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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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リアム君三十歳

 前世で三十歳と言えばオッサンだ。


 だが、こちらの世界では小学生くらいだ。


 以前より体は大きくなっているし、よく食べてよく寝ている。


 体は前世の子供時代よりも大きいのではないだろうか?


 それはいいとして、問題は――。


「――まだ駄目か」


 刀を鞘に入れた状態で左手に持った俺は、周囲の丸太を見ていた。


 置かれた三つの丸太の内、二つまでは何とか斬ることができた。


 だが、どれも切り口が荒い。


 師匠に見せてもらった切り口とは全然違った。


 乱暴に斬った断面は、師匠のまるで最初から斬っていたかのような綺麗な断面と比べると恥ずかしい。


 師匠が俺を見て神妙な顔付きをしている。


 呆れているのだろうか?


 俺は頭を下げる。


「申し訳ありません、師匠。まだ、師匠の剣には届きません」


 師匠は首を横に振る。


「剣の道は長く険しい。ゴールなどありはしませんよ。それにしても、二十年ばかりでよくここまで形にしましたね」


 この二十年、どうやれば師匠と同じ事出来るのかを考えてきた。


 基礎を繰り返していても出来るとは思えなかったので、師匠の言葉を思い出したのだ。


 それは魔法だった。


「はい! 魔法を使用しました。刃に薄くまとわせて、それで斬るようにすると間合いが延びると分かりました。正解でしょうか?」


 これで合っているとは思うのだが、師匠の奥義とは違いすぎる。


 間違っているのかと思っていると、師匠は拍手をしてきた。


「そこまで気が付けば正解に非常に近い。ただし、片手落ちですね」


「片手落ちですか?」


「えぇ、そうです。魔法を使用するのなら、魔法も学ばなければなりません」


「学んでいますが?」


 俺も貴族――しかも伯爵なので、魔法についても学んでいる。


 もっとも、今の時代は個人の魔法などあまり重要視されていない。


 宇宙戦艦のビームを前に、魔法とか無力だよ。


 結論から言えば武芸も同じだ。


 極論を言えば、個人の力量など俺の立場に必要ないのだ。


 だが、いざという時に役に立つから覚えている。


「そ、それは魔法を覚えただけです。それでは足りないということです」


「なるほど!」


 本格的に学べばいいわけだ。


「すぐに魔法の授業を増やしてみます」


 師匠が頷く。


「それがいいでしょう。それから、しばらく奥義は封印します。魔法を学び――そうですね、十年もあればいいでしょう。それまで、基礎練習以外を禁止します」


 せっかくここまで出来るようになったのに!


 そう思ったが、流石の俺も師匠には抵抗できない。


 この人と戦えば、俺など一瞬で真っ二つだ。


「わ、分かりました」


「よろしい。それはそうと、領内の様子は大丈夫なのですか? 武芸にだけかまけていては領主失格ですよ」


 何と優しい人だろうか。


 俺のことを心配してくれている。


「大丈夫です。領内の改革を進めていますし、ようやく結果が出てきましたからね」


 軍の再編。


 統治機構の改革。


 領内開発の方針を決め、新しい開発計画も始まっている。


 この世界、元から宇宙進出を果たしているだけあって、開発能力は恐ろしい程に高い。


 数日で高層ビルが建つ、と言えば分かってくれるだろうか?


 人が乗り込んだ作業機械や人型のロボットたちが、恐ろしいスピードで開発していくのだ。


「それは良かった。では、今日も基礎を確認するとしましょう」


「はい!」


「ただ、普通にやっても意味がありませんね。今後は目隠しをして重りを付けてみましょうか」


「目隠しと重りですか?」


 師匠が刀に重りをつけて、俺は目隠しをするようにと言ってきた。


「重い刀が、枝を振るような感覚になるまで振りなさい。目隠しは、目だけに頼ってはいけないという教えです」


「分かりました!」


 まるで漫画のような修行だな。


 だが、師匠の言うことなので間違いない。


 ――それより、こっちの世界ってあんまり余裕がないから娯楽関係があまり発展していないんだよね。


 そっちにも投資をしてみるべきだろうか?



 目隠しをして、重りを付けた刀を振り回しているリアムを安士は見ていた。


(何だこいつ! 何なんだよ、こいつ!)


 先程から冷や汗が止まらなかった。


 まさか、自分が見せた大道芸を剣術の技として再現するとは安士も思っていなかった。


 それこそ、最近は動きが自分より凄いとは思っていた。


 基礎しか教えてこなかったのに、独力であの大道芸を奥義として再現したリアムに安士は焦りを感じていた。


(もしも俺が嘘をついていたとバレたら――駄目だ。一瞬でみじん切りにされてしまう!)


