「うーん……」
シャーレの顧問を務める先生は、様々な学園で起こる問題を前に多忙な生活を送っていた。日々の業務にトラブルの仲裁、それに生徒との交流も合わさり過労死寸前のラインで仕事をなんとか回している先生のことを心配する生徒は数多いるが、その中でも特に身を案じて献身的に支えているのが…
『先生?どうかしましたか?体調がよろしくないんでしょうか…?』
先生の背後から声をかけるこの白衣を着た天使…生徒は鷲見セリナである。
『もう…先生!また徹夜してるんですね?健康に悪いって何度もお伝えしてますよね?』
「あぁ…セリナ、ごめんな。でもこの書類だけは早めに終わらせておきたくて。それにもし万が一私が倒れてもセリナが駆けつけてくれるんでしょ?」
『それはそうですけど…でもダメです!ほら!またインスタントで夜ご飯済ませましたね?あれほど健康に悪いって言ったのに…』
多忙な先生にとってこんな会話は日常茶飯事だ。ただ、それが行われている時間を考慮しなければ。
机上の時計が表示するのは深夜3時、当然シャーレのセキュリティは作動し部外者は入ってこれないはず。にもかかわらず、このセリナという生徒は先生の呻き声ひとつで何事もないかのように仕事部屋に現れるのだ。
ちょっと前に過労で倒れた時も
停電で怪我をしてしまった時も
ヒナタがバラバラにしてしまった経典を修繕する為にトリニティ各地を回った時も
まるで最初から全て見ていたかのように現れ、助けてくれる。
(やっぱ変だよなぁ…)
言わぬが吉と思って堪えていた先生も、今だけは踏み込んで聞いてみる気が起きた。
「…そういえばセリナってどうやってここに来てるの?監視カメラの映像にはいつもセリナが入ってくる様子が写ってないんだけど…」
『え?それは…その…………そんなことより先生!そうやって話を逸らさないでください!私が傍にいてあげますから…そろそろ目を休めましょう?』
やはり怪しい。
正直なところ、いつセリナに見られているのかわからない状態は非常にまずい。万が一変なものを見せてしまうかもしれないと考えると満足に"息抜き"できないのだ。パソコンの隠しファイルに集めた秘蔵のコレクション達も泣いているだろう。
セリナならそれでも構わないと言うだろうが…
そうだ、次の休暇にセリナの能力を試そう。どうやって来ているのかがわかればセリナにも隙が生まれるかもしれない____
「…ということなんです!お願いします!」
この日先生は救護騎士団の団長、蒼森ミネの下を訪れていた。セリナの休養日を把握する為である。
「確かに、彼女は最近働き詰めだったので私の方から休暇を出しておくことにします。あぁ心配しないでください先生、彼女が担当している患者さんは私たちが引き続き"救護"しておきますので。」
そう語りながら握り拳を作る彼女の姿に一抹の不安を覚えたが、何はともあれセリナの休日を引き出すことができた。救護のプロである彼女でも休暇中には何かしらの隙が生まれるに違いない。セリナを尾行して適当なタイミングで録音しておいた私の声をシャーレの執務室に流せば、彼女がどうやって駆けつけているのか見ることができるだろう。
ちょっと前に仮病でセリナを呼び出して一緒にご飯を食べた時もセリナは私の声に反応していたし、この方法ならセリナに悟られず呼び出せる気がする。
「先生として生徒のことはもっと知っておきたいし、少しぐらい試してもいいと思うんだ。アロナもそう思うでしょ?」
[うぅ〜〜ん……先生、うまく言葉にはできないんですが、やめた方がいいと思いますよ…?]
「いやいや〜作戦は完璧だし〜?バレてもそんな大事にはならないよ。じゃあ当日はよろしくね、アロナ。」
[(大丈夫なんでしょうか…)]