僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~


メニュー

お気に入り

しおり
作:四季の夢
▼ページ最下部へ


9/37 

第八話:騎馬雷鳴


ありえん……お気に入りが1000突破してる。評価も上がってる(;・∀・)
――ありがとうございます!!(´;ω;`)


『さぁ始まっぞ!!――今! 合戦がスタァァァァァト!!!』

 

 プレゼント・マイクの叫びと共に始まった騎馬戦。

 竜牙は左側におり、耳と足を雷狼竜へと変化。基本、これで騎馬戦を戦うつもりなのだ。

――だが、実は問題もある。始まる直前、常闇からのカミングアウトがあった。

 

『すまない。実は黒影は――光に弱い』

 

 その言葉に驚く緑谷だったが、まるで問題ない様に納得している。

 元々、黒影は暗い場所になるにつれて獰猛で攻撃力が上がる。昼間ならば制御は出来る分、攻撃力が夜に比べるとかなり低下する。

 しかし詳細を聞いた緑谷は元から常闇には攻撃を行わせず、防御に徹することを求めていたのだ。

 己の個性の事を殆ど知らない中での緑谷の選択。これには常闇も納得し、己を託すと緑谷へ信頼をおいたのだ。

 

――ならば何が問題かと言うと光を発生させる竜牙の“電気の制限”だ。

 しかし不幸中の幸い。緑谷は最初から竜牙の“電気”よりも耳からの危機察知や、雷狼竜による素の力を期待していたらしく、作戦には影響がない。

 ただ万が一の時は竜牙の判断で使用して欲しいとの事で、竜牙の判断に委ねられたのだ。

 

(……どちらにしろ、第三種目までに電力は“温存”したかった。そう思えばまだ救いだ。だが今は――)

 

 先程の会話を竜牙は思い出していたが、すぐに頭を切り替えた。

 何故ならば、始まって早々。既に二組の騎馬が自分達に突っ込んで来ているからだ。

 

「おらぁ!! 実質1000万の奪い合いだぁ!!!」

 

「頂くよ!! 緑谷くん! 雷狼寺くん!!」

 

 一組はB組の乗り込み男子――鉄哲の騎馬。もう一組はハチマキだけ浮いている――つまりは葉隠の騎馬であり、同時に耳郎の騎馬だ。

 

「――葉隠……また脱いだのか」

 

「そりゃ本選だよ! 私だって本気だもん!!」

 

 竜牙の言葉に堂々と返す葉隠だが、担いでいる中で唯一の男の砂藤はあからさまに意識しない様にしており、耳郎もまた自覚はあるのだろう。

 竜牙からの『とめろよ……』と言う意思を込めた視線から目を逸らしていた。

 

「早速二組……追われし者の宿命!――選択しろ緑谷!」

 

「勿論!――逃げの一手」

 

 常闇の問いに緑谷の選択は“逃げ”だ。

 1000万Pを持っている以上、緑谷達の目的は“防衛戦”であり、どれだけ敵の攻撃を防ぐかにある。

 そして緑谷の言葉に竜牙も逃げる為に動こうとした。

――瞬間。

 

『!』

 

「これは!?」

 

 緑谷達の地面。それが沈み始めたのだ。

 足を徐々に沼の様に飲まれて行く。それは鉄哲の騎馬の一人。轟と八百万以外の推薦組――“骨抜”の個性。

 

「あの人の個性か!――麗日さん! 雷狼寺くん!」

 

「うん!」

 

「……任せろ」

 

 緑谷の合図にまず、麗日が全員の重力を無くす。そして竜牙が雷狼竜の尾を出現させ、それを無事な地面へと強く叩きつけ、その反動が発揮する。

 

「飛びやがったぁ!!?」

 

 鉄哲の光景はまるで緑谷達が浮いた様に見えただろう。

 そのまま骨抜の個性から脱出を果たすが、これで終わる筈はなかった。

 

「逃がさないよ!――耳郎ちゃん、発目ちゃんお願い!」

 

「わかってる! 狙うよ雷狼寺!」

 

「行きなさいベイビー達!!」

 

