「第一種目。それは――障害物競走よ!!――計11クラスによる総当たりレース! コースはこのスタジアムの外周、距離は約4㎞よ!――そしてルールはコースを守れば何でもあり!!――ほらほらスタートはあそこよ!」
説明しながらミッドナイトがムチを向ける場所。そこには一つのゲートがあり、それは会場へ出る為の狭き門。
その前には少しでも有利に運ぼうと生徒達が位置に付き始める中、竜牙は少し離れた場所でスタンバイ。
(……四足走行だな)
ゲートの上のスタートのランプ。それが点灯し始めると同時、竜牙は両手足を雷狼竜へ変化。
更に耳も変化させ、身体に力を込める。
――そして全てのランプが点灯した瞬間。
「スタァァァァァァトッ!!」
『ウオォォォォォォォッ!!!!』
選手全員が一斉に飛び出した。
しかし、この大勢の人数が通るにはゲートは余りにも狭く、スタートダッシュを決めようとした者達はすぐさますし詰め状態。
――竜牙を除いて。
(……上はガラ空き)
スタートと共に駆け出した竜牙は一気にアーチ状に跳び上がり、そのまま邪魔されずにスタートダッシュを決めて加速を始めた。
そしてその光景を見て、クラスメイト達は竜牙の作戦に気付く。
「マジかよ!!」
「待てやぁ!! この白髪!!!」
一気に出口を出た竜牙へ、上鳴と爆豪を筆頭に驚愕や怒りの声をあげる中、そんな竜牙を逃がさない者が現れる。
「――させねぇ!」
後方から聞こえた“轟”の声。――同時に選手達の悲鳴や怒号が響き渡る。
「うわッ!! 足が凍って!」
「やりやがったなあの野郎!!」
狙いは竜牙と緑谷のみ。轟はスタートダッシュと妨害を兼ねて地面を凍らせ、選手の足を拘束した。
これで上手くスタートダッシュを決めようとした者達は一網打尽。出鼻を挫かれた。
――一部を除いて。
「させませんわ!――雷狼寺さん!! 轟さん!!!」
「上手く行くと思うんじゃねぇ!!」
八百万と爆豪を筆頭にし、ゲートのすし詰め・轟の妨害をA組メンバー達は一気に突破を果たす。
だが、轟の視線は後方に構う暇はない。目の前にいる竜牙にのみ狙いを定めていた。
「チッ――流石に速いか」
氷を使って妨害しようがスピードは四足歩行――雷狼竜の力を持つ竜牙に分がある。
スタミナも多いのだろう。竜牙と轟の間にある二人分の距離が縮まらず、轟の表情が若干だが曇っていると、実況席も熱が入り始めていた。
『おいおい!! 一気に抜けて来たなA組!――教え子の活躍にどう思う“ミイラマン”?』
『……休ませろ』
実況席ではプレゼント・マイクに無理矢理に連れて来られたのか、ミイラマン状態の相澤が不機嫌そうに隣に座っていた。
だが、そんな相澤の様子をガン無視のプレゼント・マイクは実況しながら、最初の障害物へと視線を移す。
『っておいおい!! もう最初の障害物か? 速ぇなおい!!』
「……まさか、
1位継続中の竜牙だったが、目の前に現れる“物達”に思わず脚を止めた。
すると轟も同じ様に止まり、障害物は竜牙の後方からも見えるものであって、後続の驚愕の声も響いた。
――何故ならば、その物達が。
『ブッコロス!!』
『ターゲット大勢!――ミナゴロシ!!』
入試に出て来た1~3Pの仮想敵だからだ。
そして、10機以上はいるであろう巨大ロボ――0Pの大群もそこにはいた。
「0P!!? 入試の仮想敵かよ!!」
「嘘だろ……ヒーロー科の入試であんなのが出て来たのかよ!?」
『そういう事だぜぇ!! ただの長距離走だと思ったか! 手始めの第一関門――『ロボインフェルノ』の始まりだぜぇ!! リスナー達よぉ!!』
『……お手並み拝見だな』
プレゼント・マイクの絶叫実況を横に、相澤は見定める様に視線をA組の生徒達へと向ける。
入試で0Pを倒したのは竜牙と緑谷の二名だけであり、“逃げる障害物”から“倒すべき障害物”となった0Pへどう対応するか、相澤は見定めなければならない。
(除籍にしなかった事を後悔させるなよ?)
