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作:春川レイ
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不滅の思い


※二話連続で更新しています。









 

 

「しのぶ…!」

叫びながら思い切り飛び上がった。一瞬しのぶの指が何かを訴えるのを確認する。

「睡の呼吸 弍ノ型 枕返し」

刀を振るうのと同時にしのぶの骨が砕ける音が響き、圓城の顔が歪む。しのぶの手から日輪刀が落ちていく。それと同時に誰かの悲鳴が聞こえたが、気にする余裕はなかった。一気に刀を振り下ろすが、鬼はしのぶを抱えたまま、簡単に攻撃を避けた。

「うああああっ!!」

「……っ!」

ハッと後ろを振り向くと、カナヲが叫びながら刀を振り下ろしていた。鬼はその攻撃も全て躱す。

「いやー、危ない危ない」

そして、にこやかに笑いながら身体全体でしのぶを呑み込んでいった。

「吸収している最中に斬りかからないでおくれよ」

カナヲが顔に青筋を立てながら、震えていた。殺気があふれだし、憎しみで表情が歪む。怒りのあまり、呼吸が乱れている。

「……落ち着きなさい、カナヲ。呼吸を、整えなさい。自分を見失うのは許しません」

静かにそう言われて、カナヲは思わず鋭い瞳で圓城の方を向いた。そして目を見開く。圓城の両眼の下から星のような痣が浮き出ていた。その顔は動揺も何も見られない。

「この鬼の、冷気を吸ってはダメよ。集中して、見て」

圓城は、そう言いながら、ただ、冷たい瞳で童磨を真っ直ぐに見据えている。

「あれ?んー?」

童磨が圓城を見て、少し首をかしげた。そして嬉しそうに笑う。

「君、あの時の極上の女の子だね!喰べ損ねて、本当に残念に思ってたんだよ。思った通り、別嬪になったねぇ」

童磨がしのぶの髪飾りを手で玩びながら笑った。

「いやあ、今日はいい夜だなぁ。次から次に上等なご馳走がやってくる。君達の名前はなんて言うんだい?」

先に動いたのは圓城だった。素早く童磨との距離を詰め、刀を振り下ろす。

「睡の呼吸 伍ノ型 浅睡眠」

刀を四方八方に動かし斬りつけようとするが、全て扇で防がれた。

「……っ!」

顔をしかめる。次の瞬間、童磨が消えた。後ろから気配を感じる。扇で攻撃を仕掛けられた。

呼吸を止めて一気に飛び退いた。攻撃を避けながら短刀を取り出し、童磨の目を狙って投げる。上手い具合に目に突き刺さり、同時にカナヲも動いた。童磨の頚を狙って斬りかかるが、やはり扇で防がれる。

「なにこれ、小さな刀だね。こんなの鬼には効かないよ」

童磨の眼から短刀がカランと音を立てて落ちた。そして不意に不思議そうな表情をする。

「あれえ?猗窩座殿、もしかして死んじゃった?」

その名前に圓城の顔がピクリと反応した。

「一瞬変な気配になったけど気のせいだよね。猗窩座殿が何か別の生き物になるような…。死んじゃったからもう分からないや」

アハハ、と童磨が無邪気に笑った。

「それで?まだ質問に答えてないよ。君達の名前は?」

圓城が刀を構えながら口を開いた。

「……鬼殺隊・睡柱、圓城菫だ。お前を殺すために、この四年間、生きてきた」

「柱!柱になったのかい!最高じゃないか!」

童磨が顔を輝かせた。

「その純粋培養されたような極上の肉体!しかも強い能力を持つ柱だなんて!嬉しすぎるよ!なんて最高なんだろう、そこまでして強くなってくれたなんて……喰べるのが楽しみだなぁ」

「そうだ。お前のために強くなった。お前を地獄へ、落とす、そのためだけにーー」

怒りで全身が熱くなる。

「私は栗花落カナヲ。胡蝶カナエと、胡蝶しのぶの妹だ…」

カナヲもまた、童磨を睨みながら言葉を絞り出す。

「え?ホント?肉質の感じからして、血縁ぽくないけど……若い女の子はだいたい美味しいからいいよ、何でも!女の子といえば……そうそう、猗窩座殿が負けたのも仕方ないよね」

童磨が何かを話し続けるが、圓城は聞いていなかった。冷気を吸うと、肺が凍る。どう動けばコイツの頚を切れる?近づくのも難しい。なんとしてでも、しのぶの毒の効果が現れるまで、持たせなければーー、

