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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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悪徳領主仲間

 一閃流の弱点を見つけてしまった。


 確かに素晴らしい剣術ではあるが、そもそも手加減など考えられていない剣術だ。


 相手を殺すための剣術だ。


 手加減も出来るが、ちょっと強い相手が出てくると――殺す以外の選択肢がない。


 一閃流は、とても極端な流派だった。


 今までは、海賊を相手にしてきたので手加減など考えもしなかった。


 なんという弱点だ。


「流石に修業先では自重しないと駄目だな」


 俺は悪徳領主を目指してはいるが、自分の領内での話だ。


 他人の領地で、横暴な態度は取らない。


 というか、取れない。


 俺が子爵家で暴れ回ったとしても、結局は取り押さえられるからだ。


 個人の強さに大きな意味はない。


 ない、のだが――負けるというのは悔しい。


 それなのに――。


「リアム、僕たちは午後から庭の手入れだそうだ」


 ――俺を小馬鹿にしてきたクルトが、妙に馴れ馴れしかった。


 作業着に着替え、道具を持っている。


「――まぁ、別にいいんだけどさ」


「何が?」


 同室の奴とまったく喋らないのも問題だ。


 これはこれでいいのだが――最近、女の子たちが俺を見る目が怖い。


 子爵家に修行に来ているのは、男の子ばかりではない。


 女の子も行儀見習い――嫁入り前の修行として、他家に預けられている。


 レーゼル子爵家は修業先として人気も高く、そういった女の子たちは多かった。


 だが、俺とクルトを見る目が、最近怖い。


 よく「クルト、リアム」とか「リアム、クルト」とか、名前を繋げて呼ぶのだ。


 いったい何なのだ?


 時にどちらの名前を先に呼ぶかで、睨み合いまでしているのだ。


 この世界の風習なのか、それともレーゼル子爵家だけの風習なのか――星間国家である帝国は、広すぎて理解できないことが多い。


 世間一般の常識と思っていたら、地元だけの常識だったとか、そういう話も多いのだ。


 そういった認識を正すためにも、修行と称して他家で預かってもらうのだろうか?


 考えは尽きない。


「リアム、早くしないと指導をする騎士がまた怒るぞ」


「あのおっさん、無駄に熱いよな」


 熱血指導者みたいなノリだ。


 別に嫌いじゃないけどね。


 修行に来て、早くも半年が過ぎた。



「俺様ってさ~、本番じゃないと本気になれないんだよね~」


 木刀を持って、椅子に座っているペーターは、運動をする時間なのに動こうとしなかった。


「実際、俺って有名剣術のアーレン流剣術の免許皆伝だし、今更こんなことに意味なんてないって言うか~」


 言い訳をして動こうとしないペーターに、運動着を着用した女性が話しかける。


「ペーター、ちゃんと体を動かしなさいよ」


 その女性――女の子は【カテリーナ・セラ・レーゼル】だった。


 ランドルフが、ペーターに嫁がせようと考えている娘だ。


 ペーターの方も、金髪碧眼でポニーテールの美少女であるカテリーナを気に入っている。


「リーナ、俺様は鍛えなくても強いんだよ。だって、領地じゃ負けなしだったからね」


 強そうに見えないペーターに、カテリーナ――リーナは疑った視線を向ける。


「なら戦って見せてよ」


「本当に強い男っていうのは、大事な時以外は戦わないものなんだよ~」


 ノラリクラリと運動から逃げるペーターに、リーナは辟易していた。


 道場の外を見ると、同じように修行に来た子弟たちが庭の手入れをしている。


 ペーターは、彼らを見て、


「嫌だよね~、あんなに必死に働いちゃう貧乏貴族は、修行に来なくてもいいのにね~」


 リーナは、呆れつつも説明するのだ。


「確かに重要な家の子たちじゃないけど、動かないペーターよりはマシね」


「そんなことないよ~。俺様が本気を出せば~、あいつらなんて一瞬で倒せるからね」


 周囲では、修行に来た女の子たちが、お金持ちである男たちのためにタオルや飲み物を用意していた。


 彼女たちにしてみれば、ここは出会いの場でもある。


 ただ、外で庭の手入れをしている子弟には、見向きもしていなかった。



 リアムが修業先で手加減について悩んでいる頃。


 帝国首都星で大学に通っていたティアに、一人の生徒が近付いてきた。


 彼はレーゼル家の人間だった。


「君がクリスティアナさん? 君の主君は、僕の実家で世話になっているんだけど、知っているかな?」


 実家の事情を持ち出し、ナンパをしてきた相手にティアは困ってしまう。


(レーゼル家の人間? 相手にする価値はないが、リアム様の修業先でのお立場もある。ここは当たり障りのない対応をするか)


