僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~


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作:四季の夢
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第十九話:保須市攻防!


 竜牙は会議室でねじれを交え、リューキュウから色々な説明を受けていた。

 ヒーローの権限・法律上の行動範囲や立場。後々、そして学校でも教えられる事をプロのリューキュウが事前に教えてくれるのは贅沢な事だ。

 ホワイトボードをバックに教えるリューキュウの姿。クールな彼女ゆえだろう、教える姿はクールな女教師を彷彿させる魅力があった。

 

「立場としてはヒーローは公務員ね。成り立ちは異なるけど、国からお給金が出てるのよ。そして主な実務は犯罪の取り締まりで、警察からの応援・市からの治安維持の依頼がそれね。後はCM等の副業も――こら、ちゃんと聞いてる?」

 

「勿論」

 

 優しく怒るリューキュウの声に竜牙は即答で頷いた。

 頭に入れながら見惚れていました。――これが実際の竜牙だが、クールな姿でスリットで肩出しのコスチュームの彼女に見惚れたのは仕方ないだろう。

 そして一通りの説明が終わる頃、デスクに倒れていたねじれが呟く。

 

「リューキュウ……お腹減らない? 不思議だねー!」

 

「あら……もうお昼?――じゃあ、そろそろお弁当が届いてる筈ね」

 

「……なら俺取ってきます」

 

「私も行くよー!」

 

 どうやらねじれは後輩が可愛くて仕方ないようだ。

 取りに行こうとする竜牙の後を楽しそうに追い、リューキュウもその様子に微笑みながら「受付に届くはずよ」と言って邪魔はしないようにした。

 今日会ったのに、まるで弟離れが出来ない姉そのものだ。

 ねじれが来てからもそうだが、リューキュウは自分の事務所に新しい何かが包むのを確かに感じるのだった。

 

▼▼▼

 

 届いたお弁当に竜牙は驚いていた。――それは“重箱”のお弁当であり、それが事務所のサイドキックの人達や事務の人達分も置いてあり、まさに圧巻。   

 リューキュウ曰く、今日は竜牙が来るから奮発したとの事で、竜牙はリューキュウとねじれと共に会議室でそのまま食事を始めた。

 重箱の蓋を開ければ、まるで選り取り見取りの綺麗な庭だ。 

 卵焼きから始まり、野菜や魚、雑穀ごはんが引き詰められた弁当を食べながら、リューキュウは午後の行動を説明する。

 

「午後は市街のパトロールに三人で行きましょう。犯罪の抑止やファンサービス等、これも立派な仕事なのよ」

 

「了解です。その時の注意点や必要な物はありますか?」

 

「必要な物は自分のサポート装備ぐらいね。注意点はジンオウガはまだ仮免許も無いから基本的に“個性”の使用が禁止なのだけれど、ヴィランによる正当防衛・民間人の保護の場合は例外として認めるわ。――けれど」

 

 リューキュウが考える様に言葉を詰まらせた。

 まるで言葉を選ぶ様な彼女の様子に竜牙はその本心を察する。

 

「……例えそうなったとしても“雷狼竜化”は禁止ですね?」

 

「えぇ……誤解なく言わせてもらうけど、君を信じてないとかじゃなく市街地となると人の密集地。そうなると雷狼竜状態は力が強すぎるのよ。それに人や障害物が多いとその状態も活かせないというのも理由ね。――だから、例え雷狼竜化するとして、それは()()()()()の時のみ認めます」

 

「分かりました」

 

「わー! 後輩くんと初めてのパトロールだね! どうなるんだろ? 何かあるのかなー!」

 

 真剣な会話の中でのねじれの声。それが和みを生み、竜牙とリューキュウも余計な肩の力を抜くことが出来ると、リューキュウは思い出したように呟いた。

 

「そういえばジンオウガはもう“サイン”は描ける?」 

 

「形だけなら出来ます。……求められますか? まだ仮免許もありませんよ」

 

「ううん。必要になると思うよ?……それだけ雄英の体育祭は一大イベントだからさ」

 

 そう呟くリューキュウの言葉に、竜牙はこの間の登校日を思い出すのだった。

 

▼▼▼

 

 

「おい、あれってリューキュウじゃないか!?」

 

「本当だ! リューキュウ!」

 

 パトロールに出た竜牙達を迎えたのは好意的に声を掛ける一般の人々。

 トップヒーローだけあって皆がリューキュウへ手を振り、彼女もそれに応えるように手を振り返す。

 

「凄い……パトロールだけでこんなに」

 

「ふふ、これでも少ないぐらいよ? 多い時は本当に凄いんだから」

 

「前は多すぎて警察の人が交通誘導してたもんねー!」

 

 驚く竜牙にリューキュウとねじれがまだまだと説明する。

 地元だから今は落ち着いているが、人気が出た当初は人だかりが凄く、警察からパトロールの制限だが出た程だと話すリューキュウ。

 当初からそれをこなすオールマイトは凄いという話をしながら、三人はパトロールを続けるがやはりリューキュウのファンに捕まってしまう。

 

「あのこの色紙にサイン良いですか!?」

 

「ふふ、良いよ」

 