必死に考えを巡らせていると、童磨が悲しそうにうつむき、突然涙を流した。

「死んでしまうなんて……。悲しい……、一番の友人だったのに」

嗚咽を漏らす童磨に鳥肌が立つ。なんだ、この鬼。

気持ち悪い。

その時、カナヲが口を開いた。

「もういいから」

静かな声がその場に響く。

「もう嘘ばかりつかなくて、いいから」

童磨が涙を流しながら、不思議そうにカナヲの方を向いた。

「何?」

カナヲが表情を変えずに、冷たい声を出した。

「貴方の口から出る言葉は、全部でまかせだって、分かってる。悲しくなんて、ないんでしょ、少しも。あなたの顔色、少しも変わってない。“一番の友人”が死んだのに、顔から血の気が引いてないし、逆に怒りで頬が紅潮するわけでもない」

童磨が扇を顔に当てながら、言葉を返した。

「それは、俺が鬼だからだよ」

「鬼は常に瞳が潤い続けるから、瞬きしないけど、人間と同じく血は巡ってるから、顔色は変化する……」

視力のいいカナヲは気づいていた。その鬼の異様な本質に。

「あなた、何も感じないんでしょ?」

圓城はその言葉にハッとしてカナヲの顔を見る。

それは、

その言葉は、恐らくーーーー

「この世に生まれてきた人たちが、当たり前に感じている喜び、悲しみや怒り、体が震えるような感動を、貴方は理解できないんでしょ?」

カナヲの唇の端がゆっくりと吊り上がる。

「でも、貴方は頭がよかったから、嘘をついて取り繕った。自分の心に感覚がないってばれないよう、楽しいふり、悲しいふり……、貴方には、嬉しいことも、楽しいことも、苦しいことも、つらいことも、本当は空っぽで何もないのに……。滑稽だね。馬鹿みたい……」

「カナヲ!」

思わず声が出た。カナヲはそれを気にする様子もなく、獰猛な笑みを浮かべ、童磨を見た。

「貴方、何のために生まれてきたの?」

「……っ、」

それに息を呑んだのは、童磨ではなく圓城だった。唇を噛んで、カナヲの顔を見つめる。

童磨が扇をギチギチ音を鳴らして閉じた。

「……今まで、随分な数の女の子とお喋りしてきたけど、」

バチン、と音が響く。

「君みたいな意地の悪い子、初めてだよ。なんでそんな酷いこと、言うのかな?」

ビリビリと殺気が伝わる。圓城が刀を構えながら口を開いた。

「……本当、カナヲの言う通りだ。なんでお前みたいな生き物が生まれてきたんだろうね……。お前がいなければ、お前さえ、いなければ、……」

怒りで言葉がうまく出てこない。代わりにカナヲが言葉を続けた。

「あなたのこと、嫌いだから、一刻も早く、頚を斬り落として地獄へ送る。一つだけ、訂正しようかな。貴方って、頭よくないみたい。みっともないから、さっさと死んだ方がいいよ。貴方が生きてることに、何の意味もないからーー」

次の瞬間、童磨が動いた。カナヲの後ろへ回り込み、扇で攻撃する。

「カナヲ!」

カナヲが素早く身を屈めて避ける。圓城は走りながら童磨へ刀を振り下ろした。

「睡の呼吸 弐ノ型 枕返し」

同時にカナヲもまた刀を振るう。童磨の腹部や肩が斬りつけられ、血が吹き出るが、頚には届かなかった。

「……っ!」

すぐに童磨が血鬼術を仕掛けてくる。蓮の花のような氷が襲ってきた。凍結させられそうな強烈な冷気が発せられる。必死に口と鼻を手で覆う。

震えだしそうなほどの冷気に顔をしかめた。だが、灼熱のような怒りの熱は治まらない。内臓が震えるほど、怒りと憎しみで体が熱くなっていく。止まらない。爆発しそうだ。

 

 

しのぶーーーー、お願い。

力を貸して。

 

 

先に動いたのはカナヲだった。

「花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬」

連続した技が繰り出された。同時に圓城も動く。後ろから刀を一気に振り下ろした。

「睡の呼吸 壱ノ型 転寝」

しかし、やはり攻撃は届かない。

「いいねぇ、綺麗だねぇ!じゃあ、俺も!」

楽しそうに笑いながら童磨が攻撃を返す。

「血鬼術 枯園垂り」

冷気を纏った扇が近くで揺れた。呼吸を止めて一気に飛び退く。カナヲの方は再び攻撃を仕掛けていた。

「花の呼吸 弐ノ型 御影梅」

自分自身を護るように周りを囲って斬撃を放つ。 

「……っ」

圓城は攻撃を放てずに苦悩して唇を噛む。圓城はカナヲのように優れた視力を持たない。故に、童磨の動作を予測し、ギリギリで攻撃を受け流すことが不可能だ。

どうする、どうすればいいーーーー?

