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俺は星間国家の悪徳領主! 作者:三嶋 与夢
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一閃流

どうやら自分は星間国家というのを勘違いしていたようです。


でも、訂正している時間がないのでこのまま更新します!


――今、凄く忙しいの。

 何やら雰囲気のあるオッサンがやって来た。


 奇抜な屋敷の庭先で、オッサン――安士師匠は俺の前で正座をしている。


 無精髭を生やし、ヨレヨレの着物姿。


 まるで浪人だが、何だか雰囲気が違う。


 これが本物の武芸を身につけた男なのだろう。


「――リアム殿」


 ゆっくりと、そして静かに師匠が俺の名前を呼んだ。


「は、はい!」


 萎縮していると、師匠は俺に笑顔を向けてくる。


「緊張する必要はありません。まずは、拙者の流派について説明しておこうと思います」


 師匠は刀を見せてくる。


 この世界にも刀が存在していたので、どうせ学ぶならこっちがいいと選んだだけだ。


 深い意味もなかったが、師匠の雰囲気から達人だと思う。こんな人に教えて貰えるなら、選んで良かった。


「リアム殿、我が流派の奥義は必殺の秘技。無闇に見せてはなりません。ですが、拙者の実力を見たいでしょう。なので、特別に奥義をお見せしましょう。ただし、関係者以外は見ないでいただきたい。リアム殿お一人で見ていただく」


 それを聞いて喜ぶ。


 いきなり奥義を教えてくれるとは思わなかった。


 俺の後ろにいる天城が、疑ったような視線を師匠に向けていた。


「安全面の問題から、それは許容出来ません」


 師匠は表情を崩さなかった。


「それでは、この依頼をお引き受けできません」


 俺はすぐに天城に命令をした。


「天城、俺が許可する」


 天城は少しためらった後に――。


「――何かあればすぐに助けをお呼びください」


 そう言って離れていく。


 二人だけになると、師匠は何やら丸太を用意していた。


 俺に触るように言ってくる。


「これを斬るのですか?」


「えぇ、そうです。では、リアム殿の好きな位置に並べましょう。拙者の周囲に――それから、刀の届かない位置に、ね」


 言われて丸太をどこに置くか、指定すると師匠が丸太を地面に刺していく。


 そうして、刀の届かない範囲に師匠が立った。


 刀は鞘にしまっている。


「リアム殿、一閃流の奥義は武の極み、そして魔法も使った技になります。技などこれ一つで十分。他は基礎のみに力を入れています」


 俺が師匠の雰囲気に息をのむ。


「奥義はみだりに見せたりしてはなりません。なりませんが――極めれば、見られようと何の意味もない。これが、極意――奥義である一閃です」


 そう言って師匠は一度だけ左手の親指で刀の鍔を押し、そして戻してパチンと小気味良い音を立てた。


 右手は動いていない。


 自然体でそれだけの動きを見せただけで――。


「嘘だろ」


 ――丸太が全て斬られて、地面に落ちていた。


 切り口も綺麗で、丸太ごとに全て違う太刀筋で斬っている。


 刀の届く距離ではないし、居合いのような技なのだろうか?


 それが分からずに困惑していると、師匠は深呼吸をしていた。


「これが一閃流の奥義でございます」


「いつ、斬ったのですか?」


 驚く俺に師匠がもう一度だけパチンと刀を鳴らして見せた。


 またも丸太が斬られたが、その丸太は師匠の真後ろにあった。


「それは一閃流を学ぶ過程で分かってくるでしょう。己で答えを探すのも、一つの修行ですよ。さて、それでは問いましょう。一閃流を学びますかな?」


 俺は大きく頷いた。


「はい!」


 凄いな、ファンタジー世界! まさか、こんなに凄い技があるなんて思いもしなかった!