 目的はパトロールなのだが、リューキュウは迷惑そうな態度や表情は一切せずに対応する。

 寧ろ、感謝すらしている様に柔らかい雰囲気を纏っており、周りにサインや写真を気さくに撮ってあげている。

 しかもそれはリューキュウだけではなかった。

 

「あれ? 君って確か3年の部で出てたよね!」

 

「本当だ! ヒーロー名とか決まってるの!?」

 

「ねじれちゃんです! よろしくー!」

 

 ねじれちゃんも大人気。ルックスも良いのだから尚更で、リューキュウ同様にサインや写真の対応を始めた。

 そんな二人の光景に竜牙は何も言えず、これがプロヒーローのファンへの顔などだと考えていた時だった。

 不意に竜牙は腰の辺りを誰かにクイクイと弱い力で引っ張られ、振り向いてみると、いたのは小さな男の子だった。

 

「……どうした?」

 

 目線を合わせるように竜牙はしゃがんで問いかけると、男の子は目を輝かせながら色紙を竜牙の目の前に出してきた。

 

「らいろうじ りゅうがさんですか! ファンです!……サイン下さい!」

 

「サイン?……俺のなんかで良いのか?」

 

 リューキュウの前だからか謙遜してしまうが、そんな竜牙の言葉に男の子は激しく頷き続けるので描かない訳にはいかない。

 それどころか初サインだ。嬉しく感じながら竜牙は色紙に雷狼竜の頭部をイメージしたイラストと共にサインを描いて男の子に渡した。

 

「ありがとうございます!……なんてよむの?」

 

「ジンオウガ――俺のヒーロー名だ。まだ正式なヒーローじゃないが、これからもよろしく頼む」

 

「うん!」

 

 竜牙の言葉に男の子は頷き、そのまま母親の下へと戻って行く。

 そして母親に頭を下げられ、竜牙も軽く頭を下げて返した時だ。それが皮切りだった。

 

「ママァ! ジンオウガからサインもらった!」

 

 男の子の声が周囲に響きわたり、その声を聞いた周囲の人々は聞き覚えのないヒーロー名に思わず反応してしまう。

 

「ジンオウガ?」

 

「誰だ? 聞いたことがないがリューキュウのサイドキックか?」

 

「ん? ちょっと待って! あの子って雷狼寺 竜牙じゃないの!? ほらこの間の体育祭で優勝した!」

 

「ああ! あの竜になる子か!」

 

「もうヒーロー名もあって、しかもリューキュウ事務所なんて凄いじゃないか!」

 

 次々と連鎖する様に竜牙の存在が認知されてゆき、竜牙は熱気の様な何かに押されて思わず後退りしたと同時だった。

 周りの人達が一斉に竜牙の下へ集まり、竜牙をあっという間に取り囲んでしまう。

 

「体育祭見たよ! 格好いい個性だったね!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「なになに!? もうサイドキックかい!」

 

「い、いえ、まだ仮免許もなくて、あくまで職場体験で……」

 

「それでもリューキュウ事務所だなんてすごいじゃない!」

 

「すいません。うちの子達、体育祭であなたを見てすっかり憧れちゃって……サインと写真良いですか?」

 

「ど、どうぞ……」

 

 一気にてんやわんやだ。一人一人に対応しては間に合わず、またサインを描いてあげながら写真を撮ると、今度は自分もという人が現れる。

 

(男の子や女の子もそうだが……結構バランス良く好感は持たれているな)

 

 集まってくる人々の種類を分析する竜牙だが、そんな事をしている暇はない。

 結果を出した将来のヒーローを見ようとする者。テレビで見て心を奪われた者など沢山の人の対応をしなければならないのだ。

 

(轟……お前も同じ感じなのか?)

 

 今はここにいない友に助けを求めるが、残念ながら轟が応えることはない。

 

「だから言ったでしょ? 雄英の体育祭は一大イベントだって。皆、新しいヒーローを望んでいるのよ」

 

「わー! いきなり沢山の人がいるね! さっきまでいなかったのに不思議だねー!」

 

 余裕のない竜牙とは違い、リューキュウもねじれも竜牙よりも多いファンを素早く対応をしており、竜牙の様子を楽しそうに見ていた。

 結局、リューキュウが止めるまでずっと竜牙はファンの対応に困惑し続けていた。

 

 

▼▼▼

 

 

(……疲れた)

 

 ホテルでシャワーを浴びた後、ベッドの上で竜牙はうつ伏せになりながら倒れていた。

 あの後、リューキュウ達に助けられた竜牙は事務所に戻って大体の流れ、そして明日の予定を聞いてその日は解散となり、ねじれが宿泊先が同じだからとホテルを案内し、そして現在に至る。

 

(テレビ……付けるか)

 

 静かな部屋にせめてものBGMとして竜牙がテレビをつけると、映ったのはニュース番組だ。

 

『――との事で、ヒーロー『インゲニウム』を再起不能に陥れたヴィラン『ステイン』は現在も逃走中であり、現地のヒーローや警察が行方を追っています』

 

(……インゲニウム。――飯田)

 