次の瞬間、カナヲの視力の特殊性に気づいたらしい童磨が扇で目を狙ってきた。

「……させるか!」

その背後から、一気に攻めるために、一度息を吸った。

「睡の呼吸 陸ノ型 入眠儀式」

一気に連続して攻撃を仕掛ける。童磨の身体を斬り刻むように刀を振るった瞬間、煙幕のような氷が周囲で発生した。

「血鬼術 凍て曇」

攻撃を中断し、目を閉じて後ろへ下がる。目が痛い。いや、大丈夫。冷気に当たったのは少しだけ。右の視界がボヤける。大丈夫だ。まだ見える。

カナヲもまた飛び上がるようにして攻撃を回避していた。それを確認してから、一端距離を置く。童磨を睨みながら、呼吸を整え、血液を必死に循環させる。

また頚に届かなかった。大丈夫。もう一度ーーーー!

例え身体が全て凍ったとしても、必ず、頚を斬る!

「血鬼術 蔓蓮華」

今度はたくさんの氷の蔓が襲いかかってきた。

「睡の呼吸 伍ノ型 浅睡眠」

四方八方に刀でその攻撃を斬っていく。どうにかして、あいつに近づかなければーーーー、でも、どうやってーーーー、

考えても考えても、どうすればいいか分からない。その間にも童磨がにこやかに次の攻撃に移る。

「次いくよー」

氷で二体の女の銅像のような物が発生した。女が吐息のように冷気を吐き出す。

「血鬼術 寒烈の白姫」

なんだよ、これ。最悪。

広範囲の技により、周囲が凍りついていく。必死に目を閉じて、足を動かし、歯を食いしばってなんとか避け続ける。

どうしよう。近づけない。それどころか目も開けない。

しのぶ、師範、どうすればいいの。

次の瞬間、上から何かの気配を感じ、目を閉じたまま、一瞬で飛び退く。何かが落ちてきたのは分かったが、何かは分からない。

「……カナヲ!」

叫びながら、冷気から十分に距離を置いて、薄く目を開いた。

「菫様ーーーー!」

カナヲの声が響いた。カナヲは刀を手に持っていなかった。童磨に奪われたらしい。そして、童磨はそのままカナヲに向かって大きく扇を振るった。

「……っ、あぁ!!」

悲鳴のような声が漏れる。あまりにも遠く距離を置いたため、間に合わない。それでも童磨へ近づこうと動いた瞬間、この場にいないはずの声が響いた。

「どおりゃあアアアッ!」

威勢のいい声が響く。天井がメキメキと悲鳴をあげた。

「……っ!」

突然の乱入してきた人物にカナヲと童磨がポカンと口を開いたが、圓城だけはニヤリと笑った。

やって来たのは嘴平伊之助だった。上から攻撃を仕掛け、直後に冷気が消え去る。

「ドンピシャじゃねえか、鴉の道案内はよォ!!勝負勝負ゥ!!」

ウヒャウヒャと笑う声に圓城は声をかける。

「伊之助さん、集中!上弦の鬼よ!」

「ああ!?うるせえ、子分!俺に指図するんじゃねぇ!」

圓城に向かって怒鳴った後、伊之助は

「んんー?」

と目のに手を当てて童磨を見据えた。童磨はまだポカンとして戸惑っている。次の瞬間、圓城は重しになっている羽織を脱ぎ捨て、動いた。素早く移動して一気に距離を詰める。

「睡の呼吸 肆ノ型 微睡み子守唄」

刀を回転させるように振るい、頚を狙ったがやはり簡単に跳ね返された。

「おっと、いや、すごいね、君。流石柱だ。まだこんなに速く動けるの?」

冷気に再び襲われる。一瞬だけ呼吸を止めて、童磨のすぐそばにあった刀を左手で掴んだ。

「……!」

童磨が驚いたように目を見開く。後ろへ飛び上がってカナヲにその刀を突き出した。圓城は童磨を見据えながら自分に言い聞かせるように呟く。

「……集中……集中して。もう少し……もう少し耐えれば……」

刀を受け取りながらカナヲは眉をひそめた。もう少し?

