僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~


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作:四季の夢
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第十八話:ドラグーンヒーローと波動


今日への不安、明日への不安はある。けど昨日の不安はどうですか?


 お見合い騒動等があったが、その後は問題なく日々は進み、ようやくその日が訪れる。

 

――職場体験当日。

 

 都心の駅に集まったA組は制服姿で集結し、コスチュームの入ったケースを所持していた。

 そこでそれぞれが全国に渡って、事前に決めたプロヒーロー事務所へと向かう事となっている。

 

「くれぐれも迷惑をかけない様に……分かったら行け」

 

『はい!』

 

 相澤の言葉に返事をし、そこからはバラけて移動を行う。

 竜牙も電車に乗って移動を開始し、職場体験は始まりを迎える。

 

▼▼▼

 

 電車で40分、都心の街中にそこはあった。

 

――ドラグーンヒーロー・リューキュウ事務所。

 

 プロヒーロー『リューキュウ』

 僅か26歳の若さでありながら独立し、事務所を立てて人気や成果をあげるトップヒーロー。

 だが竜牙が選んだ理由はその実力もそうだが、彼女の個性――翼を持つ竜になる個性が選んだ理由。

 自分と似た個性でありながら、このヒーロー社会を生き抜く彼女の傍で学びたい。だから竜牙はここにいる。

 

「……職場体験で来ました。雄英高校、1年A組の雷狼寺 竜牙です」

 

「そんなに硬くならなくて良いわ。こちらこそ、よろしく頼むわね雷狼寺君」

 

 顔にドラゴンの爪にデザインされたマスクを付けた、クールな印象がある若い女性――リューキュウ。

 彼女はそろそろだと思い、事務所の受付で待ってくれていた。

 そこからはサイドキックではなく、彼女自身が案内をし、挨拶を交わしながら色々と案内をしてくれている。

 そしてトップヒーローの事務所だけあって事務員達がテキパキと動いているのだが、何故かサイドキックと呼べるヒーロー達は殆ど見なかった。

 

「……サイドキックが少ないんですか?」

 

「……やっぱり気づくわよね。“ビルボード”では9位だけど、独立してから間が空いていないからサイドキックがまだ少ないのよ」

 

 いる所にいるが、いない所にいない故のサイドキック不足。 

 このヒーロー社会で何故か起こる現象だ。

 しかし少数精鋭で結果を出している事務所もあり、サイドキックの数だけが全てではない。

 

「トップヒーローでも悩みの種は尽きないんですね。――ところでずっと聞きたかったんですが……」

 

「トップヒーローでも悩みの種はあるのよ。――それで聞きたいことは分かってるわ……」

 

 説明の中での世間話。しかし互いの表情は晴れない。ずっと入って来てからこうだ。

 理由は分かっている。それは――。

 

「ねぇねぇ! なんで髪が白いの? 染めてるの? 栄養ないの? 不思議だよね!」

 

 この凄く竜牙に対して質問攻めの女子がいるからだ。

 彼女の名前は『波動 ねじれ』――明らかに変人っぽいが、これでも雄英高校3年生。

 竜牙にとっては先輩であり、既に仮免許も持っている実力者。それゆえに、興味で指名された1年と違って即戦力だ。

 更に見た目も可愛く、確実に将来は人気が出るだろう。

 だが性格なのか、あまりに色々と不思議がる。

 

「ごめんなさいね……ねじれってこう言う性格だから仕方ないのよ? けど実力は確かだから」

 

「ねぇねぇリューキュウ! なんでそんなマスクを付けてんの? 本物の爪なの? キラキラ好きなの?」

 

「……本当に凄いのよ? だから第二、第三候補に電話しようとするのはやめて」

 

「……はい」

 

 リューキュウの言葉に竜牙は携帯をしまう。

 体験先で万が一があった場合、他の候補先に向かうことが出来るからだ。

 これが万が一かと思えばそうではないが、不安が過ったのは仕方ないだろう。

 

▼▼▼

 

 あの後、更衣室を教えてもらい、そこでコスチュームに着替えた竜牙は着心地をチェックしていた。

 背中には改良された“雷光虫の巣”が付けられており、それが違和感なくコスチュームに馴染んでいる事を確認して陣羽織を羽織って更衣室を出ると、リューキュウとねじれが待っていてくれた。

 

「似合ってるわよ()()()()()

 

「凄い格好いいね! 侍みたいだね! だねだね!」

 