 ニュースの内容に竜牙はクラスでの事を思い出す。

 体育祭を途中で帰宅してしまった飯田の事で緑谷に聞いたのだ。

 

『飯田くんのお兄さんがヴィランと何かあったみたいなんだ!』

 

 その後、ニュースでターボヒーロー『インゲニウム』がヴィラン名『ステイン』――通称『ヒーロー殺し』によって再起不能にされた事を知った。

 だから竜牙もさりげなくだが、飯田に大丈夫なのか問いかけたのだがその時は――

 

『心配かけてすまない! だが俺は大丈夫さ!』

 

(……そうは見えなかったぞ)

 

 竜牙は知っている。本当に大丈夫じゃない者の目を。嘗ての自分がそうだったように。

 だが竜牙は何も言えなかった。自分をその時に救ってくれたのは家政婦の猫折さん達であった様に、竜牙では飯田の本心を理解することが出来なかった。

 救われた者が救う者になる事もあるが、竜牙は身内をヴィランに襲われたとかはない。

 

(緑谷……お前ならどうした?)

 

 轟を救った緑谷を竜牙は目を閉じながら思い出す。

 ヴィランの件ではないが、下手な深入りは更に傷付ける事を知っている者――竜牙には出来ない事、それを緑谷は自らが傷付いても行う。

 だから竜牙は緑谷を対等として見ているのだ。

 

 そんな事を竜牙が考えていた時だった。不意に自分の携帯が着信音を鳴らし、メッセージの受信を知らせる。

 

(誰だ……?)

 

 携帯を覗くと、そこに写っていた名前は耳郎と障子の二人からだった。

 

『こっち今終わったよ。そっちはどう?』

 

『俺も終わった。雷狼寺はまだ体験中か?』

 

 どうやら二人も今日の体験は終了し、身体を休ませている最中の様だ。

 初日ゆえの気疲れした中、二人からのメッセージは休まる日常を感じられ、竜牙は安心の笑みを浮かべながらメッセージを送る。

 

『俺も終わって今、ホテルで休息中』

 

『そうなんだ。っていうかテレビ見たよ? ニュースでリューキュウ事務所に未来のヒーロー『ジンオウガ』って言われてた』

 

『周りのファンに囲まれてたな』

 

「………気づかなかった」

 

 寝耳に水。どうやらあの時にテレビクルーもいた様で、竜牙達の様子を撮影されていたようだ。

 周りの対処に忙しく、耳郎達に言われなければ気づけなかっただろう。

 

『ところで初日はどんな感じだった? うちは普通にパトロールだった』

 

『俺もそんな感じだ。周囲をパトロールしながら立場やルールを教えられた』

 

『教える事は皆、同じか』

 

 二人の話を聞く限り、本当に初日は必要な知識や行動をどこも教えているようで、竜牙は楽しそうにしながら話を続けていった。

 学校とはここが違う。プロは副業も大変等、色々と話をし続けていつの間にか2時間近く経過しており、やがて話も終わりを告げた。

 

『それじゃあ、明日早いから今日はもう寝るね』

 

『俺も明日は遠出するから今日は寝る』

 

『俺も寝る』

 

 互いにメッセージを終えると、竜牙も充電をしてから電気を消してベッドに潜り込んだ。

 明日からも忙しい。肩の力を抜きながら、竜牙は重くなる目蓋を閉じて静かに眠りについた。

 

 

▼▼▼

 

――翌日、リューキュウ事務所に来た竜牙が真っ先に行ったのはねじれとの訓練だ。

 

「――放電!」

 

「よっと!」

 

 竜牙の放つ放電をねじれは空中へと回避し、波動を竜牙へと放ち、竜牙も負けじと雷狼竜の腕へと変化させて正面突破。

 ねじれの波動を相殺させ、ねじれとそれを見ていたリューキュウを驚かせた。

 

「うわー! 昨日と動きがちがうね!」

 

「うん、昨日よりも動きのキレが良くなってるよ。これなら大丈夫そうね」

 

「?………何がですか」

 

 竜牙は動きを止め、リューキュウに問いかけた。

 

「実は明日、保須市に出張する事になって二人にも同行してもらおうと思ってるのよ」

 

「保須市?――まさかヒーロー殺し?」

 

 竜牙の言葉にリューキュウの表情が真剣なものとなった。

 

「無関係……ではないわ。市から抑止力として依頼されたの。既に17名のヒーロー殺害・23名のヒーローを再起不能にし、遂にはあのインゲニウムさんもその一人にされた。――勿論、保須市は人口も多く、それにあった数のヒーロー事務所があるわ。けれど、市は不安だからアピールも兼ねて私に依頼したのよ。――それに依頼の時に聞いたのだけど、既にエンデヴァーも保須入りしたらしいわ」

 

「エンデヴァー? なんで?事務所の場所ちがうよね?」

 

「……まさかヒーロー殺しを狙ってる?」

 

 リューキュウの言葉に不思議がるねじれだが、竜牙は嫌な予感を口にした。

 あの検挙率ならばNo.1のエンデヴァーが動くのは余程の案件。しかも保須を狙う以上、考えられるターゲットは“ヒーロー殺し”しかいない。

 しかし、それは竜牙の予想でしかないのだが、その言葉にリューキュウは頷いた。

 

