夢で逢えますように


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作:春川レイ
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甘露寺蜜璃は涙ぐむ


 

 

暗い

 

 

寒い

 

 

ここはどこだろう

 

 

『ーーーーー』

 

 

誰かの声が聞こえた

 

 

誰だろう?

 

 

ちがう

 

 

私は、この人を知ってる

 

 

だって、一番尊敬していて、信頼している人だったんだもの

 

 

ずっと、逢いたかった

 

 

あれ?

 

 

どうして顔が見えないの?

 

 

確かに、知っているはずなのに、

 

 

誰か分からない

 

 

 

 

 

私が大好きな、この人はーーーーー、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希世花はゆっくりと目を開けた。ぼんやりとベッドの上で身を起こし、頭を抑える。

「…………?」

とても不思議な夢を見た気がする。でも、どんな夢だったか思い出せない。

「…………んー」

とても、とても重要な何かを忘れているような気がした。なんだっけ?

「………」

どうしても思い出せない。それに、身体にはまだ眠気がこびりついている。眠い。怠い。今日は休みだし、二度寝してしまおうか………。

「………ダメだ」

今日は日曜日。しのぶと、その友達と遊ぶ日だ。眠気に抗いながらゆっくりとベッドから降りて、パジャマを脱いだ。用意していたワンピースを身に付け、髪を後ろで簡単に編み込む。

適当に朝食を摂り、身を整える。そしてマンションから出て、待ち合わせ場所に向かって歩き出した。大きな時計台のある所が待ち合わせ場所だ。少し早めに家を出たため、ちょうど約束した時間に到着する。待ち合わせ場所では、少し不思議な女性が立っていて、思わず視線がそちらに向いてしまった。長身で、華やかな服装をしている、とても綺麗な女性だ。何よりも目立つのはその髪だ。ピンクと黄緑色の長い髪を三つ編みにしていた。

その女性は希世花と目が合うと、顔を輝かせて近づいてきた。

「キャア!久しぶりね!」

「………はい?」

声をかけられたことに驚いて首をかしげた。自分はこの人と会ったことがあっただろうか?いや、こんなに目立つ女性なら覚えているはずだが………、

「あ、そうだったわ!そうよね、分からないわよね!初めまして。甘露寺蜜璃です!」

「………は、はあ」

「しのぶちゃんの話を聞いてから、えん、……じゃなかった、八神さんと会うのを楽しみにしていたの!今日は本当に嬉しいわ!!」

どうやら、この人がしのぶの友達らしい。希世花は慌てて頭を下げた。

「は、初めまして。八神希世花です。よろしく、お願いします……」

「こっちこそ、よろしくね!本当に、嬉しい!キュンキュンしちゃう!」

「は、はい……?キュン……?」

そのテンションの高さにポカンとしていると、ようやくしのぶが姿を現した。

「すみません、遅れちゃって……」

「あ、しのぶちゃーん!久しぶりね!」

「はい。お久しぶりです、蜜璃さん。ああ、もう自己紹介もしたみたいですね」

しのぶが希世花の方を見てクスリと笑った。

「う、うん……」

「もうね、私、今日が楽しみすぎて昨日は全然眠れなかったの!」

「あらあら、それじゃあ、さっそく行きましょうか」

テンションの高い甘露寺に圧倒されながら、希世花は二人に付いていった。なんで甘露寺は初対面の希世花の事を知っているのだろうと首をかしげながら。

 

 

 

 

 

 