「ありがとうございます、リューキュウ……ねじれちゃん」

 

 コスチュームを纏った以上、ここからはヒーロー名を名乗るのが義務。

 竜牙も、それに応えるように二人をヒーロー名で呼ぶのだが、ねじれはヒーロー名が『ねじれちゃん』なので少し照れくさかったりするが、時間は有限だ。 

 これ以上、無駄な時間を過ごせば相澤先生に怒られてしまう。

 

「……まずはパトロールですか?」

 

「いいえ。……まずは、ねじれ?」

 

「は~い!」

 

 リューキュウの視線にねじれは大きく手を上げて応え、リューキュウは竜牙へ顔を戻す。

 

「ねじれと模擬戦をしてもらうわ。テレビで活躍は見てたけど、実際に見るのとでは変わるからね」

 

「そういう事なら問題なく……」

 

 竜牙は迷いなく頷く。

 リューキュウの提案は願ってもない事だ。

 雄英高校・ヒーロー科、その3年生の実力をこの身で体験できる。それはプロヒーローに比べれば劣るが、確実に今の自分がどれだけ通用するのか理解できる方法。

 

 そしてリューキュウも竜牙が頷くのを見て頷き返すと、二人へ背を向けた。

 

「それじゃあこっちよ。上の階に訓練室があるからそこに行きましょう」

 

 竜牙は頷き、彼女の後を追ってエレベーターに乗り込んで上へと向かった。

 

▼▼▼

 

 上階フロアにそこはあった。全体に広くは当たり前、上にも広い訓練室。

 数々の訓練器具も置いてあるが、リューキュウが壁に備え付けのスイッチを押すとそのまま床の中へと収納される。

 サイドキックが少ないとは言うが、やはり設備を見るだけでも流石はプロヒーローだ。

 そんなジッと見つめる竜牙に気づいたのだろう。リューキュウはおかしそうに微笑んだ。

 

「驚いた?……私の個性もジンオウガ君と同じで特殊だから場所ばかり必要でね。この訓練室も特注だったりするのよ」

 

 そう言うとリューキュウは別のスイッチを操作すると、今度は床一面が武道場の様に畳へと変わる。

 

(……ハイテクだ) 

 

 最初のねじれのくだりで侮りかけたが、目の前の設備の数々に竜牙はようやくプロヒーローの事務所に来たと実感していると、コスチュームに身を包んだねじれが既にスタンバっていた。

 

「ルールは特にないわ。まずは思いっきり動いて欲しいの。危険だと思ったり、十分と判断したらこっちで止めるから」

 

「はい」

 

「早くやろやろ!」

 

 竜牙がリューキュウの説明を聞いている間にも、ねじれはやる気満々だ。

 勿論、それは竜牙も同じ。リューキュウの説明が終わると、竜牙の身体にも変化が起こる。

 

『!』

 

 竜牙の変化にリューキュウとねじれは驚いた様子だ。

 両手足を巨大な爪へ変化、更にコスチュームは雷狼竜の素材が使われている為、身体とコスチュームの一体化が出来る。

 授業で見せた姿よりも雷狼竜に近く、だが人の形状も保っているスタイリッシュな姿だ。

 

「……トップヒーローの事務所だけじゃなく、3年の先輩とも戦える。――この受難に感謝」

 

「ハハ! 凄い! ねぇなんでコスチュームも一体化してるの? 体毛はあったかいの?」

 

「……」

 

 相変わらずの好奇心全開のねじれだが、竜牙が纏う雰囲気は真剣そのもの。

 ねじれのピッチピチのコスチュームも今は忘れ、戦いに真剣に向き合っているのだ。

 

「二人共、準備は良いね?――それじゃ始め!」

 

――速攻!

 

 開始と共に竜牙は飛び出す。体育祭の時よりも磨かれたスピードで一気にねじれに迫り、振り上げる爪を素早く下ろした。

 だが――

 

(ッ!――上……!)

