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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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初陣

 かき集められた戦力は五千隻だった。


 全体で八千隻という戦力を保有していても、整備中やら色々と問題もあって動けない艦艇も多い。


 だが、これだけ集まれば問題ない。


 宇宙戦艦のブリッジで、俺は特別に用意された椅子に座ってふんぞり返っていた。


 ブリッジは広く、百人を超える人間が忙しく働いていた。


 俺が乗り込んでいる旗艦でもあるため、普通の戦艦よりも人が多い。


 そんな働いている連中を眺めながら、


「出発はまだか?」


 軍人たちはピリピリとした雰囲気を出しているが、貴族である俺に対しては下手に出る。


 これが帝国の当たり前の光景だ。


「現在は準備中です。領主様、本当によろしいのですか?」


 確認を取ってくる司令官に対して、俺は「くどい」と言って話を切り上げた。


 こんなの消化試合である。


 勝って当たり前なのだ。


 俺は一人ニヤニヤしていた。


 海賊たちが持っている財宝が楽しみで仕方がない。


「それよりも、奴らは貯め込んでいるらしいな?」


 軍人たちが顔を見合わせている。


「そ、そのようですね」


「手に入れて何に使うか――今から楽しみだよ」


 笑っている俺を見て周囲は呆れていた。



 ゴアズ海賊団。


 一際大きな海賊船がゴアズの乗艦だ。


 滅ぼした国で使われていた宇宙戦艦で、随分と大きく気に入っていたので使用している。


 改造を施し、元の面影はほとんど残っていない。


 ブリッジで報告を受けたゴアズは、額に手を当てて笑っていた。


「出てくる? おいおい、ガキが一丁前に戦うってよ」


 周囲の海賊たちも笑っていた。


 今まで負け知らずのゴアズ海賊団だ。


 数も少なく、騎士もいない辺境の伯爵家など敵ではないと思っていた。


「心意気だけは認めてやるか。おい、生け捕りにしたら報酬は倍にすると全員に伝えろ。今度はそのガキを玩具に遊んでやる」


 副官が笑みを浮かべていた。


「団長も好きですね」


「たまにはこういう粋がったガキの相手も面白いな。終わったら、守りを失った領民をいたぶって遊んでやるか」


 ゴアズはどこまでも外道だった。


 こうして数十年、どれだけの命を奪ってきたのか分からない男だ。


 ソレも全ては、手に入れた黄金の箱――【錬金箱】が原因だった。


 簡単に言えば、生きている生物以外ならゴミからでも黄金を作り出せるような道具だった。


 既に失われた技術で作られており、二度と作り出すことは出来ない。


 黄金以外にも、ミスリルだろうがアダマンタイトだろうが用意する。


 まさに夢のような道具だった。


「さて、何も知らない小僧に、俺たちが本物の戦争を教えてやるとするか」


 海賊たちは既に勝利していたつもりでいた。


 それもそのはずだ。


 戦力差は六倍である。


 下手に策を練らなくても、正面からぶつかりさえすれば勝てるのだから。



 海賊たちと向かい合ったのは、領地を出てから数日後のことだった。


 司令官が指示を出しているのを椅子に座りながら聞いている。


 ソレよりも聞いて欲しい。


 俺が座っている椅子が高性能すぎて怖い。


 座っているのに腰とか痛くならない。


 このまま眠っても快適だ。


 目を閉じているとウトウトしてしまう。


 数日間も何をしているのかと言えば、互いに向きを整えるとか陣形を変えるとか色々だ。


 餅は餅屋。軍人たちに任せて、俺は見ているだけ。


 ただ、口を出さずに見ているが、戦いが始まりそうにもない。


 数が少ないために戦う前からどうにも苦戦を強いられているのは見ていて理解できた。


 俺は近くにいた軍人に話を聞く。


「いつになったら始まる?」


「領主様、もう始まっております。この規模になってくると、無闇にぶつかることが出来ません。ただ――向こうは圧倒的に数が多いため、こちらが苦戦中でございます」


「敵が見えないな」


「宇宙では、敵が見える距離は相当近いと思ってください」


「そういえば、習った気がするな」


 教育カプセルで勉強した気はするが、まともな軍人としての教育は受けていないので忘れていた。


 それにしても、俺の側にいる軍人は、下手に媚びてこない奴だった。


 媚びてきても良いが、正直に話しているのも評価はしよう。


 俺のために働いているのだから、そこは認めてやる。


 互いに位置取りをしつつ、距離を詰めるとかタイミングを計っているらしい。


 レーダーとか、計器類を確認して戦うのが普通らしい。


 それにしても睨み合いだけでいったい何日使うのか。


 司令官が呟いていた。


