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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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宇宙海賊

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 もうすぐ五十歳――この世界での成人となる年齢が近付いてきていた。


 屋敷で日々を過ごしている俺は、ここで気が付いてしまった。


「せっかくSFみたいな世界に転生したのに、屋敷でしか生活しないなんて不健全だと思わないか?」


 執務室。


 天城が俺の仕事を補佐しながら、淡々と答えてくれるが転生云々はスルーしている。このメイド、スルー力も高いよ。


「屋敷内で適度な運動も出来て、安全も確保できているので問題ありません。むしろ、出歩かれては困ります」


 以前のナンパの件で怒っているのだろうか?


 ナンパに出かけたが、誰にも声をかけなかったけどね。


 本当にどうしよう。


 俺の目指している悪徳領主は、もっと酒とか飲んで美女を侍らせて――他には何をするのだろうか?


 酒はなぁ――この体で飲むと罪悪感があるし、そもそもおいしく感じない。


 女も無理して集めなくても、理想とする天城がいるから困らない。


 アレ? 無理する必要なくない?


「いや、駄目だ。俺は悪徳領主を目指している。こんなところで諦めていられるか」


「そうですか。しかし、悪徳領主と言われましても困りますね。何をなさりたいのですか?」


「――税金を上げて領民を苦しめるとか?」


「一時的に税収は上がりますが、長期的にはマイナスとなりますのでお勧めできません。領内の状況を見て、増税を考えましょう」


 状況次第では、税金を下げても領民に購買意欲が増し、結果的に税収が増える場合もあるという。


 ――違う。そんな経済的な話じゃないんだ。


 俺は他者を踏みにじりたいんだ!


 奪われる側じゃない。奪う側に回りたいんだ!


「そんな大人の意見は聞きたくない。俺は権力や暴力で奪う側に回りたいんだよ!」


 そうだ。


 俺は奪う側で、領民は奪われる側だ。


 税収とか知ったことか!


「よし、領内から美人を探して連れてこよう。ファッション――この際、諦めて連れてきてから俺好みにすればいいんだ」


 すると、天城が即答する。


「屋敷内で働いている者たちは、技術職以外は容姿も選考基準です。領内でも選りすぐった人材たちですよ」


 ソレを聞いて思い出す。


 確かに、屋敷で働いている者たちは美男美女が多かったな、って。


 天城は俺の考えを察したのか、


「誰か適当な者に伽の相手をさせましょうか?」


「いや、何か気分じゃない。――あれ? 手を出して良いの?」


「それも織り込み済みで雇っていますので。男性が良いならそちらも手配できますよ」


「――嫌だ」


 お前、俺が男に興味があると思っていたの?


 それより、手を出して良いです、みたいな子たちに手を出してもつまらない。


 抵抗があるから楽しいんだろうが!


「領内の芸能人とか連れてこよう! 嫌がる奴を屈服させるのが楽しいからな」


「旦那様、領内の芸能分野はまだ成長しておりません。それに、旦那様が呼びつければ喜ぶ者も多いでしょう。領内では、これ以上はない最高のパトロンですからね。もしくは、領外から連れてきますか?」


 外――他領から、という意味だろうか?


「俺は俺の領内で王様気分を味わいたいんだ! 余所から来たら、それは余所の人だろうが!」


 まだ十分な力がない状態で、他領と揉め事を起こしたくないので却下だ。


 もっと力を付けてから手を出そうと思う。


「ご安心ください。旦那様はバンフィールド家の支配者。気分ではなく、実際に一つの銀河――いえ、一つの惑星の王なのですよ」


 いや、そうだけど! そうじゃないんだ!


 というか、今言い直したよね? あぁ、そうだよ。銀河系を支配していると言いつつ、実際に支配しているのは、惑星一つだよ。


 俺のせいじゃないぞ。これも、父親や祖父が悪い!


 くそ――こんなにも悪徳領主になるのは難しいのか。


 天城が根本的な問題を思い出させてきた。


「そもそも、借金がありますからね」


 ――そう、借金だ。


 いくら領内が発展しても、借金があるために好き勝手に出来ない。


 無視すると面倒になるので返済しないといけない。


 何というか――これ以上、返済が遅れると取り立て屋共も本気になる。


 ――前世の恐怖が思い起こされる。


「くそ――借金を簡単に返済する方法はないものか」


「こればかりは仕方がありません。地道に返済していきましょう。こちらが誠意を見せれば、相手も無理な取り立ては――」


 すると、緊急の通信が入った。


 相手はブライアンだった。


「部屋に来れば良いのに、通信なんて何を考えているんだ?」


 通話を許可すると、空中に映像が浮かび上がった。


『リアム様、大変です! か、かかか――海賊たちがバンフィールド家に対して宣戦布告してまいりました!』


 ――海賊なのに律儀すぎないか?



