一閃流の継承者――開祖
「圧倒的じゃないか!」
アヴィドのコックピット内。
操縦桿を握りしめた俺は笑いが止まらなかった。
これだ――これなのだ。
圧倒的な力で敵をねじ伏せる。
しかも相手は海賊だ。
前世の取り立て屋のような怖い連中と重なるような輩を、俺は力でねじ伏せているという感覚に酔いしれていた。
奪われる側から、奪う側に回れた。
それが俺の心を満たしていく。
通常の機動騎士よりも大きく、海賊たちを次々に撃破していくアヴィドに敵が群がってくる。
「邪魔なんだよ!」
トリガーを引けば、アヴィドの周りに魔法陣がいくつも出現した。
空間魔法に収納した兵器が姿を見せる。
ミサイルポッドから次々にミサイルが放たれ、敵を追尾していく。群がる敵が逃げ回るが、追いつかれ爆発の中に消えて行く。
すると、爆発の中からくぐり抜けてきた海賊の機動騎士が数体。
他の機体とは動きが違う。
「海賊騎士って奴か?」
元は騎士だったが、色々な理由で海賊になった騎士たちの事を海賊騎士と呼んでいた。
多くは海賊団の用心棒やら幹部やら、とにかく海賊たちにとっても騎士は貴重な戦力である。
両肩にマウントしたシールドが、敵のビームやらレーザーやらを防ぐ。
機体をエネルギーフィールドが球体状に包み込んでおり、攻撃がアヴィドに届くことはない。
実弾を撃ち込まれても、アヴィドの装甲がソレを弾いてしまう。
「もうチートじゃないか! ――おっと」
近接武器――ブレードなどに持ち替えた海賊騎士たちの乗る機体が、次々に襲いかかってくるので避けておく。
流石のアヴィドも、騎士の攻撃には傷がついてしまう。
新車が傷つくような感じがして嫌なので避けておいた。
ほら、買ったばかりの物に傷がつくと嫌だし。
バズーカを放り投げてライフルを取り出して撃つと、相手も避けていた。
「普通の海賊とは違うな。だけど――甘い!」
アヴィドが近付いてきた海賊の機動騎士とすれ違うと、敵を両断していた。
「いい反応だ」
斬りかかってくる海賊の機動騎士たちを、次々に斬り伏せていく。
切り上げ、唐竹、逆袈裟、払い――ブレードを振れば敵が斬られて爆発していく。
その内の一体が、俺の攻撃をブレードで受け止めていた。
だが、アヴィドに突撃しパワー勝負を挑んできた。
接触したことで相手の声を拾ってしまう。
『お前――何をやった! いったいどこの流派だ!』
騎士の多くは流派を学ぶ。
武芸を学ぶのは騎士の基本であるからだ。
だが、俺の流派を知らないのか相手は困惑していた。
海賊騎士たちの中では一番動きがいい機体。
俺は興味を持って会話をしてやる。
「一閃流だ。師は安士。知らないのか?」
『知るかよ、そんな流派! ドマイナーな剣術使いがいい気になりやがって! 師匠の名前も聞いたことがない』
腹が立ったのでライフルを捨てて左手で海賊騎士の頭部を握りつぶした。
「ドマイナーだと? いいだろう――お前らを潰して一閃流の名を広げてやる!」
左腕一本で敵を破壊すると、俺はアヴィドを近くの海賊船に向けた。
ブースターが火を噴き、加速したアヴィドに次々に光が襲いかかってくる。
光学兵器の雨の中を突き進み、海賊船に突撃すると装甲を突き破って中に入った。
そのまま破壊してやると、爆発を起こす。
◇
ゴアズは爆発の中から無傷で出てくる黒い機動騎士を見ていた。
「な、何だ、あいつは! 誰だ。あの機体に乗っている騎士は誰だ!」
てっきりネームド――名のある騎士が乗った機動騎士だと思った。
大型で古い機体まで出してきたと思ったが、そんな機体に海賊騎士たちは手も足も出ずに倒されていった。
焦るゴアズは冷や汗をかいていた。
「こんなところにどうしてネームドが――」
だが、副官が部下からの報告を聞いて驚く。
「団長! あの機動騎士に乗っているのがバンフィールド家の当主です! リアム・セラ・バンフィールド本人です!」
「何だと!?」
その報告を聞いたゴアズが怒りに震える。
「小僧一人に高い金を払った用心棒たちが負けるっていうのか。あいつらに与えた機動騎士も安物じゃないんだぞ!」
高い用心棒代を支払い揃えた海賊騎士たち。
与えた機動騎士も闇商人から仕入れた星間国家が採用している機体だった。
外見は変更しているが、それでも普通の海賊たちが使用している機体よりも優秀なのだ。それなのに相手にならないというのが信じられなかった。
「――大将が出てきたなら好都合だ。奴を囲んで叩け! 馬鹿が。手柄欲しさに飛び出してくるなんてやっぱりガキだな」
部下たちが見ているため、ゴアズは虚勢を張る。
海賊というのはやはり同じ海賊であるゴアズでも信用できない。
数が膨れ上がればなおさらだ。
勝てないと思えば、ゴアズを裏切る可能性が高い。
椅子に座って余裕を見せていると、ゴアズの指示に従い海賊たちがリアムの機体に群がりはじめた。
だが――。
「なっ!!」
ゴアズは驚き口が開いてしまう。
リアムに群がった海賊たちが、一瞬のうちに斬り裂かれていくのだ。
リアムに近付くだけで爆発していく。
海賊船も両断され、まるで夢でも見ているようだった。
(あ、あり得ない! いくら騎士が強いからってこいつは異常だ。何だ。何なんだ、こいつは!)
