私のことを知らない人に会うと「普段は何をしているのですか？」と聞かれる。この時点で面倒臭くなっているのだが、文章を書いたり音楽をやっていますと答えると「どんな文章を書いているのですか？」と聞かれる。たったこれだけで限界を迎えた私は「いや、もう、なにもやっていない無職です」と匙を投げる。私をそこに連れてきた人が、慌てながら「坂爪さんは本も出されているんですよ」とフォローをする。私は「そんなことはどうでもいいんですよ」と言う。本を出していれば、周囲にちゃんとしている風に見せることができる。だが、そんなものはゴミだ。ちゃんとすることに価値はない。

熱海に来た人が「仕事を三日でクビになった」と嘆いた。私は「三日も働けたなんて偉いよ」と思った。私は、たった二十分働いただけで過労で目眩がして「ちょっとドトールに行っていいですか」と、職場を逃げ出したことがある。ドトールに着いた途端に元気になり、いよいよ俺も来るところまで来たなと思いながら煙草をふかした。こう言う人間を社会不適合者と呼ぶのなら、私は立派な社会不適合者だ。だが、社会不適合者も生きている。一丁前に毎日おまんまを食べ、一丁前に毎日お布団で寝ている。社会不適合者になったら一巻の終わりみたいな脅迫を受けるが、どっこい、今日も生きている。

自分にまともな生活は無理だと諦めて、いかに生活費を削れるか研究した。人並みであることを諦めたら、世界は途端に生きやすくなった。大前提として、食べるものと寝る場所があれば人間は死なない。テクノロジーの進化により、良質な寝袋や天幕も安く買える。最悪路上生活者になるだけだと腹を括り、百枚あった皿を五枚にして、百着あった服を五着にして、百冊あった本を五冊にして、自分をミニマムにした。生活は楽に。人生は楽しく。愛着あるものを捨てる瞬間は怖いが、まっさらな自分に生まれ変わったみたいで愉しかった。一番捨ててよかったものは「どうでもいい人から好かれるための努力」だった。どうでもいい人からちゃんとしている人に見られることより、面白い人と面白い人生を生きる方が何億倍も大事だと思った。

普段は何をしているのですかに代表される世間話が昔から嫌いで、そう言う人間から距離を置くためにも常軌を逸することは効果的だった。自分を良く見せたい人々は「いいとか悪いとかじゃなくて」みたいなセリフを好むが、はっきり悪いって言えよと思う。可もなく不可もなくは不可だし、無難は最難だし、安定は墓場だ。周囲に合わせて自分の意見を薄める卑怯者め。俺が欲しいのは最高なんだよ。最高と言える瞬間がたまらなく欲しくて、生きているんだよ。最高以外はもう要らない。最高だけが本当。どうでもいい人から好かれる達人をおとなと呼ぶのなら、死ぬまでクソガキでいたいと思った。

面白い人に出会いたい。ドラゴンボールの孫悟空のように「オラ、ワクワクしてきたぞ！」と胸をときめかて生きたい。面白くなってきたぜと言いたいし、そうこなくっちゃと言いたい。一般的に社会不適合者と呼ばれるような人に、私の心はときめく。ダメ人間なんて言葉に騙されるな。ダメなのではない。それは個性だ。魅力だ。天然記念物だ。どうでもいい人間から好かれるための努力なんかするな。俺はお前が見たいんだよ。私は確信する。こうなれたらいいなとか、こんな風に生きられたらいいなと思ったら、実際になれる。実際にそんな風に生きることができる。自分には無理なんて思う必要はない。なりたいなら、なれる。なりたいものにならなくてどうする。俺が約束する。なりたいなら、なれる。俺たちは、自分が決めただけ幸せになるのだ。最高以外はもう要らない。全然関係ないけれど、お金がない。誰かお仕事をください。昨日から、葛根湯しか食べていない。一丁前に毎日おまんまを食べていたはずだが、時に、このようなことにもなるのが男の道だ。俺たちは、自分が決めただけ幸せになるのだ。