 軽薄そうな男だった。


 厳しい実家を出て、首都星に留学している貴族の子弟にしてみれば、大学での期間は遊びと同じだ。


 真面目な子弟もいるが、そうではない子弟も多い。


 解放感、その他諸々もあって、遊びほうける者が多い。


 彼もその一人だ。


「えぇ、知っていますよ。そうですか。レーゼル子爵家の方でしたか」


「そう、そう。君の主君を、今は親父が面倒を見ている。これも何かの縁だから、連絡先を交換しようか。これから話すことも多いだろうし」


 男の言葉に、ティアは呆れていた。


(他家の騎士に声をかけて遊ぶつもりか? 責任を取ることも出来ないガキが、つけあがりやがって。だが――これもリアム様のため。私の態度で、リアム様の評判が傷つくなど――あってはならない)


 相手はどうせ、遊び目的で声をかけてきている。


 何かあれば捨てるつもりなのに、縁のある家の関係者を狙うのは阿呆だ。


「えぇ、いいですよ」


 笑顔で対応し、ティアはその場を離れるのだった。


(面倒なのに声をかけられたな)



 レーゼル子爵家の屋敷。


 俺は自室でクルトと話をしていた。


 その内容だが――。


「領内のことで迷っている?」


「あ、あぁ、そうなんだ。うちは成り上がりでね。領地をもらったのはいいが、その扱いに悩んでいるのさ」


 出世したら領地をもらった。


 それはいいが、領地経営などしたことがないエクスナー家は――困っているようだ。


「いったいどれだけ税を取ればいいのか、どのように民を扱えばいいのか分からない」


 惑星によって、下手をすると惑星内でも領民の気質が違う。


 細かな対応を考えると、それだけ手間もかかる。


 逆に、一律で管理をすると、不満も出てくる。


 時に反乱も起きるし、そうなると帝国が出て来て面倒になるのだ。


 俺の場合? 文句を言うなら私設軍を出して鎮圧だ。


 俺は逆らう領民が嫌いだ。


 俺に従う領民には優しいが、それ以外に優しくする意味などない。


「お前は馬鹿だな。搾り取ればいいんだよ」


「いや、搾り取ろうにも、結構ギリギリなんだが?」


 ギリギリ? ――限界ギリギリまで搾り取っているのか?


 こいつも結構悪い奴だな。


 エクスナー男爵家もそうだが、こいつ自身ももっと税を搾り取りたいとは――見所がある。


 どれ、悪徳領主仲間として、俺もアドバイスをしておくか。


 こうした繋がりは大事にしないとね。


「ならば大事なことを教えてやる。雑巾を絞るとき、水につけるよな? 乾燥した雑巾からは、何も搾り取れないぞ」


「――当然じゃないか。リアム、何を言っているんだい?」


「分からないか? 搾り取る前に、民を潤わせればいいんだよ。インフラに金を使えば、それに関わる人間が儲ける。発展すれば、それだけ搾り取れる環境が出来上がるんだ。投資は大事だぞ」


「そ、それは分かっているよ。けど、実行するとなると簡単じゃないよ」


「やるんだよ! 搾り取るのはそれからだ。あとは、黙っていても金があふれてくるぞ。そこまでは我慢だ。領民が豊かになってから、どんどんきつく搾り取ればいい。おっと、それから武力だけはちゃんと維持しろよ。絶対に手を抜くな」


 中には反乱が怖くて、領地を発展させすぎない貴族もいる。


 自分たちに関わる者だけ教育して、後は中世並みの環境で生活させている奴もいる。


 ――俺の両親がそのタイプだった。


 貴族なら借金も出来るし、領地に金をかけたくない気持ちも分かる。


 だが、搾り取るには、やはり豊かになった後だ。


「元から領主だったリアムのところは、しっかりしているんだね」


「搾り取るのは得意だ」


 悪徳領主仲間、いや、後輩か? とにかく、色々とアドバイスをしてやろう。


 だから、何かあった時は助けろよ。



 クルトは、リアムの話を聞いて思った。


(確かに、ギリギリの生活をしている領民を豊かにするのが先決だ)


