2097年4月14日
二十八家の若手魔法師を集めた会議、『若手会議』開催日となる今日。主催者である俺、克人、智一の3人で各二十八家の若手に招待状を送り、主催者を含めた24名が参加する運びになっている。
ちなみに、集めたメンバー的に『二十八家若手会議』とするのが妥当ではないかという意見が参加者数名から事前に質問されていたが、後々は参加メンバーを百家にまで広げたいので、それを見据えて『若手会議』とした事を返答しておいてある。
さて、そんな栄えある『若手会議』第一回となる今日なのだが。今日に至るまで、色々とあった。まぁ、会議開催に関するかは怪しい事項だが、一応ここに明記しておきたい。
1つ目は、一条剛毅の経過報告だ。
剛毅は魔法演算領域のオーバーヒートが疑われる衰弱をしていて、四葉はその専門家である夕歌を派遣している。なので、治療の経過は順調であるか、剛毅、将輝、夕歌から報告を受けた。その報告を真夜ではなく、何故か俺が受けたのだが。
(ま、形式上、俺が遣わした形になってるしな。どうせ、夕歌自身が真夜にも報告するんだろうが。……にしてもあの人、強かだよな)
報告のためにヴィジホンの画面越しで4人が対面していたのだが、夕歌は頻繁に『十六夜君』と下の名前を親しげに呼び掛けてきた。夕歌と俺が親戚関係である事を剛毅と将輝は知らないのだが、この親しさは親戚関係を疑われるきっかけになっただろう。
俺は『彼女と俺は関わりが深いですからね、親戚であるかはともかく』と、どうとでも取れる言葉で煙に巻いておいた。
(夕歌は、保険を掛けておきたかったって事かな)
夕歌は特殊な病状の専門家として、二十八家の間にその名が広まりつつある。その稀有な才能を狙われるかもしれない立場に、彼女自身がなっているのだ。
だからこそ、彼女は保険を掛けた。夕歌は十六夜と懇意である。だから、夕歌を狙ったら、四葉が出てくるかもしれないと。
ここで懇意にしている相手を、『四葉』ではなく俺個人としているのは中々抜け目ない。『四葉』は親戚しか守らない印象があるが、俺は全体主義、もっと広い範囲を守る印象を持たれている。
だから、仮に夕歌が四葉血縁者でなかったとしても、俺なら守る可能性が高い、という話に持っていけるのだ。
そこまで夕歌の意図を読んだ俺は、彼女の強かさを強く認識したのだった。
(とりあえず。完治はいつになるか分からないが、快方に向かっているようだし。剛毅も将輝も血縁関係の追及はせず、治療の感謝をしてきたんだから、良しとしよう)
結果は上々として次へ。
2つ目は、矢車の稽古だ。
基本的にエリカに揉まれており、同じエリカに稽古をつけられた者としてレオが巻き込まれて共に切磋琢磨し、俺が時折様子を見に行っていた。
途中、早くも小通連、矢車用に調整した試作機ができ、その慣らしもさせている。矢車曰く、武器の握り心地も魔法使用の感覚も、怖いくらい馴染むとの事。第一高の設備を用いた1回だけの計測でそこまで仕上げるのは、さすが達也と言ったところだろう。
ともかく。刀身を分離させる、布を硬化させて刃の代わりとする、分離した刀身を移動系で動かす、それらすべての起動式が矢車用に調整されている。そのため、予想以上に慣らしが順調で、皆が達也の凄さを再認識して苦笑を浮かべていた。
ちなみに、布を硬化して刃の代わりにするという、薄羽蜻蛉の仕組みと一部被っている点について、『あんたらは揃いも揃って
(銃刀法を擦り抜けるには、薄羽蜻蛉の仕組みが便利すぎるからな。俺も達也もつい使いたくなっちゃうのはある。それに、別に薄羽蜻蛉は特許技術でもないし)
家の秘技を特許技術として他人にも閲覧できるようにするなんてアホな事を誰がやるのか、という話は横に置く。
矢車の成長については進捗がよろしいという事で、次だ。
3つ目は、101旅団から達也への支援要請だ。
