると、そこにはリアムが立っていた。
右手には武器を持っている。
レーザーブレード――持ち運びに便利な武器だ。
そんなリアムを見て、三人組は拳銃を手に取った。
「ガキが。気安く俺たちに声をかけてんじゃ――」
声を出した男の首が――ポトリと落ちた。
安士は背筋が凍る感覚に震える。
(こ、こいつ――俺の芸を武芸で再現しやがった)
以前見た時よりも、技が更に強くなっている気がした。
安士には力量を見抜けないが、リアムが手に負えない存在になったのは理解できる。
――アレと戦ってはいけないと、安士の本能が叫んでいた。
逃げなければ――だが、既に立っている場所は、リアムの間合いの中だった。
(――あ、終わった)
安士は、人生が終わると感じて、恐怖が一周して達観した顔になる。
チンピラたちの方は、何が起きたのか理解できない顔をしていた。
リアムが近付いてくると、武器を構えるが――そのまま二人は体から血を吹き出し、倒れてしまう。
周囲も何が起きたのか分からないという顔だ。
血の臭いが周囲に広がる中――リアムは、
「俺の通行の邪魔をするな。おい、おっさん、あんたもこんなのに絡まれ――」
リアムは安士に気が付いていない様子だった。
だが、安士の顔を見ると、地面に膝をついて頭を下げる。
「し、師匠! し、失礼いたしました」
慌てて頭を下げるリアムを見て、安士は限界だった。
達観した――逆に堂々とした態度で、リアムと話をする。
「元気そうだね」
「は、はい。あ、あの――ここに住まわれているのですか?」
何と返せばいいのか?
下手なことを言えば、リアムに自分の居場所を教えることになる。
それだけは出来ない。
「旅を――旅をしている」
「旅ですか? あ、あの、剣も持たずにどうしてこのような場所に? 師匠には心配はないと思いますが、何か武器を持つべきではないでしょうか?」
安士は思った。
(もう売ったんだよ! 金がないからな! って、言えたら楽なのに)
「着の身着のまま、無手で旅をしていた」
「どうしてですか?」
(え? ど、どうしてって――理由なんかないよ!)
「――弟子を探している」
リアムを見ていて、思い浮かんだ理由を口にした。
リアムは笑みを浮かべる。
「でしたら、俺の領地ですぐに道場を用意します。そこで後進の育成に専念していただければ、俺としても嬉しいですし、師匠の願いも叶います」
「いや、それでは駄目だ」
「え?」
リアムは「どうして駄目なんだ?」という顔をしていた。
(うおぉぉぉ! 俺の頭よ、今だけはフル回転をして、うまい言い訳を考えてくれ!)
安士は、口に任せて理由を話すのだった。
「拙者が探しているのは、ただの弟子ではない。一閃流を――一閃流を完成させるための弟子を探しているのだ」
「完成? いえ、一閃流は既に完成されていますが?」
「それは違う!」
強く否定してみたが、安士は内心で慌てていた。
リアムが安士に怒鳴られ、口を閉じて次の言葉を待っている。
「武の道に終着点はない。進み続けるのが一閃流だ」
「――師匠、俺が愚かでした。ですが、それなら俺の領地で弟子を探してもいいのでは?」
「真の一閃流を完成させるため、これはと思った子供を探しているのだ。リアム殿もその可能性の一つだが、それでは足りない。あと――二人はリアム殿のような弟子を探さねばならない」
(あれ? これだと、こいつの領地に行きたくないって遠回しに言っているだけだぞ。これはまずい。フォローしなくては!)
安士の脳内がフル回転する。
「――拙者の中にある一閃流と、リアム殿の中にある一閃流は別のものなのだ。君の近くにいては、新たな可能性を見つけられない」
「そ、それは――そうかもしれませんが、師匠に口出しなどしませんよ?」
「拙者だけの問題ではない。リアム殿――免許皆伝を得たなら、君の中にある一閃流を次に繋げなければならない。拙者に、リアム殿の邪魔をしろと言うのか? それとも、弟子を取らないつもりか?」
リアムの視線が泳いだ。
弟子のことを考えていなかったようだ。
(あ、閃いた! このまま弟子を取るように言って、こいつの注意を弟子に向けさせよう)
「リアム殿、最低でも三人の弟子を持ちなさい。皆が剣士として次代に己の剣を託せるとは限らない。より多くの弟子たちに、一閃流を伝えて欲しい。君はもう、立派な剣士なのだから」
「師匠――俺が間違っていました」
自分のことを考えてくれていたなんて、そんな風に感じたのかリアムが感動していた。
(嘘に決まっているだろうが! だが、これで何とか乗り切れそうだ。このまま逃げたいが、金がないからこの星から出られない。くそ、いったいどうすればいいんだ)
すると、リアムが、
「ですが、師匠がそのような格好でいるのを、弟子として見逃せません。少ないですが、俺の方で路銀を用意させていただきます」
「そうか。それはありがたい」
(やった! これでこいつから逃げられるぞ!)