 

 手応え無し。ねじれは上空に飛んで回避したのだ。

 そしてすぐに理解した竜牙が上を向くと、その光景に面食らう。

 

「よっと……凄い速いねー!」

 

 なんとねじれは宙に浮いていたのだ。

 足の裏から何やら、ねじれた“何か”が放出され続けており、それが浮く事を可能にしている力。

 

「サポートグッズ?……いや個性か」

 

「せいかーい! 私の個性の『波動』――だよ!」

 

 言い終えるや否や、ねじれは両手を翳し、そこから波動を放つ。

 だがねじ曲がっているからか、速さはそれ程ではない。

 竜牙が回避するには余裕過ぎる程であり、竜牙は横へ飛んだ。

 ところが――

 

「バレバレだよー?」

 

 ねじれの先回りからの蹴りが竜牙を襲う。

 だが威力はそれ程ではなく、すぐに空中で受け身を取ろうとした瞬間、竜牙は背後から強烈な衝撃を受ける。

 

「グァァッ!?」

 

 竜牙を背後から襲ったのは、先程ねじれが放った波動だった。

 速度が遅いと言う事は、そこに留まる時間が長いと言う事。

 遅くて当たらないなら、どうにかして当てれば良いだけだと言わんばかりに実行するねじれに、竜牙は確信を抱く。

 

――強い。 

 

 見た目は遅いが波動の威力は高く、しかも竜牙は遅いからと回避に手を抜いた訳ではない。

 素早く油断なく横に飛んだが、丁度に隙が出来る瞬間を狙われて蹴られて当てられた。

 言動は“あれ”だが、ねじれは確かに考えて行動している。

 宙に浮いている時も周りに微かに波動を出している事から、バランスを調整できる確かな技術も持っている。

 だからこそ竜牙は思った。

 

――俺や轟よりも強い。

 

 自分や轟の様にゴリ押せる威力は持っているが、自分達とは違いねじれには速さが足りない。

 それが個性の欠点なのだろうが、それを技術で補い、雷狼竜の速さも予測して動ける能力。

 それは己と轟に足りない確かな能力である事を、竜牙は自覚する。

 

(手を変えよう……)

 

 自分と3年でここまで技術に差があるのは予想外だが、竜牙もまだ手札はあった。

 それは新たな手札――雷光虫だ。

 

「雷光虫……!」

 

 コスチュームの背中にある“巣”が竜牙の背から素材を取り込み、5秒以内には次々と蛍の様に発光しながら竜牙の周りを飛び回る雷光虫達。

 

(体育祭ではなかった技ね……)

 

「わぁー綺麗!」

 

 体育祭から間がない中での新たな手札にリューキュウは感心した様子で頷き、ねじれは楽しそうだ。

 だが本当に反応を示すのはここから。ねじれが楽しそうにしている間、竜牙は雷光虫を一気に解き放った。

 何匹も集まった雷光虫の群れ。それが一つ、二つ、三つ――それ以上の数にのぼり、ねじれの周囲を取り囲んだ瞬間だ。

 

『GUOOOOOOOOOON!!!』

 

 竜牙は吠えながら一気に放電。それに連動する様に、雷光虫達に雷が落ちるかの如く発生。

 それは確かにねじれを捉え、彼女に放電が直撃した。

 

「きゃあ!?」

 

「まだだ!」

 

 ねじれが怯んだ瞬間、竜牙は一気に攻勢に出た。

 両手に雷光虫を集め、自分と雷光虫の発電を利用した放電弾――名付けて『雷光虫弾』とも呼べるものを生成。

 それは素早い動きで放った。

 

――勝つ……!

 

 雷光虫は想像以上に応用が利く。初見では雷光虫がどの様な影響を及ぼすかは分からないだろう。

 その雷光虫で怯んだ中での雷光虫弾。当たった瞬間に接近戦に持ち込めば竜牙は勝てる。

 例え回避されたとしても、最初の攻撃で動きは鈍くどうとでも対処できる。そんな確かな自信を抱いた攻撃がねじれに迫った。

――瞬間、竜牙は聞こえた。

 

――凄いね!

 

 ねじれの嬉しそうな声が。

 

「チャージ満タン……出力10」

 

「!」

 

 ねじれの両手から波動が溢れ出す。それは先程までの波動とは桁違いのレベル。

 そう、それは彼女の必殺技――

 

ねじれる波動(グリングウェイブ)

 

 巨大な波動は雷光虫弾を打ち消し、そのまま竜牙へ直撃した。

 

「――ッ!」

 

 強烈な衝撃で吹き飛び、竜牙は受け身も取れないまま仰向けに倒れる。

 そこでリューキュウが止めに入った。

 

「そこまで!……大丈夫?」

 

「加減したけど立てない?」

 

「……いえ大丈夫です」

 

 心配する二人に竜牙は倒れたまま手を上げて大丈夫なのを知らせる。

 

「何もさせて貰えなかった……これが雄英の3年生」 

 

「いやジンオウガも悪くなかったよ。動きや技も、並みのサイドキックよりも良かったわ」

 

「……ありがとうございます。ですが、最初に調子を崩されてから自分の動きが出来ませんでした。耳や鼻を使えばもっと戦えた筈が、焦って決着を急いでしまいました」

 

「反省が出来るなら優秀よ? それに、そこまで落ち込む必要はないよ……君は雷狼竜になれなかったし、何よりねじれはただの3年生じゃなく、雄英生でトップの三人――」

 

「ビッグ3って呼ばれてるよー」

 

――ビッグ3?