旅団長である佐伯少将が睨んでいた通り、佐渡近海で起こった不審船爆破は陽動。本命であるソ連軍が北海道へ向けて侵攻したのだ。
ただそれが軍艦を用いた侵攻という単純なモノなら、旅団含む国防軍も達也を引っ張り出すまでもなかっただろう。
だが、ソ連は漁船に似せた戦闘艦艇を群で送り込んでくるという、なんともみみっちい手に出ていたのだ。
(下手に撃沈すれば、罪のない漁船を日本が撃沈したとか、くだらない言い掛かりを付けられる。だからって1つ1つ戦闘艦艇であるという物的証拠を探す手間を掛けたら、艦艇全てを堰き止めるのは不可能になる)
ソ連の言い掛かりを跳ね除けるためには、ソ連の攻撃を受けてから反撃しなければいけないという、国防の観点からは絶対許されない策しかない。
だからこそ、達也を引っ張り出すしかなくなったのだ。
(達也なら、ミサイル撃ってこようが魔法を使ってこようが、被害を出す前に無効化できる)
達也のみ、敵の攻撃を見てから無傷で反撃する事が可能である。ならばこそ、国防軍に達也を使わない手はない。
(だからって、授業中に呼び出すかよってな)
達也は第一高で授業を受けている最中に、国防軍から呼び出されていた。一応、真田少佐1人で第一高へ秘密裏に来訪。達也を第一高からの緊急メッセージで呼び出すという配慮をしてくれた。
だが、第一高側に達也と国防軍の繋がりを認識させた事には変わりない。あまつさえ、授業中に達也を学校から軍設備に連れ出したのだ。もちろん、生徒たちにはただ達也が早退しただけの形、ともすれば『四葉』関連の急用が舞い込んだかのような形に仕立て上げたが、どっちにしろ悪目立ちが過ぎる。
(国防軍には困ったもんだな……。これは、達也脱退の件、早めに進めた方が良いか……)
達也が国防軍に良いように使われている状況を憂い、達也に国防軍を脱退させる案について、俺は早急に取り掛かる事を決めた。
今日までにあった特筆すべきイベントは以上である。
話を『若手会議』に戻そう。
『若手会議』が開催される場所として、魔法師協会関東支部が設けられている横浜ベイヒルズタワー、そこの貸出されている会議室を予約してある。
そうなると自然、その会議室への受付案内は横浜ベイヒルズタワーの入り口に置かれる。
それで、誰が案内受付をするのかという話だが――
「十六夜くん、おはよう。達也くんは捕縛作戦以来だけど、お久しぶり、で良いのかしら?」
「おはようございます、十六夜さま!ご機嫌麗しゅうございます!」
「……泉美、司波先輩も居るからね。……そっちにも挨拶しないと礼儀を疑われるからね。……、四葉先輩、司波先輩、おはようございます」
――その役を務めるのが、七草3姉妹である。
真由美は少しお茶目を装いながら、泉美は俺への信仰心で盲目になりながら、香澄は名家の娘として体面を整えながら、俺と達也を出迎えた。
ちなみに、俺に加えて達也もこの会議に参加するのだが、ちょっとした役割分担をしている。俺は主催者側なので、四葉としての発言を控えなくてはならないから、その四葉としての発言は達也にしてもらう。そういう、はっきりとはしていない分担だ。
それで、四葉としての発言なら次期当主である深雪が適任なのに、その役割を達也に担ってもらっている理由だが。達也には、集団圧力に負けない剛胆さがあるからだ。深雪に不利益な意見は、たとえそれが全体的に利益のあるモノだとしても、問答無用で跳ね除けられる。後、それでどんな不興を買おうとも、あくまで達也個人の意見という体裁が作れる。次期当主の婿という立場であるから、完全に四葉家と切り離す事はできないが、それでも次期当主である深雪にそうさせるよりはマシなのだ。
閑話休題。
「お久しぶりです、七草先輩。それとおはよう、香澄、泉美」