 それっぽい雰囲気で、それっぽいことを言っていただけの安士だ。


 既にリアムの方が剣士として数段上であり、普通に戦っても負ける自信があった。


(と、とにかく、引き延ばして金を貯めないと。もう、ここにはいられない)


 ダラダラしているだけで生活できたので、報酬は既に使い切っていた。


 各地にいる弟子の様子を見てくると言って、都会に出かけて豪遊を繰り返していた。


 逃げるだけの金がないのだ。


(こ、これからは金を貯めて逃げる準備をしよう。そうだ。そうしよう!)


 目隠しをしたことで、思うように動けないリアムを見ながら安士は冷や汗を拭うのだった。


(それにしても、基礎しか教えていないのにここまで出来るって――こいつ、もしかして天才なのか?)


 安士は指導者ではない。


 リアムに才能があるのか分からなかった。


(わ、分からん。とにかく、今は時間稼ぎだ。動画とかでそれっぽい修行方法を見つけておくか。でないと――バレたら殺される!)


 逃走のための資金と、生活費を稼ぐために安士はしばらく耐えることにした。



 目隠しなんて意味があるのか?


 そんなことを当初は考えていた。


 だが、どうだ――。


「師匠の言いたいことが分かりました。視覚以外の五感を使う感覚が分かりました。それによって目だけで見るな、ということですね!」


 目隠しをした状態で師匠の方を見る。


 師匠が歩いて俺の視界から逃げようとするので、顔を向けると驚いたような足音が聞こえてきた。


 師匠を驚かせてやった。


 これは俺も成長しているのではないだろうか?


「う、うむ、この短期間でよく習得しましたね。いや、本当に。なんで、たったの数年で会得するかな?」


 俺の成長は予想外だったようだ。


 首をひねっているのが見ていなくても分かる。


 俺は重りの増えた刀を指先で遊ばせるように振り回した。


「見てください。今ではこんなに簡単に振り回せますよ」


「そ、そうか――いや、自惚れてはいけない!」


「え?」


 師匠が俺に対して厳しいことを言ってくる。


「確かに、今の君は視覚以外の感覚を研ぎ澄ました。だが、それだけだ。魔法的、超常的な感覚を得てはいない」


 魔法的、超常的と聞いて、まだ先があるのかと驚いてしまった。


「まだ、目に頼らない方法があったんですね!」


「と、当然さ! それから、その刀ではもう軽すぎるだろう。特別な刀を用意する」


 特別な刀と聞いて、俺は嬉しくなった。


「楽しみです!」


「そ、それはよかった」


 どういうことだろう?


 どうにも師匠が怯えているように感じてしまう。


 気のせいかな?



(ふざっけんなよ、おい!)


 安士は目隠しをしながら、自分の方に顔を向けてくるリアムに恐怖していた。


 重りを増やした刀を指先で振り回している。


 もう、目隠しをしながら生活できるのではないだろうか?


 逃げても顔が追ってくる。


(どうする? どうするよ!? こんなに早く会得するとか考えていなかったぞ!)


 無茶振りして時間を稼ぐつもりが、数年で物にするとは考えもしなかった。


(こいつもしかして天才なの? それなら早く言えよ!)


 そもそも指導者として失格。詐欺師の安士だ。


 リアムの才能を測るなど無理なのだ。


(めっちゃ重い刀を作らせて持たせてやる。あと、長くすれば良いのか? そうすれば、振り回すのも難しいだろ)


 第六感とか、超常的とか、魔法的とか、とにかく言っておいた。


 しばらく時間は稼げると思いつつ、安士はもう一計を案じる。


(そうだ! アレを使おう!)