期待する様に呟いていた相澤の内なる声、それを聞いた者はいない。
だが、それに応えるかのように竜牙は動く。
「“Plus Ultra”
竜牙は一気に跳び上がり、両前足の大きさを巨大に変化させた。
そしてそのまま左右の0Pの正面を掴み、一気に押し倒す。
周囲に爆音や衝撃音。粉塵が舞い上がる中、竜牙は0Pを二体排除。先陣を切り、一気に活路を開いた。
(……既に“向こう”へ俺はいる)
『YEAH!! 入試の時と言い今回もやりやがったな!!――さっきの宣誓は痺れたぜぇ!! もし歌だったらリクエストで流したいくらいだったぜ!! 有言実行! ロボインフェルノを突破し、先陣を切るのは雷狼寺 竜牙だぁ!!』
「えっもう!?」
「つうかあいつ、入試の時にもこの0Pを倒したのかよ!?」
未だ、ロボインフェルノへと辿り着くか否かの者が多い中、竜牙が既に突破した事実に選手たちの動揺が広がる。
だが、見るべき者は竜牙だけではない。
「――折角ならもっとすげぇのを用意してほしいもんだ」
――クソ親父が見てんだからよぉ!
『ブッコ――』
轟が左手を上げた瞬間、0Pは氷像へと姿を変えた。
『こっちも突破だぁ! つうか最早ズリィレベルだな! A組の“No.2”が“No.1”を追いかける!!』
――この時のプレゼント・マイクの実況。それは成績を見ていたからこそのコメントだったが、知る由もないだろう。
そのコメントに真っ先に反応している人物が選手ではなく――“観客席”にいるという事に。
「――何をやっている焦凍……! お前は最高傑作なのだぞ……!!」
身体から溢れ出る“炎”を纏い、激走する竜牙と僅かな差を縮められない轟を見て、その男――No.2ヒーロー『エンデヴァー』は険しい表情を現していた。
だが、そんな彼の様子に気付く者はいない。
竜牙や轟達以外にも、A組には見るべき者達がいるからだ。
『ブッコロス!!』
「はいはい……」
『クタバレヒトモドキ!!』
「邪魔だ……それに俺は人だ」
耳郎も障子も一切ペースを崩さず、流れるように仮想敵を沈黙させてゆく。
無論、二人だけではない。A組のメンバーは皆が足を止める時間が短く、易々とロボインフェルノを突破して行く。
しかし、それでも竜牙と轟の両名との距離は離れており、走りながら耳郎と障子はその事で会話も出来ていた。
「うわぁ……雷狼寺は分かってたけど、轟まで0Pを瞬殺とかヤバ……!」
「雷狼寺は派手に突破したが、轟は余力を残すように最低限で動いているな。まだどうなるか分からないな」
「そだね。――まぁ取り敢えずは、人の事よりも自分達の事に集中しないと」
「その通りだ」
耳郎と障子がそんな会話をしていた頃、竜牙と轟は第二の障害物へと到着間近。
しかし、遠目でも分かる程、それは中々の“光景”であった。
(……ここまでやるか)
『本当に速ぇぞおい!! もう第二の障害物か!?――第一がそんなにぬるかったか? ならこれはどうだ!! 奈落に落ちたら即アウト!!『ザ・フォォォォォォォル!!!』』
それは、崖の足場と足場を一本のロープで繋げているだけの奈落道。
蜘蛛の巣の様に四方に張られたロープ。奈落の巨大な円に点々とある足場。
慎重かつ大胆に突破しなければ、すぐに後続に追い付かれてしまうだろう。
だが、竜牙はその障害を前にしても表情を崩さなかった。