信じられなかった。
そのままリアムは一直線にゴアズのいる旗艦を目指してくる。
味方である海賊船がひしめく中を突き抜けると、撃ち落とそうとした味方が同士討ちをはじめた。
「馬鹿野郎! すぐに止めさせろ! 機動騎士に相手をさせろ」
リアム一人に大慌ての海賊たち。
だが、敵はリアムだけではない。
副官が叫んだ。
「団長! 敵がこちらに突撃してきます!」
リアムを追いかけるように押し寄せてくる敵は、円錐のような陣形になっていた。
バラバラに動いていた海賊たちを突き破る。
練度が高く、乱れが少ないために海賊たちは混乱していた。
ゴアズが椅子の肘おきに拳を振り下ろした。
「役立たず共が!」
軍人崩れも多い海賊団だが、多くは訓練をまともに受けていない者たちだ。
少し劣勢になれば、そこから簡単に崩れていく。
ゴアズは思案する。
(流れが悪い。このまま負けるくらいなら、さっさと逃げて身を隠すか。少しばかりでかくなりすぎたと思っていたからな)
巨大海賊団の団長というのは魅力的だが、海賊たちを従えるのも面倒になってきていた。
いっそ身を隠そうと思い、ゴアズは副官を呼ぶ。
小さな声で、
「このまま逃げるぞ。信用できる連中だけに声をかけろ。他は切り捨てていい」
副官が驚くも、すぐに頷いていた。
「分かりました」
ゴアズの乗り込む旗艦が動き出し、そして周囲の護衛艦も動く。
(逃げ延びたら小僧には暗殺者を送り続けてやる。俺にはこいつがある。何度だってやり直せるからな)
錬金箱を強く握りしめていると、副官が叫んでいた。
「どうした! 早く逃げないか!」
操舵を担当する海賊の返答はこうだ。
「味方が邪魔で逃げられません!」
副官が部下を殴りつける。
「なら破壊してでも進め! 早くしろ。敵はすぐそこまで迫ってきているんだぞ!」
劣勢となり、速く逃げ出したい副官のこの行動。
普段なら絶対に取らない行動だった。
どうしてこんなことをしたのか?
――単純に近くまで迫ってきているリアムが怖かったのだ。
どうやっても止まらないリアムに、海賊たちは恐怖していた。
そして――。
『捕まえた』
――旗艦が激しく揺れる。
リアムのアヴィドが船体に降り立っていた。
◇
逃げようとしていた敵の旗艦を見つけて襲いかかった。
船体に着艦すると、アヴィドを狙う砲台を潰していく。
「流石の海賊も団長の船は狙わないか」
海賊たちは旗艦を攻撃できないのかためらっており、俺は堂々と旗艦の上を歩いていた。
「脱出艇が出そうなのはそこかな?」
ライフルで攻撃し、逃げ道を塞いでいく。
「今更逃げようなんて遅いんだよ。いったい誰に手を出したのか教えてやる。それから、お前らの財宝はみんな俺の物だ!」
丁寧に逃げ道を塞いでいくと、海賊たちが逃げはじめた。
味方がようやく追いついてくると、ノイズの激しい通信で指示を求めてくる。
『領主様、ご無事ですか!』
「追撃だ。一千隻を残して、残りは逃げる奴らを追え。絶対に逃がすな。降伏も認めない。徹底的に叩き潰せ!」
『はっ!』
逃げ惑う海賊たちを追撃する味方。
宇宙に出ても、やはり追撃戦が一番敵を倒せる。
味方艦が敵旗艦に横付けすると、陸戦部隊を送り込む準備に入った。
俺は機動騎士の格納庫へと入るため、ハッチを無理矢理こじ開けて中に入った。
機動騎士が待ち構えてバズーカを撃ってくるが、その程度ではアヴィドを破壊できない。
「あ~あ、汚れちまった」
無傷に近いアヴィドを見て、海賊たちが恐怖に駆られて攻撃してくる。
宇宙服を着た海賊までもが、ライフルを構えて攻撃してきた。
「邪魔だ」
アヴィドの装甲の一部が開くと、そこからレーザーが放たれ海賊たちを消し飛ばしていく。
機動騎士は斬り伏せ、そして抵抗がなくなると俺はヘルメットをかぶった。
パイロットスーツはそのまま戦闘服――パワードスーツでもある。
ブレードを腰の装備に取り付け、ライフルを手に持つとアヴィドから降りて海賊船へと乗り込んだ。