伊之助はそんな様子に構わず大きな声をあげる。

「お前ら、よく見たらボロボロじゃねーか!何してんだ!怪我したら、お前アレだぞ!!」

 

 

「しのぶが怒るぞ!!スゲー怒るからな、アイツ!!」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、カナヲの顔が悲しみに染まる。圓城は顔色を変えずに、童磨へと刀を構えた。

「睡の呼吸 参ノ型 睡魔の嘆き」

大きく刀を振るった。やはり扇で防がれるが、直後に連撃を開始する。

「睡の呼吸 陸ノ型 入眠儀式」

扇ごと斬り裂くように、連続して攻撃した。次の瞬間、童磨の口元が横に斬り裂かれる。

「……っ!」

惜しかった。もう少し、もう一度ーー!

再び刀を振るおうとしたその時、鋭い痛みを感じた。

「………うっ」

一瞬で飛び退く。そのまま着地するつもりだったのに、できなかった。その場に倒れこんでしまう。

「いやあ、本当に柱の女の子って頑張るね。さっきの子とおんなじ」

「菫様!!」

童磨の気持ち悪い笑い声と、カナヲの悲鳴が聞こえる。圓城はそっと口元に手を当てた。

「………うぅ…」

口から血が流れてきた。身体を斬り裂かれたのだと理解して、声が漏れる。激しい痛みに一瞬呆然とした。あまりの不甲斐なさに拳を握る。

「すごく痛いでしょう。君、さっきから視界もギリギリだったよね。その状態でよく頑張ったよ、うん。流石だ。偉い、偉い」

身体が燃えるように熱い。痛みでどうにかなりそうだ。それ以上に怒りで歯を食いしばる。童磨への怒りではなく、自分自身への怒りで頭がクラクラする。

伊之助が戦っているのが気配で分かった。怒っているような声がする。

 

 

立て。

立って。

立ち上がれ、睡柱・圓城菫

ここでくたばるわけにはいかない。

交わした約束を忘れるな。

死んでもあの鬼を殺すと、誓ったのは私なんだ。

クソ、痛い。痛くて痛くて、気が狂いそうだ。

あの鬼を倒さなければ。

あの子達を護らなければ。

例え、この身が朽ち果てようとも

絶対に諦めるわけにはいかない。

 

 

 

『菫』

 

 

 

突然聞こえた、大好きなその声に、思わず笑った。

大丈夫よ。心配しないで。

絶対に大丈夫。

すぐに、立ち上がるからね。

 

 

ゆっくりと身体を動かす。カナヲと伊之助が戦っているのが見えた。

必死に呼吸を整える。血液を循環させて、心拍数を高める。

 

 

 

『私が信じた人は、どんなにつらくても、必ず自分の足で立ち上がる、絶対に折れない強い柱だったはずよ』

 

 

 

そうかな。しのぶ。

私、本当に強いかな。

弱くないかな。

 

 

 

『私はあなたを信じてる。だから、あなたもあなたを信じなければ』

 

 

 

そうだった。

しのぶが信じてくれている。

だから、もう少しだけ。

 

 

 

しのぶの笑顔を思い出しながら、ゆっくりと上体を起こした。

 

 

 

しのぶ しのぶ しのぶ

あなたが笑ってくれるだけで、私はまだ戦えるの

もう一度、あの笑顔、見たかったなぁ

しのぶ

本当は、こんな風に終わりたくなかったよ

一緒に、あの蝶屋敷へ、帰りたかったね

あの優しくて、温かい場所へ、帰りたかったね

きっと、もう少しで終わる。

だから、ほんの少しでいい。

私の身体よ、動け。

託されたものは、絶対に手放さない。

心は捨てない。

忘れるな。

人の強い想いと希望だけは、誰にも奪えない。鬼にさえも。

その思いは、不滅であり、永遠だ。

決してそれは、なくならない。

消えたりはしない。

 

 

しのぶ

二人で倒そう、あの鬼を。

 

 

『菫』

 

 

ありがとう。名前を呼んでくれて。

 

 

 