 領内にある政庁は随分と大きな高層ビルだ。


 ここは領内を管理するための役人たちが働いており、俺も時々顔を出すくらいの場所でしかない。


 俺は偉いので、問題があれば部下を屋敷の方に出向かせる。


 もっとも、ほとんど通信でのやり取りで終わるけどね。


 会議室には主立った面子が集まり、海賊からの宣戦布告と要求について話し合いが成されていた。


 スーツ姿の役人が、緊張した様子で内容の確認をしている。


「海賊たちの要求は、全ての財と人質を差し出すようにとのことです。人質は容姿に優れた美男美女に限定する、とのことです」


 要求された貴金属類のリストを見るが、こちらが出せない量を指定してきた。


 人質の方は美男美女限定。


 ――苛々してくる。


 どうして俺がこいつらに、俺の所有物を渡さなければならないのか。


 役人たちばかりではなく、軍人たちもこの場にいた。


「領主様、ここは海賊たちと交渉して穏便に済ませるべきではないでしょうか?」


 そんな役人たちの弱腰の対応に、軍人たちが苛立っていた。


「相手はゴアズだ! 超高額の賞金首だぞ!」


 極悪非道の海賊らしく、超高額の懸賞金がかけられている。


 海賊団も倒せば、とんでもない金額が手に入るらしい。


 こいつらいったい何をやったんだ?


「勝てるのですか? バンフィールド家の保有する戦力はどんなにかき集めても八千。対して、ゴアズ率いる海賊たちは三万隻ですよ!」

「練度と装備の質もある! 数だけが全てではない。それに、何もせずに降伏したところであいつらが見逃すものか」

「そう言って、自分たちだけ逃げるつもりではないのか?」

「貴様、我々を侮辱するのか!」


 役人と軍人たちの言い争いが激しくなってくる中、俺はゴアズの懸賞金を見ていた。


 領主である俺からすればたいした金額でもない。


 無視できない金額でもないが、一気に金持ちになれるほどでもない。


 本当に微妙だ。


 ――そんな時だ。


 物音一つ聞こえなくなり、顔を上げると周囲の光景がおかしかった。


 役人と軍人たちが激しく言い合っていたのに、今はピクリとも動かない。


 全員、微動だにしない。


「――止まっている?」


 時間が止まっていると思った。


 すると、懐かしい声がする。


「はい。少々お時間をいただきました。結構疲れるのですけどね。それはそうと、お久しぶりですね。今はリアムさんとお呼びした方がいいでしょうか?」


 振り返るとそこには案内人が立っていた。


「久しぶりだな。それより、どういうことだ? 海賊が攻めてきたぞ」


 俺を幸福にするのではなかったのか?


 そういう意味を込めた聞き方をすれば、相手は察していたようだ。


「誤解です。これはリアムさんへの――プレゼントですよ」


「プレゼント?」


「はい。こちらの世界ではそろそろ成人されるのでしょう? その前に、貴族として立派な箔を付けて差し上げたかったのです。それから、この領地には借金がありますよね?」


 意地の悪い返答をする。


「おかげで好き勝手に出来なくて残念だよ」


「申し訳ありません。なので、莫大な財宝を所持している海賊たちをこの領地に招き入れました。倒せば全てリアムさんの物ですよ」


「俺の?」


 案内人は手を揉みながら俺に近付いてくる。


「はい。倒せば、リアムさんが手に入れるのは名誉、そして莫大な財宝です。海賊のトップがとんでもないお宝を持っていましてね。それをプレゼントするために送り込みました」