「さて、宝探しといきますか」
すると、味方の小型艇が次々に格納庫へと入ってきた。
陸戦隊が次々に降りてくると、俺の周りに集まってくる。
戦闘用のパワードスーツに身を包んだ兵士たちは、俺よりも全員背が高く威圧感がある。
そんな奴らが、俺に対して礼儀正しいとか――実に楽しい。
「リアム様、お迎えに上がりました」
ただ、こいつらは俺を連れ帰るつもりらしい。
「断る。お前らも付き合え」
「危険です! 動力炉は既に押さえましたが、敵が自爆でもしたら――」
「逃げるような奴が自爆なんかするかよ。ほら、さっさと来い」
嫌がる陸戦隊を率いて俺は船内へと入った。
陸戦隊は俺よりもごついパワードスーツを着用しており、俺の周囲を囲む。
海賊船の中は思ったよりも綺麗だった。
重力制御が解除されたのか、無重力状態の通路を歩く。
無重力でも歩けるようなブーツがあり、ソレのおかげで歩けていた。
「意外と綺麗だな」
「リアム様、不用意に前に出ないでください!」
注意されつつ先を進むと、俺の感覚が敵意を感じ取り全員を止まらせた。
「おい、隠れているぞ。――あそこだ」
通路の曲がり角。
そこで待ち構えている気配を感じた。
同時に、天井に潜んでいる海賊の気配も感じ取る。
部下がライフルを天井に撃つと、天井に穴が開いた。
そこから赤い血が玉になって宙に浮きながら出てきたので、どうやら倒したのだろう。
部下が俺に報告してくる。
「センサーに反応しないスーツを着用していたようです。こんな高価な装備を海賊が持っているなんて信じられません」
とても高価な装備を持っている。
つまり、期待できるということだ。
「いいね。このまま宝探しだ。ほら、いくぞ」
通路奥の海賊たちは、陸戦隊が処理したので先に進む。
すると、大きな通路に出た。
そこに待ち構えていたのは、パワードスーツを着用した海賊騎士たちだ。
「不用意なんだよ!」
俺たちに斬りかかってきた。
「リアム様をお守りしろ!」
部下たちが前に出ようとしたのを押しのける。
「不要だ」
俺はそのまま海賊騎士たちを無視して歩いた。
部下たちが困惑しているので、振り返って言う。
「何をしている。早く来い」
「え、いや――」
飛びかかってきた海賊騎士たちは、飛び出した勢いのまま壁や床にぶつかり体がバラバラになっていく。
「リアム様、何をされたのですか?」
戸惑っている部下たちに俺は素っ気なく言うのだ。
「斬った」
これでもまだ師匠の領域には届かない。
あの、本当に剣を抜いたかも分からない――斬っていないのではないかと思える斬撃にはまだ届かない。
今でも鮮明に覚えているが、今の俺の斬撃など師匠に比べると児戯に等しい。
俺についてくる陸戦隊が黙ってしまう。
そうだ、俺を恐れろ。
お前らの主人である俺を恐れ、崇めるのだ!
◇
陸戦隊の兵士が、前を歩くリアムの背中を見ていた。
子供がパワードスーツを着用しているので、多少大きくは見える。
だが、その背中はもっと大きく――偉大に見えた。
「あれだけの騎士を相手に何て余裕だ」
通常、騎士に出会ってしまうと兵士たちは不幸を嘆く。
それだけの力の差があるのだが、味方に頼もしい騎士がいると逆に幸運に感謝する。
同僚が兵士に言う。
「まだ成人もしていないのに免許皆伝だぞ。うちの領主様、実は凄い人なんじゃないか?」
元から内政手腕は高く評価されていた。
だが、軍事面は評価されていない。
そもそも、成人前なので軍人としての教育を受けていなかった。
評価のしようがなかったのだ。
「あぁ、信じられない強さだ。もしかして俺たち、とんでもない人の兵士なんじゃないか?」
バンフィールド家の領地出身の兵士たち。
彼らは外に出たことがないため、リアムがどれだけ凄いのか分かっていなかった。
だが、こうして戦場でリアムを見て、その姿に自分たちの領主は凄い人なのではないか?
そう思うのだった。