「……初めての受難に挑める事へ感謝」
『おいおい! マジか――一切減速しない気か!?』
『……ほう』
プレゼント・マイクの声に観客が、選手達がモニターに思わず目を向ける。
そこにはザ・フォールまで僅かに距離になりながらも、そのまま加速を続ける竜牙の姿があった。
「まさか……!」
「クソがぁぁぁぁ!!!」
その光景に轟が、爆豪が怒りを抱きながら控室での竜牙の言葉、そして宣誓を思い出す。
『……俺も全力で挑む。――だが“全て”は出さない』
『――この場では“俺が”一番強い』
竜牙の後ろ姿は見えている。そして竜牙がやるであろう行動も分かった。
ならばと、そこから轟も氷で滑り台の様に坂を作ると、滑りながら一気に加速する。
「お前には……絶対に勝つぞ雷狼寺!!」
「……俺もだ」
轟が叫びながら竜牙の背を捉えたのと同時だった。
竜牙がザ・フォールへと跳び上がったのは。
「……やれる」
竜牙は自信を抱きながら飛んだ。
恐怖はなく、あるのは別の感情。――それは己の言葉の責任。
――この場では“俺が”一番強い。
己の言葉。一番強いと宣言し、周りを奮起させた。
言い切った手前、一度の敗北で一番はなくなる。
(責任は持つ。一度でも負ければ終わりだ)
一度の敗北での終わり。
――だが竜牙はそれにプレッシャーを抱いている訳でもなければ、挫折や失敗、敗北を経験した事がない訳じゃない。
竜牙は己に宿る『雷狼竜』の個性を鍛えて来たが、その中で何度も心が折れかけた事が何度もあった。
何度も孤独に襲われ、何度も身体はボロボロになった。
そんな経験があったからこそ、今の竜牙がいるのだ。
「何より、俺自身が一番になりたい。――皆を笑顔に出来る様なヒーローになる為に」
勇気づける様に呟く竜牙。跳んだ肉体は向こうの足場、更に足場へと無駄な動作もなく突き進み、遂に向こう側へと渡り切った。
ザ・フォール――突破。
『すげぇぇぇ!!――おいイレイザー! お前、一体どんな教育したんだ!?』
『……俺は何もしていない。――あれは雷狼寺が自ら出した答えだ』
プレゼント・マイクの問いに相澤はただそう呟きながら、他の生徒達を見ながらも竜牙へと視線を向け続ける。
そんな実況、そして竜牙の独走に観客のプロヒーロー達も流石に黙ってはいられない。
「おいおい……あの1位が凄いな! なんだあの“個性”は!?」
「分からん! 手足を変えている様だが、獣なのかあれは!」
「あの子が噂のエンデヴァーさんの息子なのか?」
「……いや違う。エンデヴァーさんの息子は2位の子だ。だがまだ分からん!」
「1位も2位も凄すぎる……!」
「あぁ……今年は間違いなく当たり年」
「
既にプロヒーロー達は持ち切りだ。――この体育祭の“後”の事へ。
とはいえ、竜牙も余裕があるわけでもない。
――なぜならば。
「待てや白髪ァァァァァァッ!!!」
「邪魔だ……爆豪!」
スロースターターの爆豪が、ここで脅威の追い上げを見せる。
少し遅れで突破した轟の後に続き、ザ・フォールを大爆発で飛びながら一気に突破。
轟とほぼ並びながら竜牙へと迫る。
(……ここで爆豪か。スロースターターゆえに轟より厄介だ)
距離にそこまで余裕はなく、最後の障害も残っている。
油断はゴールしてもしない方が良いだろう。
(何かのゲームで言っていたな)