 あの日から数年が過ぎた。


 リアムは十歳になっている。


 毎日のように、安士が教えた基礎を繰り返していた。


 その様子を遠くから安士が見ている。


「子供って言うのは物覚えが早くて羨ましいね。さて、次は何を教えるべきだろうか?」


 基礎は刀だけではなく、槍、素手、小刀、色々と教えていた。


 そもそも、安士に教えられることの方が少ない。


 リアムに教えつつ、動画で見た武芸の基礎などをソレっぽく教えることもある。


 木陰で休んでいる安士は、新しい屋敷を見た。


 以前の奇抜な屋敷は解体されており、代わりに用意されたのは随分と――質素な屋敷だった。


「バンフィールド家なんて悪い噂が多い家なのに、あのガキは随分と質素な生活をしているな」


 安士への待遇が酷く悪いというわけではない。


 だが、今まで見てきた貴族たちに比べると、リアムは酷く質素だった。


 今日も必死に基礎を繰り返している。


 僅か三年で、安士は教えることがなくなりつつあった。


 そのため、今は見守るだけにしている。


「見ているだけで楽だけど、あの人形が時々監視するからな。というか、なんであんな人形を側に置いているんだ?」


 貴族は基本的に人形を側に置きたがらない。


 それもあって、安士にはリアムが変わり者に見えていた。


「――何も知らない子供に爵位も領地も与えるとか、貴族というのは度し難いね」


 活気のない領地。


 だが、数年前よりは多少マシになっていた。


 職業訓練を受けた元兵士や領民たちが、インフラ整備を行っている。


 滞っていた領内整備が開始され、領内に税金が今までよりも使用されていることで活気が出てきていた。


 だが、安士もバンフィールド家の事情は知っている。


 多少マシになったくらいで、莫大な借金が消えるわけがない。


 発展しても、相応に搾り取られるだけだ。


「そう思うと、あのガキも可哀想なのかも知れないな」


 安士はリアムに少しだけ同情していた。


 でも、それだけだ。


 騙していることを教えるつもりもないし、このまま甘い汁を吸うつもりだった。


 ただし、一つ気になることがある。


「でもあのガキ――汚職とか嫌いだから、バレたら俺も消されるかな?」



 武芸を習い始めてしばらくした頃だ。


 新しい屋敷が完成したのだが――。


「もうこれでよくね?」


 俺の抱いた感想は、仮で作った屋敷でも十分というものだった。


 ハッキリ言って広い。


 天井も高く、それに形だって何か屋敷! という感じだ。


 奇抜でも独創的でもない無難な屋敷は、生活するのに不便もない。


 執務室で書類にサインをしていると、天城が俺に話しかけてくる。


「旦那様、次のカプセルへ入る時期はいつ頃にしましょう?」


「もうそんな時期か?」


 教育カプセルに入るのも時期がある。


 時期というか、何年も入って一気に教育を終わらせることが出来ない。


 だから、成人するまでに何度か入る必要がある。


「いつがいい?」


「いつでも問題ありません。今回は半年を予定しております」


「なら、近い内に入るわ」


 基本的に惑星一つを管理するなんて、人の手には負えない。


 何しろ常に問題が起きているのだ。


 それを俺一人で捌ききれるわけがない。


 領民から役人を集め、管理を任せるので精一杯だ。


 天城が一つの書類を見て手を止めた。


「どうした?」


「――この書類をご覧ください」


 巧妙に隠しているが、何やら怪しい書類だった。


 調べてみると、役人が何やら利益を得るために色々としているらしい。


「この書類を出した奴を呼び出せ」


「かしこまりました」


 天城が連絡すると、数時間後に役人の中でも偉い立場にある男が屋敷へとやって来た。



 大きく腹の出た男は、高そうなスーツに身を包んでいた。


 俺を前にして笑顔で話している。


「領主様、ご理解できないと思いますが、これは仕事をする上で必要な経費です。何事も書類上の数字だけでうまくはいきません」


 言っていることも一理はあった。


 だが、俺は天城からの報告を聞く。


 こういう時、人工知能って凄いと思ったね。


「資金の横領を確認しました。他にも余罪を確認しております」


 電子書類を受け取って確認する。


 よくもこれだけやって俺を前に笑顔でいられたものだ。


 単純な横領から、人事への口出しとか賄賂とか――汚職役人の鑑だね。


 だが、その中の一つに目が留まった。


 それは、こいつが一人の男性を車ではねたというものだった。だが、相手が悪いとして罪になっていない。


 抗議した家族を――こいつ、消してやがった。


 しかも、男性の奥さんを――遊ぶだけ遊んで捨てていた。


 役人が俺の前で言い訳をしていた。


「領主様、人形の言うことなど信じてはいけません。そいつらが前文明を滅ぼした張本人たちであり、人類の敵なのです。領主様は騙されていますよ。確かに、多少罪になることはしたかも知れません。しかし、この程度は皆がやっています。これも仕事をする上で必要な潤滑油なのです」