「恐らくその通りね。ヒーロー殺しは活動したエリアでは最低でも4人以上に危害を加えてて、保須市ではまだ一人だけ、前例通りならば犯行を繰り返す筈。――だから市からは抑止力だけれど、私達もヒーロー殺しを捕える事を視野に入れて向かうわ。勿論、サイドキックも総動員して」

 

 リューキュウの言葉には重みが存在した。それだけ真剣な案件。プロヒーローがヴィランと戦う時の姿だ。

 肌で感じるのプロの世界。竜牙も無意識の内に力が入ってしまう。

 

「勿論、ジンオウガは個性の使用が制限されてるから、万が一の時の避難誘導を頼むよ?」

 

「はい。足は引っ張りませんリューキュウ」

 

「うんうん! 何かあったら私が竜牙くんの面倒見るから大丈夫だよー!」

 

 ねじれに体毛をモフモフされながら竜牙は頷き、リューキュウもこれなら安心できると笑顔で頷く。

 

「ハッキリ言うけど、私は君に期待してるよ。だから多少危険でも、教えられる事は教えてあげたいの」

 

「嬉しい限りです……」

 

 トップ10に入るプロヒーローにここまで言われたのだ。

 その期待はプレッシャーにもなるが、竜牙はそれ以上に気合が入って仕方がなかった。 

 

「期待に応えてみせますリューキュウ……波動先輩……!」

 

 竜牙は瞳に力を宿し、覚悟を決めて明日に備えるのだった。

 

 

▼▼▼

 

 

――翌日、竜牙はリューキュウ事務所総員で朝早くに保須市へと入った。

 そこからは3組に分かれ、竜牙はリューキュウ・ねじれ・サイドキック一人の組み合わせに入り、そこからは街の中をパトロールする。

 その最中に気づいたのだが、辺りのプロヒーローの多さが目立っていた。

 空気もピリつく完全な警戒態勢。言われなくても、ヒーロー殺しがその元凶だと理解できてしまう。

 

「街全体での警戒態勢ね。三人共、あまり気は抜かない様に」

 

「はーい!」

 

「……はい」

 

「二人共、落ち着いてるね……」

 

 リューキュウの言葉に落ち着いた態度の二人に、サイドキックの男性ヒーローは大したもんだと苦笑していた。

 これが初めての事ならば戸惑っていただろうが、竜牙もUSJでヴィランと戦闘を行っており、不思議と落ち着くことが出来ていた。

 

 そしてその後も四人はパトロール・周りのヒーローと情報交換・ファンへの対応などを行いながら続けて行ったが、これといった手掛かりはなく、近くの喫茶店の外の席で遅いお昼休憩をする事になった。

 

「みんな怖い顔してるねー不思議!」

 

「……やっぱりヒーロー殺しの影響ですよね?」

 

「だろうね。こんなにヒーローや警察が街中をウロウロするのは余程の事だよ」

 

「けれど、こうなるとヒーロー殺しは疎か、他のヴィランも動きを見せないでしょうね」

 

 リューキュウは紅茶を飲みながら街を見渡す。

 異質とも呼べる警戒態勢。こうなれば下手な行動するだけでヒーローと警察が駆け付けるので、チンピラとも呼べるヴィランも大人しくするだろう。

 

「何もないなら……それに越したことはないですね」

 

 竜牙の言葉にリューキュウは「そうね」とだけ言うと、カップを置いた。

 元凶は取り除かれなくとも、何も起こらなければそれに越したことはない。

 しかし、平和というのはいつも突然として壊れるものだ。

 

――今の様に。

 

『キャァァァァァァッ!!』

 

 悲鳴と共に悪意が保須市を包み込む。

 

 

▼▼▼

 

 

 雷狼寺 ミキリは商談を終え、側近の運転する車で移動していたが、その表情は少し曇っていた。

 別に商談が上手くいかなかったとかではなく、寧ろ外国の会社と良い商談が出来た。

 ならば、表情が曇っている理由は何か? その理由は一つであり、ミキリは後部座席の方へ振り向く。

 

「むぅ……!」

 

「むぅ……!」

 

 不満そうに頬を膨らますサイドテールの双子の愛娘達がその理由だ。

 一昨日からずっとこの調子であり、ミキリは参った様に額に手を置いた。

 

「……まだ機嫌は直らないのか?」

 

「二人共、いい加減にしなさい……」

 

 父と母が娘二人を説得するが、娘達は知らん顔だ。

 それどころか更に機嫌を損なった様に不機嫌な色が濃くなった。

 

「……お兄ちゃんにあいたいもん!」

 

「……あいたいんだもん!」

 

――またそれか……。

 

