八神希世花は必死の形相で廊下を走っていた。周囲の生徒達が不思議そうな表情でその姿に視線を向ける。そんな視線を気にせずに、希世花は驚くべき速さで一目散に走る。
「おい!廊下を走るな!!」
「すみません、冨岡先生!見逃してください!!」
途中ですれ違った冨岡に叱責されるが、立ち止まらずに走り続けた。
なんでこんなことに―――、
希世花は走りながら数分前の出来事を思い返していた。
「八神さん。私はね、とても、とっても、とーっっっっても、怒っています」
「はあ………」
記憶を取り戻してから初めて学校へ登校したその日の放課後、華道部の部室にて、希世花は正座して顔を青くしていた。正面には胡蝶カナエが笑顔で立っており、その後ろではしのぶとカナヲが心配そうな顔でソワソワしていた。目の前のカナエの顔は笑っているが、後ろには般若が見える。
怖い。希世花は小さく息を呑む。冷や汗が流れるのを感じた。間違いなく今まで見たことがないくらい、カナエは怒っている。胡蝶先生は怒り顔まで美しいんだなぁ、きっと明日も美しいぞ、と希世花は恐怖のあまり現実逃避をしていた。
そんな希世花を見つめながらカナエが口を開く。
「なぜ怒っているか、分かるかしら?」
「……え、えーと」
まずい。心当たりが多すぎる。
「授業中、いつも居眠りしてすみません……」
「それは今に始まった事じゃないでしょ」
「学校サボって、すみません」
「それもあるけど、そうじゃないわ」
「……き、記憶が戻ったこと、すぐに報告しなかったから……?」
「そうね。とっても悲しかったわ。でも、それだけじゃないの」
「……?」
希世花がキョトンとした顔で首をかしげると、カナエが希世花の顔へ手を伸ばし、両手で顔を挟んだ。
「う?」
奇妙な声をあげる希世花に、カナエは恐ろしい微笑みで口を開いた。
「ーーーー菫、しのぶから聞いたわよ。あなた、前世では年齢詐称していたんですってね。本当は、しのぶと同じ歳だったのよね?」
「………あっ」
「しかも、名前まで偽名だったそうじゃない?他人の戸籍を買ったんですって?」
希世花は顔を強張らせ、しのぶの方に視線を向けた。しのぶはサッと顔を逸らした。
「………」
「それを聞いた時、私がどんなにショックだったか、分かる?可愛がっていた弟子が、まさか年齢を誤魔化していて、しかも本名ですらなかったなんて……」
「……」
「戸籍を買ったなんて、意味が分からないわ」
カナエが希世花の顔から手を離して、その手を腰に当てる。その恐ろしい威圧感に戦きながら、希世花は口を開いた。
「も、申し訳ありませんでした……」
「……」
カナエは無言で笑っている。その恐ろしさに希世花は震えながら言葉を続けた。
「いや、あのー、えっと、……なんと言いますか、……あの頃は、家出して鬼殺隊に入ったので、……とにかく逃げるのに必死だったんです……。そのー、本名では、家族にすぐ見つかってしまう恐れがあったので……、お金の力で名前を変えて……、結構、その、誤魔化しが、効いたのでーー」
カナエの視線の圧力に、うつむいてしまい言葉が尻すぼみになっていく。何か言えば言うほど、言い訳のようになっていくのを感じていた。
チラリと上を見上げると、カナエはやはり無言で上品な微笑みを浮かべており、希世花は思わず
「ひっ……」
と小さな悲鳴を上げた。
怖い怖い怖い!!!
あれ?もしや、今日は私の命日?