 何やら俺に説教を始める役人を前に、俺は近くに置いてある刀を手に取った。


 天城が止めに入る。


「旦那様、いけません!」


 刀を抜くと、役人が俺を前に慌てはじめた。


「こ、小僧! 一体誰のおかげで生きていられると持っている! お前がこうして生きていられるのは、わしらが支えているおかげで――」


 刀を抜いて役人を縦に両断した。


 血が噴き出し、応接間が血で汚れる。


「――その口を閉じろ」


 天城が俺にスプレーを吹きかけてくる。


 泡が血の汚れを落としていく。


「旦那様、もう死んでいます」


 役人を見下した俺は、この男が前世の間男に重なって見えた。


 権力を使って俺をはめたあの男だ。


 弁護士が来て、全面的に俺が悪いとして一方的に攻め立ててきた。


 周囲にも根回しをされ、俺は会社をクビになりそこからは酷い生活が待っていたのだ。


「俺の権力を使って良いのは俺だけだ。お前みたいなゴミは死ね! 苛々する。天城、徹底的に調べ上げろ。汚職役人は全て処刑だ!」


 俺は俺に従う部下は大事にしても良いが、俺を傀儡(かいらい)にしようとする部下は嫌いだ。


 俺の領地も領民も、虐げて良いのは俺だけだ。


「旦那様、手をお離しください」


 すると、天城が刀を握った俺の手を両手で包み込むように握っていた。


 放そうとするが、指が動かない。


「あ、あれ?」


「お手伝いいたします」


 動かなくなった俺の指を一本一本丁寧に、刀の柄から放していく。


 手放すと俺は随分と汗をかいていた。


 ――人をはじめて殺したことに、罪悪感でもあるのか? 悪徳領主になろうとしているのに情けない。


 天城が俺の刀を受け取り、血の汚れを落として鞘にしまっていた。


「先程の件ですが、私一体では手が足りません。同レベルとはもうしませんが、相応の人形か、管理専用の人工知能を用意していただく必要があります」


 役人を見下ろしながら思ったね。


 こいつらよりも人工知能の方が役に立つ、って。


 だが、世間体もある。


 ブライアンが言っていたが、人工知能を大々的に使うのは帝国的に面白くないようだ。だが、俺には関係ない。


 知ったことか。


「何体あればいい?」


 天城が即答する。


「屋敷の管理も必要です。財政状況から――私のようなメイドロボットを十二体。あとは、領内の統治に特化したものと、その子機を用意していただければ問題ありません」


「お前の好きにしろ」


「すぐに手配いたします」


 役人を見下ろし舌打ちをした。


「――天城たちの方がマシだな」



 ブライアンは新しい屋敷で、新しい使用人たちを前に教育を行っていた。


 怯えた顔をしている使用人たち。


 少し前、リアムが汚職役人たちを一斉摘発。


 そして、大量粛清を行ったばかりだ。


 まだ幼いリアムについて、領内では色々な噂が飛び交っている。


 すぐに激怒し、使用人たちを斬り殺すという噂もその一つだった。


 そんな彼らを前にして、ブライアンは丁寧に説明する。


「リアム様のことで不安に思っているのでしょうが、あのお方は仕事をする部下に対して寛容です。必要以上に怖がる必要はありません」


 一人のメイドが不安そうに小さく手を挙げた。


「何か?」


「あ、あの、その――リアム様が(とぎ)を命じられた際は、その――」


 屋敷の主人が使用人に手を出す。


 そんなのは、この世界ではどこにでもある話だった。


 中には自分を売り込む女性も居る。


 だが、リアムの話を聞いて不安になったのか、女性たちが怯えている様子だった。


「リアム様はまだ幼く、側に侍るのは天城だけとなっております。そのような心配は必要ありません」


 誰かが言った。


「――人形を側に置くなんて」


 その言葉に、ブライアンが目つきを鋭くするのだった。


「今の言葉は聞かなかったことにしますが、二度目はありませんよ」


 ブライアンにとっても天城は問題が多い。


 だが、数年を過ごす内にある事に気が付いた。


 リアムが天城を必要以上に信頼しているのだ。


 それはまるで、幼子が甘えているようにも見えた。


 幼いながらに苛烈で決断力もあるが、やはり母親を欲しているのだとブライアンは考えている。


(リアム様は賢いお方。捨てられたことも理解しているはず。クリフ様、どうしてもっと大事に育ててくださらなかったのか)


「天城はリアム様にとって特別な存在です。決して、見下すような態度を取らないように。もしもリアム様に知られれば、私では庇いきれませんよ」


 幼いながらにリアムは、領内で非常に恐れられていた。


(だが、領内は確実に良くなっている。リアム様がいれば、バンフィールド家もかつての栄光を取り戻せる)


 ただし、同時に――汚職役人たちを一斉に粛正したことで、領民には人気もあった。


 ブライアンはリアムを信じ、心の中で再度忠誠を誓うのだった。


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