 ミキリの頭痛は酷くなる。

 事の発端は一昨日のテレビでリューキュウのニュースだ。

 それに出て来た一人のヒーロー『ジンオウガ』――つまりは息子の竜牙が出て来た事だった。

 あの雄英体育祭以降、娘達の竜牙に会いたいという感情が強くなっているが、家庭の事情で会うことは難しいと言える状況だ。

 会うことが出来ない。ならば誤魔化すしかなく、時間がないやら何やらの子供騙しで対処してきたが、ニュースで竜牙が出て来た事で事態が変わってしまう。

 竜牙が娘達と同じぐらい子供達と接している映像が流れ、運悪く娘二人がそれを見てしまったのだ。

 

『じぶんたちのお兄ちゃんなのに、なんで知らない子達だけ遊んでもらってるの?』

 

 娘達がそう思ってしまうのは仕方ない事だろうとミキリも納得は出来ていた。

 自分達は会えないのに、知らない子ばかりが構ってもらっている。

 これ以上の不満はなく、すぐに会いに行きたいと駄々をこね始めてしまった。

 だが捨てたも同然の扱いをした息子に、どう娘を会わせろというのだ。

 

『もう……これは俺の人生だ』

 

 十年ぶりの息子との再会。その第一声がそれだった。

 久し振りです。元気でしたか。そういうのは一切なく、ただその一言が第一声だ。

 十年ぶりの再会じゃなく、普通の家族としての会話としても異質だろう。

 

『不満か?……ヒーローを目指すならばエンデヴァーとのパイプは作っておくべきだ』

 

 そしてこれが自分自身の返答。自分も同じだと、ミキリは自覚していた。

 家政婦の猫折さんからしか話を聞いていない息子。何が正解か分からず、ただ望む通りにお見合いは断り、妻に再会した事を話した。

 

『ッ!……そ、そう』

 

 妻はビクリッと一瞬、肩を震わせながらその一言だけを呟いた。

 それだけだ。それ以上は罪悪感なのか、恐怖なのか踏み込むことができなかったのだろう。

 そんな関係の息子だ。娘達に罪がなくとも、会わせる事なぞ出来るわけがない。

 

――その結果がむくれた娘達だ。

 

 ミキリは溜息を吐きながら側近へ問いかけた。

 

「……今、どの辺りだ?」

 

「今ですか?――保須市街ですね」

 

「……そうか」

 

 保須市ならばまぁまぁのレストランぐらいあるだろう。

 スイーツでも食べさせれば少しは機嫌が直るだろうと、ミキリがそんな事を思った時だった。

 

――強烈な爆音と悲鳴。そして急ブレーキの衝撃がミキリ達を襲った。

 

「ぐぁ!?」

 

「キャア!!」

 

「!!」

 

「!!」

 

 ミキリと妻が叫び、娘達は驚いて声も出せないでいた。

 前方の方で起こった衝撃音と叫び声。一体、何事だと思いミキリは側近へ叫ぶように問いかける。 

 

「何事だ!?」

 

「分かりません!」

 

 側近はそう言うと車の窓を開き、逃げてくる男性を捕まえて声をかけた。

 

「すまない! 前方で何が起こったんだ!?」

 

「ヴィランだ! とんでもない大男のヴィランがヒーローを薙ぎ倒してんだ! 早く逃げろ!」

 

 そう言って男性は素早く逃げて行ってしまい、ミキリと側近はすぐに行動を移す。

 ヒーロー社会での社会問題――野次馬が横行する中、市民が逃げると言う事は本当に危険だと示している。 

 ミキリは急いで後部座席のドアを開け、妻と娘二人を出させた。

 

「急げ! ヴィランが出たようだ!」

 

「ヴィランが!? でも、保須市にもヒーローは沢山いるんじゃ――」

 

「プロとは名ばかりの連中だけだ! 急いで逃げるぞ!」

 

 既に周りの者達も車を乗り捨てて逃げており、轟音も近くまで迫ってきているのが分かった。

 瓦礫が崩れ、ヒーローらしき叫び声も聞こえる。

 すぐにでも逃げなければならず、ミキリが側近と共に家族を守りながら避難しようとした時だった。

 

――彼等の背後で強烈な爆音が発生した。

 

 嫌な予感とは当たるものだ。

 背中に冷たい汗が流れるのを感じながらミキリは振り返ると、そこにいたのはヒーローを地面に叩き付けている大柄な人間。

 しかし、その姿はまさに異質。“脳みそ”を剥き出しとし、顔を呼べるものがなかった。

 

「とんでもない大男……その通りだな」

 

 せめてもの強がりと、ミキリが冷静を装っていると案の定と言うべきだろう。

 ヴィランの興味がミキリ達へと移り、車を投げ飛ばしながら迫る。

 

「旦那様!!」

 

 側近がミキリ達家族を守ろうと前に出たが、車を片手で容易に投げる怪力だ。

 盾になる事もなくやられてしまうのは想像に容易く。ミキリも覚悟を決めた。

 

――その時だ。そのヴィランへ、一人の少年が突っ込んできたのは。

 

 

▼▼▼

 

 反射に近かった。ヒーローを鷲掴みにしながら移動するヴィランを追っていた竜牙達が、その民間人に迫ろうとするヴィランを見付けた時、竜牙は個性の制限などは忘れ、無我夢中で突っ込んだ。

 そして本来の雷狼竜の腕へと変化させ、取り押さえるようにビルの壁へと押し付けるのだが、雷狼竜の力にも抵抗する怪力に竜牙も余裕はない。

 