「真由美さん、泉美さん、香澄さん。おはようございます。受付案内を押し付けてしまって申し訳ない」
「良いのよ、これくらい。狸親父が四葉も十文字も利用してるんだから、これくらいは引き受けないと」
達也が挨拶を返し、俺も挨拶を返しつつ真由美たちに頭を下げる。そうすれば、真由美は実の父を貶して、苦にしていない事を態度で示した。
「利用してるって……。そもそも会議の発案者は智一さんでしょう」
「どうせ狸親父の入れ知恵よ。智一兄さん、父の言いなりな部分があるし、父の言葉に騙されやすいから」
弘一を擁護しようとしたのだが、何故だか智一が巻き込み事故に遭った。
妹からこうも言われる智一に、俺は少し同情する。弘一は知らん。
それで、智一の方は擁護すべきかと、俺が少し躊躇った、その時だ。
「十六夜さん!達也さん!」
入り口である自動ドアが開いた瞬間に、その場から俺たちに誰かが声を掛けた。俺たちと会えた事に喜びを抑えきらないような声音のそれだ。
正直、誰なのかは迷うまでもない。
「光宣さん、お久しぶりです」
「反魔法師の暴力事件について、2月に電話会議で情報共有したが。直接顔を合わせるのは、去年の論文コンペ以来になるか」
「はい、達也さん、十六夜さん!直接顔を合わせられる今日を楽しみにしていました!」
光宣は俺と達也の元へ駆けてきて、即座にこちらの手を達也、俺と順々に握っていった。
言われてみれば、周公瑾捕縛作戦に協力してもらったきり、俺は光宣と会っていなかったのだ。だからこそ、光宣は再会の機会を心待ちにしており、今日この日を逃したくなかったのだろう。こうして俺たちと会えた彼の喜び様は、高速で振られる犬の尻尾を幻視する程だ。
「おはようございます、光宣君。今日の会議に参加するのね?」
「真由美さん、それと、香澄さんと泉美さんも。おはようございます。……残念ながら、僕は会議には参加しません。ちょっと病み上がりというのもありますし、九島を代表するのは、僕では分不相応ですから」
光宣は俺と達也に目を向けすぎていて、真由美たちへの挨拶が遅れた訳だが。真由美はその事を気にせず、自身から自然に光宣の視界へ入っている。ついでに、受付として参加の有無を訊いたのだが、光宣は気恥ずかしそうに不参加と回答した。
最近また体調を崩していた。九島を代表できる権力が自身にない。俺と達也に会いに来ただけ。
それら3つを総括した気恥ずかしさなのだろう。
「会議には
ただ、気恥ずかしそうな態度を見せ続けるのも気恥ずかしかったのか、光宣はすぐに話題を変え、俺たちの横をいつの間にかに通り過ぎていた人
2人組の片方が蒼司なのは明白として、その横に居るもう片方は誰なのか。
「あら、そうだったのね。だったら、案内役を手伝ってもらえるかしら?」
「はい、喜んで」
何故だか、真由美も光宣も、そして香澄、泉美、達也さえそのもう片方を話題に上げない。光宣がこの後どうするのかという話題へ、早々に移ってしまっていた。
ただ、その原因は考えるまでもなかった、と言うか考える間もなく、あっちが俺だけに明かしてくれている。俺への好奇な視線をちらりと向けて、それに釣られてそっちを見た俺に不敵な笑みを見せ付ける事で。
(……あの人、『パレード』まで使って何やってるんだ)
俺の記憶にあるあの人と不敵な笑みを浮かべた彼、その人相は合致していない。だが、あの人なら『パレード』が使えてもおかしくないと思い至り、俺は納得するとともに苦笑した。
悪戯心はあるが、敵愾心がない事は明らかなので、俺はあの人が満足するまで泳がせる事にする。
「どうした、十六夜」
「ん?ああ、ちょっと睨まれた気がしてね。九島となれば納得だ。九島家を十師族落ちに追い込んだのは四葉家、と言うか俺だからな」
達也は俺が他所を向いていた事について言及してきたので、俺はテキトーな理由をでっち上げた。