「あの規模になれば、参謀がいてもおかしくないか」


 海賊にしてはしっかりしているらしく、悔しそうな表情をしていた。


 隣にいる軍人と話をする。


 彼は帝国軍にいたらしい。


「戦場はいつもこんな感じか?」


「一般的ではありません。司令官も、どのタイミングで仕掛けるか悩んでおられます」


 互いにじりじりと距離を詰め、陣形を変え――。


 目視の距離にはいないが、互いが存在確認している。


 すると、オペレーターが叫んだ。


「通信障害発生! 敵、艦隊の直上から来ます! 数、五百!」


 通信にノイズが発生したかと思えば、今度は艦隊の直上――真上から五百隻程度の海賊たちが突撃してきたようだ。


 司令官が指示を飛ばす。


「先に仕掛けてきたか。迎撃用意! 敵本隊からも目を離すな!」


 素早く動く俺の艦隊が、突撃してきた海賊たちを迎撃するため船首を真上に向けた。


 司令官が苦々しい表情をしている。


 隣の軍人に聞く。


「戦力の分散って駄目じゃないの?」


「こちらの隊列を崩すための行動です。いくら素早く迎撃しようとも、こちらに隙が出来てしまいます」


「敵も最初から全力で突撃してくれば良いだろうに」


 文句を言うと、敵を見て気が付いたのか軍人が悔しそうな顔をしていた。


「領主様、アレは海賊ではありません。いえ、海賊ですが――海賊たちに投降した者たちです。他国の軍人です」


 帝国軍ではないようだから、他の星間国家の艦艇だろう。


 そいつらが突撃してきている。


 何となく察した。


「降伏した連中に突撃させたのか――それにしても、通信障害が起こせるなら、最初からすればいいだろうに」


「それでは、自分たちの通信にも問題が出ます。ここぞという時に行うものと思っていただければ」


 通信が出来ないと、命令も出せない、か――凄く面倒だな。


 それにしても、突撃してきた連中は海賊からすれば捨て駒か。


 突撃してきた海賊たちが攻撃を仕掛けてくると、こちらも迎撃するために撃ち返す。


 ビームとかレーザーとか、とにかく撃ち合っていた。


 暗い宇宙に閃光が走り、少しだけ綺麗に見えた。



 ゴアズはブリッジで手を叩いていた。


「小僧もやるじゃないか。いや、部下が優秀なのかな?」


 五百隻の味方が見事に撃退されてしまったが、そんなことはゴアズにはどうでも良かった。


 圧倒的に優勢で、おまけに失っても痛くない戦力だからだ。


 副官も余裕の笑みを浮かべている。


「団長、敵は混乱しているはずです。攻め時ですね」


 バンフィールド家の艦隊が乱れた。通信障害もあって混乱しているはず――そう判断した副官の言葉にゴアズが頷く。


 捨て駒である五百隻が戦っている間に、距離を詰めた海賊たち。


 ゴアズは勇ましい声で叫んだ。


「野郎共、突撃だ! 混乱している連中に海賊の流儀を教えてやれ!」


 一斉に突撃する海賊たち。


 隊列は乱れているが気にしなかった。


 敵が混乱していると思ったから。


 しかし、襲いかかろうとした海賊たちを待ち構えていたのは、トラップ――機雷だった。


 先頭を進んでいた海賊船が数十隻爆発に巻き込まれ、その後も爆発が起きている。


「小賢しい真似をしやがる」


 互いに睨み合っている時にでもばらまいたのだろう。


 だが、それでも被害は少ない。


 副官も動じていなかった。


「思ったよりもやりますね」


 ゴアズは笑っていた。


「これくらい楽しませてくれる方が面白い。多少の損害なんか――」


 直後、敵からの攻撃に前衛が攻撃を受け爆発していく。


「――あん?」


 ゴアズが片眉を持ち上げ、何が起こっているのかと副官の顔を見た。だが、副官は多少焦るも、すぐに返答する。


「どうやら、随分と練度の高い艦隊ですね。装備の質も悪くない」


 ゴアズが舌打ちをする。


 敵の様子が通信障害で把握できなかったが、どうやら素早く突撃させた艦隊を叩いて隊列を整えて待ち構えていた。


「やるじゃねーか。だが、それがどうした」


 それでも数が違う。


 海賊たちも攻撃を開始すると、互いに撃ち合う。


 激しく戦う先頭集団。


 しかし、ゴアズには攻撃は届かない。


 防御――戦艦を守るエネルギーシールドを展開した、護衛艦たちが周囲を守っている。


 敵の攻撃など恐れるに足りない。


「どんどん押せ! 数はこちらが有利だ。数で押せ!」


 多少抵抗が激しいだけ。


 ゴアズの認識はその程度のものだった。


 実際、バンフィールド家の艦隊との距離は縮まっている。


 副官が敵の動きを予想していた。


「普通の貴族の私兵艦隊なら、ここで逃げ出してもおかしくないのですけどね。敵前逃亡をする艦艇が出てくると楽なのですが」


 一隻が逃げ出せば、そのまま次々に逃げて艦隊が維持できなくなる。


 逃げる敵を追いかける方が楽なので、副官はそちらを希望していた。


「逃げない分だけ張り合いがある。お望み通りに徹底的に叩いてやれ」


「了解です、団長」