「ま、まさか……竜――」

 

「早く避難してくれ!!」

 

 何かを言おうとした()()()の声を遮って竜牙は叫んだ。

 全力で抑えているにも関わらず、このヴィランは何と押し返してくる。

 突っ込んだ事で竜牙の体勢が悪いのも原因だ。一回離れ、体勢を整えなければ完全に抑えることが出来ず、放電しようにも民間人が近く、車も多すぎて使えない。

 しかし、余裕が本当に消えそうになった時、ようやく他のヒーローも到着する。

 

「すげぇ! あの巨体を一人で抑えてんのか!?」

 

「そんな事を言ってる場合じゃない! あそこに民間人がいて動けないんだろう!」

 

 集まって来るプロヒーロー達も一斉に状況を把握。

 すぐに援護側・避難側に分かれ、ようやく民間人達に救いが訪れる。

 

「さぁこちらへ! ここは危険だ!」

 

「ま、待ってくれ! あのヒーローは――ジンオウガは私の――」

 

「急いで!!」

 

 何かを言おうとした民間人をヒーロー達が無理矢理に連れてゆく。

 その間際、二人の女の子が叫ぶ。

 

――お兄ちゃん!

 

 何かを訴えるような声。しかし竜牙にはその声が届かなかった。

 それだけ余裕はなく、ここからどう動くか考えていた時だ。

 

「ジンオウガ!!――こっちに!!」

 

「!――GOOOOOOOOOON!!」

 

 耳に届く凛とした声。今、この状況下で一番頼りになる人物の声に竜牙は反応し、全力の力を持ってヴィランをその声の方へ投げ飛ばす。

 そんな巨体のヴィランを竜牙が投げ飛ばす光景にヒーロー達は驚いて呆気になるが、そんな中で動く者達がいる。

 

「ねぇねぇ! なんで脳みそだけなの? 不思議だねー!」

 

 上空へ舞うヴィランよりも上。そこにねじれが現れ、彼女はそのまま波動を放ってヴィランを地面に叩き付ける。

 そこへ更に巨大な何かがヴィランを抑えつけた。

 しかし、竜牙はその巨大な何かの正体を知っており、何の迷いもなく横に降り立つと、見上げながら頭を下げる。

 

「すみません。勝手に動いてしまいました……()()()()()()

 

 竜牙が見上げた存在、翼を持つ竜――リューキュウへ謝罪する。

 

「お説教……は後ね。――でも、よくやったわジンオウガ」

 

 ヴィランを抑えながら、リューキュウは竜の姿でありながら優しい口調で竜牙を叱り、そして褒めた。

 あの状況で間に合うスピードがあるのは竜牙だけであり、竜牙が動かなければ取り返しのつかない事になっていたのをリューキュウは理解していたのだ。

 しかし、こっからはプロの世界だ。竜牙を前線に出すわけにはいかない。

 

「ねじれ! ジンオウガと一緒に下がってあげて」

 

「はーい!」

 

 リューキュウの指示にねじれが竜牙の下に降りた時だった。

 

「もう一人来たぞ!」

 

 上空から翼の生えた新たなヴィランが襲来。周りのヒーロー達がリューキュウとサイドキック達を中心に迎撃しようと構えた時だった。

 

――ピコン!

 

 竜牙の携帯がメッセージを受信し、それを反射的に竜牙は出してしまった。

 目の前にヴィランがいるのに何をしているんだとすぐに気付いたが、メッセージの送り主と内容に思考が切り替わる。

 

(緑谷?――江向通り4-2-10の細道?)

 

 送り主は緑谷。そして住所だけ書かれたメッセージに竜牙は少しだけ考えると、ある答えに行きつき、リューキュウとねじれへ声をあげた。

 

「リューキュウ! ねじれちゃん!――江向通り4-2-10の細道に手の空いてるプロの応援を下さい!」

 

「ええっ!?」

 

「どうしたの!?」

 

「友達に危機が迫ってる。――かもしれない」

 

 竜牙はそう言うとそのまま駆け出した。

 後ろからリューキュウとねじれが何かを言っているが、場合によっては事は一刻を争うかもしれない。 

 竜牙は素早く移動し、その指定された場所へと急ぐのだった。

 

 

▼▼▼

 

――江向通り4-2-10の細道。

 

 竜牙が指定されたその場所では予想通り、とんでもない修羅場が起こっていた。

 

――ヒーロー殺し『ステイン』襲来だ。

 

 薄暗い路地裏でヒーロー一人、そして飯田が倒れており、緑谷が一人でステインと対峙しているのだ。

 

――新たな個性の使い方『ワン・フォー・オール・フルカウル』

 

 それと頭脳をフル稼働して時間を稼ぐ緑谷だったが、ステインによる斬撃のカスリ傷で血を摂取され、身体の自由を奪われてしまっていた。

 

(やられた……!――血だ! ステインは血を摂取してその人の動きを封じるんだ……!)