俺が烈に七草家の分も背負って十師族を辞任するように持ち掛けたのは事実。九島蒼司は睨みこそしなかったが、意図的に俺を無視しているようだったのは事実。
つまり、『睨まれた気がして』というところ以外はだいたい事実だ。俺は何も嘘を言っていない。
「十六夜、あれは九島の自業自得だ。お前が責任を感じる事は何もない」
「責任なんて感じてないさ。逆恨みされて、ちょっと面倒だと思っただけ。どう仲直りしたもんかな、てね。老師は仲良くしてくれてるんだけどなぁ」
達也は俺が九島との関係で過敏になっていないか、心配してくれているようだ。『睨まれた気がして』という表現が、蒼司の敵意が籠ったプシオンを俺が感じ取った事の表現と捉えたのかもしれない。
何にせよ、達也は俺に関して過敏になっているようなので、ちゃんとはぐらかしておいた。
「僕も仲良くしてますよ!なんだったらもっと仲良くしてください!」
「うん、まぁ、それは願ってもないが。君の家を悪く言ってるんだけど、何か思うところはないのかい?光宣さん」
『仲良く』というワードに反応する光宣。友人関係にはお前も過敏なのかと、俺は孤独だろう彼を哀れんで良いのか呆れて良いのか分からなくなる。
そんな分からなくなっている内に、キャラクターはどんどん増える。
「四葉、司波。……ん?」
「四葉先輩、司波先輩。……ん?」
増えたキャラは一条将輝と七宝琢磨。奇妙にも声が被った事で、ようやく互いを認識していた。君たちは何故、そんな俺以外を意識の外へ置く程に一直線に向かってくるのか。
まぁ、俺が話題の人、比較的親しい知り合い、この会議の主催者側、以上3つの要素が揃っている故なのだろうが。どうしても意識を俺に集中してしまう、という話だ。
「一条、それに七宝か」
「2人とも会議に出席してくれるのか」
「あ、ああ。そうだ、会議に出席させてもらう」
「俺も。多くを学びにやってきました」
とりあえず達也と俺が返事をすれば、一条と七宝はそれぞれの思いを持っての参加である事を窺わせていた。
七宝は言葉にしているためにその思いが分かりやすい。一条は、分かりづらいが、何処か固い事から、この会議に大きな意義があると考えているのは分かる。
何にせよ、この場に四葉、七草、九島、一条、七宝と、無駄にそうそうたる面子が集まっているし、初見の組み合わせも多いので各々自己紹介をし合った。
どうでも良い話だが、七宝は第一高入学当時の話で泉美に揶揄われていた。仲違いをした2人だが、そのくらいには仲が改善していたようである。
「予定時刻の10分前だ、十六夜。そろそろ会議室に居た方が良いだろう」
「そうだな。じゃあ、みんな行こうか」
達也のタイムキープで会議室への入室を促され、俺は七宝と一条も引き連れて入室する。
室内を見渡せば、4つだけ名札が置かれていた。正方形を描くようにセッティングされた長机、その一辺にまとめて4つだ。その名札には、俺、克人、智一、そして六塚温子の名が記されている。その名札が置かれている場所が、その4名の指定席、という訳だ。
主催者3人はともかくとして、六塚に指定席があるのは、彼女がそれだけ立場のある人間である事の証左か。
まぁ、まだ俺を除いたその3名は会議室に姿を現していないのだが。
六塚は当主として忙しいし、克人と智一は会議に関する準備があるので仕方ない。
ちなみに、俺が克人と智一の準備に付き合っていないのは、俺が、『四葉』がこの会議のまとめ役、あるいは代表者をするつもりがないと参加者に示すためだ。そうする事で皆に必要以上の緊張をさせず、意見を言いやすい場を整えたかったのである。
ともかく。俺は指定席の並びを確認する。
「……六塚さん、俺の隣か」
六塚が真夜を崇拝している点から、ある種当然の並びなのだが。しかし、それ以外の並びはどうすれば良いのかと、頭を悩めてしまう。