 宙にいる竜牙達に葉隠チームから耳郎のプラグ、サポート科女子――“発目”御手製のアンカー系アイテムが発射し、無防備な緑谷達へ迫る。

――しかし、それらを“黒い腕”が払いのけた。

 

『アブネ!』

 

 それは常闇の黒影。それが死角からの攻撃を防ぎ切り、まずは理想的の出だし。

 

「良いぞ黒影!――常に俺達の死角を見張れ!」

 

『アイヨ!』

  

 常闇の言葉に黒影は頷くと、周囲を再び見回し始める。

 味方の活躍に竜牙も純粋に評価しか出ない。

  

(……凄いな。まさかここまで全方位に防御力を発揮するなんて)

 

 常闇のマニュアルコントロールではなく、完全なオートでこの動きだ。

 光に弱いと言っておきながら昼間でもこの威力。夜ではどうなっているのか、想像するのも恐ろしい。

 思考を頭の片隅へ追いやりながら、竜牙達がゆっくりと着地しようとした時だった。

 竜牙は着地点にある見覚えのある“異物”に気付く。

 

「!――峰田の個性か!」

 

 着地点を見計らっていた様に地面に設置されている通称――もぎもぎ。

 竜牙はそれを回避するため、尻尾で軌道を変えて着地を果たす。

――その時だった。

 

「!――後ろか!」

 

『アブネェッテ!』

 

 竜牙は耳で近付いてくる騎馬を察知。同時にそれから放たれる“何か”を黒影が防ぐ。

 正体を見極めようと方向転換しながら緑谷が見ると、そこにいたのは障子一人。

 

「障子くん!?――って一人だけ?」

 

 目の前にいるのは障子一人だけ。

 チームは最低でも2人は必要な以上、目の前の状態はおかしい。その異常の正体に気付いたのは竜牙だ。

 

「……何人()()()()()――障子?」

 

「……流石だな雷狼寺」

 

 あっさり自白する障子の背中。そこにはまるで殻の様に触手で包まれており、そこから二つの顔が現れた。 

 

「ちくしょう……! ハチマキゲットで“蛙吹のおっぱいに装着勝ち逃げ作戦”を邪魔しやがって!」

 

「流石ね緑谷ちゃん――そして峰田ちゃん……近寄ったら怒るわよ?」

 

「峰田くんに蛙吹さん!? 凄いな障子くん!」

 

 そう、障子はその大きな体と力を生かし、戦車よろしく峰田と蛙吹を乗せての単騎馬を実行していたのだ。

 

「……雷狼寺。お前に勝つつもりでトレーニングをしてきた。――勝たせてもらうぞ」

 

「……お互い様だ。――易々と勝利は渡さない」

 

 睨みあう両者の騎馬。だが、忘れてはいけないのはこれは集団戦だということ。

――不意に竜牙は背後から気配と共に強烈な足音を察知。

 

「!――後ろだ!」

 

 突然の奇襲。竜牙はそれに対応する為、腕を変化させて無理矢理に騎馬を動かし回避する。

――そして回避と同時。先程までいた場所に何やら謎の液体の様な物が降り注がれる

 

 一体これは何だと思い、発射したであろう人物の方を向くと、そこにいたのは障子の巨体にも劣らない肉体をした一人の生徒がいた。

 

「彼はB組の……」

 

「確か……凡戸と言ったか?」

 

 障害物競走の結果で特徴的ゆえ、緑谷と常闇に記憶されていた人物。それが彼――B組の“凡戸”だ。

 凡戸が出したであろうその液体はすぐに固まり、そこに小さな塊が誕生する。

 

「固める個性だ! 逃げ――」

 

「デェェェェェクゥゥゥゥゥゥゥッ!!!――調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

 逃げようと瞬間、ここでまさかの事態。――爆豪が宙を飛んで単身突撃を仕掛けて来たのだ。

 表情たるや凄まじい形相であり、そのまま爆発させようと緑谷へ手を翳す。

 

「くたばれ!!!」

 

『サセネ!』

 

 爆豪が放った爆発。――そこに間一髪で黒影が飛び出し、自らが盾となってそれを防ぐ。

 攻撃は不発になり、宙に放り出される爆豪もまた騎馬の瀬呂によって回収された。

 