「――へぇ」


 笑みが浮かぶと、案内人も口角を上げて不気味に笑っていた。


「ご理解いただけて何より。さて、アフターサービスも終わりましたので、私はこれで失礼しますね」


 シルクハットのつばを小さく持ち上げ、そして深くかぶり直すと案内人の後ろにドアが出現した。


 相変わらず口元以外が見えない。


 俺にお辞儀をして去ろうとするので――。


「わざわざすまないな」


 お礼を言った。


 案内人の口元から表情が消えた気がしたが、すぐに笑みを浮かべていた。


「これも仕事ですので」


 ――案内人がドアを閉めると、そのまま消えてしまう。


 直後、騒がしい言い合いが再開された。


 止まっていた時間が動き出すと、俺は立ち上がる。


 全員の視線が集まったところで、俺は方針を告げる。


「丁度良いから俺の初陣を済ませようじゃないか。お前ら、準備をしろ」


 軍人たちが焦っていた。


 役人たちも同じだ。


「領主様、無茶です。あいつらは名のある海賊たち。海賊に身を落とした騎士も数多く囲っているはず。我が方には、バンフィールド家の騎士など一人もいないのです」


 譜代の家臣はいない。


 その後も、仕官してくる騎士などいなかった。


 だが、問題ない。


 案内人が段取りを付けてくれたなら、負けるはずがないのだ。


「それがどうした? いいか、俺がやると言ったんだ。お前らは準備をすればいい」


 軍人たちはまだ不満そうにしているが、役人たちは俺がかつて大勢を粛正したことを思い出したのか黙り込んでしまった。


 そうだ、黙って俺に従えばいい。


 俺に従っている内は大事に使ってやる。


 そうでなければ殺すだけだ。


「かき集められるだけ戦力をかき集めろ。アヴィドも出すぞ」


 軍人――帝国軍から引き抜いた司令官が俺に反対する。


「出撃されるおつもりか? 無茶です」


「初陣なんだから出るに決まっているだろうが。いいから命令に従え。これから楽しい海賊狩りだ」


 勝つと分かっている勝負ほど楽しい物はない。


 俺のために莫大な財宝を運んできてくれた海賊たちだ。


 丁寧に対応してやるよ。


「――出撃だ」



 屋敷ではブライアンが落ち着かない様子だった。


 天城が報告してくる。


「アヴィドは無事に宇宙港へと届いたそうです。そのまま、旦那様が乗艦される戦艦へと積み込まれる予定です」


 ブライアンが頭を抱えている。


「何という不運。ようやく領地が昔の活気を取り戻したというのに、よりにもよって凶悪な宇宙海賊が押し寄せてくるとは」


 天城は動じなかった。


 だが、心配はしているらしい。


「まだ負けてはいませんし、旦那様の判断も間違いではありません。海賊団の情報からするに、降伏は無意味です。それから、帝国から正規軍を派遣すると連絡がありました」


 ブライアンが首を横に振る。


「間に合いません。数を揃え、領地にやってくる頃にはどうなっていることか」


 危険な海賊団が帝国領内に侵入したとして、正規軍が出撃することになった。


 だが、とてもではないが間に合わない。


 最悪、領内が荒らされ、海賊たちが逃げ去った後に正規軍がやってくることも考えられた。


 ブライアンが嘆く。


「ようやく――ようやく、バンフィールド家が立ち直ろうとしていたのに。リアム様が、あと百年早く生まれてくだされば」


 リアムに期待していたブライアンは、海賊たちを恨むのだった。



 宇宙港。


 集結するバンフィールド家の艦隊を見ている男がいた。


 案内人だ。


 宇宙空間に普段の格好でいる。


 宇宙港の上に立ち、大慌てで迎え撃つための準備をしているリアムたちを見て笑っていた。


「プレゼントは気に入って貰えたようですね。さて、私としては海賊たちに捕まり玩具になってくれると最高なのですけどね」


 案内人はリアムに言わなかった。


 ゴアズ海賊団が保有する戦力が、並大抵の海賊団とは違うということに。


 それはゴアズが大事に所有している箱に秘密がある。


 アレがゴアズの資金源。


 豊富な資金で、ゴアズは戦力を整えていた。


 練度はともかく、装備の質もそこまで劣っていない。


 この勝負、数が多い海賊たちの方が有利だった。


「私にお礼を言うなんて――後でどんな顔をするか楽しみですね。次期に感謝は憎しみに変わり、笑顔は憎悪で醜く歪む。きっと私を満足させてくれることでしょう」


 リアムの転落する人生を待ち望む案内人。


 その後ろで小さな光が案内人を離れ、戦艦に積み込まれているアヴィドへと向かった。


 案内人に気付かれないように、アヴィドへと入り込む。


 何も知らない案内人は両手を広げていた。


「どのような結果になるのか楽しみですね! さぁ、リアムさん――待ちに待った真実を知る時ですよ」


 どうして自分がリアムをこの世界に転生させたのか。


 どうして前世が不幸だったのか。


 全てを教える時が、待ち遠しくてたまらない案内人だった。


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