指定席があるのは4名。参加者は全体で25名(内、事前に参加表明していない闖入者1名)。長机は4つであるから、1つに6・7名座らなければならない。よって、指定席が4つある長机にも、後2名座らなければいけないのだ。設けられた空間的には、六塚の隣に1名、反対側の智一の隣にもう1名となるか。
では、六塚の隣に誰が座るか、という話である。
「七宝さん、そこの席に座るかい?」
「え、いや、俺は……」
冗談半分で件の席を七宝に勧めたが、七宝は凄く嫌そうだった。それはそうである、としか言えない。
「普通に司波をそこに置けば良いだろう」
「あんまり『四葉』が近くに集まるのは、周りに威圧感を与えるんじゃないかと思ってね」
「……与えそうだな。……仕方ない、俺がそこに座ろう」
こちらの意図に賛同した一条が、渋々と件の席に着く。さすが、実戦経験があるだけあって、度胸がある。
という事で、俺を中心として、右に六塚、一条、達也、七宝の並びである。ちなみに、左は克人、智一の並びで、その先の席には、もう誰かが座っている。
首から下げされたネームプレートには、五輪
とにかく。主催者側である俺が席に着いたのを皮切りに、集まっていた参加者が続々と席に着いて行く。あの闖入者も、備品の椅子を持って来させて、蒼司の隣に陣取っていた。そんな彼の近場に座る皆は、彼を少し訝しみながらも次第に意識の外に置いていく。彼が何者か気付いた訳ではない。精神干渉系か何かで、認識をはぐらかされているのだろう。
(いや、ほんと……。いつ追い出すべきかな、あの人……)
意図的に俺だけ彼の魔法適応外にされているのか、俺は彼の正体が分かっている。分かっているだけあって、どう対応するのがベストか、頭が痛くなってくるのだ。
(……会議開始直後に追い出そう。それで満足してもらうしかない)
さすがに彼をそのまま出席させるとこの会議の意義がなくなり得るので、俺は開始直後に彼を追い出す事にするのだった。
そんな頭を痛めている内に時間は過ぎ、会議開始予定時刻4分前となる。
周囲の緊張感が高まった。
そうするだけの人物が、この会議に姿を出したのだ。
白を基調としたパンツスーツの女性。今会議に出席できる十師族現当主、克人以外のもう1人。
六塚温子、その人である。
彼女が会議室に姿を現した瞬間、参加者の視線が全て彼女に集まった。
だが、慣れたモノというか、師族会議に列席する彼女からすれば、現当主でもない連中の視線などそよ風に等しいのだろう。何処吹く風でまっすぐ指定された席へ、いや、俺の傍へ。
何がしたいか分かりきっているので、俺は椅子から腰を上げておく。
「やぁ、四葉十六夜君。テロリスト捕縛作戦以来だ」
「お久しぶりです、六塚さん。この場では、温子さんと呼ぶべきでしょうか?」
師族会議や、ジード捕縛作戦の成果を報告した際と違い、非常に砕けた態度で接してきた六塚。この会議がそういうお堅い場でないと理解しているのだろう。俺はそんな彼女の態度に合わせるよう、親しみを込めて言葉を返した。
「悪くない。うん、実に悪くないな。……今後公式の場以外では、『温子さん』と呼んでくれるだろうか」
「そんな場で会う機会なんて、今後何度あるかも分かりませんが」
「若手会議には最優先で出席しよう。……いや、そうなると、再来年以降は会えなくなるか。……年齢制限を後5歳上げてもらうように頼んで、……いや、それだと八代殿も出席できるようになってしまう。……実に悩ましいな」
『温子さん』呼びが何か琴線に触れてしまったようで、六塚が俺との邂逅に並々ならぬ積極性を出し始めた。後、さりげなく八代雷蔵が出席できるようになってしまう事を何故問題にしたのか、非常に謎なところだ。
「……この検討は後にしよう。それよりも、だ。……そちらに居るのが十六夜君の兄、司波達也君だな?」