「すごい狙われてるね……!」

 

「……あぁ。だが全員が1000万に固執している訳じゃない。確実に取る為に漁夫の利を狙っている奴等もいる」

 

 一切の時間もくれない攻撃に不安そうな表情を浮かべた麗日。そんな彼女に竜牙は場の様子を説明し、緑谷も頷く。

 

「うん!……それがせめてもの救いなんだ。このままの状態なら逃げ切る事も――」

 

「――それは俺が許さねぇ」

 

 どうやら安心させる時間すらもらえない様だ。

 竜牙達の前に現れる騎馬に、竜牙を含めて四人全員の表情が険しくなる。

――なぜならば、その人物は。

 

「獲るぞ――雷狼寺……緑谷!」

 

 二人に宣戦布告した張本人。――轟の騎馬だ。

 

「轟くん……!」

 

「……させねぇ。――俺()がいる以上は獲らせん」

 

 相手へ睨む緑谷と、迎え撃とうと言い返す竜牙。

 そんな二人に轟達も動き出す。

 

「飯田前進!」

 

「あぁ!」

 

 先に仕掛けたのは轟チーム。

 一気に前へと出て来る事態に竜牙達も足を止めることは出来ない

 

「終盤ではなく、もう相対するとはな!」

 

「皆! 足を絶対に止めちゃ駄目だ! 仕掛けて来るのは一組じゃない!!」

 

 緑谷の言う通り。仕掛けて来たのは他のチームも同じだった。

 轟の動きに便乗して掠め取ろうとするか、両方のPを狙うチームが一斉に仕掛けて来たのだ。

 

「やっちまえ障子! オイラ達がP取るぞ!!」

 

「やらせっかぁ!!!」

 

「おらぁぁぁぁ!」

 

「させませんぞ!!」

 

 峰田を筆頭に次々と集まるチーム。

 全員が勝負に出た様に勢いがあり、ハッキリ言って窮地だった。

――そんな中でだ。竜牙が、轟が上鳴へ何かを伝えている事に気付いたのは。

 

「――まさか……!――麗日は重力を無くせ! 常闇は黒影を下げろ!――緑谷! 上鳴が仕掛けてくるぞ!」

 

「上鳴くん?――そうか!」

 

 緑谷が気付いた瞬間、上鳴は既に準備完了。一気に攻撃をかける。

 

「避けろよ轟!――無差別130万Vだ!!!」

 

――上鳴が叫んだ瞬間、周囲一帯を強烈な光と共に電撃が駆け巡る。

 

「ぁぁぁ……!」

 

「上……鳴……!!」

 

 近寄って来た騎馬を一蹴。だが、それだけでは終わらない。

 轟は周りが動けなくなった瞬間、一気に周りに氷を作り出したのだ。

 

『今……度は……氷!?』

 

「わりぃな……」

 

 第一種目の反省を生かし、上鳴の電撃で確実に動きを止めて氷を出した轟。

 その作戦は成功し、周りの騎馬の足を完全に凍結させた。

――と轟が確信した瞬間。

 

――“放電”……!

 

 周囲に再び電撃が走る。今度のは上鳴の比ではない威力であり、轟が作り出した氷も一斉に砕け散る。

 

「なんだと……!」

 

 轟は突然の事に面食らう。

 幸い、八百万の作ったガードのおかげで電撃自体は防いだが、足止めした周りの氷は壊れ、少ししたら再び他チームが邪魔をしてくるだろう。 

 

「なんですのこれは!?」

 

「……一人しかいねぇよ」

 

 困惑の八百万へそれだけ言うと、轟はその“元凶”へと視線を向けた。

 

「雷狼寺……!」

 

「……ぬるい電気だ」

 

 そこにいたのは重力を無くしたメンバーを両手で持ち上げ、雷狼竜の足のみで立つ竜牙の姿があった。

 竜牙は険しく睨む轟へ怯む事無く睨み返し、そのまま緑谷達を下ろす。

 

「ハァ……!――助かったよ雷狼寺くん!」

 

「それがお前の選択か」

 

「うぅ……吐きそう」

 

『ヨシヨシ』

 