――勝利を確信した時こそ、そこに“隙”が生まれる。
「……その通りになりそうだ」
竜牙は足を思わず止め、“最後の障害物”を目の当たりにしながら呟いた。
『止まって正解だ!! そこは一面地雷原!! 『怒りのアフガン』だ!!――おまけで周囲には“タル爆弾”も用意してあるからご自由にどうぞってな!!』
『……何に使う気だ』
『両方とも威力はねぇが音とかやべぇから気を付けろ!!』
『無視か、おい』
何に使われるか不明の危険物。傍らの問いを無視するプレゼント・マイクへ相澤が鋭い視線を向けてる間にも、竜牙は動く。
「電撃弾」
竜牙の背中から現れるは、鋭い甲殻と逆立つ体毛。そこに放電が発生。
竜牙はその場で飛び上がると、身体を回転させると同時にそれを縦一列へ放った。
――すると、ゴールまでの地雷が一列に爆発を起こした。
「……上々」
『ハァァ!!? そんなんありか!?』
『何でもありって言ってたろ……』
竜牙の行動に驚愕のプレゼント・マイク。そんな彼に相澤は『思い出せ……』と呟いていると、竜牙の後方から轟と爆豪が互いを妨害しながら迫っていた。
「どけ爆豪!」
「テメェがどけやッ!!」
妨害し合っている割に二人のスピードは速い。
互いに温存していた力を、竜牙との距離がそこまでない事によって使う事にした様だ。
二人はスタート時よりも速く、もうゆっくりしている時間は竜牙にはない。
(――駆け抜ける)
竜牙のラストスパート。作った道を一直線に駆け抜けた。
━━瞬間、竜牙の世界は"下"へと落ちる。つまり、落とし穴だ。
『落ちたぁぁぁぁ!!!』
観客が叫ぶ。独走の竜牙がここに来てのアクシデントだ。
(!━━やられた!)
ここでまさかの落とし穴。地雷原と言ってのこれだ。
しかも意外と穴は深く、急いで上がっても時間は奪われる。
『誰が地雷だけって言った!! なんでもありの障害物だぜ!!』
『今のは雷狼寺のミスだな。……地雷を破壊した事で油断したんだろう。よく見れば分かる様になっていたんだかな。――かなり時間を取られるぞ』
相澤の鋭い指摘を聞きながら深い落とし穴を登る竜牙。
しかし、竜牙が這い上がる頃には、後方からは爆発と悲鳴が響き渡っていた。
その音はかなりのもので、衝撃も僅かに感じ、そして近い。
『マジかぁぁぁぁ!!!』
『やべぇ!!』
同時に次々と落とし穴に落ちる者達も続出。
しかし、氷で移動の轟と爆発で移動の爆豪に関係なくスピードに影響はないようだ。
(……まずい)
最大の妨害。そしてトップ勢を足止めさせる気だったのだろう。
竜牙の落とし穴落下により、轟と爆豪がここで一気にスパートをかけた。
「追い付いたぞ雷狼寺……!」
「1位は俺だッ!!どけや!!」
氷と爆発のブーストにより、文字通り目と鼻の先の距離となる三人。
しかし、負けじと落とし穴から這い出た竜牙は疾走を再開した。
――瞬間。巨大な爆発と衝撃波が後方から放たれた。
同時に“何か”が、己の横を吹っ飛ぶように
それが何かを確認する暇はなく、爆発で怯んだ轟と爆豪の隙を突き、竜牙はそのままゴールを果たす。
だが竜牙には達成感よりも、先に抱いた感情があった。
「……してやられた」
『マジかッ!! この展開を誰が予想できんだ!!?――まさかの大逆転劇!』
――“緑谷 出久”の存在をよ!!!