「……あは」

思わず笑い声が漏れる。ゴロゴロと肺から音が聞こえるが、構わない。笑顔のままで、足を動かして立ち上がった。

「あれ?まだ死んでなかったの?」

いつの間にか天井にいた童磨が、こちらを不思議そうに見つめてきた。冷静にそれを見上げる。

「ほんと、さっきの子と、おんなじだね。あの子も最後まで必死に立ち上がって攻撃してきたよ。本当に君達って、人間なの?」

「……可哀想な、鬼」

呟くように声を出すと、童磨が首をかしげた。

「んー?」

「……何も、分からなかったんだ。心も、感情も、大切なもの、何も、持てなかったんだ。……何にも、芽生えなかった、……のね……」

「君、何を言ってるの?」

「……人を好きになる、尊い心も、……誰かを護ろうとする、心の輝きも……、断ち切れないほどの、強い絆も、……青い空の美しさも……なにも……、理解、できなかったのね、……哀れな、鬼」

「……うーん?ちょっと意味が分からないよ」

「……分からなくて、いい。」

悲鳴をあげる身体を必死に動かして、刀を構える。

「お前はーーーー、私が、この手で、……、殺す」

呼吸を、整えた。

「うーん、よく分からないけど、ごめんねぇ。君達の相手はこの子にしてもらうよ」

童磨が作り出したのは、自分に似た小さめの氷人形だった。その人形が扇子を振るい、砕けた花のような氷を発生させる。痛む身体を動かして、一度距離を置く。

 

しのぶ

あと一回なら、動ける

もう少しだけで、いいの

お願い

 

カナヲと伊之助が攻撃を避けながら何かを叫んでいる。それに構わず、圓城は童磨を真っ直ぐに見据えた。

童磨が扉を開けて出ていこうとする。

ダメだ。お願い。

何とかして、アイツをここに留めなければーーーー!

顔を歪めながら動こうとしたその時だった。

 

 

「えっ?」

 

 

ドロリ、と童磨の顔が溶けた。目玉が床に落ちる。

「あれ、何だ、これ?」

 

 

 

来た。

 

 

 

圓城は素早く距離を詰めた。童磨がグラリと倒れ、膝をつく。

 

 

 

 

しのぶ、しのぶ、しのぶ

 

 

 

ありがとう

 

 

 

伊之助を攻撃していた氷人形がパキパキと割れる。

「何だあぁ!急に消えたぞ!罠かァァ!何かの!?」

それに答えず、渾身の力で叫ぶ。

「しのぶの、毒!!頚を、狙うーーーーっ!」

ゴポリとまた、口から血が漏れる。

大丈夫。

もっと、もっと速く動け!!

圓城は距離を詰めながら、隊服の上着を脱ぎ捨てた。これで全ての重しがなくなった状態だ。サラシだけになった上半身を気にすることもなく、走る。

後ろからカナヲと伊之助が圓城を追いかけるように近づいてくるのを感じた。

その時、

「……!?」

目の前に巨大な氷の仏像が姿を現した。凄まじい冷気を感じる。

こんな技が残ってたなんて。

いや、違う。明らかに、精度が落ちてる。

苦し紛れの、技なんだ。

だったら、これが、最後の攻撃だ。

あと、一回。

どうせ死ぬなら、全てが凍っても、構わない。

 

 

 

 

独自の特殊な呼吸をする。冷気が肺に入ってきた。構わない。もう痛みも感じない。目と腕と足さえ機能していれば、それで十分。

「睡の呼吸 終ノ型 永久(とわ)の眠り 胡蝶の夢」

床に穴があきそうなほど、強く踏み込み、飛び上がった。

「……え」

カナヲが思わず目を見開き、声が漏れた。一瞬圓城が消えた、と思った。そのすぐ後に、カナヲの目でとらえられないほど、圓城が速く動いたことに気づく。

呼吸で全身が砕けそうなほどの衝撃を感じた。腕の力を最大限まで引き出す。あまりの負荷に内臓が潰れ、骨が折れたが、気にしない。

 

もう少し、

もう少しーーーー!

 

その頚に刃がかかったところで、菩薩像の顔が圓城の方を向き、腕と身体を凍らせてきた。

腕が固まるのを感じる。それでも力任せに動かした。

その時どこからか刀が飛んできた。伊之助の日輪刀だ。童磨の身体に押し込まれる。肺が凍るのを感じながら、もう一度呼吸をする。身体能力を高めるために冷気ごと吸い込む。痛い。痛いけど、大丈夫。血流が激しく身体に流れる。また出血するのを感じた。

最後の力を振り絞り、最大限の力で、圓城は刀を振り下ろす。

そして、ついに童磨の頚が飛んだ。

 

 

 

 

 

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