 間一髪の所での回避と反撃に緑谷と常闇は満足そうに頷き、酔った麗日の背中を黒影が摩る。

 再び雷狼寺に一杯食わされた轟は不満そうだ。

 

「またお前か……雷狼寺!」

 

「俺達に拘り過ぎだ轟」

 

「言った筈だろ……絶対にお前等に勝つ――ッ!?」

 

 轟が竜牙へ言い返そうとした瞬間、不意に轟の視界が左に傾いた。

 一体何事だと思い、轟は上鳴が支えている筈の左を向くとそこには――。

 

「ウェイ! ウェーイ!」

 

「上鳴さん!?」

 

「上鳴君!?」

 

 そこにいたのはアホ状態の上鳴。電気の使い過ぎで起こる現象なのだが、考えられるのは先程の竜牙の放電しかない。

 

「電気は俺の分野でもある。――それに言った筈だ。俺達がいる限り獲らせないってな」

 

「このまま逃げ切らせてもらうよ轟くん!」

 

「……!」

 

 二人からの覚悟のある瞳に轟は思わず怯んでしまう。

 このままでは本当に逃げられてしまい、再び1位を奪われてしまう。それだけは轟は阻止したかった。

 

(くっ……どうすれば良い……!)

 

 アホの上鳴の腕を無理矢理掴んで騎馬を立て直すが、常闇達も含めて轟は緑谷達を侮れなかった。

 時間が着々と迫る中、何とかしても勝とうと轟が思考を巡らせた時だった。

 

「ちくしょう……よくもやりやがったな!」

 

 ここで先程までダウンしていた峰田を筆頭にチームが復活。

 次々と動き出し、仕返しとばかりに再び緑谷と轟達を囲み始める。

 

――その光景に、轟の中に“策”が浮かんだとも知らずに。

 

「俺が――“1000万”に拘るのは……“こいつ等”と違って“臆病者”じゃないからだ」

 

「……?」

 

「……轟くん?」

 

 突然に語り始める轟に竜牙を始め、緑谷、常闇、麗日は首を捻る。

 轟が拘っているのも自分達に負けたくない。そういう話だった筈なのだが、いきなりの“臆病者”呼わばり。

 そんな事を言えば、爆豪の様に周りのヘイトを集めるだけであり、騎馬の八百万と飯田も困惑気味。

 

――その結果案の定、B組の鉄哲が真っ先に反応を示してしまう。

 

「んだとぉ!! 誰が臆病者だぁ!!」

 

「違うのか? 俺はてっきり――雷狼寺の“宣戦布告”にビビったから良い様にされてんだと思ったんだが?」

 

「……!」

 

 轟のその言葉に鉄哲――と言うよりもB組、そしてA組の面々も反応を示す。

――勿論、爆豪もその一人だ。 

 

「……あぁ?」

 

 今まで取られたハチマキを奪い返すので忙しかった爆豪だったが、ここでB組の物間を黙らせてハチマキを奪還。

 そして轟の言葉が耳に入り、怒りの形相で轟と緑谷の騎馬を視線に捉えたのだ。

 

「“俺が一番強い”……そこまで言われて黙ってる様な連中が――同じヒーロー科とは思えねぇよ」

 

――!

 

 ほぼ同時だった。緑谷と竜牙の二人が、轟の策の真意を察したのは。

 

「麗日さん! 個性を使って!」

 

「えっ!?――ハ、ハイ!」

 

 緑谷は急いで麗日に指示を出すが、時既に遅かった。緑谷達の足を粘着性の物質――凡戸の個性が包み込んだのだ。

 

「しまっ――」

 

 竜牙は急いで足を動かそうとするが、その物質の固まるスピードは速く、あっという間にカチカチに固まってしまう。

 緑谷達は移動を封じられたのだ。

 

「――待ってろ!」

 

 竜牙はすぐに足下を崩そうと力を入れる。――しかし、今度は地面が沈み始めたのだ。

 固まったまま徐々に沈む地面のせいで力が入れられないのだ。

 

「今度は骨抜の個性か!――黒影!」

 

『アイヨ!』

 

 何とかしようと常闇が骨抜への攻撃指示を行うものの、今度は黒影の横から攻撃が行われる。

 それは耳郎のプラグと発目のアイテムだった。

 