ガタガタ震えながら希世花はそう思った。それを見ていたしのぶがカナエに向かって口を開いた。
「ね、姉さん……もう、そのくらいにして……」
「しのぶは黙っててちょうだい」
カナエが後ろを振り向いて、今度はしのぶに向き合う。
「あの、でも、……菫も十分反省してるし……」
「これは私と菫との問題なのよ。しのぶは口出ししないで」
「私からもこの子に言い聞かせるから……」
「ダメよ。しのぶはなんだかんだで結局菫に甘いんだから」
「うっ……。とにかく、ちょっと落ち着いて……」
「私はね、しのぶにも怒ってるのよ。ずっとずっと隠していたなんて――」
カナエとしのぶが言い合っていると、今度はカナヲがおずおずと口を開いた。
「あ、あのー、カナエ姉さん……」
「もう、カナヲ、あなたもちょっと黙ってて」
「いえ、だけど……」
「菫にはきちんと話をしないといけないの」
「あの、ですから、菫様が、に、逃げました」
「え?」
しのぶの方を向いていたカナエが後ろを向く。そこに正座していたはずの希世花の姿が忽然と消えていた。
「………逃げた?」
「は、はい。菫様、すごい速さで窓から飛び出していきました……」
「………」
カナエが無言になる。華道部を沈黙が支配し、しのぶとカナヲがハラハラしていると、カナエはようやく口を開いた。
「……カナヲ」
「は、はい」
「あなたは廊下を出て右へ。私は、左から追い詰めるわ。必ず捕まえるわよ」
「は、はい!!」
カナヲが元気な返事をしてすぐさま部室から飛び出す。カナエもそれに続いた。
残されたしのぶは頭を抱えて大きなため息をついた。
「怖い怖い怖い怖い……」
無意識に呟きながら必死に走る。とにかく、早く逃げないと―――!
「アレ?八神先輩、何やってるんだ?すごい恐怖の音がする……」
「どうせまたしのぶから逃げてんじゃね?」
「なんか懐かしい光景だな。先輩が転校してきたばかりの時は、ああやって、よくしのぶ先輩から必死に逃げていたなぁ……」
途中ですれ違った善逸と伊之助と炭治郎が和やかにそう会話しているのが聞こえたが、構ってられない。
「どこか隠れるところは――、」
一度立ち止まり、そう呟いて辺りを見回した時、後ろから声をかけられた。
「八神?何やってんだァ?」
「よもやよもや!すごい顔をしているな!!」
「おっ、八神、お前、記憶を取り戻したって……」
振り返ると不死川と煉獄と宇髄が廊下に立っており、希世花は思わず三人にすがりついた。
「た、助けてください!!追われてるんです!!」
「なんだ、八神!!また胡蝶か!!」
「お前、今度は何をしたァ?」
「そ、それは後で説明しますから!!何も聞かずに匿ってください!!本当に怖くて―――、」
その時、後ろから誰かが走ってくるような足音が聞こえた。希世花はビクリとして素早く振り向く。つられて不死川と煉獄と宇髄もそちらを見る。
廊下の向こうから、栗花落カナヲがこちらへまっすぐ走ってくるのが見えた。
「ひいぃっ!!来たぁっ!!」
「ん?胡蝶じゃなくて栗花落?お前本当に何を……」
宇髄が何かを尋ねてきたが、それに答える余裕はなかった。
考える前に廊下の窓を開け、思い切り身を乗り出す。
「おい、ここ三階―――!」
不死川の声が聞こえたが、それに構わず窓から飛び降りた。見事な動きで外にあった木に乗り移る。そして俊敏に枝を使いながらスルスルと降りていった。
廊下でたまたまその光景を見ていた生徒達は「オ~!」と歓声をあげた。
「素晴らしい運動神経だな!!」
「おーおー、よく分からんがド派手だな!」
「あいつは猿か……?」
楽しそうな煉獄と宇髄、そして呆れたような不死川の声が聞こえた。
木から降りると、逃げるべく足を踏み出して―――、
「はーい、捕まえた!」