 父がもらった領地は酷いところだった。


 戦力は維持しなければならず、一定の貢献も必要な中で――エクスナー男爵家は、かなりギリギリの領地経営を行っている。


 税を減らせばいいのは分かっているが、簡単な話でもなかった。


 領民にギリギリの生活をさせて――申し訳ない気持ちだった。


「軍備増強にはお金もかかる。うちではこれ以上は無理だよ。維持費も問題だ」


 そう言うと、リアムはベッドに横になりながら呆れていた。


「数を減らせよ。大事なのは装備の質と練度だ。時代遅れの艦艇を何十隻も揃えるくらいなら、新型を数隻揃えろ」


「数も重要だよ。それに、何かするためにはお金もかかる。これ以上、領民から搾り取れないよ」


「随分とギリギリまで搾り取っているんだな」


 そう言って、リアムは嬉しそうにしていた。


「金を借りればいいだろうに。貸す奴らも、ちゃんと返してくれるなら、喜んで貸してくれるぞ。あ、その代わり、絶対に返済期限は守れよ。俺の家もそれで苦労したからな」


 しみじみと語るリアムに、クルトは困り果てる。


「信用がないと、借りられる量には限りがあるんだ。新興であるうちは、貸してくれるところがない」


 リアムは「それなら」と言って――。


「俺の越後屋に話をしてやる」


「えちごやって何?」


 クルトは、子爵家に修行に来てよかったと思っていた。


 何しろ、変わっているが――頼りになる友人が出来たのだから。


(それにしても、リアムは口が悪いな。本当は、領民のことを凄く考えているのに、搾り取るとか言って)


 ただ、すれ違いが起きていた。



 ヘンフリー商会に、リアムから連絡があった。


「う~ん、困ったな」


「どうしました?」


 部下に問われ、トーマスは借金の申し込みだと答える。


「バンフィールド家がうちに借金ですか?」


「違う。男爵家を紹介されてね。新興のエクスナー男爵家なんだけど、リアム様の頼みだから断れない」


 エクスナー男爵家が頼んできたら、大金を貸すなど絶対にしなかった。


 だが、リアムの名前が出てくると、話は別だ。


「伯爵が後ろにいるなら、貸しても問題ないのでは?」


「それくらいなら、別に問題ないけどね」


 リアムの領地で随分と稼がせてもらっているので、出来ないことはない。


 それに、リアムには世話になっているので、頼まれたら多少の無理もする。


「でもね、この手の話はすぐに広がるからね。返す気もないのに、貸して欲しいとやってくる貴族様が増えるんだ」


「あ~、それで」


 エクスナー男爵に貸したなら、うちにも貸せるよね?


 そんな態度で借りるのだが、相手は返す気がないのは分かりきっている。


 ヘンフリー商会は、最近力を付けてきたばかり。


 リアムの後ろ盾はあるが、貴族の間では侮られていた。


「だけど、リアム様の頼みなら断れない。すぐにエクスナー男爵に連絡を取ろう」



 悪徳仲間の越後屋――じゃなかった、ヘンフリー商会のトーマスを、クルトの実家に紹介してやった。


 広がる悪徳仲間の輪に、俺は嬉しさを感じていた。


「素晴らしき絆だな。困った時には助けてもらおう」


 庭掃除で出たゴミを、捨てに行く途中だった。


 建物の陰から声が聞こえてくる。


「何だ?」


 そこにいたのは、カテリーナ――子爵家のお嬢さんだ。


 男と二人で建物の影に隠れ、イチャイチャしていた。


「もう、駄目だよ。誰かに見つかったら大変だよ」


「平気さ。俺が黙らせてやる」


 確か、カテリーナさんは、ペーターとかいう金持ちと結婚するという噂があったはずだ。


 なのに、相手の男はペーターじゃなかった。


 俺の心が一気に冷めていく。


 浮気――前世の妻も浮気した。


 俺の中で、こんな女と結婚しなくてよかったと思いつつ、ペーターには同情するのだった。


 まぁ、ペーターとは話したこともないし、世話になっている子爵家で面倒を起こしたくもないので黙っているけどね。


 聞いたら、ペーターの実家はとても優秀で善政を敷いているようだ。


 そんな家の奴とは仲良く出来ない。


 俺とは方針が違いすぎるから、話が合わないはずだ。


「可哀想なペーターだな」


 同時に、カテリーナには――この○○ッ○が、とも思った。


 仕事が残っている俺は、何も見なかったことにしてこの場を去る。


 そして思った。


(やっぱり、真面目に生きていても駄目だな。ペーターみたいな真面目な奴でも、こんな女を掴ませられるんだから。可哀想に)


ブライアン(´;ω;`)「辛いです。リアム様が、勘違いばかりで辛いです。リアム様違うの! ペーター君は真面目じゃないからぁぁぁ!」


天城 ( ・∀・)「いつもの旦那様でしたね」


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