『イタイ!』

 

「……ごめん。でもうちだってヒーロー科だし。――雷狼寺に勝ちたい」

 

「私のベイビー達の宣伝の為にも、1000万Pと選手代表の方……利用させて頂きます!」

 

「リベンジだ!! いくよ砂藤くん!」

 

「おう!!」

 

 葉隠チームが常闇へ攻撃を開始。常闇を援護しようと竜牙は尾を出現させ、一気に薙ぎ払おうとする。

――だが、それは叶わない。何故ならば、そんな竜牙の尾に巻き付く物が現れたからだ。

 

「!――梅雨ちゃん……瀬呂……B組のトゲトゲ髪……!」

 

「塩崎です」

 

 竜牙の尾に巻き付いているのは、蛙吹の舌・瀬呂のテープ・塩崎の棘だった。

 それらが一気に巻き付き、竜牙の妨害をしていたのだ。

 

「ごめんなさいね雷狼寺ちゃん?――でも私も貴方に勝ちたいの」

 

「そうだ!! やれ蛙吹!」

 

「そういう事だ……すまん、雷狼寺」

 

 蛙吹・峰田・障子は近付いており、同時に別方向から――

 

「ふざけんな!! デクも白髪も俺がぶっ殺すんだよ!!!」

 

「まずい! かっちゃんまで!!」

 

 誰にも邪魔をさせねぇと言わんばかりに叫ぶ爆豪の登場に緑谷も流石に焦りが現れる。

 

――轟の作戦。それは単純、全員のヒーロー科としてのプライドを刺激しただけだった。

 全員がプライドを持っており、竜牙の宣戦布告に何も感じなかった者、臆した者は既に脱落している。

 ゆえに轟はそれを刺激し、緑谷と竜牙達の“流れ”を変えようとしたのだ。

 緑谷と竜牙はギリギリで気付いたのだが、結局は手遅れ。既に“完成”していたのだ。

 

『おいおい!! なんだぁこれは!!』

 

『……包囲網か』

 

 プレゼント・マイクと相澤は見たまんまの光景に呟く。

 緑谷チームを中心に、1000万と竜牙への勝利を目的とした包囲網が完成していたのだ。

 

(……轟が上手く雷狼寺へのプライドを刺激したか。――だが一見協力しているようだが、1000万は一つだけだ。――轟の真の狙いは漁夫の利だな)

 

 相澤は現状を観察し、轟が周りを利用しそのまま1000万奪取を目論んでいる事に気付く。

 だが同時に、竜牙がここで終わるとも思っていなかった。

 

「――な・め・る・な・よぉ……!」

 

 ここで竜牙が力を出し、決死の反撃に出る。騎馬を保つ状態では全力は制限されており、文字通り最後の賭けだ。

 何とか力を出し、尾に巻き付く物を薙ぎ払おうとした時だった。

――突如、白い布が竜牙の尻尾に巻き付いた。

 

「く……そ!――動かせない!」

 

「相澤先生のを参考にした特別品ですわ……迂闊ですわ雷狼寺さん!」

 

 ここで八百万の奇襲も加わり、完全に動きを封じられた竜牙。

 その姿に轟が動いた。

 

「わりぃな……」

 

「――なッ!」

 

 轟の放ったが冷気が竜牙を襲った。

 動けない竜牙はそのまま凍り付き、右足と腰までが凍らされてしまう。

 

「雷狼寺くん!?」

 

「このまま1000万は頂くぞ! 緑谷君!」

 

 竜牙を心配する緑谷へ飯田がここで決着を宣言。徐々に近づき始め、竜牙を止めた事で他のチームも動き出す。

 包囲網が確実に狭くなる中、竜牙も流石に心が折れかけていた。

 

(――やられた。これ以上、手はない)

 

 まさかほぼ全員が一時とはいえ組んで来るとは竜牙も、そして緑谷も予想外だった。

 もうどうしようもない。冷えた体の中、竜牙は静かに緑谷へ顔を向けた。

 

「……緑谷――流石に万策尽き――ッ!?」

 