 

 緑谷はステインの個性を見抜いた。

 一対一ではステインの身体能力を合わせ、強個性ではないにしろ沢山のヒーローを倒してきた力。

 しかしUSJで戦ったチンピラとは違う、本物の人殺し。その狂気に緑谷は倒れてしまい、ステインは緑谷を見下ろしながら飯田の下へ近付く。

 

「口だけの連中は多いが……お前は生かす価値がある。こいつらとは違う」

 

「なっ! や、やめろぉぉぉ!!」

 

 兄・インゲニウムを再起不能にしたステインを許せず、復讐に走った飯田をステインは贋作と呼び、他のヒーロー同様に始末しようとしている。

 彼の真上に立ち、緑谷の叫びも虚しく刃こぼれした狂気に染まった刃を振り上げるステイン。

 全てを捨ててでも助けたいのに動けない。緑谷の目の前で飯田の命が散らされ様とした時だ。

 

――地面を氷結が、上を炎が走ってステインを襲う。

 

「!?」

 

 飛び上がって回避するステイン。しかし、そんな彼に迫る影があった。

 その影は巨大な爪で空中のステインを叩き落とすが、ステインは受け身でダメージを軽減。

 影もまた、そのまま緑谷達の下まで後退すると、後ろからもう一人が現れて二人が並ぶ。

 

「……緑谷。こういうのはもっと詳しく書いてくれ」

 

「……あぁ。そのせいで遅くなっちまったろ?」

 

「雷狼寺くん!! 轟くん!! 何で二人が!?」

 

 現れた二人に緑谷は嬉しさよりも困惑気味の様子だが、それは二人からしてもそうだった。

 

「何ではこっちの台詞だ緑谷……お前の性格が分からなかったら理解出来なかった」

 

「……しかも俺と轟が合流できたのは偶然だった。――俺が血の匂いを察知できなかったら更に遅くなっていた」

 

 街中を走っていた竜牙と轟の合流。それによって限られた細道を特定することが出来た。

 しかも互いに事前にプロに場所は教えており、来るのも時間の問題。

 

「だが助けに来たぞ……いずれプロも集まる。俺達の仕事はその間――」

 

「あぁ……守る事だ。三人共死なせねぇ」

 

「ハァ……今日は邪魔ばかりだな……!」

 

 面倒そうに呟くステインだったが、その間にも竜牙と轟の二人動く。

 まずは両手足を変化させ竜牙が突撃。轟もそれに合わせ氷柱を生む中、緑谷が二人へ叫ぶ。

 

「二人共! そいつに血を見せちゃ駄目だ! 血の経口摂取で相手の自由を奪う個性だ!」

 

「それで刃物か!――雷狼寺!!」

 

「――ああ!」

 

 緑谷の言葉に轟と竜牙は動きを変えた。

 まずは轟。氷結を動けない三人を纏い、そこに熱で溶かして一気に自分の方へと運び、竜牙も体育祭の爆豪戦で見せた様に肌を雷狼竜で覆い、敵の攻撃に対処しながら双剣で斬り合う。

 しかし、ステインのその速さと動きは凄まじかった。

 一手一手が次の攻撃の伏線。目の前だけを認識しての対処ではやられる。

 

「悪くない……が!」

 

 ステインのナイフと竜牙の双剣がぶつかる。

 だがその直前にステインは上空に刀を投げており、それに気付いて氷結を放とうとする轟を投げナイフで牽制。

 

「雷狼寺くん!!」

 

 緑谷の言葉に竜牙も気づき、一瞬そちらに意識が向くのをステインは見逃さない。

 腹部に蹴りを入れ、竜牙を怯ませて距離を作り、上空の刀を使って上空からの勢いを乗せた一刀で斬り竜牙の防御を崩す。

 そこへ素早くナイフに持ち替えて一気に斬り付けた。

 

(――強い……!)

 

 緊張の糸を切らせないように、まるで綱渡りの様に戦う竜牙はステインの強さと技術に押されていた。

 切島の攻撃で傷一つ付かなかった甲殻も傷だらけになり、双剣も爪も上手い力具合で流される為、下手に深入りせずに戦わなければならない。

 隙を見つけての攻撃だ。しかし狙って放電しようとしても――

 

「――!」

 

「しまっ――!」

 

 放電を見抜き、ステインは竜牙の真上を飛び越えて狙いを轟へ変更。

 轟も氷柱を作って迎撃するがステインはそれを斬り裂き、轟が左を使うが炎に反応して回避する。

 

「轟――!」

 

 竜牙も背後から攻撃して轟を援護。

 爪でスピード攻撃を狙うが腕を掴まれ、そのまま背後に蹴りを入れられる。

 

「――クッ!」

 

 反撃しようと竜牙は再び放電を行うが、ステインは壁を蹴って素早く距離を取った。

 そして竜牙の振り向いたタイミングでナイフを投げ、それが竜牙の額に直撃。

 

「雷狼寺!?」

 

「問題ない……!」

 

 轟の言葉に竜牙は素早く応える。

 顔も覆っていて生身へのダメージはないが、額にはナイフによる斬り傷が出来ており、もし投げじゃなければ危険であった事を示していた。

 無論、轟もそれに気づいておりステインの強さに息を呑む。

 