――プレゼント・マイクが叫んだ瞬間、一斉に歓声が爆発する。
だが竜牙はまだ事態の把握が出来ないでいた。
(……轟でも爆豪でもない?――どうやって俺達を追い抜けた?)
緑谷の謎の逆転1位。鍵を握っているのは、おそらく先程の大爆発。
竜牙は自分以上にどこか実感できていない緑谷の姿を見ると、緑谷のジャージ所々が焦げていた。
そして足下に転がる分厚い鉄板。
(……あの色は仮想敵の装甲?)
色とデザインで装甲の正体は分かったが、それで勝てた理由は分からない。
――だが、竜牙が不意に自分の足下を見た瞬間、そこに答えはあった。
(木と鉄くず?――タル爆弾と地雷の破片か?――そうか、だから装甲を使ったのか……!)
正体見たり逆転劇。
竜牙は緑谷の行動を理解する。――タル爆弾と地雷の爆風を利用し、その勢いで己を追い抜いたのだと。
(……だが予想外の威力だったんだな。緑谷の“目”が死んでる理由が分かった)
実感が出来ていないと思っていたが、実際は放心状態の様だ。
(独走していた。――だがこれが現実か)
――予選2位突破。それが独走していた自分の結果。
油断はしていなかったが、予想外の奇策を実行した緑谷の発想に負けたのだ。
しかし、竜牙は落ち込んでいない。――むしろ逆。
「……そうか。これが心が“燃える”って事か」
不思議とショックはない。それどころか闘争心が滾って仕方ない。
(……これも負けた敗因)
竜牙は己の敗因をもう一つ理解する。
宣誓で自分は周りの闘争心を刺激したが、その中に自分は含まれていなかった。
緑谷の逆転劇でようやく燃えだした己の心。
「――優勝するのは俺だ」
折れず燃えた心の炎を抱き、竜牙は静かに瞳を閉じてその時を待つことにした。
▼▼▼
「これにて終了!!――結果はモニターを見てね!」
ミッドナイトが結果をモニターに表示する。
――2位:雷狼寺 竜牙。
竜牙の名前は確かにあり、同時に予選通過した上位42名が決定した。
ギリギリの青山を含め、A組は全員が通過。――ここから本選が始まる。
「落ちちゃった人もまだ見せ場はあるから安心しなさい!――それよりもここからが本選! 第二種目――」
――『騎馬戦』よ!!
『!』
本選でもある第二種目――それは騎馬戦。
個人競技ではない事に周囲がざわつく中、ミッドナイトは以下のルールを説明した。
・2~4チームの騎馬を作る。
・ルールは基本的に通常と同じ騎馬戦。
・順位によってPがあり、騎手は騎馬を含めた合計のPのハチマキを首から上に巻く。
・ハチマキを奪われる。騎馬を崩される。そのどちらになっても失格にはならない。
・悪質な崩しは一発退場。
・制限時間は15分。
(つまり敵からハチマキを奪おうが、騎馬を崩そうが……全く有利にはならないか)
脱落してチームが消えるならばまだ良いのだが、残る以上はハチマキを取り戻そうとする等、全くもって安心できる時間はない。
まさにぶっ通しの騎馬戦。少しの油断も許されない。
「……取り敢えず問題は“P”か」
「その通りよ!!――Pは下から5ずつ増えていくわ! だけど1位だけは――」
――1000万Pよ!!!
「――えっ」
ミッドナイトの言葉に言葉を失う緑谷。そんな緑谷へ竜牙は無意識に視線を向けてしまう。
――が、見ているのは全員だ。全員が殺気を纏い緑谷を見ていた。
2位の竜牙でさえ205Pだ。なのに1位は1000万。
「――実質1000万の奪い合いになるか」
――!!!