 緑谷へ顔を見上げた瞬間、竜牙は我が目を疑う。

 

「……まだだまだ何とかなる。これからが勝負だ。大丈夫できるまずぼくの力で――」

 

 緑谷は諦めていなかった。それどころか、眼は死んでおらず、寧ろ燃えている。

 本気でこの状況の中でも勝つつもりなのだ。――勿論、二人も。

 

「抗え! 黒影!!」

 

『ヤッタルゼ!!』

 

 常闇と黒影も諦めず、周りの攻撃を受け切っていた。

 

「ふん!!――ぜぇぇぇぇたいに負けない!!――負けんもん!!」

 

 麗日も訛りながらも何とかしようと足に力を入れている。

 

――誰も諦めてないのだ。この絶体絶命の中で。

 なのに、我先に諦めかけていた自分が竜牙は情けなくなり、同時に怒りが湧いた。

 

「何をしてるんだ俺は……」

 

 この絶体絶命の中、竜牙はそう呟きながら瞳を閉じ、己へ問い掛け始めた。

 

――本当に手はないのか?

 

(いや、ある)

 

――ならば何故使わない?

 

(怖いからだ)

 

――ならば何故、“今まで”は使った?

 

(守る為だからだ。だから使った……)

 

――ならば今は守るものではないのか?

 

(いや。断じて違う)

 

――ふと、あの時の母の目が頭をよぎった。

 だが竜牙は追い払うように二度三度頭を振り、改めて自分に言い聞かせる。大丈夫だ。いける。乗り越えろ。緑谷たちを信じろと。

 

(今……この会場には色んなプロヒーローがいる。最悪、そのせいで俺の夢は叶わなくなるかもしれない。――だが、ここで逃げるのか? これが“最後”のチャンスなんじゃないのか?)

 

――逃げるのは楽か?

 

(いや不安だ。俺は前へ進みたい)

 

――緑谷達からの信頼の為か?

 

(それもある。情けない俺を未だに信頼しているだろう……緑谷達の為に)

 

――それだけか?

 

(いや、変わりたいんだ。俺は自信を持って“個性”を皆に見せたい。認められたい!)

 

――ならば決まったか?

 

(あぁ。誰かの為じゃなきゃ、俺は切っ掛けすら掴めなかった様だ)

 

 己への問い掛けを終え、竜牙はゆっくりとその瞳を開く。

 目の前には今も戦っている仲間達。そんな仲間達へ――竜牙は静かに名を呼んだ。

 

「――緑谷」

 

「えっ?」

 

「――麗日」

 

「はい?」

 

「――常闇」

 

「む……?」

 

 戦いの中、その手を止めてまで自分を見てくれる仲間達。

 竜牙はそれで未だに自分を信じている事を理解する。

 だからこそ、守りたい。――応えたかった。

 

「俺を()()()()()()()?――俺は()()()()()()?」

 

「……雷狼寺くん」

 

 この言葉に緑谷は何かを察した。麗日と常闇も同じく。

 今の竜牙の瞳は何かを決意した者だ。だからこそ、緑谷達が出来る事は一つだけ。

 

「うん! 僕は雷狼寺くんを信じる!――だから僕の事を信じて!」

 

「私も信じるよ!――勝とう!」

 

「フッ……同じ宿命を背負いし者だったか」

 

「……ありがとう」

 

 その三人の言葉に最後の一歩を踏み出す勇気を貰った。

 

――これで終わらせる。

 

 覚悟を決めた竜牙。

 それとほぼ同時に轟チームも仕掛けようとしていた。

 

「行くぞ飯田!!」

 

「うむ!!――獲るぞ緑谷君!!」

 

 轟の声が聞こえる。飯田の声が聞こえる。同時に周りから一斉に向かってくるような声も聞こえる。

 だが竜牙には、そんな事を気にする事などなかった。

 ただ、唯一気にしていたのは……。 

 

――願うなら……誰からも()()()()事がない様に。

 

 瞬間、緑谷達の周囲に大きな轟音と共に雷が走った。それが意味するのは――“解禁”

 

『GUOOOOOOOOOOON!!!!』

 

――『雷狼竜』の解禁だ。

 

 

 

 

END

9/37 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する