まずは三人で映画鑑賞をした。今話題の恋愛要素もあるアクション映画だ。

「こっちじゃなくていいの?」

いかにも怖そうなホラー映画のポスターを指差しながらしのぶに聞くと、苦笑した。

「今日は蜜璃さんもいますしね。そっちは今度二人で観に行きましょうか」

「う、うん」

サラリと次のお出かけをしのぶから提案され、それに流されるように頷きながら希世花は劇場に入った。

映画は今話題の作品ということもあり、とても面白かった。映画が終った後、劇場から出ながら甘露寺が楽しそうに口を開く。

「すごくよかったわね!なんかバビューンってなって、ドーンって感じで!」

「そうですね。なかなか面白かったです。ね、八神さん」

「うん。面白かった」

三人はそのまま休憩と昼食を兼ねてレストランに入った。

「ここのお店ね、前にも来たことがあるんだけど、何を食べても全部美味しいの!」

「それは楽しみです」

注文を終わらせて、ホッと息をはき、椅子にもたれかかる。そんな希世花に、甘露寺がモジモジしながら声をかけてきた。

「あ、あの、八神さん」

「はい?なんでしょうか?」

「あ、あのね……その……」

甘露寺はしばらく言い淀んだようにしていたが、思い切ったように言葉を続けた。

「も、もし、嫌じゃなければ、……き、希世花ちゃんって、呼んでも、いいかしら……?」

その問いかけにきょとんとした後、希世花は微笑んだ。

「……じゃあ、私も蜜璃さんって呼んでもいいですか?」

その言葉に甘露寺の顔がパアッと輝いて、希世花の手を握ってきた。

「もちろんよ!とっても嬉しいわ、希世花ちゃん!」

「は、はい……」

甘露寺の勢いに押され、隣に座ったしのぶが顔をしかめたことに希世花は気づかなかった。やがて、注文した料理が運ばれてきた。

「じゃあ、食べましょうか!」

「す、すごい量ですね」

甘露寺の前に並べられた、たくさんの料理に目を白黒させながら思わずそう漏らす。本当に食べきれるのだろうか、と疑問に思ったが、それらの料理が次々と甘露寺の口に吸い込まれていき、希世花はまた驚いた。しのぶが微笑みながら口を開く。

「ここの料理、美味しいですね。さすが、蜜璃さんオススメの店です」

「でしょ?デザートも美味しいのよ!」

そのまま三人で談笑しながら食事を楽しんだ。

 

 

 

 

 

食事の後は街中を歩き、買い物を楽しむ。街は、日曜日ということもあり、買い物客で賑わっていた。三人でおしゃべりしながら服や小物の店を見て回った。

アクセサリーショップで可愛らしいネックレスやブレスレットを見ていると、しのぶから声をかけられた。

「何か買うんですか?」

「うーん、どうしようかな。これとか、可愛いわね」

「あら、あなたにはあっちのネックレスの方が似合いますよ」

「ちょっと派手すぎない?」

「それなら、これとか……」

しのぶと二人でアレコレ話しながらアクセサリーを吟味する。そんな二人の姿を、離れた所で甘露寺が嬉しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったわね!」

「そうですね、ね、八神さん」

「うん」

本当に、楽しかった。こんなふうに一日中友人と出掛けたのは初めてだ。まだ気持ちが弾んでいる。そろそろ帰らなければならないが、それが寂しかった。

「あら、あれ、何かしら?」

甘露寺の声に釣られるように、希世花はそちらに視線を向けた。

視線の先には多くの人間が並んでいた。その行列の先には可愛らしいカフェらしき店がある。首をかしげていると、しのぶが気づいたように口を開いた。

「ああ、あれ、テレビで特集されていたカフェですね。確かスフレパンケーキが絶品だとか……」

「パンケーキ!」

甘露寺の顔が輝く。

「食べてみたいわ!」

「うーん……」

しのぶが困ったような顔をした。

「すみません……。今日は夕食までには帰ると家族に伝えてきたので……。ずいぶん並んでいますし……、今日はちょっと厳しいですね……」

「あら、そうなの……。残念だわ」

甘露寺が残念そうな顔をする。その顔があまりにも悲しそうだったので、希世花は口を開いた。

「それじゃあ、今度、行きましょうか」

「え?」

甘露寺が驚いたようにこちらを見てきた。

「……今度?」

「はい。三人で予定を合わせて、今度はあのカフェに行きましょう。私、来週なら空いてますし、次の週末も……」

甘露寺が何も答えずに呆けたように希世花を見てくるため、だんだん不安になってきた。

もしかして、自分と出掛けるのは嫌だろうか。

「あ、あの、……すいません。突然こんなこと言って……。蜜璃さんもお忙しいなら、……無理せず……」

「え?あ、ち、ちがうの!」

甘露寺が慌てたようにそう言って、希世花の方へグッと体を近づけてきた。

「ぜひ、ぜひ、行きましょう!三人で!」

「は、はい」

よかった、と思いながら胸を撫で下ろす。どうやら嫌なわけではないらしい。その時、甘露寺が涙ぐんだため、希世花はギョッとした。

「あ、あの、蜜璃さん……?」

甘露寺が聞き取れないほどの小さな声で、

「……そうよね。“今度”行けばいいのよね。私たちには“今度”があるんだものね……」

と言った。その言葉に首をかしげていると、しのぶが何も言わずに甘露寺を慰めるようにその肩に手を置く。甘露寺はチラリとしのぶと顔を見合せ、希世花の両手を取り、ギュッと力を込めて握った。