 そして、そんな死闘を見ていた飯田がとうとう口を開いた。

 

「何故だ……やめてくれ三人共……! そいつは僕が……! 兄さんの名を継いだ僕の手で……!!」

 

 憎しみに満ちた瞳で叫ぶ飯田。その姿は最早ヒーローではなく、周りが見えなくなった復讐者。

 そんな姿が見てられなくなったのか、轟はどこか嫌味ではないが、呆れた様にも呟く。

 

「……継いだ割には俺が知ってるインゲニウムとはえらい違うが。――おまえん家も裏じゃ色々あんだな」

 

 轟の言葉に飯田は言葉を失い、そのまま隣にいる竜牙に何かを求めるように視線を向けるが、竜牙は何も言わずに顔を逸らす。

 何も言ってもらえない事にもショックなのか、飯田は再び黙り込んだ。

 

 そして飯田の事が終わり、再び戦いに集中する轟と竜牙だったが、轟の出した氷柱を跳びながら回避するステインの動きに翻弄される。

 

「自分よりも動きが速い相手に、自ら視界を封じるとは愚策だな」

 

「どうかな……!」

 

 氷柱を斬りさくステインへ左を放とうとする轟だが、そこにステインが仕込みナイフを投げる。

 

「轟――!」

 

 炎を出す左腕へ投げられたナイフを竜牙が身を挺して爪で弾き、そのまま二人で炎と電撃の一斉攻撃を放った。

 しかしステインは同じように壁を蹴り、時折に刀を刺して動きを止めながら回避し、そのまま上空から二人へ迫る。

 

「お前達も良いな……!」

 

 狂気の目で満足そうに二人を評価するステインへ、竜牙は放電をしながら再び双剣を構え、轟も左右いつでも放てるように構えた時だ。

 

――倒れていた緑谷が復活。一気に壁を蹴りあがり、そのままステインを壁に接触させながら落下する。

 

「緑谷!?」

 

「動けるのか!?」

 

「なんか動けるようになった!」

 

 回復した事を伝える緑谷だったが、ステインの反撃にあって落下するのを竜牙が尻尾でキャッチする。

 

「無事か緑谷?――だがなんでお前だけ動ける?」

 

「分からない。ただ時間制限ではないと思う」

 

「あ、あぁ……だったら……俺が最初に……うご……ける筈……!」

 

 倒れているヒーローが未だに動けず、一番最後にやられた緑谷が動ける以上、時間制限の可能性は消える。

 ならばなんだと考え、轟は次々と可能性を呟き始める。

 

「人数制限……摂取量……血液型……」

 

「血液型?……俺はBだ……」

 

「僕はO型……」

 

 飯田・緑谷がそれぞれ血液型を口にすると、偶然なのか全員がバラバラだ。

 まさかと思い、竜牙達がステインを見ると、ステインはそれに関しては観念した様に息を吐いた。

 

「ハァ……正解だ。血液型によって時間が変わる」

 

「つまりO型が一番拘束時間が短いって事か……」

 

「そうなると……逆なのがAかB。AB型は分かんねぇな」

 

 竜牙と轟の推理からして緑谷の拘束時間は余程に短く、多人数戦ならばO型は相性が悪いのだろう。

 しかし――

 

「分かったところでどうにもなんないけど……」

 

「出来るなら担いで逃げてぇが……」

 

「逃がしてはくれるのか……?」

 

「――愚問だ」

 

 竜牙の言葉にステインはやはり見逃す気はないようだ。

 ならば選択する手は一つだけ。

 

「僕と雷狼寺くんで奴の気を引き付けるから、轟は後方支援して!」

 

「……あぁ任せろ。轟は大丈夫か? 俺と緑谷はずっと前線だ……動きも後方に気は配れないだろう」

 

「あぶねぇ橋だがこっちも任せろ。やるしかねぇ――」

 

――守るぞ三人で。

 

「3対1か……甘くはないな」

 

 覚悟を決めた三人に応えるように、ステインの纏う雰囲気も変わった。

 完全に修羅に入ったヴィラン。ここからは全力でステインも攻めてくるだろう。

 

 そんな中でだ。竜牙が気づいたのは。

 

「緑谷……お前、さっきの動きからして力は制御出来てるのか?」

 

「……うん! まだ試行錯誤してるけど、骨折したり足は引っ張らないよ」

 

「――なら俺を使え。守る事は出来る」

 

 竜牙はそう言うと緑谷の両腕を掴み、腕から雷狼竜の肉体が緑谷の腕を包み込んだ。

 上鳴の時の様に装備を渡すのだ。

 渡した装備は謂わばガントレットの様なもの。それが、まるで体の一部の様に馴染むのを緑谷は感じ取ることが出来た。

 

「不思議だ……まるで僕の身体の一部の様に違和感がない」

 

 オールマイトから受け継いだ力・友からもらった力。

 それは彼の矛となり、緑谷に新たな力を自覚させる。

 

 そう、言うならばそれはワン・フォー・オール――

 

「――ジンオウガ・フルカウル!!」

 

 新たな力で今、三人は信念の悪に挑む。

 

 

 

END

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