リアムが、電子マネーを安士にチャージした。
その金額を見て、安士は血の気が引いていくのだった。
(え? 何この額? ゼロの数が無茶苦茶多いんだけど)
信じられない金額をもらい、安士は内心を隠すのに必死になるのだった。
そして、このまますぐにこの領地から出ようと考えていた。
◇
師匠を見送った俺は、新たな目標に悩む。
「弟子を三人――しかも、これはと思った弟子を、か。誰でもいいわけじゃないし、いったいどうすればいいんだ?」
一閃流を広めるために、俺も頑張らなければいけない。
まずは、俺の領地にある道場を見にいくべきか?
ただ、あそこでは一閃流を教えていない。
教えられるのが俺だけなので、師範を置くことが出来ないのだ。
メジャーな剣術の師範を置いているだけだ。
「やっぱり、俺自身で探さないと駄目か。それにしても、師匠の言葉はどれも重みがあるな。俺も見習わないと」
チンピラに絡まれたのに、まるで気にしてもいないような態度。
あれこそが、強者の余裕ではないだろうか?
俺は悪徳領主を目指すが、師匠にはそのままの道を進んで欲しいと思う。
「何をブツブツと、一人で文句を言っているんだ?」
子爵家にある牢屋に放り込まれた俺を、指導役の騎士が見に来た。
街中で暴れたのがいけないようだ。
「まったく、修行に来て騒ぎを起こすとは何事か」
「申し訳ない」
先輩たちと屋敷を抜け出し、歓楽街で遊んでいたのだが――迷ってしまってね。
チンピラ共が五月蠅く、苛々していた。
俺は、あのような人間が嫌いだ。
借金取りの中に、あいつらのようなチンピラがいた。
ドラマや映画のように、実は優しいとか、そんなこともなく、ただただ理不尽だったね。
「だが、お前の気持ちも理解できる」
騎士が俺を見て笑顔を見せた。
「調べてみたが、評判の悪い連中だったみたいだ。まったく、どうして捕まっていないのか疑問を抱くような連中だよ」
かなり悪い奴らだったようだ。
まぁ、どうでもいい。
俺の邪魔をしたのが悪い。
あと、師匠に手を出したのだ。どうせ、俺が殺すまでもなかった。
「ランドルフ様も、しばらくしたら出してくれるそうだ。少し休んでおきなさい」
「そうさせてもらいますよ」
弟子のことで色々と考えたかったし、丁度良かった。
◇
レーゼル子爵家の領地にある、ならず者たちのアジト。
そこでは、仲間が三人殺されたと騒いでいる海賊たちがいた。
――リアムが殺したのは、海賊たちの仲間だった。
「団長、このまま黙ってみているんですか?」
「――馬鹿野郎。そんなことをしたら、メンツが潰れるだろうが」
海賊たちは、レーゼル子爵家の領地で最大規模の海賊団だった。
「ですが、どうやら相手は貴族です。レーゼル家に修行に来ている子弟です」
「どんな相手か分からないのが怖いな。殺すのは簡単だが、面倒ごとはごめんだ。おい、誰か調べられる奴はいるか?」
部下の一人が手を上げる。
「それなら、カジノに来る上客がいます。そいつは、ピータック伯爵家の跡取り様なんですが、うちの店に借金がありますからね。聞き出せるかもしれません」
「よし、そいつに近付け。酒、女、金――何でも使って、うちに手を出した馬鹿野郎を調べるんだ。必ず復讐してやる」
まずは相手を調べてからという、念の入れようだった。
「俺たちに手を出したことを、貴族様には後悔してもらおうか」
海賊たちはニヤニヤと笑い、リアムへの復讐を誓うのだ。
◇
レーゼル子爵家の領地。
普段来ることのない場所だが、トーマスは商談のために訪れていた。
「ここら辺の海賊たちには、流石にリアム様の名前も効果なしか」
リアムが暴れ回っている領地やその周辺なら、ほとんど手を出してこない海賊ばかりだ。
しかし、レーゼル子爵家では違うらしい。
部下の一人が報告してくる。
「通行料を取られるだけで済みましたけど、もしかして連中――子爵家と繋がっていませんかね? 襲撃してくるタイミングが怪しすぎますよ」
トーマスもそれを感じていた。
「分かっている。だが、リアム様に護衛を用意してもらうのも気が引けるからね。儲けを考えても、護衛の費用で赤字だよ」
レーゼル子爵家の宇宙港に来たのはいいが、商談が終わればすぐに戻らなければならない。
「リアム様に挨拶をしたかったが、これでは無理だな」
部下が溜息を吐く。
「取引をしたら、少し黒字になるくらいですね。この辺りも、海賊と繋がっている気がしてなりませんよ」
まるで、示し合わせたように、商家の儲けが出る範囲で海賊たちが通行料を求めてきた。
支払った方が楽だと思える金額だ。
「――評判のいい領主様と聞いていたが、実際どうなんだろうね」
トーマスは、このままリアムがレーゼル家のやり方に染まらないか心配になってくるのだった。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様は、も、もしかして、このブライアンよりも、あの安士を信用しているのではないでしょうか? ――辛いです」