竜牙の一言に周囲の空気と殺気が更に増し、緑谷の冷や汗を更に増大。
まさに“Plus Ultra”としか言えない。だが非情にも時間は過ぎる。
「今から15分の交渉時間スタートよ!!」
「……どうしたものか」
竜牙が困りながらも、チーム決めは始まった。
▼▼▼
――緑谷は焦っていた。これでもかと言う程に焦っていた。
「どうしよう……! まさか飯田くんに断られるなんて……!」
「デクくん……流石にあれは仕方ないって」
1000万の緑谷にとってPを気にした騎馬編成は意味はない。
周りからも狙われるの決まっている為に避けられ、その中さえ組んでくれた麗日は天使だった。
しかし、自分の考えた作戦を実行する為には飯田の力も必要だったが、飯田は断られてしまった。
『緑谷君……僕にとっても君は超えたいライバルなんだ』
――と言う理由から断られる。
これで最初の作戦は白紙。だがそこはずっとヒーロー達を見て研究して来た緑谷だ。
すぐに新しい作戦を考え、まずは脆弱な防御力を補う為、“一人”の生徒に声をかけた。
「君の力が必要なんだ!――“常闇くん”!!」
「良いだろう……これも宿命だ」
「……えっ。良いの?」
緑谷が目を付けたのは個性:黒影――ダークシャドウ。
意思を持つ“影”故に変幻自在の防御力を持てると判断し、常闇に声を掛けたのだが、呆気ない程に常闇はOKしてくれた。
「あぁ……どの道、Pの奪い合いだ。ならばどの道を選ぼうとも変わらん」
「常闇くん!!」
「デクくん! また不細工や!!」
皆に避けられていた中での常闇の承諾。
それは緑谷のメンタルを刺激し、瞳から大量の涙を流す。――もの凄い表情で。
「重荷を背負いし者の宿命か……だが緑谷。いくら黒影でも轟と爆豪達を相手にするのに、麗日を含めても流石に戦力が足りないぞ」
「けど、デクくんは1000万Pだから組んでくれる人って余程の人なんじゃ……」
「うん……そうだと思う」
二人の言葉に緑谷は考える様に俯く。
確かに常闇介入で防御力は大幅に上がったが、同時に機動力や攻撃力が劣ってしまいバランスが悪い。
全てを黒影に任せるのは負担が大き過ぎる。あと一人、強力な仲間が欲しい。
――しかし、緑谷はこんな状況下の中でも、組んでくれるであろう人物に心当たりがあった。
「一人だけ……いる。信頼できて、とても強い仲間が」
その人物は轟以上に強く、爆豪よりも誇り高い。
共に過ごした時間は短いが、彼は“ライバル”として信頼し合えている。
だからこそ、緑谷は“彼”の下へと向かう。
「騎馬を組んで欲しいんだ。――“雷狼寺”くん!」
▼▼▼
「騎馬を組んで欲しいんだ。――雷狼寺くん!」
一人で考えながら歩いていた竜牙の下へ、緑谷・麗日・常闇の三人が訪れた。
理由は勧誘。だが竜牙は疑問を抱いていた。
「……なんで俺だ? 緑谷、お前の能力は認めてる。だからお前にも考えがあっての事だと分かる。――だからこそ分からない。お前は聞いた筈だ。俺の言った事を」
『……俺も全力で挑む。――だが“全て”は出さない』
「――俺は全てを出す事が出来ない。そんな中途半端な俺を入れて勝てる程、周りは優しくないぞ」
竜牙はやや叱る様な口調で言った。
ハッキリ言って3位と4位と言う、絶対に納得しないであろう結果の轟と爆豪は文字通り死に物狂いで1000万を奪いに来るだろう。
他のA組メンバー達も侮れず、更に言えば何やら企んでいるB組も油断ならない存在。
もし、緑谷が“少し親しい会話をしたから心許せる”――そんな浅い考えならば竜牙は即断るつもりだった。
――だが、緑谷は分かっている様に頷いた。
「僕もそう思う!」
「……!」
――またあの“目”だ。
先程までオドオドしていた緑谷が、今自分を見ている目。
それは轟からの宣戦布告を受けた時、その時の覚悟の目と同じものだと竜牙は確信する。
「でも……あと一人。信頼できる騎馬は君しかいないんだ!」
「……なんでそこまでして俺を?」
竜牙は分からなかった。
緑谷の“個性”は未知数であり、捨て身技と言うよりも自爆技と呼べる能力。
だが、それを補う様な頭脳は大きな武器となっており、事実竜牙は障害物競走で敗北している。
認められるだけの能力は確かにあるが、だからといって竜牙自身が緑谷にここまで信頼される理由は全く心当たりがなかった。
――すると、そんな疑問を感じている竜牙の言葉に、緑谷はやや俯きながら話し始めた。
「……君が、君だけが……僕の事を対等のライバルとして見てくれたからだよ」
「なに……?」
「轟くんもかっちゃんも……当たり前だけど、僕の事を対等だと思っちゃいない。なのに、そんな二人よりも強い君が、僕の事を対等のライバルとして見てくれた。――その事が本当に嬉しかったんだ。それが――」
――僕が君を信頼する理由じゃ駄目かな?