後ろから首を羽交い締めされた。顔が大きくひきつる。胡蝶カナエが笑顔でそこにいた。
「もーう、ダメじゃない、菫。お話は途中だったでしょ?」
「せ、先生……」
「さ、部室に戻りましょ」
そのままズルズルと引きずられる。
「カナヲ~、ありがとうね~」
カナエがそう叫び、希世花は上を見上げた。三階の窓から、カナヲがカナエに向かって親指を立てる姿が見えて、希世花はまた泣きそうになった。
「あの~、もう逃げませんから、これ外してください……」
「あら、ダメよ。絶対に逃げるもの」
「いや、本当に逃げませんから……」
再び華道部の部室にて、希世花は身体をロープでグルグル巻きにされて転がされた。
なんでこんなロープが華道部の部室にあるんだろ?と考えながら、目の前に正座するカナエを見つめる。横からしのぶが恐る恐る口を開いた。
「姉さん、……あの、……本当にあんまり怒らないで……」
「大丈夫よ~。私はね、ちょ~っとだけ、菫とお話がしたいの」
カナエが再び恐ろしい微笑みを浮かべる。希世花は生唾を飲み込んだ。
思えば、カナエからこんなにも怒られるのは初めてのことだった。先ほどカナエは、しのぶが希世花に甘いと言ったが、基本的に前世からカナエも圓城に非常に甘い。鍛練の時に厳しい事を言われることはあっても、怒られることはほとんどなかったのだ。
それ故に、今の状況が怖くて怖くて仕方ない。
割とガチめに命の危険を感じた希世花は震えながら口を開いた。
「し、師範!申し訳ありませんでした!!」
「あら?何が?」
「な、名前や年齢を偽ったこと、ふ、深く深くお詫び申し上げます!!あの時は仕方ないと思っていましたが、師範にはきちんと話すべきでした!!本当に、本当に申し訳ありませんでした!」
「……」
「そ、それから、逃げてしまって申し訳ありませんでした!もう二度とバカな真似はいたしません!!」
転がされた体勢で必死にペコペコと頭を下げる。縛られてなかったらその場に土下座していただろう。
「………」
「ね、姉さん?」
長い沈黙が落ちて、それに耐えきれなかったのか、しのぶがカナエに声をかけた。カナエは大きなため息をついて、ようやく口を開いた。
「……そうね、私もちょっと怒りすぎたわね……」
「し、師範……」
「カナヲ、ロープを解いてあげて」
そばで見守るように立っていたカナヲが頷いて、希世花の体からロープを解いてくれた。ロープが体から離れるとすぐさま体を起こし、その場で正座をする。そして震えながら口を開いた。
「ゆ、許していただけますか……?」
「そうねぇ……」
恐る恐るカナエに問いかけると、カナエは何やら考えるような表情をした後、ニッコリ笑った。
「それじゃあ、こうしましょ!一緒にお出掛けしてくれたら許してあげる!」
「お、お出掛け?」
「ええ。1日、一緒に過ごすの!そしたら許してあげる!」
「ほ、本当ですかぁ?」
「ええ!」
「い、致します!私でよければ、いくらでもお供致します!!」
希世花はホッとしながら答えた。よかった。それで怒りが収まるなら万々歳だ。
希世花と共にホッとしたらしいしのぶが声をかけてきた。
「よかったわ。お出掛け、楽しみね。どこに行こうかしら?」
「あら、何言ってるの、しのぶ?」
「え?」
「お出掛けは私と菫の二人だけよ」
カナエが楽しそうにそう言って、みんなで出掛けるのだろうと思っていた希世花としのぶは、
「へ?」
「えっ!?」
と揃って大きな声をあげた。
「ふ、二人だけ……?」
「そう。しのぶはお留守番ね」
呆然としているしのぶにカナエはそう言い放ち、希世花に向かってニッコリ微笑んだ。
「楽しみね~。初デート」
「デッ……!?」
しのぶは顔を真っ青にして、大声をあげた。
「ダ、ダメ!!デートなんて、絶対ダメ!!」