 

 聞き覚えのない言葉に竜牙は首を傾げる。

 

「聞き覚えない? 現雄英生の3年生のトップ3人の事をそう呼んでるみたい。実際、ねじれはそれに恥じない働きをしてるし、既にプロでも通用するわ」

 

「……そうだったんですか」

 

 竜牙は納得したように肩の力を抜いた。

 人は見かけによらないという。確かにその通りで変人なねじれだったが、その実力は竜牙よりも上だった。

 その事実を受け入れない訳にはいかない。

 

「波動先輩……すみませんでした」

 

「えっなになに? 何か悪い事でもしちゃったの?」

 

「……いえ、ただ謝らせて下さい。そしてこれからお願いします――波動先輩」

 

「……えっ?」

 

 竜牙の言葉にねじれはそう呟いて固まる。

 そして少し経った後、突然声を出した。

 

「やったー! 後輩が出来たー!」

 

 両手を上げて大喜びのねじれの姿にリューキュウも苦笑しながらも、竜牙に手を貸して立たせる。

 

「ねじれも色々とあったから……普通の高校生の先輩後輩に憧れてたんだね」

 

「……」

 

 ねじれの様子とリューキュウの言葉に、竜牙も照れくさくなって片手で顔を隠してしまう。

 

「取り敢えず、実力は大体分かったわ。最初から信用してたし、ねじれ相手にあそこまで戦えるんだからね。――後の事はこちらの出番。私の事務所を選んで貰った以上、損は絶対にさせないよ」

 

「――お願いします。ヒーローリューキュウ……!」

 

「わぁ真面目だね!」

 

 真面目に頭を下げる竜牙へ、ねじれがそう言って抱き着いた。

 彼女の天然な行動ゆえであるが、竜牙の纏う雰囲気が“嬉しそうな”なのは気のせいではない。

 

――しかし、そんなねじれに遊ばれてる竜牙をリューキュウは真剣な表情で見つめていた。

 

 その理由は、竜牙の生い立ちを思い出してだ。

 竜牙が第一志望でリューキュウを選び、体験先が確定した事で竜牙の資料はリューキュウ事務所に送られる。

 勿論、機密を扱うヒーロー業故に深い所まで。

 だからリューキュウは知っているのだ。竜牙の過去を。

 

――両親とは違う個性だったから……か。

 

 リューキュウは自分と竜牙を比べる様にして考えていた。

 

『ドラグーンヒーロー・リューキュウ』

 

 その個性と彼女自身のクール性格もあって男女問わず大人気のヒーロー。

 勿論、彼女の両親も似たような個性であるが、それでも下位互換な個性。しかし両親は彼女を応援し、支援したからこそリューキュウとしての彼女がいる。

 しかし、目の前にいる竜牙は違う。

 

(私が教えてあげないと……このヒーロー社会にあなたの居場所がある事を。ヒーローとしての道標を)

 

 テレビで見た時からリューキュウは確信していた。

 竜牙の様な個性は自分と同じで人気が出ると、気付けば決まってもいないのに竜牙をどうやって売り出すかも考えていた。

 近い個性故に親しみを感じているのかも知れない。

 だが実際は自分とは真逆の境遇。この短い体験とはいえ、リューキュウは教えれる事は可能な限り教えるつもりだ。

 唯一の不安は性格がまだ分かっていない事だが、そこは雄英だ。最低限以上の信用はあり、ちゃんとコミュニケーションを取っていけば良い。

 リューキュウもまた、竜牙に興味と同時に将来に期待している。

 しかしそれを口にする事はしない。行動で教えて行くつもりだ。

 

「それじゃジンオウガ。まずは会議室で色々と説明してから、その後に簡単なパトロールに行きましょう。ねじれも今日は付き合ってちょうだい?」

 

「はーい!」

 

 元気よく手を上げるねじれが承認し、三人は取り敢えず会議室へと向かうのだった。

 

 

 

END

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