 安士が向かったのは、屋敷に用意された倉庫だった。


 解体した屋敷から運び出された芸術品やら、扱いに困った物が置かれている。


 ここから盗み出した骨董品を売りさばいてもみたが、そのほとんどが偽物だった。


 そんな中には随分と古い人型兵器――機動騎士があった。


 随分と大きい人型兵器は、現行主流となっている十四メートル級ではなく二十四メートル級だった。


 とても古く、何百年も前に作られた機体は数世代も型落ちしている。


 リアムの曾祖父が使っていた物のようだ。


 安士は天城を連れて倉庫に来ると、機動騎士を指さした。


「この古い機体を使えるようにしてくれ。リアム殿の練習機とする」


 天城が疑った視線を安士に向けている。


「こちらは随分と古い機体です。現行機を用意した方がよろしいのでは?」


「ソレでは駄目だ!」


 安士が心配しているのは、最新式の機動騎士は操縦が簡単であるということだ。


 世代を重ね、操縦が随分と楽になっている。


 性能も格段に上がっており、リアムのように時間がある人間が乗れば数年で操縦できるようになってしまう。


 ソレでは時間が稼げない。


「これもリアム殿のため。修理に出して使えるようにしてほしい」


「ですが、既にパーツが存在しません。修理するとなると、時間もかかります。主流となっているのは十四メートル級、十八メートル級なので、この大きさの機体を取り扱える工場は限られており――」


 天城が安士に対して丁寧に対応するのは、リアムが師匠と認めているからである。


 そうでなければ、もっと対応が雑になっている。


(お前らの事情なんて知るかよ! そうだ、ついでにこいつらに金を使わせてやろう。そうすれば、俺を追いかける余裕がなくなるはず。俺って頭が良いな!)


 安士は、古い機動騎士の基本フレーム。


 人型のフレームは、とても頑丈であるというのを思いだした。


「昔の機体は作りがしっかりしている。新しいパーツを取り付ければ、現状の機動騎士よりも頑丈に仕上がるだろう」


「いえ、そのように単純な話ではなく――」


 否定する天城に、安士は無理矢理押し切ることにした。


「とにかく! しっかりと作り直すんだ。その方がリアム殿のためになる。そうだな、操縦方法はマニュアルがいいな。最近のオートでアシストが充実しているのは駄目だ」


 色々と注文を付けると、天城が渋々ながら納得した。


 リアムからの命令で、安士の指示には可能な範囲で応えるようになっている。


「すぐに手配いたします」


「頼むぞ。金はいくらかかっても構わない。リアム殿のためだからな!」


 借金がある中、更に財政を厳しくするために安士はとにかく色々と注文を付けるのだった。



 安士がいなくなった倉庫。


 天城は機動騎士――機体ネーム【アヴィド】を見上げていた。


 基本フレームがむき出しになっている部分が多く、装甲フレームなど一部が錆び付いている。


 ボロボロのアヴィドを見上げ、天城は思案する。


(あの男、本当に達人なのでしょうか? 確かに旦那様は強くなられましたが、あの男がそこまで凄い人物とは思えない)


 普段の生活態度を見れば、安士が達人とは思えなかった。


 だが、成果が出ている。


 それに――。


(いくら調べても怪しいところが出てこない。むしろ、不自然なほどに――)


 安士を解雇しようにも、成果を出しているので難しい。


 それに、経歴をいくら調べても怪しいところがないのだ。


 どうなっているのか、天城にも分からなかった。


「――命令であれば実行するだけ。しかし、困りましたね」


 現在、二十四メートル級の大型機動騎士はあまり使用されていなかった。


 そのため、整備するとなるとどこの工場でも、とはいかない。


 技術的に優れていて、パーツなども作成できる大きな工場に持っていく必要があった。


 たとえるのなら、近所の小さな整備工場にクラシックのスポーツカーを持っていくようなものだ。パーツもないし、整備の仕方も分からない。


「製造元は――帝国の工場の一つですか」


 帝国が管理している兵器工場の一つが、アヴィドの製造元だった。


 今も存在しているし、整備を任せられるのはそこしかない。


 天城は安士に言われた要望を確認する。


「随分と要望が多いですね。予算が確保できるかどうか――とにかく、連絡を取ってみることにしましょう」


 整備士を呼んで、アヴィドの状態を確認してから連絡を取ることにする。


 段取りを考えながら倉庫の外に出ると、リアムが目隠しをしながら歩いていた。


 とても嬉しそうにしている。


「その足音は天城だな」


「正解でございます、旦那様」


 目隠しをしているのに周囲が見えているように歩いていた。


「旦那様、その状態で歩き回られては危険ですよ」


「問題ない。これも修行だ。それより、俺の機動騎士を用意すると聞いたが?」


 天城は安士が希望した機動騎士について話をした。


「旧式の機動騎士を整備し、使えるようにするとのことです。十四メートル級を一機用意すれば予算的にも助かるのですけどね」


 リアムは顎に手を当てて首をかしげた。


「師匠の考えがあるんだろ。とにかく頼むぞ。俺はこのまま屋敷の周りを歩いてくる」


 目隠しをしたまま去っていくリアムを見送る。


 転ばないか不安になる天城だった。


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