 練度の低い貴族の艦隊は、不利になると逃げる艦も出てくる。


 単純に練度不足が原因だ。


 バンフィールド家は、まとまって戦っているので粘っているように見えていた。


 突撃する海賊たち。


 二人が異変に気が付いたのは、いつまでも激しく撃ち合っている時だった。


 ゴアズが椅子から立ち上がった。


「――何だ?」


 モニターに見える光景は、最大望遠で敵の艦隊をとらえた光景だった。


 見えるのは艦隊を維持して――逃げずに戦う敵だった。


 ただ、その様子から戦意を喪失しているようには見えない。


 副官も驚く。


「後退しない? いや、むしろ前に出て――この距離は!」


 驚いている副官に向かって、ゴアズが叫んだ。


「機動騎士を出せ! 用心棒も全員だ!」


 その距離は、人型兵器を出して戦闘する距離にまで縮まっていた。


 おまけに敵は既に機動騎士を出撃させており、先頭集団に襲いかかっている。


「少しは骨がある小僧だ。捕まえて玩具にしてやるよ」


 ゴアズがはじめてリアムに苛立っていた。



 ブリッジでは司令官の近くにいた艦長が次々に指示を出していた。


 参謀たちも戦況を確認しては、指示を出している。


 とにかくかなり慌ただしい。


 一人の軍人――リアムの相手をしていた男は、誰も座っていない椅子に視線を向けた。


「本当に出撃するとは」


 ――困惑していた。


 リアムの相手をするために旗艦に配属されたが、そのリアムが機動騎士に乗って出撃すると言い出したのだ。


 司令官に突撃しろと命令を出し、今は戦場にいる。


 そのため、司令官も参謀たちも大忙しだ。


「機動騎士をとにかく前に出せ! 領主様を討ち取らせるな!」

「護衛機を振り切って突撃しています!」

「何をしている!」


 突撃してしまったリアムのために、ブリッジは大慌てだったのだ。


 軍人は巨大なモニターを見上げ、そこに映し出されるアヴィドを見ていた。


「これが騎士か」


 軍人とも違う、騎士という特別な存在。


 簡単に言ってしまえば、能力がとにかく高い。


 それは幼い頃から肉体強化や教育を受けた結果であり、一般兵では相手にならない。


 同じ機動騎士に乗っていても動きが違う。


 普通に戦うなら、一般兵では囲んで叩くしかない程に能力差がある。


 モニターに映し出されるアヴィドはバズーカを左手に持ち、右手にはブレードを握りしめていた。


 近付いた海賊の機動騎士をブレードで斬り裂くと、バズーカで海賊船を撃破していた。


 撃ち尽くしたバズーカを放り投げると、左手近くに出現した魔法陣にアヴィドが手を入れて武器を取り出す。


 空間魔法に、大量の武器を保管している。


 それを使い暴れ回っていた。


 ノイズ混じりのリアムの声が聞こえてくる。


『アハハハ、俺を止めてみろ!』


 躊躇なく敵を撃破し、海賊船を撃沈させていくリアムを見て軍人は頬を伝った汗を拭う。


「どうやればこんな子が育つというのか」


 成人を済ませていないリアムは、この世界の認識ではまだ子供でしかない。


 そんな子供が嬉々として海賊たちと戦っている。


 すると、指示を出し終えた司令官が軍人の近くに来た。


「怖いか?」


「し、司令。いえ、自分は!」


 背筋を伸ばした軍人に、司令官は「気にするな」と言って自分の椅子に座るのだった。


「――あの方は、貴族に生まれなければ普通の子でいられたのだろうか? 本当に不憫だな」


「不憫、ですか?」


 司令官が頷く。


「幼い頃に両親に捨てられ、押しつけられたのは辺境で疲弊した領地だ。それをどうにか発展させ、今はこうして海賊と戦っている。まったく、どうすればこんな子が育つのかわしも知りたいよ」


 司令官の愚痴は「わしの子供たちにも領主様を見習って欲しいものだ」だった。


 リアムの領地に押しつけられた元帝国軍の軍人たち。


 彼らは――融通が利かない頑固者が多かった。


 真面目すぎて左遷。


 優秀すぎて左遷。


 賄賂を断り左遷。


 とにかく、集まった者は真面目な者が多い。


 理由は案内人が、リアムとは――悪徳領主を目指すリアムと正反対の者たちを集めるようにしたからだ。


 そんな彼らから見て、リアムという領主は――。


「軍から追い出され、人生について色々と考えた時期もあったが――それがどうだ。まさか、ここで仕えるべき主君を得られるとは思わなかった」


 軍人も頷く。


「はい。本物の名君だと思います」


 誰よりも前に出て戦うその姿。


 本来であれば後ろにいなければいけないのだが、その姿に軍人たちは奮い立つのだった。


 トップが先陣を切るなど非効率的だ。


 だが、この人についていけば勝てると思わせるというのは、とても大事なことだった。


 リアムは気付かぬ内にそれを分かりやすい形で示していたのだった。


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