ジュ ジュ

勝手に入ってきたくせに

「僕は君と出会って世界に色が戻ったって言ったけど、どうやらそれは君を通して世界を見ていたからなんだってことに気付いたんだよね。表現が正しいのか、これが適切かどうかはわからないけれど、僕は君に飲み込まれていた。だからきっと、君の言いたいこともやりたいことも手に取るようにわかったんだと思う。僕の観ていた景色は全部君のものだった。悪いのは僕だよ。僕がちゃんと生きていないから、魂が本体じゃなくて別のものに取り憑いたんだと思う。君のエネルギーの強さと魅力に吸い寄せられて、そっちを選んだんだと思う。君は全ての時間に全力で、いつも生気に溢れていた。純粋で、健気で、本当に真っ直ぐだった。だけどそれが怖かった。僕なんかがいなくても生きていける強さをもった君が怖かった。消えちゃうと思った。僕が繋ぎ止めておかないとどこかへ行っちゃうと思った。本体を見失った魂は行き場をなくして死んでいくだけ。だからその本体を失いたくなくて、縋り付いていたんだと思う。
だけど思ったんだ。僕が僕でいるために、君が君でいるために、きっと一緒にいるべきじゃない。
僕の欲望で、どんどん君という人間が蝕まれていくのが怖い。君の将来を僕が潰してしまいそうで怖い。
これから君の体は、僕の魂の居場所なんてないくらい野心で埋め尽くされていくと思う。
そして体のキャパシティーに限界が来たとき、きっと君のことだから僕のことなんて簡単に追い出すと思う。どんな手を使ってでも。
だから、そうなる前に僕から去るよ。僕にもなけなしのプライドはあるからね。」


自分本位な他力本願。

自利利他なようで我田引水。

一方的に告げ、彼は出て行った。
家からも、そして私の中からも。


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