「なんでしのぶが反対するのよ。関係ないじゃない」
「うっ……、と、とにかく、ダメよ!!二人だけなんて!!」
「ダメじゃないわ!だいたい、前から思ってたんだけど、しのぶはズルいわ!一人だけ菫と遊んだり、おうちに泊まったり!!私だって遊びたいのに!!」
「姉さんは教師でしょう!!」
目の前で繰り広げられる姉妹喧嘩に希世花はまだポカンとしていた。カナヲがそんな希世花に、湯呑みに入れてくれたお茶を差し出す。
「先輩、お疲れですよね。お茶、どうぞ」
「あ、ありがと……」
無意識にそれを受け取って、湯呑みに口をつけ、喉を潤す。
その時、カナエが、
「そもそもね、菫が初めに好きだったのは、私だったはずよ!!」
と、大声でとんでもないことを言った。
「グッ、ゴボッ――!」
希世花は思わずお茶を吹き出しそうになり、むせ込む。何度も咳き込む希世花の背中をカナヲが優しく擦ってくれた。
やはりバレていたのか、と希世花は口元を抑えながらカナエに視線を向けた。一方、しのぶは悔しそうにカナエに反論をしている。
「そ、それは、そうかもしれないけど……」
「とっても可愛い事を言ってくれたもの!私の事を思うだけで、心が温かくなって、胸が詰まって、でもそれが心地いいんだって……」
「ちょっ、なっ……し、師範!!」
なぜか自慢気にそう語るカナエに、希世花はあまりの羞恥に顔を真っ赤にした。
しかし、今度はしのぶが、
「わ、私にだって――――、言ってくれたもの!!前世でも今世でも、私の事が、この世で一番好きだって……」
などと言い出したため、
「ア゛―――――っ!!やめて、しのぶ!!」
恥ずかしさに耐えきれず悲鳴をあげるが、姉妹喧嘩は終わらなかった。
その喧嘩をどう止めればいいのか分からずオロオロしていると、今度はカナヲに声をかけられた。
「あ、あの、先輩……」
「ん?」
声をかけられて視線を向けると、カナヲが下を向いてモジモジしていた。そして、意を決したように小さな声を出す。
「わ、私も先輩と、……い、一緒に、遊びたい、です」
「………」
「ア、アオイとも、よく話してて、……先輩と、遊びに行きたいねって、……」
「………」
「ダ、ダメですか?」
黙ったまま見つめてくる希世花に不安を感じたのか、カナヲがようやく顔を上げた。
そんなカナヲに希世花は静かに切り出した。
「――――どうして?」
「……えっ、」
「カナヲ、……私のこと、恨んでるでしょう?」
「………っ」
「言ったじゃない。私のこと、許さないでねって、……一生恨みなさいって……」
それは、覚悟をしていたことだった。
しのぶに託されたものを繋ぐと決めた時に、覚悟をしていた。
カナヲやアオイ、蝶屋敷の少女達に一生憎まれ、恨まれることを。
『なぜ知ってたら止めなかったの?』
『なぜ、受け入れたの?』
『なぜ、護れなかったの?』
そう責められて、憎悪されることを、覚悟していた。
だから、記憶を取り戻した今となっては、カナヲやアオイが仲良くしてくれる現状が正直信じられない事だ。
「カナヲ、私は……」
「わ、私!……っ」
カナヲが突然大声を出したため、希世花は驚いた。
「わ、私、恨んでなんか、いません……私は、……後悔してるんです」
「……うん?」
「わ、私がもっと、強かったら、お二人を護れたのにって、思って……絶対に、死なせなかったのにっ、て……」
「カナヲ……」
「か、覚悟をされていたんですよね……。師範と同じくらい、大きな、覚悟を……、命を懸けて、倒すことを、き、決めていらっしゃったんですよね……」
「……うん」
「……三人で、帰りたかった、です。師範と菫様が、二人で手を繋いで、笑っている姿をもう一度、見たかった……」
希世花はカナヲの言葉に目を見開き、すぐにそっと微笑んだ。ゆっくりとその手を握る。