(……何故、中途半端な俺なんかの為に、そんな強い目を、迷いのない綺麗な目を魅せてくれるんだ?――こんな俺の為に……)
竜牙は迷う。緑谷が自分を信頼する理由は分かったが、知ってしまった故に信頼に応えられるか不安なのだ。
しかし、そんな迷いは見透かされていたのだろう。緑谷はそんな竜牙へ、こう言った。
「――君は一番強いんだろ! 雷狼寺くん!!」
「!……緑谷」
「そうだよ雷狼寺くん! 一番強い雷狼寺くんが一緒だと心強いもん!」
「共に歩むぞ……修羅の道を」
「麗日……常闇……」
ここまで言われて黙ってる男は、断る男はいるだろうか?
少なくとも、竜牙は――
「……そこまで言われて断れば、恥を掻くのは俺か」
「!――雷狼寺くん!」
竜牙の承諾ともとれる言葉に緑谷は笑顔を浮かべ、麗日も嬉しそうに、常闇も納得した様に頷いていた。
『終了!!――交渉タイムは終わりよ!!――早速騎馬を作りなさい!』
「――急げ緑谷! 策を話せ……ライバル!」
「ッ!――うん!」
▼▼▼
騎馬を作る中、周囲は騒然としていた。
理由は1000万――緑谷の騎馬にいるメンバーだ。
「まさか、緑谷君と雷狼寺君が組むなんて……!」
「才能マンと策士マンかよ……!」
「……油断出来ませんわ」
飯田・上鳴・八百万は警戒心を露わにし、USJで共にいた二人は特に息を呑む。
「うわぁ……ヤバそうだね」
「実際、ヤバイって……」
「けど……だからこそ燃えんだろ。宣戦布告を俺は確かに受け取ってるぜ!」
芦戸・瀬呂・切島達も明からさまなメンバーに勿論警戒。
――だが、二つの総大将は違う。
「――好都合だ」
「まとめてぶっ殺す!!」
轟・爆豪共に戦意は全開。
煮え湯を飲まされた両名をここで叩き落すつもりだ。
――勿論、他の者も。
「今度は勝つぞ雷狼寺!」
「……たまには挑まないとね」
障子も耳郎もそれぞれのチームでやる気を起こす。
他にも策を考えるB組を筆頭に、宣戦布告の雷狼寺・1000万の緑谷へと視線を向けている。
――そんな者達を緑谷達も迎え撃つ。
「麗日さん」
「はい!」
右の騎馬の麗日。
「常闇くん」
「ああ……」
真ん中の騎馬の常闇。
「雷狼寺くん」
「応えるぞ……緑谷!」
左の騎馬の雷狼寺。
――1000万防衛戦――第二種目・騎馬戦開幕!
END