「はい。十六夜の兄、司波達也です。弟がお世話になりました」
六塚に話を向けられたので、しっかりと席を立って応対する達也。その動きはとてもスムーズで、初対面のはずである六塚に好感を抱いているかのように感じられる。
と言うか、俺はお世話になった記憶がないのだが。強いて世話になったとするなら、あの師族会議の件か。ジードの脅威を教えるために師族会議に混ざって迷惑をかけた、というのはギリギリ世話になったと言えるかもしれない。
「こっちの台詞だ。十六夜君のおかげで、魔法師への風当たりは良くなった」
「そうですか。十六夜をそう評価していただけるならば、こちらとしては嬉しい限りです」
「達也?お前は俺の親か何かか?」
何故だか著名人に息子が褒められた父親のような態度を達也が取っている事に、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
「お前の兄だが、何か?」
「いや、うん、そうなんだけどさ……?」
達也の言葉は彼の態度について何の説明にもなっていないのだが、すごく堂々と宣言されたので、俺は返しに困ってしまう。
彼は、こんなキャラだっただろうか。
このやり取りを聞いている七宝や一条、そして聞き耳を立てていた周りも困惑気味だ。例外なのは、腹と口を押えて微動している六塚くらいである。彼女にしろ、その態度は可笑しいとして、笑いを堪えているようだが。
そんな、良し悪しはともかく緊張感がなくなったこの場に、大真面目な顔した克人と智一が現れる。
「……何かあったのか?」
「……いえ。少なくとも悪い事は起こっていません」
空気がおかしい事を察した克人。諍いのような凶事は起きなかったと、俺が代表してそう言い表した。
「……そうか。まぁ、それなら良い」
別に剣呑としてはいない空気なので、克人はそれ以上追求せず、自身の指定席へと腰を下ろす。
智一もそれに続いている。
「……予定時刻だな。……それでは、『若手会議』を始めよう」
時計の針と居並ぶ者たちを見て、克人は『若手会議』を取り仕切る。
これより、第1回『若手会議』が開かれるのだった。
真由美による智一評:だいたい合ってる。智一本人はあまり腹芸と言うか、人を騙すのが得意ではない純朴な人間である。だが、純朴であり、十師族子息としての使命感を持っているため、弘一が『これも日本魔法師界のため』と
十六夜たちの横を通り過ぎていく九島蒼司:九島家の十師族落ちに四葉家が関与しているため、四葉家を敵視している。それが十六夜たちを無視した要因の1つだが、もう1つ別の要因がある。さて、その要因とは……?
蒼司の隣を歩いていた人:20代男性にしか見えないが、いったい、何処の『パレード』を使えるおじいちゃんなのか……。
特に関係はない話だが、『パレード』は九島烈の弟である九島健の方が得意だったと言われているが、別に烈が『パレード』を使えないとは言われていない。
琢磨と泉美の仲直り:あの喧嘩について、ある時琢磨が真っすぐ謝りに行って、香澄もその謝罪を以て流す事にした。それはともかく、あの時の喧嘩を弄るネタとしてしょっちゅう引っ張り出す。香澄も揃って弄る。琢磨は『ぐぬぬ……』となるしかない。
砕けた態度の六塚温子:四葉家と(正確には真夜と)親交を深めるため、その息子である十六夜と達也とも親交を深めたいと思っている。少なくとも、十六夜と達也には邪な感情はない。
後、四葉家(真夜)との親交は他より先に深めたい、先を越されたくないという思いがある。別に、八代雷蔵だけを邪険に扱っている訳ではない。
閲覧、感謝します。
次回の更新は、10月15日の予定です。
※3話分だけ週1更新する予定です。ただし、リアルの都合により、急遽元の更新頻度に戻す可能性があります。ご了承ください。