「……思い出したわ。カナヲ、私ね、ずっと、あなたにお礼を言いたかったの」
「……お礼?」
「最期のあの時、私の手を握ってくれて、ありがとう」
「……っ」
「カナヲが、手を握ってくれたから、私、全然怖くなかったのよ。あんなに幸せな最期になるなんて、……思いもしなかった」
希世花はそのままカナヲをギュッと抱きしめた。カナヲの身体が硬直するのが分かったが、構わずに口を開く。
「ありがとう、カナヲ!私の思いを繋げてくれて」
硬くなっていたカナヲの身体から力が抜ける。そのまま希世花の身体にそっと腕を回した。
「あーっ!ちょっと!!どさくさに紛れて、なんでカナヲと抱き合ってるのよ!!」
しのぶの悲鳴が響き渡る。苦笑しながら希世花はカナヲから手を離したが、なぜかカナヲの方はますます力を込めて希世花に抱きついてきた。
「カナヲ!何やってるの!離しなさい!!」
「……私も、しのぶ姉さんはずるいと思ってました」
「は……?」
「私だって先輩と遊びたいです。先輩、今度アオイと三人で遊びに行きましょう」
「あらあら、カナヲ。言っておくけど、私の約束が先よ」
「ちょっ……、なんでそうなるのよ!」
しのぶが怒り、希世花は耐えきれずに声を出して笑った。
「やきもち焼きね」
「え?」
騒ぎが一段落し、しのぶは自分の荷物を取りに行くために一旦華道部の部室から出ていった。カナヲもアオイと何か約束があるようで先に帰ってしまった。カナエと二人きりになった部室で、帰るために荷物をまとめていると、カナエがポツリと呟き、希世花は首をかしげる。
「やきもち……?私、ですか?」
「そんなわけないでしょう?しのぶのこと」
「……」
「私があなたをデートに誘った時のあの子の顔、すごく可愛かったわぁ……。あなたを私に取られると思って必死になっちゃって……ついつい、からかっちゃった」
「……やっぱり、煽ってたんですね」
希世花が呆れながらそう言うと、カナエが悪戯っぽく言葉を返してきた。
「あら。あなただって、しのぶを可愛いなって思って見てたでしょ?」
「……」
希世花は何も答えず、ただ苦笑する。そんな希世花を見つめながら、カナエが口を開いた。
「妬けちゃうわ……」
「何が、ですか?」
カナエの言葉に希世花は再び首をかしげる。
「しのぶと、あなたのこと」
「……?」
「しのぶとあなたの一番は、きっと、私だったのに……、今のあなたとしのぶの間には、……私が立ち入ることができない、絶対に断ち切れないほどの強い結びつきがあるのね……なんだか、悔しいわ……」
その言葉に希世花は目を見開く。そして、
「……でも、先生」
カナエに近づいて微笑んだ。
「昔も、今も……私が一番に尊敬していて、誰よりも信頼していて、100%甘えられるのは、あなただけです」
「……」
「先生は、私に生きる道標をくれた、絶対的で唯一の方なんですよ……あなたとの出会いは、私にとっての宝物であり、……あなたが与えてくれた優しさとぬくもりが、私の希望でした」
「……」
「師範。あなたのことが、好きです。あなたと出逢えて、本当によかった」
カナエが何かを言おうとしたその時、しのぶが戻ってきた。
「希世花、帰るわよ。準備できた?」
「はーい。先生も、もう帰りますか?」
希世花の言葉に、カナエは首を横に振る。
「……もう少し仕事が残っているから、先に帰ってて」
「はい。ご指導ありがとうございました。それじゃあ、また明日」
「姉さん、早く帰ってきてね」
「はい。お疲れ様」
しのぶと希世花が部室から出ていく。残されたカナエは部室の窓へと移動し、二人の後ろ姿を見つめた。二人が何かを話しながら仲良く歩いている。
「うふふ」
カナエが嬉しそうに笑った。そして小さく呟く。
「私も、あなたに出逢えて、よかった……」