「私ね、すっっっごく嬉しいわ。希世花ちゃんから誘ってもらえるなんて……」

「は、はあ……あ、あの、すみません、ちょっと痛いです」

手を握る力があまりにも強いため、希世花がそう言うと、甘露寺が慌てて手を離した。

「あ、ごめんなさいね!」

「いえ……」

希世花は苦笑しながら、すごい力だったなあ、と心の中でこっそり呟く。

「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」

「あ、私はこっちなので」

帰る方角がちがうため、しのぶと甘露寺とはここでお別れだ。

「今日は楽しかったわ、希世花ちゃん!」

「はい。私も楽しかったです。」

「八神さん。それじゃあ、また明日。学校で」

「うん。それじゃあ、また」

「希世花ちゃん、また今度遊びましょうね!」

しのぶと甘露寺に大きく手を振りながら、その場から足を踏み出した。

「……またね、希世花ちゃん」

甘露寺は、もう一度別れの言葉を噛み締めるように小さな声で囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……蜜璃さん」

「ごめんね、しのぶちゃん。抑えきれなかったわ」

希世花と別れた二人は、ゆっくりと歩きながら話す。しのぶがそっと甘露寺の方へ視線を向けると、甘露寺はまた涙ぐんでいた。

「……圓城さんって、あんな風に笑う人だったのね。凄く、凄く可愛かったわ。まるで普通の女の子みたいで……」

「……普通の女の子、ですよ、ここでは。あの子も、私たちも」

「あ、そうよね。私ったら、ついうっかり……」

しのぶが鞄からハンカチを取り出して差し出し、甘露寺はそれを受け取って涙を拭った。

「……“またね”って、素敵な言葉ね。“今度”ってすごくキュンとしちゃった」

「……ええ」

「当たり前に、未来の約束ができるなんて。……“今度”があるなんて嬉しくて、嬉しくて、……思わず泣いちゃった。ごめんね。私、希世花ちゃんに変に思われてないかしら?」

「……大丈夫ですよ」

また涙がこぼれそうになって、それを必死にこらえながら甘露寺は笑みを浮かべた。

「……うふふ」

「どうしました?」

「圓城さんからね、誘われたの、初めてなの。前は私から何度誘っても、断られていたから。……お出かけしたのは三人で甘味処に行ったあの一度きりだったわ」

甘露寺は前世の圓城菫の姿を思い出す。いつも上品に振る舞い、おしとやかな微笑みを浮かべていた。しかし、常に一歩引いた態度で、誰とも親しく関わろうとしなかった。

甘露寺が何度か食事に誘ったが、彼女がそれに応えたことはなかった。

『圓城さんっ、もしよければこの後食事でもどうかしら?』

『……お誘いありがとうございます。とても嬉しいですわ。でも、今日は疲れたのでまたの機会にいたしましょう。』

『そ、そうなの。残念だわぁ』

いつも丁寧に、しかし有無を言わせぬ口調でキッパリ断られていた。

しのぶが懐かしそうに目を細める。

「あの子、昔は人と関わるのは避けていましたしねぇ……」

「私ね、しのぶちゃんと、圓城さんと、三人でお出かけしたいなって、ずーっと思っていたから。それが叶って、本当に嬉しいの」

甘露寺はしのぶの方を向きながら言葉を続けた。

「それにね、しのぶちゃんと希世花ちゃんが、とっても仲良しで、安心したわ。圓城さんもしのぶちゃんも、お互いに大好きなのに、昔はいつもギスギスしてたから……」

「………」

しのぶが少しだけ照れたような顔をして、甘露寺はますます笑った。

「希世花ちゃんって、圓城さんだった時と、全然ちがうわね」

「……そうですか?」

「ええ!圓城さんは綺麗でおしとやかで大人っぽくて近寄りがたい雰囲気だったけど、希世花ちゃんは大人っぽさが抜けて可愛くて親しみやすい感じ。不思議ね、こんなにもちがうなんて……」

「………ちがう。そうですか、ちがいますか」

甘露寺の言葉に、しのぶは物思いにふけるようにそっと呟く。

「……?しのぶちゃん?どうかしたの?」

「…いえ、なんでもありませんよ」

しのぶは誤魔化すようにそう言って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※甘露寺 蜜璃

前世では年上だと思っていた睡柱が、今世では年下のため、最初に聞いたときは大いに驚いた。でも年下の圓城さんも可愛いわ!とときめいた。前世では仲が悪かったしのぶと楽しそうに買い物をしている姿を見てキュンとした。というか、一緒にいる間キュンキュンしまくりだった。これからも三人でお出かけしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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